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心も風邪をひく


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災害と心の健康について

悲しみを乗り越えるために 
 平成13年2月10日、四国の愛媛県立宇和島水産高校の生徒を乗せた実習船「えひめ丸」が、アメリカの原子力潜水艦「グリーンビル」の行った緊急浮上によって、船体に大きなダメージを受け、多数の船員、生徒を巻き込んで沈没するという痛ましい事件がありました。「えひめ丸」は2月24日現在、まだ500メートルを超える海の底に沈んだままになっています。
 こうした痛ましい事故や災害(もちろん、人災も含めて)は、いつも後を絶たず、おそらく、これからも多くの悲しみを作るでしょう。阪神大震災以来、こうした災害時の心の問題についての関心は急速に高まっています。当HPでも「神経症・心身症」のコーナーで、「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」というものについて紹介をしてきました。このときは特に子供の例を上げ、その症状と対処法ということでまとめましたが、今回は事故に遭われた方も高校生や船員の方であること、そして、「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」の問題は実は事故に直接あわれた方だけでなく、それを囲むすべての人の問題であることを考えてみようと思います。

☆災害という体験
 災害と心の問題を考えるときにまず最初に考えることは、何かを失ってしまうという「喪失体験」と死を含めて身に降りかかる強い恐怖による「緊張状態」です。「喪失体験」についてはうつの項目でも話しましたが、何かを失うことで、私たちはどんな人でも心に穴があいてしまうということです。それが自分にとって大事な人であればあるほど、もう取り返しのつかない事態に、私たちはとまどい、悲嘆にくれることになるでしょう。そして、生きていく意味についても私たちに疑問を投げかけてきます。多くの場合、こうしたことはそうした言葉にならず、何か重い荷物を一つ背負ったような息苦しさを私たちに残します。悲しみは当たり前のことなのですが、このことによって本当にうつの状態になる人も珍しいことではないのです。
 さらに、強い「緊張状態」は身体的なバランスを崩す大きな要因になります。私たちは日常でも緊張によって手に汗をかいたり、のどか乾いたり、トイレが近くなったり、心臓がドキドキしたりという感覚を持ったことがありますが、この状態が長く続いてしまうために、普通の状態がわからなくなるのです。これによって気持ちは沈みながらも、どこか緊張しているという特別な状態が続きます。

 実際はこのほかにもさまざま感情が入ってくるものです。今回の事故のように一方的に被害を受ければ、当然相手に対する怒りもこみ上げてきますし、人間不審な気持ちにもなるでしょう。地震や台風などであれば、今度はどこにもやり場のない怒りが自分を苦しめたり、他の場所へ向かってその気持ちをぶつけてしまうこともあるはずです。具体的なことを言えば阪神大震災のように住む場所、仕事、財産の消失など生きるための心配や現実の問題も出てくるものです。災害は実はその直接的な問題だけでなく、石を水面に投げたときのようにその波紋が広がっていくことも、特徴の一つと言っていいと思います。

☆災害の被害
 災害を直接受けた人はもちろん強い衝撃を受けますが、先にも触れたように、それを囲む人々にとってもそれは大きな出来事に違いありません。家族であれば同じように何か、誰かを失った悲しさを感じ、心を痛めるでしょう。友達もそう言えるでしょう。友達として何ができ、何が言えるのか考えるはずです。それは当然亡くなった方の直接の友達だけでなく、遺族の周りの人でも同じはずです。今回のような大きな事故であれば学校の先生方や関係者の方々、同級生やクラブの先輩、後輩、さらに言えば学校全体の問題としてすべての学生・父兄にまで影響があると言ってもいいはずです。地域という単位でみれば、隣近所の方々も心配は大きいと言えると思います。そのご家族にどう接すればいいのか、どんな顔を向ければいいのか、これからの日常はどうなるのか・・・。今回の出来事では事故あわれた方の親族に対するフォローとして現在他府県におられる方に対するケアの要請も行われており、一部地域の問題ではなくなっています。

