8.3 ふたご育児テクニック(3)−情報共有のための記録


 

旅行に行った時、

「あそこからここまで何時の電車に乗って、運賃はいくらで、あそこでジュースを買っていくら払って、おやつにはいくら払って、お昼は誰が何を食べてそれぞれいくらで、温泉に入ったのが何時ごろで、えーっと、朝食は何時だっけ?」

という、どうでもいいようなことを、スラスラと正確に思い出せる人はスゴイ!一種の才能だ。尊敬する。

実際には、レシートがあって、詳細が記録されていて簡単だったり、やはり財布に残されたお金と合わない出費で、思い出せずにくやしい思いをしたりだ。金銭関係だけでなく、昼ごはんで誰が何を食べていたか、何時に温泉に入ろうが人の勝手で、覚えていてもいなくてもさほど気にせず、また、頭を混乱させる割に思い出したことに価値があるものでもない。

だが、そういうどうでもいいことを覚えていられる能力は、ふたご育児になると、がぜん価値が増す。

ひとりのあかちゃんの面倒を見るのは、大変には違いないが、この子が朝何時に起きて、今日1回目のミルクは何時にどれだけ飲んで、ウンチは何時くらいにして、2回目のミルクは何時にどれだけで……と記憶するのは割合簡単だ。覚えておこうと特に固い誓いを立てなくても、そばにいるだけで、そのかわいい寝顔やしぐさまでがオマケとなって、空になった哺乳ビンに、最初はどれだけのミルクが入っていたのか、それは何時だったか、まで思い出せる。

少し具合が悪くて、熱が出た時も、何時に何度であったかをお医者さんに報告するのは、普段そのあかちゃんの面倒を主にみている人ならば、落ち着いていればできることだ。

それがふたりのあかちゃんになると、冒頭で例を挙げたような旅行に関する行動や支払い金額を思い出すことをゆうに上回る複雑さになる。

一日の終わりに、ふたりのミルクの飲みやウンチをいつ頃したか、などを思い出しても、飲んだミルクの量がさだかでなかったり、もしかしたら、ふたりのデータがさかさまだったりしたら、どうしよう?と、不安たっぷりなのだ。白状しよう。ふたりにピッタリついて面倒をみている私は記憶に自信がない。

もちろん、毎日熱が出るわけではないし、あかちゃんの具合が悪い時には、それなりに親も緊張するので、熱を測ったのが何時頃だったかを忘れたりすることはないが、ふたりとも発熱し、熱の出方に0.2°ほどの差があった場合、どっちがどっちのだったかわからなくなることは実際にある。そうなると「なんでそんなことも覚えてられないんだ……」と、自己嫌悪に陥るのが関の山だ。

だからという理由ではないが、私は、この子に対してミルクをどれだけ飲ませた、ウンチのおむつを換えたのはいつ、熱は何時に測って、どれだけあった、というデータを記録として残すことで混乱をなくす努力をしているのだ。それは、育児の自信にもつながる。

もともと、このアイデアは、友人のふたごちゃん育児から教わった。彼女は淡々とミルクを飲んだ量とウンチをした時間を記録していた。

「書いとかんと、わからんようになるねん」と、彼女はニコニコして言っていた。そりゃそうだろう、と軽く同感し「この子たちが生まれたら、私もこうしよう!」と、大きなお腹をかかえて思っていたが、産んでしまった今は、もっと首をブンブン縦に振って「そう!そう!」と、彼女のふたご育児の苦労に賛同できる。

この子たちが生まれてから、とにかく、ふたご育児の先輩である彼女を見習って、ふたごたちの生活を記録するノートを作った。

しかし、記録するのは、結構こまめな作業で、慣れるまでは面倒くさくて難しい。また、記録がすべてだということを認識するまでに少し時間がかかる。

「ちょーっと!タイにまたミルク飲ましてどうするの!?さっき、もうミルク飲ましたんや。今ミルクをあげてほしいのはリョウ!!」

こういう事態も起こる。

そう叫ぶ少し前、私は、帰宅したての夫に「今、起きはってん、ものすごお腹減ってるわ、ミルク100あげて!」と、ウンチのついてしまったおむつカバーを洗いながら言った。

