6.2 はじめの1ヶ月


 

生まれたばかりのふたごちゃんを家に連れて帰るには、それなりの覚悟がいる。ひとりのあかちゃんでも、その子のサイクルに家中の者が振り回されるので、迎える方も「かわいい、かわいい」だけでは済まされない。

「目の中に入れても痛くない」と、よく言うが「目の中に入れたら痛い」のだ。あたりまえやんか!

公園友達のあっくんのママは、3人目の出産予定日を前に、実家に「世話になりたいし」と電話したら、ついこの間まで妹と妹のあかちゃんを面倒見ていたおばあちゃんは、一言、「帰って来んといて!くたびれる!」

娘ふたりの出産予定日が3日しか違わなくて、ふたりとも上の子をひとりずつ連れて里帰りしてくるらしい私の同級生のおかあさんは、「どーしよー!!」

そんなもんなんだ、結局。冷静に考えてみたら、どう考えても割に合う生活ではない。それが、"ふたご"を連れて帰り、おまけに産んだ本人は足腰カクカク、上の子は反抗期、なんて条件がそろうと、毎日がマラソン、毎時間が障害物競走、毎秒がハードル競走になるに決まっている。

あかちゃんがやってきた家でマラソンはどれくらい続くかというと、だいたい1ケ月前後が相場であろう。"1ケ月"にはちゃんとした意味がある。

あかちゃんは外からのウイルスや細菌に対しての抵抗力がゼロなので、そうそう外出させることはできない。だから、いったん産院から生活の場所を移せば、せめて1ケ月の間はそこからチョロチョロ動かさない。

それに、"あかちゃんの1ケ月検診"というものが控えている。たいていは生まれた産院にあかちゃんとおかあさんが揃って出向く。あかちゃんは体重や身長を測ってもらい、1ケ月の発育状況を小児科の医師に診てもらう。おかあさんは子宮の戻り具合や体調のチェックを受け、お風呂に入ってもいいとか自転車はあと一週間先くらいなら乗ってもいい、と許可を受ける。

マサミツが生まれたときには、1ケ月検診の翌日に初宮参りを済ませてからマンションに戻った。そのとき観察したのだが、里帰り出産している人も含めて自分の母親と一緒に検診に来ている人が多かった。つまり、産後1ケ月とか退院1ケ月くらいまでをめどに実家にとどまっている人が多数決では多そうだ。

もちろん、例外もあるだろう。自分の故郷とも夫の故郷とも違う場所ではじめてのあかちゃんを産み、誰にも手伝いに来てもらうことなく着々と育児をした人もいる。

また、はじめての子は実家に戻ったけれど、ふたりめの子は上の子の保育園があるので、母親にマンションに泊り込みで来てもらったというケースもある。だから1ケ月を実家で過ごすかどうかは、あくまでも個人と受入先の采配による。

あかちゃんが"ふたご"の場合は、核家族の親子が産院から家に直行しても、夫が1ケ月べったり産休をとれて、家事全般をなんなくこなし、あかちゃんのおしっこ&うんちにも恐れることなく挑み、かつサッサと処理ができ(ウンチだけは勘弁してくれー、なんてのはダメ)、さらに家計を脅かすことのない(休んだことがきっかけでリストラ、なんてのも避けたい)状況であれば、これから暮らしていく家族の元へ帰るべきだ。

そうでなければ、つまり、産後間もない妻が家事全般をこなし、ふたごちゃんにおっぱいを飲ませ、おしっこ&うんちの世話をし、上の子の面倒も見る、てな場合には家族総倒れになるのは時間の問題。

1から3くらいまでなら最近の男性はできるであろうが、そんな中途半端では話にならない。1から10まで夫を頼るのが無理であれば、即刻周囲に迷惑をかける方を選ぼう。全員を寝不足に巻き込み、余暇を完全に放棄させるのを覚悟で泣きつく。もしくは、だれかに24時間体制で家に泊まり込みに来てもらうことを勧める。その人はできるだけ家の中のしくみを知っていて、気の置けない何でもやってくれる人がいい。

