12.9 めざせ8020


 

ふたごのリョウとタイは2歳半を過ぎ、季節もよくなったので、風邪もひきにくくなった。ふたりはお出掛けがしたくてたまらない。要は靴を履いて外へ出掛けられればいいのだ。そこにブランコやすべり台があればいうことなし。小石や花があればもっといいらしい。

で、マサミツの幼稚園へお迎えに連れて行く回数も増え、念願のデパートデビューもしたし、遊園地へも行った。

ちょっとした人ごみにこども3人を連れて行く時には、Tシャツだけでもお揃いを着せ得るように心がけている。なにもおしゃれのためではない。3人を迷子にしないためである。どこへ行った?と捜す時、どんな服を着せていたっけ?というのに時間がかかるようではいけない。ただそれだけの理由で3種類ばかり迷子防止用の服がある。

リョウとタイにはそれに名札をつける。

誰かに声をかけてもらう時に(ふたごだというだけで声をかける人は多い)、間違えてもらわないためだ。大人でも名前を間違えられたらちょっと不快だ。こどもならなおさらのことである。特に、リョウは最近やっと自分が"リョウ"であることを認識できるようになったので名前を間違えないというのは重要なのだ。

少し前まで、リョウは自分も"タイチャン"であると頭の中がこんがらがっていた。だから、今ここで他人に間違って名前を呼んでもらうと、また混乱するだろうと思われるので名札をつけるのだ。

その昔、まだハイハイができるようになったばかりの頃、髪の毛が全部逆立ち、リョウは愛しのベッカムヘアで少しきょとんとした目をし、ばばちゃんが言うには、「春風亭小朝にそっくり!小朝ちゃん!」。

対するタイは夫に似て目が離れているヒラメ顔で、口はなぜがおちょぼ口。これがなんとなく、あらいぐまラスカルに似ており、産んだ母親の私としても、春風亭小朝とあらいぐまラスカルがふたごだとは納得できなかったが、他人から見ればまったく区別のつかないふたごだったらしい。

そんなふたごたちはこの年齢になり、

「おとうさんに似ている方がタイ、お兄ちゃんに似ている方がリョウ」

というポイントを突けるようになった。未だにふたりを識別できない95%の人にはこう説明するのが一番なのだ。

それに加えて

「歯の抜けている方がタイ」というのが加わったのは前節(第12章8節ふたごのケガ)で書いた通りだ。

そして今、「歯の2本抜けている方がタイ」と言い直さなくてはならない状況になってしまった。嗚呼、無念、無残、なんでまた!

もともとのふたごたちの歯について語ろう。

1歳半の検診ではっきりと判明したのだが、リョウもタイも普通の子より歯が2本ずつ少ない。

ふつうのこどもは乳歯が上下左右合わせて20本生える。生える順序や生えはじめには個人差があるが、本数は同じだ。母子手帳にもこどもの歯のチェック表がついているので確認することができる。

ところが、ふたりは下の前歯の横の歯が左右1本ずつ先天的に足りない。このことを聞いた時には、私は軽く「ヒエッ!?」と驚いたくらいだ。「なんで?ふたごやし?」と思ったが、検診時の歯科医のおっしゃるには、これも人間の進化のひとつらしい。だんだんに硬いものを食べなくなったことが原因であごが小さくなり、小さくなったあごに同じ本数の歯が生えれば、必然的に歯並びが悪くなったり、食べ物のカスがとれにくくなり虫歯になりやすかったりするので、あらかじめ生えないように進化した、とのこと。最近こういうお子さんも多いですよ、とのオマケ付き。

この説には再度驚きつつ、私は、ひそかにふたごだしカルシウムが足りなかったか、お腹の中が狭かったので、せめてあごでも小さくしておこうと歯が少なくなったのではないか、と疑っていた。

