12.8 ふたごケガをする


 

こどもが生まれると、その子が障害や重い病気を持っていないとしても、ある程度体に免疫がついたり、体力がついたりするまでに何度小児科を訪れなければならないことか。

こどもが複数になると、ただの風邪でも家庭内伝染病となり、最後には父親、母親で打ち止めとなり、自分がフラフラしながらこどもを病院に連れて行くこともしばしばである。

実際、マサミツが幼稚園に行っている間に、ふたごのリョウとタイを小児科に連れて行くことがどれほど多いか。うんざりだ。

さて、今回はケガの話。かかりつけの小児科では間に合わず、外科の分野を新規開拓!とばかりにリョウもタイもケガをした。実際には外科にはお世話にならなかったのであるが……。

よく、涙ながらに「私が代わってやれたらどんなにいいか……」という話を聞くが、小心者で情け知らずの私は思い出しただけで「代わるのは嫌や」と密かに思っている。

まず、リョウのケガ。発生は1月下旬。

私は先述のケースでこどもの風邪をもらい、鼻水をズルズル出しながら頭がボーッとしていた。ふたごたちは風邪の治りかけであった。寒い道中、幼稚園へのお迎えに連れて行くのはかわいそうだと、ばばちゃんが彼らと留守番をするために来てくれていた。

「ほな、おかあさん、お兄ちゃんを迎えに行ってくるしな」と言った途端、タイが走り出した。玄関でおかあさんを見送るためだ。

およそ2歳4ケ月のこの頃は、走るといっても形ばかり。足がもつれそうになりながら歩くよりも少し速く移動できるくらいのこと。しかも常にキャーと言い、手をバタバタさせながらなので、いくら練習とはいえ、親としてはあまり走って欲しくない。

タイはリビングの戸を力まかせに開けて玄関に向かって猛ダッシュ。リョウは2秒遅れでタイにつづいてダーッシュ!!……のつもりだった。

リビングの戸はタイがバーン!と開けたので、はねかえって閉まろうとしていた。そこを通過すべくリョウは突進しようとしたが、ちょうどドアの60cm手前で足がもつれてこけてしまった。

リョウがこける一瞬前に、こういうことは日常茶飯事なため、私ははねかえってくるリビングのドアをリョウが通り過ぎるまで開けたままにするためにもう一度全開した。いつもならリョウはうまく通過するのだが、こけてしまったので、その行為とタイミングが合いすぎてリョウはドアの角、つまり直角の角に顔から突っ込んだ。

右目尻から耳側に1.5cmずれて顔に縦の筋が紅くつき、みるみる血がにじみ、同時に「ワーッ!!」。

すぐに泣き、意識ははっきりしていたので、ぶつけたところを必死でなでなでし、5分ほど抱きしめていたら泣き止んだ。

「あいたたなった、バーン!あいたたなったぁー!」しきりにドアを指差している。

いつも思うのだが、このころのこどもって「どこが痛いの?」って聞いても、どこでぶつけたかという場所を差す。あんたが痛いところをなでなでしてあげようと思っているのに、あそこにぶつかったんだという主張ばかりするのが腹立たしい。

とりあえずその場をばばちゃんに任せてマサミツを迎えに行かなくてはならない。私は無情にもリョウを見捨てた母になった。

マサミツを連れて帰ってくると、リョウの右目はふんわりはれていた。眼は充血しておらず、元気だったので様子を見ることにした。

こどものケガに関して、大人はその時の状況把握をしっかりすることが大切だ。どこかを強打した場合、すぐに泣くというのは大きなポイント。ボーッとして意識が薄れたり、ボーッとしたり泣いたりを繰り返したりするのであれば、あとで「なーんやなんともなかったやん」と言うことになったとしても救急車騒ぎを起こした方がいいらしい。

ふたごの場合、競い合うことが往々にしてある。どうやら性別が同じであるとその傾向は強いように思う。家庭内の場合はドアの開け閉めの際の重さ軽さは事前に大人が認識できるので、ヤンチャ坊主がバーン!と開けたら、どれくらいの速度で跳ね返ってくるかも計算できるだろう。ふたりの性格とドアの性格、両者をわかっていながら私はリョウのケガを防ぐことができなかった。責任転嫁になるが走り方がおそまつなリョウが少々運が悪かったとしかいいようがない。リビングだけを暖房するためにそのドアは開け放してはおけず、また、もう少し手前でリョウがこけたら、ただこけただけで済んだかもしれないのだ。