スプーンはどこか?トイレの洗剤はいずこ?受話器を上げたらピュルルーっていうけど、これってもしかしてファックスゥ?なんて人は遠慮願ったほうが精神衛生上良い。

総合的に吟味した結果、倒れるのなら家人順々に倒れてもらおう、と私はやはり実家へ世話になることにした。

さて、ふたごちゃんと産後間もない母を受け入れてもらう先や手持ちぶさたの夫には、あかちゃんとおかあさんが入院している間に整えてもらうべきことがある。

まず、自分が揃えたあかちゃんの身の回りのものすべてを移動させる。自分の衣服なども揃える。寒くなる時期なら、おっぱいのことを考えて前開きのシャツなども必要だろう。

私はマサミツの秋物の洋服を用意し忘れていたので失敗した。去年少し大きめだったので、今年もいけるだろう、とタカをくくったら、小さすぎた。ばばちゃんにたくさん洋服を買ってもらった。

タオルやティッシュも気を抜くとすぐになくなってしまうので、もらいもののきれいな柄のタオルも惜しげなくおろそう。ただ、いただきもののタオルは総じて厚手だ。そうなるとあかちゃんには不向きだから薄手のものを探しておこう。

すぐに必要な紙おむつやおしりふきは前もって多めに買っておくといい。1ケース単位で買うと送料はかかるが宅配便で届けてくれるところもある。

上の子がいるなら、洋服以外のものも移動させる。私は、お気に入りのおもちゃや絵本はもちろん、子供用くまさん便座もリストアップした。ちょっとしたことだが、傘やレインコートも必要なことがある。3歳前のこどもって、晴れの日でも部屋の中でも傘をさしたい時期が必ずあるのだ(雨や虹のうたがテレビから流れると……すぐに!)。

移動先と家とが近く、ちょっとしたものでも取りに帰るのに無理や支障が生じないなら必要最低限でいいだろうが、ある程度距離がある場合は"飛行機にのって里帰り出産!"くらいの覚悟で移動に全身全霊を傾けよう。つまり、"ふたご"を産んだら"すぐそこ"の我が家でも"おかあさんひとりでものを取りに帰る"ことができないくらい拘束されるのだ。もちろん、ものの場所がわからない夫に電話で説明して持って来てもらうことは可能だ。しかし、部屋がドロボウに入られた後のように荒らされているかもしれない、と気をもむよりも引越しに近い完璧さで移動する方が精神衛生上いい。

必要なもの、移動させるべきものは、妊娠中の安定期と呼ばれる比較的動きやすい時期に、季節を見越してそろえ、入院準備用品と隣り合わせにでもしてスタンバイしておく。いやがる夫にちくいち「ココにはコレが入っている」と説明し、余力があれば見取り図でも描いて図解しておくと、慌てずに良い。写真にとってノートに貼り、説明をつけるのもいいし、デジカメで撮って説明付きで保存しておくのもいいだろう。こうなると楽しくてやめられまへん。

 退院当日には哺乳ビンや乳首の消毒をしてもらい、ポットの湯を沸かしておいてもらおう。もちろんベビー布団やベビーベッドも清潔なシーツを敷いて用意万端。

受入先には一応夫からも「よろしくお願いします」の挨拶を入れてもらい、ビール1ケースでも贈っておくといい。「まあ、まあ」なんていいながら、結構悪い気はしていないはず。

さあ、ここで、受入先にいる人材のチェックをしておこう。これは結構重要だよ。

"ふたごちゃん"を連れて帰る、ということはその家の人々全員を狂わせる。まず、これをしっかりと認識させておこう。

一日中「おしっこ」「うんち」「おっぱい」「ミルク」「ゲロ」「着替え」「よしよし」「抱っこ」が乱れ打ちで何サイクルもあり、それが2人分だ。

ことわっておくが、"ふたご"なので"2倍"というのは大間違い。"ふたご"は"2乗"だと思っておけばちょうどいい。つまり親の体力としては4倍が求められるのだ。単純にいうと、"ふたご"の面倒を見るには、大人4人がいてようやく普通の生活が保たれるってこと。

