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心も風邪をひく


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統合失調症 9

 予後と社会的問題

 予後とは治療が終わってからの病状の経過のことをさす言葉です。ただし、統合失調症の場合は根本的な治療がはっきりしない慢性的な病気ですので、「治療が終わった」といっても、「入院治療が終わった」と置き換えて考えてもらう方がいいでしょう。
統合失調症は退院したあとでも多くの場合が、外来への通院治療を必要としています。薬は症状を抑えるように働いていますので、退院したからと薬をやめてしまうと再発する可能性が非常に高いのです。ある研究によると再入院してくる人の80%は薬をやめて半年以内の人で占められていると言われています。
 家族の方もこのことを忘れると副作用を心配するあまり薬をやめるようにしてしまいがちです。薬についての心配事はまず主治医によく相談されてから、判断していただきたいと思います。また、本人の状態が安定しても病気が内在している可能性がありますので、生活における注意も必要です。

 しかし、こうしたことを悲観的に考えすぎる必要はありません。最近の研究では約30%くらいの人は次第に状態が安定して薬を利用しながらも全く普通の状態で生活できるようになり、もう50〜60%の人は入退院を何度か繰り返しても病状は進行せず、その人なりに社会での生活を続けることができると言われています。残りの10%ほどの人は病状の進行もありえますが、現在ではそのスピードは非常ゆっくりとしていますし、この数字は年々小さくなっています(私の実感ではもっと少ないと思います)。つまり、80〜90%の人は病院や薬との関係が大なり小なりあったとしても、その人なりの暮らしが社会の中でやっていけると思われているわけです。

 こうした治療の前進によって最近の精神科医療の注目は、治療ということよりも現実的にそうした人たちがふつうに暮らしていくにはどうしたことが必要かという、福祉的な観点にうつっています。実をいうと精神科の医療では、そのさまざまな歴史の影響によって、病気としては安定状態に入っていながら、帰る家がなかったり、生計が立てられないといった理由によって入院継続せざるをえないという人が50%ほどもいると言われているのです。こうしたもともとの病気とは関係の薄くなった入院を「社会的入院」と言っています。日本の入院患者の5人に一人を占める精神科の入院者の半数が、病状的には退院してもかまわないと言われているわけです。先の数字で見ますと中間に位置した50〜60%の人がこれに当たってきます。この人たちは社会からの適切な支援があれば退院が十分可能であったり、再入院の回数を減らしたりして、より安定した状態を維持して暮らすことができるようになる可能性を持っているのです。

 統合失調症を含め、いわゆる精神病で悩んでいる人が障害者としての認定を受けられるようになったのは1995年のことです。この年、法律の改正があって「精神保健福祉法」が施行されました。これによってようやく福祉からの援助の扉が開かれたのです。これにともない政府は社会復帰のための各種施設についても増やしていく政策を立てました。入院から退院に向けての中間施設となる「援護寮」や「グループホーム」、日中の活動や生活を支えるための「デイケア」、夜間の支援をする「ナイトケア」、家庭での暮らしを支えるための「訪問看護」、職業訓練や職場確保のための「福祉工場」など必要とされる施設はたくさんあります。地域の保健所もこれに対応して月に1〜2回程度ですが、デイケア活動を始めています。

 ただ、こうした試みはまだ始まったばかりで、実際にはまだまだ期待どおりの効果を上げているとは言えない現状にあります。地域住民の理解が得られずに計画がなかなか進行しなかったり、何とか建物ができあがっても施設ごとの差はかなり大きいようです。数も十分ではありません。また、生活するということにはさまざまな要素を含んでいるので、運営にも「経験」が何より大事です。各施設がそれぞれの経験を重ねて、本来の機能を果たすまでにはもう少し時間がかかるでしょう。
 また、もう一つ密接な問題では障害者手帳の問題があります。精神保健福祉法の施行に合わせて、身体障害者の方と同じように精神障害者の方にも障害者手を発行することになりました。しかし、現在の日本では精神障害者であることを証明するこの手帳は大きな偏見の対象になるという問題を抱えています。よって、この手帳には本人の写真を掲載することが見送られ、そのため本人を確認できないという理由で電車や公共施設の障害者割引といったこの手帳を利用する主要なメリットが受けられないという皮肉を生んでいます。

 最後にこうした問題をあげるときにあまり触れられていない問題についても、一言触れておきたいと思います。これまで見てきたように統合失調症は社会の中に病状が現れてくるという特徴を持っていて、社会の中での「生きにくさ」というものを抱えています。しかし、今までの歴史がどうであれ、社会が健常者と障害者が共に生きるノーマライゼーションという方向性を目指す以上、統合失調症を持った人たちも社会の一員としての生活になじまなければなりません。自分の病気や状態を知り、必要な治療を受け、可能な形で社会参加をする。当たり前の話ですが、病院や家庭の奥でひっそりこっそり生きてきた人たちにとっては、これはとても大変なことになるでしょう。これは患者やその家族だけの問題ではなく、当然、私たち医療者にとっても、これまでのやり方や考え方をあらため、医療の本質を問い直すことにもつながっているのです。統合失調症を含め、精神科にかかる多くの病気の将来を明るくするのも暗くするのも、これからの私たちの行動にかかっているのかもしれません。
(1999/5/28記)
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