ぼくはマサミツです。お兄ちゃんになりました。お兄ちゃんっていうのは、いえにふたごのあかちゃんがいることです。ぼくはリョーチャンとタイチャンをとてもかわいがってあげています。チューもしてあげます。でも、おかあさんはときどき、きいろいこえで「やめなさーい」といいます。ぼくがリョーチャンとタイチャンの上にのっかっているからでしょうか?
こんなにかわいがっていても、リョーチャンとタイチャンはぼくのかみの毛をひっぱったり、たいせつにしている本をたべます。「あんたも、ももたろうの本、食べてたんや」と、おかあさんはしょうこを見せてくれますが、そんなおぼえはありません。
このごろ"いないいないばあ"やハイハイのきょうそうをしていっしょにあそびます。でも、ぼくは、おかあさんとふたりきりであそびたいです。
おかあさんはリョーチャンとタイチャンをたかいたかいします。ぼくもしてほしいのですが「おもたいしできひん」と、いわれます。おおきくなったのがいけないのでしょうか?
マサミツのお兄ちゃんぶりは、そりゃもう危なっかしくていじらしくて、嫉妬深くて興味津々で、見ていてハラハラするやら面白いやら。
彼のお兄ちゃんぶりを見ているだけならこっちも楽なのだが、"見ている"というよりも"見張っている"に限りなく近い。何をしでかすかわからないお兄ちゃんなんだ。
ベビー布団のまわりを走る。ボールを投げる。布団をかけてあげるけど、毛布3枚の上に座布団が重なっている。「だれかマサミツをオリに閉じ込めて!」と、叫びたくなることがある。
リョウとタイがお腹にいたときも思った。「上の子がいなかったらどんなに楽か!」
大きすぎるお腹を抱えて公園に連れて行く苦労もなかっただろうし、抱っこをせがまれて困ることもなかっただろう。しんどければいつまででも寝ていることもできた。
ふたりが生まれてからも予想通りだった。短時間サイクルのミルク攻撃に、おしっこうんちまみれの毎日に疲れ、少しでも横になりたいのに、その時間をマサミツと遊ぶために費やさねばならない。疲れをおしているので、当然、不機嫌な遊び相手にしかなってやれない。
「おとうさんもうすぐ帰って来はるしな。今ミルク飲んだらアンタら寝てしまうやろ。おとうさんにお風呂入れてもろてから、たーっぷりミルク飲んでぐっすり寝てや。そやし、もうちょっと待ってぇ。」
そう言ってしかたなくする"ふたり抱っこ"に必ず甘えた声で「ぼくも抱っこ」と言ってよじり昇ってくる。無理やって!
しかし、マサミツの気持ちを考えると、親として複雑極まる思いで一杯になる。
3歳の時点で下に弟か妹がいる子は多いだろう。だが、その数はたいていひとりだ。3歳でふたりの弟がいるマサミツの心中は、5歳違いの妹しかいなかった私には計りかねる。
おかあさんが大好きな彼は、何でもかまってもらいたくて仕方がない。自分でできることも手伝ってもらいたいし、一緒に遊びたいし、いつも「リョウ、タイ」とばかり言ってほしくないのだ。わかっている。よーく、わかっている。
俗に言うあかちゃん返りも出現した。「食べさして」「おしっこついて来て」「脱がして」「抱っこよー」などなど。日に何度も繰り返されると、泣きたくなる。
どうやっても小さすぎる70サイズのお気に入りのピーターラビットの服を、リョウに着せると「あかん!」と怒り出す。アンタのお古をこの子たちに着せないと、不経済きわまりないやろ!と思うのだが、どうしても貸さない。
かと思えば、紙おむつを出してくれたり、ティッシュを取ってくれたり、まだつかめないミニカーを枕元に置いてやったりする。複雑なんだなー、これが。
"いい子ぶる"のもあかちゃん返りの一種なんだそうな。だから、いい子だと思ってばかりいて、かまってやらないとダメならしい。ああ、難しい。
ひとりのあかちゃんでも上の子をかまう量は半減するだろうに、"ふたご"がいると、上の子を"かまう"ということ自体が困難になる。"ふたご"がそろって病気だと上の子は文字どおりほったらかし。
だれも病気でないときでも「ちょっと待ってて」「後でな」「明日にして」「ええかげんにして」「言うことききなさい」「さっさとして」「そこ退いて」などなど。愛する人に言われたら、悲しい言葉ばかりだ。私は、優秀な母親ではないので、"ふたご"がいることを心の中で言い訳して、悲しい言葉を繰り返してしまう。
"ふたご"がいるから無理だというと、"ふたご"の存在を否定してしまっているみたいに自分で錯覚してしまう。そうかと思えばせめて"ふたご"だけならよかったのに、と半ば意識もうろうとして思うことさえある。ああ、それではいかん!
