そうとう季節はずれではありますが……。
11月のとある土曜日。快晴。
マサミツ兄ちゃんの五つまいりにリョウとタイもついて行った。
本来ならば、数え年でお祝いする行事なのであるが、彼は10月生まれであるために、5歳1ケ月の満勘定でお払いに出向いた。数え年ではどうもまだ頼りなく、1歳になったばかりのふたごの弟たちを連れて行くのもややこしいから、と先延ばしにしていたのだ。
テレビの2時間旅情サスペンスものでは、"京の着だおれ"などと言われたり、祇園や上七軒(かみしちけん)には舞妓さんや芸妓さんがおられるので、京都では平日の昼日中から和装の人が街を歩いているかのような描きかたをしているがそうでもない。
しかし、入学卒業の季節や、成人式、七五三などの行事には、やはり和装でお出ましの方々が、他の街よりは多いように思える。
七五三は暦の上では11月15日とされているが、私たちが一家総出で訪れた神社では"七五三祈祷料徴収強化月間"とはいくらなんでも書いていなかったものの、「10月下旬より11月末日までお受けいたします」などと大書されており、一般に午前中に済ませたほうがいいような行事であるにもかかわらず、美しいお着物のお嬢ちゃん、格好いい袴姿のお坊ちゃん、そのご両親、そのまたご両親がたくさんおられた。
我が家の面々の装いはというと、お払いを受ける本人であるマサミツは奮発して買ったFミリアの半ズボンに前年バーゲンで買ったBベのブレザー、夫の実家に一枚だけ残されていた6歳用の夫が小さい頃に着たことがあると思われるブラウス、いただきものの靴下といういでたち。ネクタイを買ってやろうかと思ったが、私が「どうせ1回、使って3回やん」とあまり乗り気ではなく、お菓子が包んであった細いワインカラーのリボンを代わりに結んでやった。なかなか男前である。
貸衣装店で羽織袴を借りようかとも考えたが、どう計算しても4万円程する。女の子なら「キャー!」と嬉しい悲鳴をあげてでも可愛いおべべをそろえるのだが、色気のない男の子だし、お兄ちゃんが羽織袴を借りて七五三をしたという前例を残すと大変だ。物価の上昇やインフレがまったく無いと仮定しても、3年後には2倍の金額をかけてふたごたちに調達してやらねばならなくなる。マサミツはきっと「ボクの七五三のときは……」と言い出すに決まっているからだ。だから、あっさり翌年度の卒園式、翌々年度の入学式のことも見込んでコーディネートした。
リョウとタイは出産祝いでいただいた服に、ばばちゃん手製のAパンマンアップリケ付きズボン。夫と私はスーツ姿。
京都でも有名なY坂神社へ行くのなら、少なくともマサミツと私くらいは和装で決めてもよかったが、私の持つ装いに関する価値観は普通の人とはズレているのを思い出した。何よりも、私のY坂神社参拝は結婚する前から数えればゆうに100回を超える。なんてったってお墓参りに行くコース途中なんだもの。こどもたちのお宮参りも初詣もここだから、勝手知ったる自分家の庭みたいなもんである。着飾る方が恥ずかしいような感じもするのだ。
「えー天気や!それいくぞ!」てな具合に、ほとんど勢いで七五三に来てびっくりした。こういう人気神社で、しかもかきいれどきに祝詞をあげてもらうとなると、受け付け時間でくぎり、何組か一緒にシャンシャン巫女さんの踊りや笙の音をフニャ〜と聞かなければならないのはわかるのだが、私たちが神殿に入った時には別の意味でたまげた。
一緒にお払いを受けた面々を紹介しよう。
- マサミツ(5歳)夫・私・ふたごの弟リョウとタイ(2歳・2歳)
- ふたごの男の子(5歳・5歳)父・母・祖母
- ふたごの女の子(7歳・7歳)父・母・祖母・祖父
- 男の子(5歳)父・母
すごい偶然だった。4組の内、ふたごが3組もいるんだもの。4の家族は場違いな雰囲気をきっと感じていたに違いない。
「あーら、あの方たちふたごの会かなんかで知り合って、誘い合わせていらしたのね!」くらいに思っていただろう。
夫の推察するに、
「ふたごがいると、出掛けるのにややこしくて時間がかかるし、午前中に出ようと思ってたんやけど午後になってしもただけのことや」。
まあ、おおかたそんなところなのだが、ふたごを産んだ私としては、一言も言葉を交わさなかったおかあさま方にミョーに愛着を覚えたり、「お宅のお子様もお健やかですわねぇーホホホ」という目で見たり、「少子化というけれどこのふたごの多さは何!?」と思ったり忙しかった。
さて、この我が家にとっての一大イベントである七五三まいりについて行った我らがふたごちゃん、リョウとタイはどう過ごしたか!が問題である。
もちろんリョーチャンタイチャン共に楽しみましたとも。大満喫!お目めキラキラ!やり放題!好き勝手!ええ加減にせえ!
