人は普通、布団かベッドの上で寝る。妊婦も布団かベッドの上に寝る。しかし、"ふたご"がお腹にいる妊娠後期の妊婦はそれができない。
なぜか?答えは簡単。布団もベッドも水平だからだ。
まさか、ボタンを押すとギィーと腰から半分が起き上がってくる医療用のベッドを自宅に持っている人はいないだろう。いる?そのギィーとなるベッドを持っている人は、ここは読まなくてよろしい。
これから、誰にでも作れるリクライニング布団の術を伝授する。
まず、なぜ"ふたご"がお腹にいる妊娠後期の妊婦はふつうの水平布団で寝られないか、ということを説明しよう。この答えも簡単。お腹が大きすぎるからだ。「大きい」と「大きすぎる」はとても違う。そこのところを間違えないように。
普通の妊婦は、ギリギリ水平布団で寝られる。どちらかの脇を下にして横たわるとき、大きく出っ張ったお腹の下に、クッションや、二つ折りにした座布団を敷くと割合楽だ。なぜなら、お腹の中身は"胎児+羊水+胎盤"で4.5キロくらいの、おおよそ"水"だと考えればわかりやすい。"たっぷんたっぷん"しているものをお腹に常につけているとしよう、立ちすわり、寝起き、すべての動作で"たっぷんたっぷん"を下から支えてやらねばならない。お腹に上手にくっついていてくれると少しはましだ。横たわるときに"たっぷんたっぷん"だけが単独でデレーと布団に寝そべってしまうと、妊婦はとてもしんどい。妊娠後期に入るまでの私は、座布団を折って風呂敷で包んだものを支えにして、水平布団にかろうじて横たわっていた。
やっかいな"たっぷんたっぷん"が"ふたご"になると8キロくらいになって、"スーパーたっぷんたっぷん"に昇格する。この8キロは、はっきりいってすごい。私の妊娠前の体重は48キロ。6分の1の割り増し分がお腹につくと考えればよい。
そこで寝そべっているダンナさん!あんたの体重の6分の1のものを、たとえば10キロの米袋(これでは本当は少ないくらいでしょ?)を一度お腹につけてごらんよ!どんなにしんどいか、わかるから。
登山するときには10キロくらいの荷物を持つが、おんぶの形で負担は少ない。むちゃくちゃ張り切って買い物して8キロの荷物を持って帰ることもあるだろう。しかし、その荷物をお腹に乗せて持つ人はいない。明らかに違うのは荷物をつけたまま寝ない、ということだ。何を当たり前のことを?とお怒りだろうか。だが、"ふたご"の妊婦は"スーパーたっぷんたっぷん"を四六時中、24時間、いっときも休まずに持ち続ける。歩くときは、お腹の下に両手を入れてグッと持ち上げる。そうすると、肩までこる。
ちょうどお腹の下にコロボックルのような妖精がいて、いつも重さを感じないように支えてくれていたらどんなにいいだろう、と思ったこともある。現に、おふろに入ると浮力のおかげで、少しは足腰とお腹の皮の負担が軽減されるので助かった。しかし、これも早産防止のためにシャワーのみになると、一日に数分の浮力もおあずけだ。
"ふたご"の妊婦の状態を知らしめるにはまだまだ語り足りないほどだが、ここで水平布団で寝ている状態から起きる動作について説明しよう。
- まず、下になっている手の肘をまげて、頭からおっぱいのあたりまでを起こす
- 上になっている手をいっぱいまで伸ばしてお腹をかかえこむようにし、手のひらをお腹の下に当ててグイーッと持ち上げる
- その間、下になっている足のひざを曲げておく
- 上半身を少しだけ起こした状態からさらに起こす。ここで下になっている手は突っ張る形になり、お腹を支えている手は「よいしょ!」という掛け声とともにひざの上に乗せる気持ちで持ち上げる
- 両足を「く」の字に曲げて、いわゆるお姉さんすわりの形にする。この時、片手はお腹を支え、片手はそっくりかえる上半身が後ろに倒れるのを防ぐために後方よりで床につけて、つっかえ棒の役目をさせる
これが、ものすごく大変。お腹が大きくなるごとに、"スーパーたっぷんたっぷん"がお腹からはがれそうな感じになるのでたまらない。少しでもお腹と"スーパーたっぷんたっぷん"が密着している状態を保つために、また、上半身を持ち上げる力が少なくてすみ、寝起きが楽になるようにリクライニング布団が必要なのだ。
前置きが長くなった。本題に入ろう。
<リクライニング布団の作り方>
用意するもの:いつも自分の寝ている布団1組、敷布団1枚、座布団4枚、クッション2個
