ぼくはマサミツです。2さい5かげつです。
おかあさんのお腹に、あかちゃんがふたりはいっているそうです。ぼくが前にいたばしょです。そのばしょがどんなところか、もう忘れてしまいました。でも、あたたかくて、せまいところだったように思います。あのせまいところに、ふたりのあかちゃんがいるということがどういうことか、よくわからないのですが、おかあさんはたいへんそうです。なんだか、とーてもたいへんなことがおこるようです。
このごろ、だっこをしてもらえなくなりました。「お腹にあかちゃんがいはるし」とばっかりいわれても、ぼくはここにいるので、わかりません。そして、なによりも、ぼくはおかあさんのだっこがだいすきです。なのに、だっこはダメといわれると、とてもかなしくなります。たまにだっこしてもらっても、立ってのだっこはダメで、おいすのだっこだけです。ちょっと、よっきゅうふまんです。このままだと、ぐれてしまいます。
世にいう第一次反抗期というのにぴったり当てはまる時期に、私のふたご妊娠が発覚したので、マサミツは夫よりも被害を受けることになってしまった。
個人差はあるが、2歳〜3歳の間に自己主張のかたまりになるのが反抗期だ。とんだり、はねたりできるようになり、言葉が急にあふれ出すのと同時に、なんでも「自分で!」やりたがって親を困らせる。自分も歩いて来た道なのに、その頃のことはトンと覚えていないので始末が悪い。親は時間にせかされたり、順番を気にしたりしてサッサとさせようとし、手を出すと、「イヤッ!」の一点張り。どうして嫌なのか理由を言えるわけもないので泣きわめく。
ボタンをはめることもそうだ。満2歳になった頃から大きいボタンならひとつ、ふたつはめたがるようになった。はやく出かけたいので「お母さんがしてあげよ」と、全部はめてしまうと、爆発泣きをする。泣くのをやめさせるのには、もういちど全部ボタンをはずして自分で最初からはめさせるしかない。
ところがどっこい!それだけではなく、マサミツは口癖のように「お母さん見ててや」というのである。そして、どれだけ時間がかかってもできたときには「やーん。できたやん。上手やなぁ、賢くなったなぁ。すごいすごい。」と抱きしめて欲しいのだ。(その後、涙をふいてもらい、鼻水もふいてほしい。まったく手がかかる。)お母さんが見ていてくれないと、いつまでたってもボタンはめをスタートしない。そして、段違いになっていても「おーてる!(あっている!)」と譲らないので、時にはあきらめて段違いボタンのままにしておかねばならない。
心のコントロールがきかず、がまんすることもわからない年齢。親も頭ではわかっている。だが、理解することが非常にむずかしかったり、ちょっとできなかったり、たまに忘れていたり、しまいには、自分に反抗期はなかったかのようにさえ思う。
特に妊娠中はホルモンのバランスとやらが変わるそうで、お母さん自信も泣き虫になったり、おこりっぽくなったりする。私もよくおこった。あまりにいうことをきかないので、イライラがつのり「もう!出て行きなさい!」と、3度ほど玄関から放り出した。どうせ、忘れているやろうけど、今、謝っておきます。ごめんな。
この反抗期中にマサミツは"おしっこ"がいえるようになった。"うんち"は下痢でない限りトイレですることができたので、残るは"おしっこ"だ、とこの頃の親は誰もが"おむつはずれ"に期待大なのだ。
3月の始め。つまり、私のお腹に"ふたご"がいる、と判明した直後、マサミツは2歳5ケ月で、1日のうち2回くらいは「おしっこ!」が言えた。
ちなみに、"おしっこがいえる"というのは、
おしっこが出そうになったらモゾモゾする → おしっこ、と親に教えて → トイレに向かって走る → 電気をつけたりしているとモレるので親が電気をつけたり、こども用便座をセットしたりする → スピーディにパンツとズボンを脱がせる → この間「タレたらあかんえ!もうちょっとがまんしてー!」とじゅ文のように唱える → 便座にすわらせる(男の子でも最初はすわって) → おしっこが出る → 拍手かっさい、歓喜のおどりをおどる
という目が血走るスリリングなゲームだ。用事をしていて、すぐにトイレについて行ってやれなかった場合は罰ゲームがある。
間に合わず、何度もおしっこが畳や床にジャーとこぼれ、そのたびに雑巾が出動し、時には私のスカートやズボンが罰を受ける(男の子は思わぬ方向におしっこを飛ばす。これはびっくり!)。当然洗濯物が増える。
その後、何度も失敗し、練習を重ねた末に、
おしっこ行く、という → トイレの電気を自分でつける → 踏み台の上に乗り、ズボンとパンツを下げる → おしっこをする(男の子なら立ってする) → ズボンとパンツを上げる → トイレの水を流す → トイレの電気を消す → 手を洗う → おしっこに行ってきた、と報告する
という一連の作業ができるようになる。これが完成するのは3歳を過ぎるまで待たねばならない。
