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心も風邪をひく


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神経症・心身症 3

 不安神経症

 今回から少しずついくつかある代表的な神経症の形を見ていきたいと思います。今回は神経症の基本的な形とも言える不安神経症というものを考えてみます。不安神経症とはいったいどんな病気なのでしょう。
 症状をあげてみると、動悸、息切れ、めまい、疲労感、頭痛、身体のふるえ、食欲の減少、腹痛、便秘、下痢、集中力の低下、何かに追われているような焦燥感やイライラ感、漠然とした強い恐怖感…などなど、自律神経失調症とほぼ同様なものになります。先にも言いましたが、どちらも同じように身体的には特に原因となるものがないものです。これらが内科の薬でとりあえずおさまる場合が自律神経失調症、もう少し踏み込んで精神科の治療を受けた方がよいと考えられる場合が不安神経症とわけるのがもっとも単純な分け方かもしれません。というのも、実際に多くの場合ははじめに内科を受診されるのが普通だからです。最初から精神科に来ましたという人はまずありません。精神科に受診されるほとんどの方は他科の治療でなかなか改善されず、その先生から紹介されて来た人になっているからです。

 不安神経症のわかりやすい例としては、ある特定の場面になると心臓がドキドキしたり、血圧が上がったように頭に血が上ってクラクラしたりするようなことを想像してもらうのがよいでしょうか。たとえば、営業の仕事だがいざお客様と会って話をするとそうなってしまうとか、朝学校に行こうとするとおなかが痛くて動けなくなるとか、重要な書類を書こうとすると手が震えてうまく書けなくなるといったことです。
 これは考えればそれほど不思議なことではなくて、誰でも必ず経験があると思います。自分にとって不得意で、緊張が強かったり、失敗するのが心配でたまらないというときなどは、身体が正直に反応するものなのです。それがあまりに過剰で、実際に仕事が続けられないほどだったり、学校にずっと行けないほどだったりすると病院にかかる必要が出てくるというわけです。学芸会の舞台に上がるだけなら1日のことですが、仕事上の理由で毎日同じ緊張にさらされたり、嫁姑の関係のように逃げるに逃げれない関係があったりすると、とたんにこうした症状が生まれやすくなります。
 このようにある程度原因となるものが推測できる人は病院にかからなくても、現実的な対応策を見つけて済ますことができます。人間はたいていそういうふうにして困る場面からうまく逃れる工夫をしているものです。そういう意味でも病院にかかるのは最終的な手段と感じてせっぱ詰まって受診するという方が多いようです。

 しかし、一方で自分では理由がわからないのに、こういう症状が出てきてしまうという人もまたおられます。不安神経症という診断名がつくのは、この原因があいまいでよくつかめないという人の方が多いかもしれません。こういう方は身体的な不調を非常に強く感じるのでわりと早くから内科にかかるようになります。ですが、そもそも身体の方には原因がないために、内科での治療は症状に対する対処療法となるので、症状が非常に長く継続して、まるで持病のようになってしまうこともあります。このときにこそ不安神経症としては治療を受けるべきなのかどうかという判断が重要になると言えます。

 不安神経症の分類としては急に激しい症状に襲われるタイプの人と、慢性的にいつもどこかが調子悪いと感じるタイプの人というふうにも分けることもできます。急に現れる人の症状は激しくて、本人も強い痛みや恐怖をまず感じます。これがさらに強くなるとパニック発作といって、本当に死んでしまいそうな激しい恐怖を感じて、前後や周囲のみさかいがないほどの混乱状態を起こすこともあるくらいです(それは「発狂するような怖さ」だと言う人もいるほどです)。慢性的な症状の人はこうした激しさがない代わりに身体の方が常に不安定で、生活も暗いものになりがちです。何をしても楽しい気分になれず、健康を気にするあまり生活も何かしら縛られていることが多くなります。中には毎日たくさんの種類の薬を飲まないと安心できないという方もおられますし、ひどくなるといつ具合が悪くなるかわからないから、一歩も家から出られないという人までおられます。

 神経症というものは身体の病気と違って、ただその症状だけを見ているうちは問題の全体を把握することができません。その症状があることによって、どれだけ社会生活やその人の人生が、望まぬ方向に曲げられているかという視点が欠かせないものです。その上で治療の受け方も考えていく必要があります。僕は精神科の医療の本当の特徴は、治療が病気の問題だけでなく、そこから派生して生まれる生活や人生のこと全般に対して意識を持った取り組みであるということではないかと思っています。

 次回はこの問題をもう少し詳しく見るために不安神経症の一つにも入る「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」というものを取り上げていくことにします。
(1999/7/29記)
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