 最近ではマスコミの報道がこうした事態をさらに広げていることが指摘されています。学校の取材は当事者以外の子供たちへのインタビューにおよび、うわさ話が間違ったまま報道され、家族はもちろん地域全体に新たな緊張感をもたらします。これは災害の直接のストレスではありませんが、二次ストレスといわれて注目されていることです。このHPを始めインターネットやEメールの普及もこの問題を広げています。同校のHPの掲示板に心ない書き込みが多発して、一時閉鎖するという事態にもなりました。これはもちろん以前からいたずら電話や嫌がらせ電話という形でもあったものが広がったものです。こうしたことによって新たに生まれる悲しみも、大きな災害における一つの側面といえるでしょう。

☆支援者の受ける傷
 災害が大きければ大きいほど、周りにいる人や支援しようとするものの力は、それにとうてい及ばないのだという現実の問題を突きつけられるものです。このことも阪神大震災以来、注目を集めていることです。阪神大震災の時は各地から応援に来られた消防隊員、警察官、医師、看護婦、教師、その他一般のボランティアの方々と広く、いろいろな問題が報告されています。身体的な症状を出さなくても、一時的な落ち込みやよくうつ気分を持たれた方は本当にたくさんいたのです。こうしたことが起こるのはまさに人間の良心を示すもので、将来にわたる希望の種であると言えるのですが、そこに悲しみが残ることはやはりつらいことだと言えると思います。

☆悲しみを乗り越えるために
 そう考えると心的外傷後ストレス障害について、フラッシュバックや心臓のドキドキ、手のふるえなど身体的な症状でのみ語るのは狭い見方であると思います。心理学的に見れば、その事態によって残るすべての心の傷が「外傷体験」と呼べるもので、それは決して特別なことではないわけです。こうした経験の中で大切なことはそのことについてそれぞれの立場で、それぞれの気持ちを外にはき出していくことではないかと思います。心の傷は自分の中に沈めてしまえばしまうほど、固く、冷たく、いつまでも心のしこりとして残るからです。傷つき、苦しんでいる人と話をするのは確かに難しいことです。もちろん、無理やりにする必要はありません。しかし、こうした体験をもしされたら、直接の被害にあった本人だけでなく、自分自身も、またそのまわりの人たちも、このことが自分の人生にとって何を残したのか考え、言葉にして、誰かに伝えることが大事なのです。そうして心の整理をしておくことは、きっとこれからの長い人生の中で自分の気持ちを支えてくれるでしょう。お互いのしこりもわずかですみます。怖がる必要はないのです。みんな同じように悲しみの傷を受けたのですから。この勇気が、悲しみと向き合い、乗り越える力になるのです。

 私たちは悲しみにうち勝ち、それを乗り越えようとたくさんの努力をします。しかし、どんなに努力しても災害の前の状態に戻ることはありません。その現実の重さが心の傷であり、心的外傷後ストレス障害の本当の部分だと、私は思います。多くの身体的な症状は薬でやわらげることができます。時間というものは少しずつ、生活も立て直してくれるでしょう。そのために応援してくれる人たちもたくさんいます。しかし、それでもこの現実の出来事を変えることはできない。どうしようもない悲しみを持って、新しい自分の生活を探していくこと。それが「ガタゴト生きる」のテーマでもあります。

 今回は心的外傷後ストレス障害の話と絡めて、日頃触れられない周辺の人や出来事についても触れてみました。最後にこうした災害時に何が起こり、どう対処していくかということで、精神科医の中井久夫先生の書かれたマニュアルを土台に、まとめてみました。災害による強いストレスがどんな影響を与えるのか知っておくことは大事なことです。また、これがそれぞれの話し合いのきっかけになればとも思います。よければそちらもご覧ください。

・災害と心の健康について
(2001/2/24記)
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