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診断による限定 |
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| 診断というのは病気を確定するということです。それは他の病気や状態と区別するということでもあります。最近のテレビや新聞を見るとすぐに「PTSD」という言葉が飛び交いますが、前回見た診断の基準を照らしてみれば「PTSD」というのはかなり限定された疾患であることがわかります。 まず「PTSD」という場合は、死ぬような体験の「直接の被害者」か「直接の目撃者」でなければなりません(「死ぬような体験」の例外として性暴力の被害(レイプ、痴漢、セクハラ)などがあります)。一見当り前のようなことですが、いくつかの例で見てみますと「阪大付属池田小学校襲撃事件」では犯人や怪我をした友達などを目撃していない生徒は、どんなに怖い思いをしていても「PTSD」には入らない可能性が出てきます。ただ、広く見れば学校から一緒に逃げだした生徒たちは恐怖体験にさらされた当事者ですから「PTSD」に入る可能性は高いと思います。同様の問題をその他の事故や事件でもみると「地下鉄サリン事件」で他の車両に乗っていた人やホームにいて騒動に巻き込まれたが、直接的な被害から遠かった人。こうした人はだんだん判断が微妙になってきます。「えひめ丸沈没事故」では、学校に残っていた生徒や教員などはまったく入らないことになります。最近話題の「耐震偽造マンション」の被害者の方々も「PTSD」の中には入りません。実際に建物が崩れて死にそうなった人はまだいないからです。同じようにJR福知山線の脱線事故で突入されたマンションにおられた住民の方々もPTSDで考えると、対象から外れる可能性が高くなります。 そう考えてみれば、同様の理由で「遺族」は「PTSD」にはなりません。どんなに唐突に家族を失い、強いショックや悲しみに襲われたとしても「PTSD」にはなりません。「阪大付属池田小学校襲撃事件」のように小さな子供たちが大勢被害にあい、多くの大人たちがそのことで胸を痛めました。大切なお子さんを亡くされたご家族も、教員をはじめとする学校関係者の方々も、そのショックや悲しみだけでは「PTSD」には入らないのです。「PTSD」はショックや悲しみによって起こる精神的な傷つきについて診断されるものではありません。このことはあとの症状の問題を見ればより明確になります。 「PTSD」の3大症状は「覚醒亢進」「麻痺」「侵入性想起」の3つでした。これらはまさに死に直面するような危機的状況に対する身体的、精神的な状況をそのまま表わしています。つまり、そうした恐ろしい状況では、そこから逃げるために身体の興奮と活性化が起こります。しかし、同時に強い恐怖は感情や思考の麻痺も生じさせます。一瞬身体が動かなくなったとか、時間が止まったように感じられたとか、時には怪我の痛みも感じられなかったということが、そういう状態を示しています。動物には極限状態ではそうした恐怖や痛みをカットしてしまう機能もついているようなのです。これらの問題は、その状況がなくなってからも身体の反応がおさまらなかったり、もはや関係のない日常の生活の中でも繰り返されて、暮らしに支障がおよぶからです。恐怖状況が身体の中に刻印されたような状態になるわけです。「時間が止まってしまう」というような表現を使う人もいます。「侵入性想起」はこの記憶の刻印を端的に表わします。身体の反応だけではなくて、その状況がすぐに頭の中に思い出されて、意識的にも恐怖状況に引き戻されてしまうわけです。大きな音などにビクッと反応したり、交通機関を利用するのが怖くなったり、エレベーターなどの逃げ場のない空間に耐えられなくなるようなこともおきます。ここで興味深いのは「侵入性想起」のポイントは繰り返しその状況を思い出してしまうという「強迫的な観念」であって、「恐怖」ではないということも大事なことです。「恐怖」は体験の記憶に付随して駆り立てられる感情体験なのです。侵入性想起の極端な例が「フラッシュバック」で、今の現実感すらなくなってあたかも今その状況にいるような錯覚に陥ってしまうこともあります。それだけ強く脳がその状況を焼き付けてしまったということを表しています。 この3つが「PTSD」なのです。だから、直接体験したり目撃したりしたりしていない人は、こうした状況にはなりません。先に確認したような立場の人はこうした状況に当てはまらないわけです。このことをマスコミはよくわかっていません。ですから、何かあるとすぐに「PTSDのケア」などと言いますが、本当に「PTSDのケアを受けられる人」と言ってしまえば、それはかなり限定されてしまうことなのです。法的な問題が関わってきた時、これはとても重要なことになります。 |
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| (2006/5/15記) |