初産でふたごを授かった友人は、実家に帰ったときにお母さんとお父さんとでローテーションを組み、3日に1日は熟睡できるようにして乗り切ったそうだ。おむつを替えるのも初めてで男の子と女の子のふたご、とくりゃ、そうでもしなきゃヘロヘロの大人3人がクニャクニャのあかちゃん2人の面倒をみることになり、全滅はまぬがれなかっただろう。

私の場合、ヘルプしてくれる人材は、ばばちゃん(実母)、じじちゃん(実父)、あーちゃん(実妹)の3人で合計大人4人。夫は土日担当。手のかかる方はリョウとタイ、反抗期のマサミツの3人。まあ、ギリギリの状況だ。

ここでさらに問題になるのは、それぞれの人材のパワーだ。

はっきり言わせてもらおう、「いるだけで何もしてくれない人はいないのと同じ」。

どこまでどういうふうにやったらOKなのか、わからないひとを"ふたご"の育児に巻き込むのなら、かなりの体力と知力と説明力を使っての事前研修期間が必要である。

家の場合、あーちゃんのパワーはあなどれない。彼女は昼間は会社へ行っているのだが、夜帰宅してから、疲労の身でもマサミツと遊んでくれるのだ。休みの日にはこっそり映画に行きリフレッシュして、積極的にリョウとタイのおむつを替えてくれる。何よりもマサミツはあーちゃんが大好きなのであーちゃんのいうことなら何だって聞くところがいい。言うことを聞かない年頃のこどもと"ふたごちゃん"が一緒に実家で生活をするのなら、こういう必殺人材をひとり備えておけばいうことなし。

受入先のドンである我がばばちゃんは、平常からはかりしれない"ばばパワー"を持つ昭和12年生まれの京女だ。もちろん並みの京女ではない。「おっとり」とか「はんなり」なんて形容詞には無縁の「ガッツど根性パワー」の持ち主だ。この人に育てられた私も妹あーちゃんも、俗に言う京女からはズレていることを自覚している。夫は結婚するまで隠されていた、非常時の"ばばパワー"を見せ付けられたときには、ビビりまくっていた。

非常時とはこの場合"ふたごちゃん"と3歳の坊主を連れて足腰カクカクの娘が1ケ月滞在することに等しい。

"ふたごちゃん"を連れてかえるのなら、こういうパワーの持ち主が是非とも必要だ。今から"ふたごちゃん"を産み、実家へ1ケ月ほど世話になるつもりだが、周囲がフラフラの体力の人ばかりなら、よく言って聞かせ、よく頼み、まず筋力トレーニングから始めてもらう必要がある。もしそれでもダメなら、お金はかかるがプロのお手伝いさんとか、助産婦さんに来てもらう手もある。

じじちゃんは……。昭和ひとけた生まれの頑固おやじなので、ひとことで言うとあかちゃんに関してはなにもできない。2度ほど、寝付くまで抱っこしてもらったことがあるが、布団に置いたとたんにまた泣き出した。

そんなじじちゃんでもマサミツの相手はがんばってしてくれた。電車を見に連れていってくれたり、ジュースを買ってくれたりするだけで助かる。娘時代には、じじちゃんがどれほど孫に甘い顔をするか、想像できなかったので、これにはびっくりした。だから、総合判断ではやっぱりいてくれたほうがいいに決まっている。

最後に大切なことをひとつ。実家に帰っている間、親戚の人や友人が「ふたごのあかちゃん、見たいー!」とお祝い金や洋服や靴を持って来るのを阻止することは大切だ。門前払いではない。無事にあかちゃんは生まれて家に帰ってきたけれど、大変なので来ないでね!と前もって言っておくのだ。もちろん、言葉は「母親が疲れるし遠慮さしてもらう」と言う。どうしても来る!という人はサッサと帰ってもらう。思った以上に人に会うのは疲れるのだ。

"ふたごちゃん"の最初の1ケ月の育児には体力もテクニックもたくさん必要。なんとかかんとか過ごしてみよう。やっとこどっこい!あかちゃんは生まれたてに比べてずいぶんしっかりしてくる。おっぱいやミルクだけを飲んで大きくなっているんじゃないんだな、これが。みんなの愛もいっぱい食べているんだってわかるんだ。





                 

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