そこで、一発奮起した。春に幼稚園へ上がるマサミツのために、お手製のかばんを作ることにした。幼稚園ってえのは、いろいろと持っていくものがいるところだった。かばんの他にも、コップ袋やお弁当袋、お着替えを入れる袋もいる。みんなと同じ黄色の帽子なので、区別がつくようにアップリケを縫い付けたり、上靴に目印のボタンをつけたり……。既製品を買えば10分で済むことなのは百も承知。だが、マサミツの目の前でこちゃこちゃ作る過程を見せることで、幼稚園に楽しんで行く雰囲気を盛り上げるのと、マサミツのことを「かまっている!」と見せかける魂胆だ。
でも、上の子にしてみれば、買ってきたかばんと作ってもらったかばんの差は判別できず、おかあさんが針を持っている時には近づけないルールの方が辛かったかもしれない。
リョウとタイが生まれる前に「生まれたら、一番にお兄ちゃんのことを考えてあげなあかん」と何人もの人に言われた。今まで一人占めしていた親の愛情が、あかちゃんの出現によって一気にうばわれたように思い、とても淋しいので、甘えたりあかちゃんと同じ事をしたりするけれど、親ががまんをして上の子に極力付き合ってやらねばならない、というアドバイスだった。
「あかちゃんが寝ている間は、できるだけ上の子と遊んでやったの」などという、優等生ママの声を聞くと落ち込む。私は持久体力には自信がなく、エネルギーをふりしぼってまで笑顔でマサミツと遊んでやることはできないでいるのだ。アドバイスは聞いただけで終わる。
その代わりになるかどうかはわからないが「おかあさんのこどもはみんなかわいい」って何度も言うことにした。そのセリフの入る歌も作った。
いつの間にか寝返りできるようになったふたりに「上手やなー!もう一回コロンてしてみ!」と嬉しそうに言うと、必ずマサミツは得意顔で右に左に寝返りをして見せ、でんぐり返りまでして見せる。
「やっぱり上手やなぁ。そんなんもできるんやなぁ。すごいなぁ、えらいなぁ。」
上の子は、この言葉をいつでも、どんな時にでも求めている。下のふたりにひとりずつほめると、上のひとりはなぜか2倍ほめてもらわないと割に合わん、と感じているらしい。
そう、親の注目をふたりぶん浴びたいのだ。だから、戸を閉めたり、新しいタオルを出したりしてお手伝いもしてくれたら、2倍ほめて、使い走りのできるお兄ちゃんにすればいい。ちょっと失敗したり、グズだったりするけどね。
私に少し余裕が出てくると、手におもちゃを持ってすわって遊べるようになったリョウとタイをながめながら、マサミツがどんな行動をとるか観察するようになった。案外上手に相手をしてやれるのに感心する。
「この本貸してあげるなリョーチャン。」「これはタイチャンのな。」「そっち行ったらあかんよ。言うてるやろ!」私の口ぶりにそっくりだ。
成長したなぁ。ええ子やんか!お兄ちゃんやんか!さすがやんか!
リョウとタイにとって生まれた時から兄ちゃんがいるというのは、しあわせなこと。マサミツにとって弟たちがいるということは、しあわせなこと。弟たちが"ふたご"で、3歳しか違わないということは変えようがない。彼にとって弟はリョウとタイなのだ。そして、私たちのこどもはこのかわいい3人だ。
男の子は女の子に比べると、いつまでもおかあさんと手をつなぎたがったり、お父さんに遊んでもらいたがったりするそうだが、やがてこの子たちだって、
「おかん、飯」とか「なんか食うもんないか」とか「もう寝る」としか言わなくなるのだ。(絶句。だが今から覚悟。)
一緒にどこかへ遊びに行こうって誘っても、ついて来なくなる。マサミツが生まれたばかりのちょっと前の過去と現在と、そして少し先の未来をいったりきたりして毎日が過ぎる。あとで振り返って、笑える毎日であることは保証できる。
幼稚園という社会に一歩足を踏み入れたマサミツだが、家庭内でも小さな社会が生まれている。ひとつのコミュニティに一度に2人の人間が増えたのだ。助け、譲り、かばい、協力し、競争し、信じあいながら人間関係を急速に学んでいる。小っちゃいけれど、上の子ってがんばっている。
たくさん葛藤を経験しなさい。頭と心と身体を使って目の前のできごとを乗り切りなさい。それがおもちゃの取り合いだったり、大切なものを壊されたりすることであっても、それは、おとなになってからの起こることの予行演習。泣かないで解決方法を見つけるのです。
自分よりも小さい人を大切にしなさい。早く生まれたことは神様が決められたこと。知恵をしぼって接しなさい。おかあさんは、優しいことは強いことだと思っています。
3人のこどもがいるおかあさんはしあわせです。おかあさんのこどもが、あなたたちで本当によかったって心から思うよ。
ぼくはマサミツです。おかあさんはよくぼくをおこります。「サッサとしなさい。じぶんでかんがえなさい」と、よくいわれます。じぶんでどうしたらいいか、かんがえているからゆっくりになるのです。それをおかあさんはわかっていません。
ぼくはお兄ちゃんです。ようちえんのおともだちのところにはひとりしかおとうとがいません。ヘンです。おとうとは"ふたご"ってきまっていないのでしょうか?このあいだ、だいすきなケーキを食べていたら、ふたりがせめてきました。おもわず泣いてしまいました。これから、ごはんやおかずをとられないように気をつけます。
あ、そうそう。たいせつなかまぼこの板は、このあいだうんちがついたので、おかあさんがあらってくれました。さらんらっぷのしんは、カジカジとたべるのでわたしてはいけないそうです。はやく3人でくるまのじこごっこがしたいです。おわり。