ガラスが割れたときに飛び散らないようにあらかじめ貼っておくフィルムは販売されている。ガラスに突っ込んだ時のことを考えれば、さらに悲惨なことになることは防げるだろう。

外出先では、「走ったらあかん!」が理解できる年齢になるまで(現在5歳半のマサミツは一旦理解はするが何分かすると忘れる)、ドアの性格はもちろん、危険物全般を親が早い段階で見抜かなければならない。あらかじめそこから遠ざけたり、大人が手や体で防げることも多いので目を光らせることだ。

つぎはタイのケガ。発生は4月中旬。前日もその日も雨。そう、ことの発端は雨。

騒ぎの前日は朝から雨だったが昼過ぎから雨は上がった。洗濯物を乾かしてしまいたかったので、昼から外に出して風に当てた。

だが、こどもたちのトレーナーはしっかり乾かなかったので、鴨居に引っかけておこうと"逆さにするとタコのように洗濯ばさみのついた足がビローンと広がる傘状の物干し竿"を室内に入れた。

この物体、開くとちょっと場所をとるけれど結構便利で、どこの家庭にも1つはあるものだろうと思うので想像していただきたい(うちには2つある)。

このタコが凶器になるとはその時には予想できなかった。

ちなみに、ふたごのリョウとタイはこのタコが好きだ。逆さにすると足がビローンと出るところが手品みたいで不思議なんだろう。自分でタコに変身させたくってしかたがない。でも、足をしまった状態でも彼らの身長の半分ほどもあるタコは、彼らにあやつれるわけもなく、いつも横目で見ているだけだったのだ。

翌日、つまり事件の日は朝からじゃじゃぶりの雨だった。

「今日は幼稚園、歩いて行かなあかんなぁー。」

そうマサミツに話していた時だった。

「あめ、じゃーじゃー」「あめ、じゃーじゃー」ふたりともそう言ってベランダの戸を開けた。

私は、マサミツの長靴をだしてやらねば、レインコートも着せて、などということに気を取られていた。その間に、ベランダの戸を開けたすぐのところに置いてあった前日の洗濯物をはずしたタコがリョウとタイの餌食になっていた。

「こんなええもん置いたぁるやん!ええやん!貸してぇ!タコにする!」「いやや、ボクがタコにするぅ!貸してぇさ!」と、ボキャブラリーが少ない彼らはこうは言えなかったが、おおかた気持ちはこんなところだったろう。

「アカン!」と取り上げなければと思いながら、私はまだマサミツの長靴やレインコートに気持ちが飛んでいた。

まさにその時、

「ギャァァァァー!!!!!」それはそれはとてつもない叫び声だった。どこをおさえるでもなく、タイは大量の涙と鼻水とよだれを出して私にしがみついてきた。

何をどうしてどうなったかは不明だが、どこかが痛いのだということだけはわかった。

「どこが痛い?」と大きな泣き声に負けないように大声で聞いたけど、どこが痛いとは教えてくれない。いつもなら柱とか机の角とかを指差すのに、それもしない。つまり、ただ泣き叫ぶことしかできない、それほど痛いってこと?

やがて、上前歯のすぐ右の歯から血がにじみ、舌にも血がついているのを発見した。でも、唇は切れていない。さては、タコを取り合いしてタコの柄が歯にぶちあたったか!?

