
| ここで興味を持たれ、さらに深く知識を深めたいと思われた方は、 より専門のホームページか、専門書籍等をごらんになられることをお薦めします。 |
躁うつ病 2 |
うつ病とうつ状態 |
| 「うつ」は病気なのか。今回は、この問題を少し整理したいと思います。 私たちが生きていると多かれ少なかれ、さまざまな出来事に出くわして、その度に何かしら傷ついては立ち直るということを繰り返しています。一番身近で簡単な例はやはり恋愛問題でしょう。ほとんどの人が失恋を体験しています。失恋すれば、落ち込みます。元気がなくなって、時には涙にくれます。またある人は腹が立って、食欲に走る人もいます。自分を責めたり、相手を恨んだり、相手を奪った人を呪ったりします。これは普通のことです。誰でもそんな気持ちになります。こういう風に悲しみで心の中がいっぱいになって、どうすることもできないような状態のことを「うつ状態」と言います。前回見た症状をすべて持っていたとしても、それだけでは「うつ状態」であって、病気ではありません。誰もが経験することです。 では、病気とはどういうことなのかというと、まず私たちが目安にするのは、その状態におちいっている期間の長さです。医学的には2ヶ月を一つの目安にしています。上のような状態がそっくりそのまま2ヶ月以上続いているときは、普通の「うつ状態」ではないのではないかと考えはじめます(ただし、これはアメリカの医学会が提唱している基準で、実際の診断はやはりその人の状態に応じて考えます)。人間はいつまでも落ち込んだ状態にいれないのが普通です。もともと心も身体も傷ついたあとには、また安定した状態を取り戻して、もとの生活に戻れるように自然に回復する力を持っているのです。ご飯を食べ、寝て起きて、仕事をしているうちに少しずつ悲しみは癒えていきます。しかし、私たちが「病気」というときは、この回復しようとする働きが失われていることに注目します。この働きがないとこのままずっと悲しい状態が続いてしまうからです。 次に注目するのはうつの感情の重さと現実の問題との一致度です。これにはもちろん性格やそれまでの人生経験が大きく影響しているわけですが、うつ病では、普通に考えられるうつ感情よりも非常に大きく重く問題を受け取ってしまう傾向があります。極端になってくると統合失調症で見たような罪業妄想や被害妄想、対人恐怖、社会恐怖といったものが一緒になって、本当の現実と自分の考える心的現実とが大きく離れてしまいます。うつは感情の問題なので、事実がどうかというよりそれをどんな風に感じ、受け止めてしまっているかということがもちろん重要なわけです。こういう時は周りがいくら「大丈夫だ」と言っても、本人の不安や悲しさはなかなか消えて無くなりませんし、混乱もおさまりません。 こうした点からもわかりますが統合失調症と同様に「うつ病」も最近では脳内物質のアンバランスな状態が指摘されています。実際、「うつ状態」になると抑うつ感の他に、「よく眠れない」「夜中に目が覚める」などといった睡眠障害がともないますし、「うつ病」になると午前中の抑うつ感がひどく、夕方になるほど気持ちが明るく楽になるという「日内変動」が起こりやすいことがわかっています。「うつ病」になってくると単なる感情としての問題だけでなく、こうした人間の脳内にある生体リズムと関係した障害がいろいろ出てくるようです。これが強くなると、何の理由もないのに秋から冬にかけて「うつ状態」におちいり、春になるとまた元気が戻ってくるという、季節性の「うつ病」になってしまったりします。原因もはっきりしないまま、長期に「うつ状態」が持続し、さらに身体的な不都合がいろいろ生じてくると、それはやはり病気としての「うつ病」(程度の軽いものは神経症性の抑うつ状態・抑うつ神経症など)と診断されるわけです。2ヶ月というのは、一つの目安です。大きな悲しい出来事があれば、長く続くのは無理もないのですから。 わかりやすくするために失恋の話をしましたが、先ほどにも見たように「うつ病」の場合は、本人の暮らしや経験とそれほど関係がなくても「うつ状態」におちいります。「うつ状態」に入ると本人はいろいろな理由をあれこれ考えますが、これはニワトリと卵の問題に似ています。その最初期には誘導因子となるきっかけがあったという人は多いですが、「病気」となって何度かこうした状態を繰り返すようになってくると、もうその理由はあまり重要ではないことが多いようです。罪業妄想や被害妄想のようになってくると、うつ状態が逆に現実を作ってしまうといってもいいくらいです。「うつ」というものを考えるときは、同じように落ち込んでいる状態であっても、実際の出来事に傷ついて「うつ状態」におちいっているのか、「うつ病」という病気になっているのかを区別は大切なことになります。これによって当然対応や見通しも違ってきます。 たとえば、「うつ病」では客観的に見た理由がはっきりしないために、病気としての問題がわかっていないと、周囲に人はその悩みを軽く考えがちです。「うつ病」の「うつ状態」は自己防衛機能が働いていない上に、肥大した罪悪感を持ちやすいのですから、「うつ状態」としてはより深刻なのです。些細なことであっても突発的な自殺がもっとも注意されます。このために必要であれば保護のための入院をした方がよい場合もあるのです。逆にうつの訴えが激しく泣き叫ぶような状態であっても、周りから見てその気持ちがなるほど理解できる状況にあるならば、病気とは言えません。心がそうして激しく感情を吐き出すことで、自己のバランスを取ろうとするのは、むしろ健康な証でもあるのです。 うつと身体の関係でいうと男性では定年退職前後のうつ、女性では更年期のうつなどが昔から言われています。これは肉体のバランスが変化していることと関係があるわけで、うつを深刻に気にしすぎるよりも、まずは一息ついて身体や生活のバランスを見つめ直して整えていく方がより近道であると考えられます(最近は思春期でもこうしたバランスの変化に敏感に反応する人がとても増えていて、注目されています)。 「うつ」というのは人間の当たり前の感情の延長線上にあることなので「病気ではないか」とあわてて深刻に考えすぎる必要はないのですが、「うつ」というのはハタから見るよりも、本人の中ではすごく大きな問題となってふくらんで、非常に苦しい状態にあるということには配慮していくことが大事でしょう。 |
| (1999/6/11記) |