正確に状況を説明すると、ウンチをおむつカバーにはみださせたタイが、先に夕方のお昼寝(この頃のあかちゃんは、午前中に一度寝て、夕方頃にも一度寝る)から起きて、ミルクを100飲んだところに夫が帰ってきた。タイはゲップをして、ウンチのおむつを換えてもらい、ごきげんさんで布団にころがっている。

私は、マサミツがバタバタと走りまわる音と、タイの大きなゲップの音でリョウがどうやら目覚めそうだと感じながら、おむつカバーを洗うべく洗面所にいた。

夫は、大急ぎで服を着替えて(決して帰宅したてのスーツ姿であかちゃんにミルクを飲ませてはいけない。"飲んだら出す"のをモットーにしているあかちゃんは、スーツにだっておかまいなしにウンチをはみださせたり、ゲロしたりする。要注意)私の言う"ミルク100"を作った。そして、ミルクを"タイ"に飲ませていたのだ。

ここでいけなかったのは、起きてもミルクを欲しいとも言わずニコニコしていたリョウではなく、さっきの100でミルクが足りなかったのだと抗議の意味を込めて泣いていたタイでもなく、あくまでも「ノート」を確認しなかった夫が悪いのだ。どんなときにも、きちんと記入されている「情報共有のための記録」なのだから「さっきミルクを飲んだのはタイなので、今、新たにミルクを作のはリョウのためなのだ」と、いうことを、ポットからお湯を注ぎながらチェックをしなければならなかったのだ。

これは、ノートさえ見れば育児がバトンタッチできるしくみになっているのに失敗した例である。

だが、この失敗以降、夫は帰宅すると3人のこどもたちの顔を見、次にノートを見て昼間の様子もチェックするようになったから、私たちの育児はノートのお陰で順調にバトンが渡し合いされ、継続している。

そのノート、難しいものではない。あかちゃんがひとりであっても、作ってみると後になって成長の過程を振り返ることもできるので、いいかもしれない。

簡単にいうと、生活の様子を記録するだけで、約束は"それをした人が必ず書く!と、いうことだ。

  • ウンチについて−名前、時間、特別な所見(ゆるい・下痢・硬い・大量・浣腸など)
  • ミルクに関して−名前、時間、飲んだ量、吐いた場合は「吐」マーク
  • 発熱について−名前、時間、何度か、様子(元気、ぐったり)
  • 投薬について−名前、時間、解熱の為の坐薬は「坐」マーク
  • その他―いろいろ。今日のトピック(寝返りできた、すわれた、頭を5回もぶつけた、ふたりで新聞を取り合いしたなど)、我が家のできごと(マサミツ入園式、父出張、母風邪など)社会のできごと(三宅島噴火、オリンピック開幕など)

我が家ではリョウとタイのイニシャルを利用して簡潔に記録している。ふたごの育児記録なのだが、マサミツがウンチした時間や、発熱したときの記録も併せて書いているので、あくまでも「簡潔に」がモットーだ。(こんなとき、3人のこどもたちのイニシャルが違ってよかったと思う。ここまで考えて名前はつけてなかったので、ラッキーだ。)

便のようすは、このように区別して書き、体調善し悪しの判断材料とする。

「コロ×3」=コロコロっとした鹿のフンのような硬いウンチを3個した

「大量」=昨日便秘していた分も出た感じ

「綿棒浣腸」=丸2日出なかったので、浣腸して出す

「ちと下痢気味」=この子にしては少しゆるいかな

たまに、

「はみ出た!」=おむつカバーからはみ出したサイテーや!

「コロ×10、たたみに1個!!!」=たたみに1個ウンチが落ちてた!!!