タイは30分ほど泣きっぱなしであった。泣き止んでからよくよく歯を見ると、どうもその一本の位置が違う。奥にひしゃげているように見えた。夫は言った、

「折れてるかもしれんな。」

「うっそぉー!!」想像しただけでも痛いやんか。

なぜ、もっと早くタコを取り上げなかったのか、なぜ、昨夜用済みになったタコをベランダの元の場所に吊り下げておかなかったのか……悔やみきれない。

タイはもうケロッとしている。私のかかりつけの歯科医院は、今日は夕方からの診察だ。よその歯医者さんに急いで連れて行くかどうか迷ったが、今後のこともあるので夕方まで待つことにした。

その日のお昼ご飯は食べやすく大好物のきつねうどんにすると、タイはよろこんで何の支障もなく平らげた。お昼寝もちゃんとした。

「もし、歯が折れててもどうせ抜ける乳歯やし、折れた部分だけとってなんとかなるか」などと、超楽観的な見解が頭をもたげ、私は悠然と診察開始時間を待った。

夫はタイ以外のこどもと留守番をするために早く帰宅してくれたので、私とタイは雨の中歩いて歯科医院へ向かった。タイはお兄ちゃんのレインコートをダブダブに着せてもらってごきげんである。

さて、診察結果!

「うっ!どうしたって?めりこんでるがな!」

メ・リ・コ・ン・デ・ル?

私が受けた衝撃は「うっそぉー」という一言に凝縮されて医院に響き渡った。

リョウとタイで引っ張り合いをしていたタコは、リョウが取るのをあきらめて手を離した結果、タイの小さい歯に思いっきり当たったのだ。歯そのものは折れなかったものの、歯がはえている土台である骨を砕き、歯自体は奥にめりこみ内側に傾いていた。神経はその時に殺られていたからお昼ご飯も平気で食べられたらしい。

やっぱり、怒鳴ってでもタコを取り上げるべきだった。だいたい雨が降るのが悪いのだ。

「抜かして。」

もちろん、レントゲンを撮って、抜いても永久歯には影響しないことを確認してのことだ。

かくして、タイは初めて訪れた歯医者さんで母に体を押さえつけられ、歯科衛生士さんに頭を押さえられ、歯茎に注射をされて歯を抜くことになった。

「あーあ、これで歯医者嫌いになったやろな。トラウマやな。」先生はポツリと言った。

記念にもらったタイの真っ白い乳歯をもらって、この歯は私が作ったんやな、と変な感慨にふけりながら、このまま痛かったことを忘れてくれたらいい……と私は願っていた。

抗生物質のお陰か、幸いにもタイの歯茎は化膿することはなく、歯を抜いた跡もきれいになった。

ふたごの物の取り合いは四六時中である。呼吸をするのと同じくらい大切で真剣で絶え間ない。だから、なんでもかんでも取り合いをしているものをすぐに取り上げることはかえって彼らのストレスになる、と私は考える。つまり、ある程度取り合いもさせなければ分かち合うことも理解できないと思うのだ。おもちゃも食器も1から10まで同じ物を2つ揃える方法もあるだろう。しかし、つきつめて考えれば、ひとつの子宮を同じ期間分け合って使っていたのだ。いつかは譲歩し、協定し、取り合いは格段に減ると信じている。

だからといって楽観しないで、事故がおこりそうなときには1歩手前、いえ、3歩手前あたりでふたりのお目当ての物を取り上げることは絶対に必要だと思う。

リョウの顔にはまだうっすらと縦に傷が残っている。これはいつ消えてくれるのだろうか。

タイは歯の生え変わる年齢でもないのに歯抜けである。タコが両側の歯や下の歯にも相当な衝撃でぶつかっていたら、忘れた頃に歯が黒く変色してくるだろう、とのこと。そうなればその歯も抜かなければならない。それだけは勘弁して!と祈るばかりである。

「顔に傷があるのがリョウ、歯が抜けてるのがタイです」って、ふたりを紹介してしまいそうで困るなぁ。

こどものケガ。気をつけねば。

ふたごのケガ。性別の違うふたご、女の子同士のふたご、男の子同士のふたごではふたごの種類も違うし、体格や性格、住環境の違いでケガをする確率やその種類も変わるだろう。しかし、家庭内のふたごには思わぬ相互作用が働き、コトが大きくなる場合もあることは共通するようだ。

ベランダから落ちたとか、ナイフで突き刺したとか、それはもう文字にするだけでおそろしい事故ではなくて本当によかった。しかし油断は禁物だ。

どちらも一瞬だった。自戒をこめて、もうケガはしませんように。





                 

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