まず、間違いの素は最初にもらった風船だ。「祝七五三」と書いてあるのを、私が祈祷料5000円(ふたごの時は2倍10000円になるぞ!覚悟)を払って、ちんたらと住所や名前を書いているうちに、邪魔になるのをわかっていて夫がもらってしまった。なんたる不覚!一旦手にしたら、こんなおもしろいものは手離すはずがないじゃないか。風船についている棒をブンブン振り回し、頭や顔にあてる。おもしろーい!祝詞の間も前にすわっている夫の背中にブンブン。振り回しすぎて後ろにすわっている3のおじいちゃんおばあちゃんの膝にも当てる。巫女さんのシャンシャン鈴舞の間に私はふたりを両脇にかかえ、一番後ろの席に移った(ふたりの手には風船)。
他の神社も似たり寄ったりだとは思うが、Y坂神社の神殿は、祝詞をあげてもらう本殿はお賽銭箱の奥に位置している。ガラガラ鳴らす鈴ももちろん釣り下がっている。本殿の一番後ろの位置イコールお賽銭箱のすぐ前ということだ。流行っているY坂神社には一般の参拝客もいっぱいで、お金のチャリンチャリン鳴る音や、3つもぶら下がっている鈴のガラガラガラ止まることなくなり続ける音、パンパン柏手、なんだか自分たちに挨拶をしてもらっているように頭をさげている人たちの群れにリョウとタイは落ち着かない(手には風船)。ずーっと後ろを向いたまま、時にお賽銭箱の角にあたり、自分の方にころがってくるお金を取りに行ってやる、と言わんばかりの約10分だった。私は冷や汗ものであった。
一通りのお払いが終わったあとも彼らにとってのイベントが待っていた。
七五三にはいろんなものがついてくる。ここY坂神社ではおなじみ千歳飴に加えてぬいぐるみがもらえる。受付で巫女さんから「この中からひとつもらえますから決めておいてネ」と言われたマサミツは、ドラえもん、くまのプーさん、スヌーピーの中からちょっと迷ってサッカーボールを持ったドラえもんをひとつもらった。
「ありがとう。」
そう言ってドラえもんを受け取った兄ちゃんをこいつらが見逃すはずがない。千歳飴は例の長方形の袋に入ってアメとはわからないので問題はなかったが、これはね、山と積まれた中からひとつもらうのだもの、自分たちももらえるつもりに当然なっていた。
「プーしゃん!プーしゃん!」「ビャーァァァ!(泣いている)」
親である夫と私は、ひたすら「すいませーん!」と恐縮しながらその場からリョウとタイを離すことだけに全力を注いだ。
半ば誘拐のようにふたりをひとりずつかかえて階段を降りた後、やさしい巫女さんが追いかけて来られたではないか。その手には3つの包みが!
「ごめんね、あげられなくて。あのー、これ、どうぞ。はい、ひとつずつ。」
ああ、巫女さんは女神だったか?中身はこの際なんでもいい。とにかく何かもらえたらリョウとタイは満足するのだ。リョウとタイだけでなく、上の子の七五三についてきた物心のついた弟妹はたいていこんな反応なんだろう。神社の奥の手というべきか。何年後かの祈祷料の手付けともいえようか。
ドラえもんをもらったマサミツまで追加プレゼントをもらえるのは、最高のサービスだとありがたく頂戴しておいた。ひとまずめでたく落ち着いた。もうけ!
でも、あんたらギャー!言うたもん勝ちやなぁ……。つくづく。
ちなみに、中身はノート、鉛筆、消しゴムのセット。どうせむちゃくちゃにしてしまうので、家に帰るなり私が没収。
さてさて、イベントはまだまだ続く。
御直会(「おなおらえ」と読む。神事が終わって後、御酒、神饌をおろしていただく酒宴)。ご祈祷が終わった後、受付でもらった券を持っていくと、おぜんざいがいただける。ご祈祷を受けた本人だけ。つまり皆で行ってもマサミツだけの分。まあ、ヤンヤヤンヤと出掛けたので、どこかで休憩したいところだったからいいけれどね。そこでもリョウとタイのやんちゃぶりは完全発揮。頼んだアイスクリームが来るまで待てない。そこら辺を動き回る。あっちもこっちも行ってみたい。あれもこれも触ってみたい。兄ちゃんのおぜんざいが来たらそれも食べてみたい。アイスクリームが届けば、一心不乱に食べる。母に一口あげようという気はさらさら無い。父はカフェオーレを飲んでいる。母は気が気でないので何も頼まなかったので水を飲む。嗚呼。
こうしてとてつもなくエキサイティングな兄ちゃんの七五三は終わった。
ご祈祷の受け付けをしてもらった時、
「ご兄弟のお名前と生年月日もお書き下さい。ご一緒にご健康をご祈祷いたします」と巫女さんに言われ、リョウとタイもめでたくついでに名前を呼んでもらったし、母としても満足。
「えっ!それって別にお金が要るんですか?」とドケチ根性を発揮した私を許してね。同じ生年月日を書いて、
「ふたごなんです。こっちが次男、こっちが三男なので、順番にご祈祷お願いします」と無料ご祈祷に注釈までつけさせていただいた。
「お・な・お・ら・え?って何ですか?」と説明を受け、「それってひとり分ですよね」と念を押した愚かな母のこどもをY坂神社の神様はちゃんとご加護して下さるのかしらん?
あーあ。スーツの下は汗だくだく。
あんまりはしゃぎ過ぎて、空のベビーカーの車輪にはさまれて風船は1つパンッ!歩き疲れて乗ったベビーカーの中でぐっすり寝て、家に着いたと同時に復活し、風船についている棒の色が違うとかでケンカになり、2つ目もパンッ!結局、風船の棒をはずして室内バレーボールでその日は幕を閉じた。
マサミツ、五つまいりおめでとう。
リョウ、タイ、ご同行ご苦労さん!楽しかったね。フーッ。