なんやかんやと思いながら、少なくても虫歯にならないようにちゃんとハミガキして歯を大切にしよう!って、毎日が虫歯予防デーのような標語を掲げたのだ。

それが悲惨なアクシデント(逆さにするとタコ状になる傘のような洗濯物干しをリョウと取り合いをして歯にぶつけた)でまた1本少なくなり、重なるアクシデントでもう1本も少なくなった。

つまり、ふつうの子より4本も乳歯が少ない状態なのだ。

2回目のアクシデントは布団の上で起こった。タイは布団を敷いている夫のまわりを走り回っていた。得意気だったその一瞬をこども用の椅子がおそった。

我が家は座布団にすわって食事をする純和式お膳スタイルである。それは大人の高さに合わせてあるため、こどもはこども用の椅子を使っている。背もたれがパイプになっていて、すわるとプーと音の出る椅子だ。

その椅子のパイプ部分に顔から突っ込んでこけた。

こけた途端にギャーと泣いたので、もしや!と思った悪い予感が的中した。歯から血が出ている。あー、なんと!この前抜いた歯の横の歯がグラグラしているではないか!!!

診察時間が20分前に終わっているのに、かかりつけの歯科医に電話した。

「この前歯がめりこんで抜いてもらった子なんですけど、今いすにぶつけて、その横の歯がグラグラしてるんです!」

もう、切羽詰まっていた。泣いてはいなかったけれど泣きそうだった。

「すぐ、連れて来!」

で、2度目の抜歯。

1度目のアクシデントの時、かなり強い力がかかっていたので、横の歯にも影響があるやも知れぬとは言われていた。その見解は正しく、根元が少し弱っていたために、いとも簡単に右前歯は文字どおり折れてしまった。

ニッ!と笑うとスカスカの口元である。

もう一本の左前歯にも多少の影響があったらしく、ツンツンすると少し痛いらしい。今回の歯が折れてから1ケ月は、硬いものを噛み切るとか、また強打するなどという考えただけでもオソロシイことは避け、ハミガキも慎重に慎重を重ねなければならない。

バイキンが入って化膿することもあるので、歯茎の様子は常に観察しなければならないし、大変だ。

母親として、第六感というものもフルに活用して危険を察知しなければならないのだが、夜になるにつれ、昼間の疲れがたまり、感も働かなくなり、自分の眠気と闘うのが精いっぱいになるこの頃である。

タイの自業自得と片づけるのはかわいそうだが、タイはどうも運動神経が鈍そうなのだ。リョウは20cmくらいの高さなら「ジャーンプ!」の掛け声と共に勢いよく両足を揃えて飛べるのに、タイは掛け声をかける余裕もなく、降り立つ地点を見極めながら片足ずつていねいに降りる。本人は一応ジャンプしているつもりらしいが……。

マサミツ兄ちゃんのマネをして1メートルくらいのところからでも飛び降りることができると思っているリョウに比べて、タイはいつもへっぴり腰で私の抱っこを半泣き顔で待っているのだ。

まあ、両親とも体育系ではないので、仕方が無いにしてもどんくさい。

しかし、せっかく可愛く産んだのに永久歯が生えてくるであろう6歳くらいまで、ニッ!と笑うと2本分歯抜けなのは情けなく、私の作った乳歯分のカルシウムを返せ!とうらめしく思ったりもする。

いや、何と言おうと親の不注意だ。あそこに布団がなければ、あそこに椅子がなければ、走ってはいけないともっと早く言っておけば……後悔先に立たず。

ふたごだったり、兄弟が多かったり、自分の体調が悪かったり……いろんな理由で事故が起こってしまう。

自分にもっとパワーがあればいいのに、後ろにも横にも目がついていればいいのに、家がもっと広かったらいいのに……。

ああ、神様。タイの歯をどうぞお守りくださいね。

世の中8020(はちまるにぃまる)運動とかって、80歳になっても20本は自分の歯を残してしっかりカミカミして食べましょう、なんて言っているのに、1ケ月に1本のペースで歯を失っているタイをどーかどーかお守りください。

早く永久歯生えて来ないかな。





                 

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