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心も風邪をひく


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神経症・心身症 9

ヒステリー(身体表現性障害)

 「ヒステリー」という言葉ほど、本来の意味からかけ離れた病名というのは珍しいかもしれません。普通ヒステリーというと女性などが感情的になって、キーキーと甲高く、自分勝手なことをわめき散らしてはた迷惑な状態を指しているでしょうか。しかし、実際に精神医学で病気としての「ヒステリー」を指す場合にはこういう意味合いは全くありません。

 では、その病気としての「ヒステリー」というものがどういうものかと言いますと、これは身体的にはまったく異常がないにも関わらず、手足が動かなくなったり、言葉が出なくなったり、身体の一部が痛くなったりするというものです。嘔吐(おうと)、下痢、発熱などもよくあります。極端なときは倒れて意識がなくなったり、目が見えなくなったりということもあるほどです。
以前に話した自律神経失調症でも身体的な問題がないという点で、これとよく似ていますが、自律神経失調症が身体調節機能のアンバランスさによって生じる生理的な不調なのに対して、ヒステリーの場合はより強く激しく明らかな機能障害(身体の働きの不具合)となって現れてくるものと考えるとわかりやすいかもしれません。

 実はヒステリーは心理学や精神療法が発展するきっかけになった病気です。この病気から研究が始まって、神経症というより大きな概念に発展したと言ってもいいと思います。この病気は19世紀後半の社会の秩序やしきたりが厳しい時代に注目されました。それまでは原因不明で普通の内科的な治療がほとんど効果をなさない病気に対して、フロイトという人が、その人の心の中に溜まっているものを吐き出すと症状が改善するということを発見したのです。同時にそれは心の問題が身体にも影響を与えること、そして人間の心の中には普段は感じない「無意識」という部分があって、人間はそこにさまざまな感情を押し込めることで日常の安定を得ているということなどが初めてが考えられるようになりました。

 ヒステリーという病名は現在はだんだんと使われなくなっていて、転換性障害あるいは身体表現性障害などと言われています。ここでいう転換性というのは、心の問題が身体の症状に転換するという意味のもので、発作によって意識障害の起きる「てんかん」とは違いますので注意して下さい。
 これらの病名が示すようにヒステリーは心の中にある本来の問題が置き換わって、それとはもともと関係のない他の症状になってしまったというのが基本的な考え方です。実際、自律神経失調症やヒステリーでは心の問題について本人はあまり意識していないことが特徴です。特にそういうことを引き起こす原因となったような自分の本来の感情が実感できなくなっていることがよくあります。その代わり身体の症状の方がひどく気になって、それにまつわる不安や心配がたくさん現れてきます。これは心の痛みが強すぎて、それは受け止められないけれど、これではつらい、誰か助けとほしいという、心のSOSとしてのメッセージなわけです。

 こうしたこともあって、ヒステリーの人は受診した病院で異常が発見されないと、他の病院やさまざまな民間療法の施設をいくつも受診しているということがあります。こんなにつらいのに検査をしても異常が出ず、ちゃんと病気だと診断してくれないことが、納得できないのです。その上に「精神科に受診してはどうか」などといわれると、よけいに「そんなはずはない」という気持ちになるようです。これは心と身体の問題をまだ軽視しがちな現代の日本では無理のないことなのかもしれません。しかし、これも堂々巡りの一つのパターンなのです。

 ヒステリーの改善には思い切って自分の心の傷と向き合う作業が必要になります。もともとそれができなくて、身体の病気に置き換えたわけですが、この道をもとに戻す必要があるわけです。ですから、この作業は本人にとってつらい仕事であることが少なくありません。気持ちの整理を一つひとつつけながら、一方で自分自身も力をつけて、その傷を受け入れる準備をしていきます。カウンセリングや精神療法というのは、こうした作業のお手伝いをしていくものだと理解していただくとよいと思います。こうした作業を通して本来の自分らしい感情や気持ちを取り戻していくことが、治療とつながっているのです。
(1999/9/22記)
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