
| ここで興味を持たれ、さらに深く知識を深めたいと思われた方は、 より専門のホームページか、専門書籍等をごらんになられることをお薦めします。 |
神経症・心身症 4 |
心的外傷後ストレス障害(PTSD) |
| 1995年1月17日の未明に起きた阪神淡路大震災によって、この心的外傷後ストレス障害(Post
Traumatic stress Disorder:PTSD)は広く社会に知られるようになりました。これはその名の通り、心に強い傷を受けたあとにおこる、精神的・身体的なさまざまな不調を総称して呼ぶものです。不安神経症も実は基本的には同じようなことを言うわけですが、不安神経症の不安・恐怖体験が非常に個人的な背景の中で漠然と起こる状態であるのに対し、心的外傷後ストレス障害は災害や事故など不慮の出来事によって受けた強い不安・恐怖体験を背景にして生じるものと考えてもらうとよいと思います。心的外傷後ストレス障害という病気は当初戦争から帰還した兵士への精神的な影響ということで注目されたもので、そもそもが社会福祉的な観点が強く意識された病気と言えるかもしれません。 それでは心的外傷後ストレス障害を理解するために阪神淡路大震災のあとに子供たちにどういうことが起こったかということを見ておきましょう。震災1年後に行われた西神戸医療センターの調査によると、その後の精神的な特徴として大きく3つグループに分けられると言っています。1つ目のグループは地震(ちょっとした振動)や炎などに対して強い不安を示す子供たちです。「地震のことを話したり聞くのがいや」「地震の夢をみる」など強い拒否感を持っていて、その当時の不安や恐怖が根強く直接的な形で残っていることがわかります。二つ目のグループは気分が落ち込んだり、イライラしたり、頭痛や腹痛、食欲不振などの反応をおこすものです。これが原因で学校に行けなかったり、ケンカが多くなったりもします。最初のグループの子供たちのような直接的な訴えは減ってはいるものの、明らかにストレス性と思われる変化を残している子供たちです。最後のグループは「困っている人たちを助けたい」「自分よりも被害を受けた人たちに申し訳ない」と強く考えるグループです。この子供たちは他者へのいたわりを持っているように見えながら、価値観に揺らぎがあって、自己の存在や立場に動揺している可能性があります。これは実は「うつ状態」の人によく見られる考え方で、無事であった自分が「申し訳ない」「何とかしないといけない」という過剰な気持ちをになって自己をさいなむ傾向になってしまうのです。 こうした心への影響は地震直後から心配されていました。ただ、このことが難しいのは地震直後の混乱状態の中では、みな同じ状態であるためあまり目だたないこと、また復興のさなかで気持ちが一丸となってまとまっているときは比較的安定した状態を保つこととなどによって、実際に注目されはじめたのはそれぞれの生活がある程度安定してきてからのことになります。先の調査も震災から離れるほど実は精神的な問題が強く浮かび上がってきていることを指摘しています。生活が落ち着いてきて、ゆとりが出来始めてきて、逆にそれまでこらえていた不安や恐怖がじわじわとあらわれきたということです。 このことを心的外傷後ストレス障害の症状としてもう少し具体的にまとめてみると次のような症状というものが、それに当てはまることになります。 1,怖い体験を思い起こして再体験する。ときには精神状態そのものが現在から離れて、恐怖体験の当時に戻ってしまう(フラッシュバック)。余震があったり火をみたり、サイレンの音を聞いたり、ガスの臭いをかいだりしたことがきっかけになることが多い。 ・突然興奮したり、過度の不安状態(パニック)になる ・突然人が変わったようになる。 ・現実にないことを急に言い出す。 ・悪夢を繰り返し見る。 2,感情の麻痺、精神活動全般の低下 ・表情の変化が少なく、ボーっとしている。 ・話しをしなくなったり、引っ込み思案になる。 ・活動性が低くなり、生活習慣が変わってくる。 ・記憶力、集中力が低下し、学校の成績が落ちる。 3,緊張状態の持続 ・不眠。 ・必要以上におびえる。 ・少しの刺激でも過敏に激しく反応する。 ・そわそわして落ち着きがなくなる。 4,その他 ・過度の罪悪感や無力感を持ち、気持ちが落ち込んでしまう。 自分の身体を叩く。手に傷をつけるなどの自傷行為。 ・幼児語を使う、年齢不相応の甘え、赤ちゃんがえり。 ・手や足が動かなくなる。意識を失って倒れる。身体のさまざまな痛み。吐き気、 めまい、過呼吸(過喚起症候群)、頻尿、夜尿、吃音(どもり)など。 いかがでしょう。今回の話しのように最初から阪神淡路大震災と結びつけて考えていると、「ああ、なるほど」と思われるところも多いのではないでしょうか。しかし、実際日常ではこうしたものは意識してみなければあまり目にとまらないか、家庭や学校で気になっても、1年も前にあった震災と結びつけて理解することはそう多くはないはずです。 現在、神戸地区周辺の地域はおそらく日本で一番、心の問題について意識の高い地域になっているのではないでしょうか。精神病院だけでなく、多くのクリニックがあり、カウンセラーの密度も高いように思います。阪神淡路大震災ということがそれぞれの共通の体験としてつながっているものもあるでしょう。 しかし、心的外傷後ストレス障害は阪神淡路大震災の被災者だけに起こったことでありません。交通事故やある種の犯罪の犠牲者、いじめや虐待、エイズやガンなどの重篤な病気や身体・精神障害などによっても引き起こってくるものなのです。こういう問題は非常にプライベートな問題であるうえに、心と身体の結びつきがあまり知られていないこともあって、実際には先にあげたさまざまな症状とこうした出来事との関係などは他人はもちろん、本人自身も意識しないでいることが多くなります。 次回はもう少し心と身体の問題を取り上げつつ、その対処なども考えてみたいと思います。 ※PTSDに関しては「災害時のメンタルヘルス」(日本小児精神医学会編)より抜粋させていただきました。 |
| (1999/8/06記) |