
| ここで興味を持たれ、さらに深く知識を深めたいと思われた方は、 より専門のホームページか、専門書籍等をごらんになられることをお薦めします。 |
神経症・心身症 11 |
心身症と心療内科 |
| 神経症の話しを長くしてきましたが、心身症についても触れなければいけません。心身症はストレス時代といわれる最近になって急速に注目を集めている病気であり、この問題を考えるときにも「ストレス」というのが一つのキーワードになっているようです。 心身症とは日常のストレスが主要な原因となって起こると考えられる身体的な病気を総称してつけられている名前です。つまり、基本的には身体の病気なのですが、よくよく考えてみるとストレスと強い結びつきがあって、治療にもそうした理解が必要な病気ということです。神経症が実際には身体への異常がないのに対して、こちらは実際に身体に異常が生じていることに大きな違いがあります。 例えば代表的な例は胃潰瘍(いかいよう)で、これは医学的にいうと胃がただれてしまって強い痛みやムカムカ感などが出てくるという病気です。基本的には胃酸が出過ぎたりして、自分の胃を逆に痛めてしまうことが身体的な原因です。もちろん、治療は内科で行われています。ただ、この胃酸の出過ぎなどがストレスによってひき起こされることがわりと多いのです。仕事疲れや責任の重圧や対人関係の苦労など、日常はストレスに満ちあふれています。心身症などとわざわざ言わなくても、私たちはこうしたことでお腹の調子が悪くなること実際に体験していますし、話を聞けばああなるほどとすぐにうなづける話しだと思います。こうした病気を総じて心身症とまとめているわけです。 そこで大事な点は、このような流れがあって胃潰瘍になっている場合、薬で胃潰瘍を治したとしても、同じストレスの中にいれば、いずれまた同じ状態になってしまうということです。内科で胃薬をもらうのは結局その場しのぎでしかなく、問題の本当の解決にはなっていないわけです。そこで最近登場してきたのが心療内科という分野です。つまり内科の治療だけでは不十分だし、かといってもともと身体の病気なので精神科でも治療が十分にできないということで、その間に生まれてきたのが心療内科なのです。心療内科のスタンスとしては基本的には内科であって、より心とか社会的なストレスなどについて配慮のある治療をしてくれるというのがだいたいのところです。もちろん、これにも幅があって精神科に近い医療までしてくれるところもありますし、逆に内科とほとんど何も変わらないという状態のところもあるようです。 心身症はそういう意味で現代医療の発展の中で最近注目されてきた病気といってもいいかもしれません。それだけ医療が細分化されてきて、より人間に対する理解が深まってきたと言ってもよいと思います。自律神経失調症は説明をしやすくするために神経症の中で取り上げていますが、この病名は内科で診断されるのが普通ですので、その点では心身症として考える方がより適切だと言えます。 身体の病気を中心としている心身症はこうした意味で、精神科では実はあまり見ることがありません。日本の精神科は統合失調症を中心として発展してきました。統合失調症は現在、基本的には脳神経系の働きの問題として考えらていますし、日本の歴史では治療というよりも社会から切り離す収容施設としての役割が重視されていた時代も長くありました。そういう背景の中で日本の精神科では、精神科と言いながらも心を癒す側面の医療が欧米諸国に比べて遅れていることも現実的にはあります。そして、さらに日本という風土では、神経症や心身症は「気のせいだ」「甘えてるんだ」というような精神論で軽く片づけられたり、そうした病気が「心の弱さからくる恥ずかしいものだ」というような否定的な理解が根強くあって、心の医療そのものの発展を妨げてもきました。心療内科の登場はそうしたこれまでの医療の中にあって、確実に変化が起こりつつあることを意味しているのだと思います。 神経症や心身症は、このストレス時代を代表する病気であり、実際に形や強さを変えながらも非常に多くの人に共通した問題となってきています。これからの時代では、こうした病気や状態への理解がもっと重要になると思いますし、先の心療内科だけでなく、当然心の専門家としての精神科の果たす役割はもっと注目されてよいと思います。精神科が地域のはずれにあって、受診するのもためらわれるような状況であったり、また精神科自身も心を癒す医療への取り組みを消極的におこたっていれば、これからの社会を支えることはますます難しい問題になっていくことを痛切に感じます。 |
| (1999/10/14記) |