というバリエーションを持っている。

ミルクは、基本的にいくら飲んだかを"R100、T100"のように記すだけでいいが、たまに吐いたりしたときには「吐」マークをつける。何度も「吐」が続くようであれば具合が悪いと考えるべきだ。

全体的に元気がなかったり、始終ぐずぐず言っているようであれば、一日のミルクの量を合計してみる。過去1週間程の合計と比較してみて、だんだん減っているようであれば、その具体的な数字を控えたり、ノートも持ってお医者さんに行く。

ミルクの飲みは、あかちゃんの元気度を測る手段になるのだ。「ちゃんと飲んでいるかしらん!」と、目くじらを立てて合計計算をしなくてもいいが、ちょっと具合が悪そうだったり、吐くのを繰り返している時は電卓の出番だ(暗算でもいいよ)。

さて、「情報共有のための記録」をしている我が家のノートだが、とても便利なものを使っている。

産院を退院するときに、大手各社の350g入り粉ミルク缶を1缶ずつもらったのだが、そのうちのM永のミルクに「わたしの育児日記」というA4サイズのノートがついていたのだ。見開きで1週間分が記入でき、1冊で半年分記録できる。私はふたごを産んだから2冊もらえたので、満1歳の誕生日まではこのノートを使えるって寸法だ。

月日、曜日、生後○日が印刷してあり、その下に縦軸として時刻が1時間単位で刻まれている。横軸には尿、便、睡眠、その他の欄があり、一番下が所感を書くスペースになっている。

あかちゃんがひとりなら、「おしっこした」「ウンチした」「○時〜○時まで寝てた」「おっぱい飲んだ」とチェックするだけでいいのだが、ふたりもいるので、必要最低限の「ウンチ」と「ミルク」だけにし、必要に応じて「発熱」や「薬」も記録することにした。

ふたりが同時に風邪をひいた時には熱は別々の色で枠をつけたり、1日に2回が限度の解熱のための坐薬を使った時は、時間もはっきり確認して「坐」マークを色ペンで書くルールもできた。

離乳食が始まってからは、食べさせたメニューも書き込むことにした。材料や硬さによって消化不良を起こしていないかをみるためだ。同じものばかり繰り返して食べさせていると、反省することもあるけどね。

「情報共有のための記録」なのだから、大いに活用すべし。

ふたご育児は「さっきのはどっちやったっけ?」の連続である。我が家のリョウとタイは2卵性のふたごだから、顔も特徴があり見分けやすいが、1卵性のふたごちゃんとなれば「さっきのはどっちやったっけ?」は、どの程度頻度が増すのか計り知れない。

ふたご育児はおかあさんだけに負担がかかるものではない。おとうさんにもおばあちゃんにもおじいちゃんにも……、周りの人を巻き込んでの育児である。育児ノイローゼになっているヒマはない。育児をする人が自分だけでない方が楽だ。夫も含めた複数の大人がふたごの育児に関わってくれるとありがたい。そのときに、スムーズに現在のあかちゃんの様子を伝えるにはデータを見せて、さらに口頭で注意点を伝えることが必要であり、有効である。

「ちょっと、そこまで買い物に行ってくる。もうちょっとしたらお腹減ってくるし、前の回と同じだけミルクあげといてな。そうそう、リョウは朝ウンチ出えへんかったし、今度出たら大量かもよ。」

そういって、ばばちゃんにふたりの面倒を見てもらい、歩いて10分のスーパーまで足りないものを買いに走ることもある。

「ああ、伝え忘れた!」ってことはない。ノートをみればおのずとわかるのだ。ノートさまさま。

大きくなったら、このピンクの表紙のクタクタになったノートをふたりに見せてやろう。

「あんたら、ミルク100飲んだらお腹いっぱいになってたんえ!それに、もうおかわり3回目なん!?なんでぇ!」

「そうそう、そういえば、リョウのミルクをタイに間違えて飲まして、おとうさんを怒鳴りつけたことがあったな。」

「あらぁ、マサミツ哺乳ビンでお茶を飲むって書いてある!」

3人の大きくなったこどもたち、どんな顔をするだろうか、私の宝物のノートを見て……。





                 

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