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心も風邪をひく


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アルコール依存症 12

依存から自立へ

 これまで見てきたようにアルコール依存症が進むと本人は自分の問題を家族におしつけ、自分のために家族が何かをするのが当たり前のような感じ方になってきます。それは精神的な依存がアルコールだけではなく、人間関係にもおよんでいくことを示しています。アルコール依存症になると性格は次第に変化し、無責任で忍耐力がなくなる一方、他人には批判的で自分中心に物事を考えるようになると言われています。これまで見てきたように自己に対する絶望感やむなしさ、その裏返しと言える暴力、責任を逃れるための嘘・否認ということもそうした変化にあたります。

 アルコール依存症の基準について国立久里浜病院が作成したチェックリストを載せましたが、もう少し一般的な目安で言いますと、毎日3合程度の飲酒を10年ほど続けていると、この病気になると言われています。もちろん、アルコールの代謝には個人差があるため一概にそうだということではありませんが(飲む・飲まないが非常にはっきりした山型飲酒というものもあります)、このことはアルコール依存症として明らかに身体的な依存などが出現してくるのに、10年という長い時間がかかっているということを示しています。本人にとっても家族にとっても、この長すぎる時間が問題をあいまいにして、病気というより家族の生活スタイルの変化という形で状況が進んでしまうわけです。本人の性格の変化も家族の負担の度合いも知らず知らずのうちに増え、アルコール依存症と病院で診断を受けるときには家庭の状況はゆがんだ形に固定化してしまっているのがほとんどの例です。

 アルコール依存症になった本人も、ACもこのように問題を整理してみると必要以上の荷物を背負いすぎていることがわかります。暴力を受け続けた人もそうです。その苦しみも悲しみも、これまでに見てきました。そして、そうした状況の重さに人が勝つということがいかに難しいことかということにも触れてきました。そのままでは悲しみはさらに深まるばかりなのです。本人の病気はますますひどくなり、子供たちも成人してようやくその家庭から抜け出したつもりなのに、自己の恋愛や家庭を持つというときにACとしての後遺症が現われてきます。

 この堂々巡りの輪から抜け出すためには、勇気を持ってSOSを発信する必要があります。アメリカのケースワーカーたちが言いたかったのは、病気や境遇に負けるなということです。人間は誰もが大きな可能性を持って生まれてきます。それは今でも無くなってはいないのです。この一歩として大事なことは、本人は自らが「アルコール依存症」であることを認め、また家族は「共依存」や「過剰責任行動」をしているのではないかと気づくことです。自分の現実を見つめることから、その家族は新しい生活に向かう一歩を踏み出すのです。アルコール依存症は手強い敵です。一人で、家族だけで立ち向かってはいけません。すでに本人だけでなく家族も病気に巻き込まれています。渦の外側から引き上げてくれる第三の船が必要なのです。大事なことはまず、状況を自覚して、他の人にSOSを発信することです。

 アルコール依存症というものの根本にあるのは「依存」の問題であるということを前回話したと思います。アルコール依存症という病気はアルコールという薬物によって物理的に引き起こされる過剰な依存状態にあるわけですが、そこから抜け出すためのキーワードが「自立」であることに変わりはありません。もともとどんなに優れた人格があり、すばらしい仕事をしてきた人でも、この病気が進むと心はむしばまれて「依存」の泥沼におちいってしまうのです。そこから再び「自立」を取り戻すことが、アルコール依存症の治療の目的だと言っても過言ではないと思います。

 しかし、「自立」と「依存」の問題は、言葉通りに分かれる簡単なものではありません。例えば、すでに「SOSを発することが依存しているではないか」と考えている人もいるでしょう。心の問題のこうしたやりとりはともすると屁理屈合戦になりがちなものなのです。そして、その表面的なやりとりはまた堂々巡りのはじまりを呼ぶに過ぎません。実際、自立した人間というのは自分の状況を判断し、必要であればきちんと他人に援助を申し入れ、自分の生活を再び取り戻すことができ、また他人からのSOSに対しても寛大に力を貸せる人間です。自分の置かれた状況を認められなかったり、家族や他人の窮地を見て見ぬ振りしたり、見せかけの正論で自己弁護をし己の立場だけを守ろうとする人は、本当に自立した人とは言えないと思います。

 こうしたことの判断は簡単にはできませんし、また例え医療者であろうと、他人が誰かを判断できるものでもないと思います。この自立の答えも、やはり自分自身で出さねばならない答えなのです。

 アルコール依存症の治療には自立を意識した自らの積極的な治療活動が必要になります。現在、こうした問題に悩む人たちの助けとして、自助グループというものの発達が注目されています。次回はその自助グループについて触れたいと思います。

(2000/3/17記)
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