もちろん、このリクライニング布団を作る作業は妊婦以外の人にやってもらう。(夫に頼んで、文句を言われたときには、10キロ入の米袋をお腹にバスタオルか風呂敷でくくりつけて寝起きを3回させると効果的)必ず完成するまで付き添ってもらい、微妙な調整もお願いする。「これでいい!」と思ったら、敷布団のずらす位置や座布団の折り方まで、よくよく観察し、再現できるように頭にインプットする。
このリクライニング布団に長い時間横たわるときには"リクライニング布団の友"を必ずはべらせよう。私は、長方形のプラスチック製トレーに"友"をいれて手の届くところにいつも置いていた。"友"として何を挙げるかは人それぞれだが、私の場合は、
- ペットボトルに入れたお茶(倒してもこぼれない&寝たままでもなんとか飲める)
- ティッシュの箱
- めがね
- 腕時計(陣痛がきたときに間隔を測れるように秒針付きのもの)
- マサミツの出産のときに余ったお産用特大パット(突然破水したときのため。普通の生理用ナプキンを4枚並べた大きさで安心)
- 筆記用具
- ぬれタオル・乾いたタオル(両方とも汗ふき用)
- ウナ・こども用ムヒ(マサミツはお母さんにムヒをぬってもらいたいが、いつもどこかに置き忘れてくるので母のもとに置いておく)
- ハエハエカカカのキンチョール
8、9は網戸のある家、または夏以外の季節の場合は必要ない。代わりにエアコンやテレビ、ビデオのリモコンを手元に置いておく方法もある。
携帯電話や、電話の子機も手元にあると便利だろう。私が実家で、リクライニング布団に横たわり、安静にしていた部屋は二階の奥の間で、階下にいるばばちゃんに何か頼みたいことや、もってきて欲しいものがあるときに、大声で叫んでいたのは、電話の子機が壊れていたから(非常に電波の状態が悪く、相手の声が聞こえなかった)だ。まったく網戸はないもどうぜん、電話の子機は壊れている、最悪の実家だった。大声を出すのはお腹に力が入るので止めた方がいい(当たり前や!)。
今になってあればよかったかな、と思うものは手鏡。マサミツが私の寝ている足元で遊んでいる場合はいいのだが、頭の方にいる場合は姿が見えないし、見ようと思うと、せっかく落ち着いた"スーパーたっぷんたっぷん"の位置を変えなければならないので、姿勢を変えずに見えない方を見るのに使うとよかったかもしれない。
自分でも快心のできのリクライニング布団ができたときに注意すべきことがある。マサミツだ。いや、上の子だ。必ず、にわかすべり台になるので、すぐにくずれる。何度「これはお母さんの大事な大事な坂のお布団やから、すべらんといてー」と懇願したことか。自分がすべるだけでなく、ミニカーや電車を坂の上から走らせるし、ちょっと姿勢を変えたら、消防車をお腹で踏んでいた、ということもあり、スリリングだ。
加えて、こういう子は、自分も同じ坂になったお布団で寝たい、と絶対に言い出す。一枚の布団に妊婦が寝ているだけで、ふたりぶんの幅をとっているのに、その上マサミツまで寝ると、悪くすると自分が布団からはみでてしまう。お腹がはみ出てしまうと、あかちゃんがお布団もなしに寝ているように思えて、かわいそうだった。
それに、こどもというのは不意に足を曲げたり、手をバーンと反対方向へまわしたりするもんだから、それがお腹にあたるのを常にガードしなければならない。寝ている間中、ガードしつづけるのは無理なので、寝付いたマサミツを隣の水平こども布団にうつす仕事がふえる。
マサミツは反抗期真っ最中で、昼間お母さんに遊んでもらえない分、寝る間際ぐらいは甘えたかったらしく、ベタベタとくっつきたがったのも手伝って、リクライニング布団にふたりで寝るはめになった。ただ、単にリクライニング布団で寝たいこどもなら、適当に座布団やクッションでこどもの布団もリクライニングしてやると満足する。
ギィーと音がして半分起き上がってくるベッドがほしいよー。立つのも足を降ろすだけで楽だよ、きっと。介護用品なんかを扱っているお店にはあるのだろうな。でも、あれって、"病院病院"しすぎている。もっとおしゃれなギィーとなるベッドがあれば、自分が妊娠したときや、果ては老後のために、新婚さんも買うかもしれない。ベッドを作っている会社に提案しようかな。
おっと、それではリクライニング布団の術を伝授した甲斐がなくなってしまう。でもいいか、世の妊婦さん、特に"ふたご"がお腹にいる妊婦さんが少しでも楽に妊娠生活を送れるのなら、それでいい。それでいい。
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