1番ホーム020

心も風邪をひく


表紙へ 新着へ 目次

ここで興味を持たれ、さらに深く知識を深めたいと思われた方は、
より専門のホームページか、専門書籍等をごらんになられることをお薦めします。
ライン1

神経症・心身症 5

心のSOSとしての症状

 心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、その出来事が誰の目にも明らかに精神的な負担になるだろうということがわかりやすく、その意味では不安神経症やその他の神経症と比べると日常的にも理解しやすい面があります。しかし、それもよく考えるとこのような一連の流れの中で話しているからわかりやすいのであって、実際の症状から、こうした問題を思い浮かべることはとても大変なのが現実です。交通事故や火事といった個人的な出来事になればなるほど、その心の傷は第三者にはわかりにくいものになっていきます。そこで今回はSOSとしての症状についてもう少し詳しく見ることにします。

 例えば、余震の揺れや火を見たときに突然混乱状態になって奇声を上げたり、身体中が震えたりする症状をフラッシュバックと言いますが、これは強い恐怖体験が心に焼きついて、繰り返し思い出されてしまうことで起こってきます。心的外傷後ストレス障害に特有の問題ですが、その激しさのあまり周囲もどうしていいかわからなくなるほどのことがよくあります。そのため中には授業妨害をしていると思われたり、いじめの対象になったりして、さらに心の傷口を広げてしまうことさえあるのです。こうした症状は本人にも言葉ではうまく説明できないことが多いので、周りのものが気を配ることがとても大事になってきます。阪神淡路大震災のあとには各学校や医療機関にこの問題に対する対処方法などが緊急に配られたりしました。フラッシュバックと思われる状態になったときは、本人を安心させ、身の危険のない、守られた状況に今はいるのだということをまず伝えるようにする必要があるわけです。あわてて怒ったりすれば当然逆効果になります。

 この問題のように心の中にできた傷というのは、実は本人にはなかなか言葉にできないことが多いようです。言葉にできるというのは気持ちの中で整理できたという意味があるので、怖いことを自分の口から話せるようになってきたら、むしろ、回復してきたというふうに私たちは考えています。言葉でうまく言えないために、心のSOSは身体の症状としてあらわれると思っていただくのがよいでしょう。

 フラッシュバックのような特徴的なものではなく、もっと身近なものでよく起こる身体的な症状というのを上げると頭痛、腹痛などの身体的な痛み、吐き気、めまい、過呼吸などがあります。子供になると夜尿、どもり(吃音)、チックなども生じることがあります。
 頭痛・腹痛はイヤなことがあるとよく起こるので、多くの人が経験したことがあるのではないでしょうか。うまく学校を休めるとお昼頃からはわりと元気になってきたりします。なったことがある人わかりますが、これはズル休みをしているのではないですね。朝は本当に痛いものです。これなどは身体の問題か心の問題などと区別がつかないので、たまにこんなことがあっても心配なことではないでしょう。ただ、これがあまりに回数が増え、登校日が非常に減ってくるとやはり注意していく必要があります。いわゆる不登校、出社拒否といった状態です。こういう状況では学校の出席がどうこうというよりも、その人にとって、そのSOSの意味がどういうものなのかよく吟味して考えていかねば、本当の意味でその人の力になることはできません。

 めまい、過呼吸(過喚起症候群)というのは比較的女性に多いものと言えるでしょうか。過呼吸とは急に呼吸が早く、息苦しくなって、今にも窒息してしまいそうな激しい発作状の呼吸困難状態になることを言います。本人はものすごく苦しいし、まさに死にそうになります。これは不安発作という状態とからんでいて、急に不安におさわれたときによく生じます。通常も強い不安や恐怖感があると動悸が早くなり、呼吸数が増えるわけですが、そういう身体反応が、心のSOSとしてあらわれてしまうと考えてよいかもしれません。実は状態としては特別なものではなく、健康な女性でも2〜30人くらい集めて、だんだん呼吸を早めるように指示していくと、こうした発作になる人が数名は出てくると言われています。過呼吸を止めるのに薬などは必要ありません。この状態は本人にとっては息苦しく感じるのですが、実際はその名の通りに、息をしすぎていることに原因があります。肺の中の酸素の量が多すぎるのです。本人は息ができないと思ってさらに空気を吸い込むので、さらに酸素の割合が多くなって苦しみを増すという悪循環状態となります。一般には紙袋やビニール袋などを口に当てて呼吸をするようにすると、口から吐いた二酸化炭素がまた戻って、バランスがとれるようになります。

 緊張した場面になるとトイレに行きたくなるのも生理的な減少ですが、心のSOSが強くなると終始トイレに行きたくなります。こうなるのを頻尿(ひんにょう)と言います。トイレに行ってもわずかな尿しか出ないのですが、行かずにはいられないほど尿意を感じてしまうのです。ひどいときには常にトイレがないと不安なので、逆にトイレのない場所には行くことができないと感じるほどになります。
 子供の場合は夜尿(オネショ)になることがよくあります。もう止まっていたはずなのに、またするようになるというのは、やはり何かのSOS信号なのかもしれません。どもり(吃音(きつおん))も同じような理由でよくあります。チックの代表的な例はタレントの北野たけしさんが、昔よく頭を肩の方にカクカクと動かしたりする仕草をよくしていましたが、あのようにちょっとした癖のように意味のない仕草を繰り返すものです。北野さんほどに目だつものは珍しくて、本当に何気ない仕草である場合がほとんどです。これらは年齢が高くなると自然に消えるものも多いので、過剰に心配する必要はありませんが、SOSとしての理解があるにこしたことはありません。ただ、子供は大人よりもさらにそれを言葉にしたり説明したりすことはできないので、その点を十分に配慮していくことが大切だと思って下さい。このとき親や周りの人が心配のあまり無理に詮索しすぎるとまた本人を追い込んで逆効果になることもあります。まずは、よく自分や子供の生活のあり様を考え直してみることです。

 このように心のSOSはごくごく普通にあるものが、自然と強められて本来生じる場面とは関係のない時にあらわれたりするものなのです。このような反応は何気なく、誰にも気づかれないようなものから、周囲も混乱させるようなものまでいろいろです。現実的にあまり区別はつかないものが多いのですが、医学的には不安神経症の症状として見ることができるわけです。

 今回はそれぞれの症状の理解と現実場面での対応などを簡単に見ました。次回は心的外傷後ストレス障害自体への取り組みということを少し考えたいと思います。
(1999/8/12記)
上へ

ライン2

表紙へ 2番ホーム 待合室 伝言板 タブロイド
注意書 スタッフルーム

メールご意見・ご感想はこちらまで