"ふたご"妊娠中でなくても面倒くさくて、気長に付き合っても毎回「歓喜のおどり」を踊る気になれないのだが、お腹にあかちゃんがいると、妊娠初期ならなおのこと「重いものは持たない」というおふれが出る。そう、安産本には必ず書いてあるし、実親や舅姑、近所のおばさん、すべての人が口をそろえて言うアレだ。
この、「重いもの」というのが「マサミツ」なのだ。そう、こどもは重い。マサミツは非常にスマートな体型で、同じ年頃の男の子の中でも一番ヒョロっとしている(約11キロ)のだが、これが重いのだ。
トイレの便座の高さまで、こどもをヒョイと持ち上げる。また、床におろす。これが日に何度もあるのだ。こどもを育てているお母さんの二の腕が太いのは、「ちりも積もれば」で、一日に何度も繰り返してだんだん重くなる物体を、上げ下げしてトレーニングしているからにほかならない。
少しくらいの重さのものならば、まず、妊婦自身もしゃがんで物体を身体に引き寄せ、手を床や壁についてゆっくり立ち上がる、という動作で少しは身体にかかる負担を少なくして持ち上げることができる。しかし、これはひとりのあかちゃんがお腹にいる"単胎"の、それも俗に安定期と言われる妊娠中期でもしないほうがいい行為だ。お腹に"ふたご"のあかちゃんがいる場合や、安静を言い渡されているときはもちろん、妊娠初期でも重いものは持たないのが鉄則。トレーニングなんかしている場合ではない。
私は、日中は仕方ないので、お腹をかばいながらマサミツを上げ下ろしした。朝や夜は夫に任せた。ばばちゃんが様子を見にやってきてくれたときには、頼んだ。
お腹が大きくなりだした妊娠中期に入ると、マサミツは「自分で!」トイレの床に置いた足踏みの上に一度のってから、便器にはまりそうな不安定な格好で便座に座れるようになった。(実際、何度か便器から落ちた。まったくアホな奴だ。でもそんなところがかわいい。)
これは反抗期のおかげなのだ。「自分で!」効果。「自分で!」したいと言ったときに、思う存分やらせたら、最後には自分でできるようになる。かかる時間だって短縮される。少しの間イライラせずに待ってやればいいのだ。私だって、そうしてできるようになったのだろう。待たせて待たせて、イライラさせて、何回かは叱られたかもしれないけれど、根気よく見ていてもらったのだ。
「ぼくは反抗期だ」と、その言動で主張しているならば、母親としてはイライラして、お腹のあかちゃんに負担をかけるよりも、つきあってやった方がいいんだ。お腹の子が"ふたご"であればなおのこと。
上の子が、お母さんのお腹の中にあかちゃんがいることが、どの程度理解できるかは、上の子の性別や年齢に加えて個人差があるので、一概にはいえないが、私が個人的に分析したところ、上の子が
- 女の子の方が面倒みたがりなので、新しい人形が来るみたいに楽しみにする。
- お兄ちゃん、お姉ちゃんの自覚を持たせるには、あかちゃんが生まれるときに4歳になっていれば比較的楽。
- お腹にあかちゃんがいることが理解できない場合は、お腹をたたいたりすることもある。
といえる。
私の場合は、マサミツは男の子だし、あかちゃんが生まれる頃の年齢は3歳だということで、"あかちゃんがお腹にいる"ことを理解できるかどうか、不安だったが、
- マサミツもここにいたこと。
- マサミツがお腹にいたとき、生まれてくるのをお父さんもお母さんもとても楽しみにしていたこと。そして、こんどはふたりのあかちゃんがお母さんのお腹に入っていて、マサミツのときと同じに、生まれるのをとても楽しみにしていること。
- お腹をたたいたり、押さえたりしたらあかちゃんが来てくれなくなるので、やさしくしてほしい。
- お腹の中のあかちゃんに、がんばって生まれておいでってお話してあげてほしい。
と、何度も"ふたご"のあかちゃんの話をした。
上の子がどれほど理解するかは計り知れぬが、繰り返し言うことは必要だと思う。これは、反抗期であろうがなかろうが、今度"あかちゃんがやってきた"ら、上の子にとっても楽しくなる、と肯定的に伝える必要がある。
マサミツの反応は月齢が上がるごとによくなり、出産間際には「お腹にあかちゃんがふたりいることは"ふたご"という」ことまで認識できた。お腹をたたいたりすることは一度もなく、少しずつお兄ちゃんへの準備を始めていたのかもしれない。
お腹が大きくなるにつれ、立つ、歩く、が嫌になり、もともと出不精な私は、猛暑の戸外へは出かける気力も無くなり、クーラーをゆるゆるとかけて、なるべく家でじっとするのが一番楽になってきた。
しかし、マサミツはお母さんのお腹が大きくなることと、自分が家の中ばかりにいるのが大きく関係していることがわからず、「ばばちゃんのお家行きたい!」「お外行きたい!」「三輪車乗りたい!」と駄々をこねた。
なかでも一番マサミツが駄々をこねくりまわしたのは、抱っこである。
「抱っこよー!!」(=抱っこしてよー!)と私を悩ませた。いすに座っている私のひざによじ登り、ベチャーと抱きついてくる。抱きついても抱きついても、実はお母さんのお腹をかかえているだけで心臓の音も聞こえない。まして「立っちの抱っこ」は厳禁なのだ。
まもなく、マサミツには「抱っこ禁止令」が発令された。
(第3章第4節につづく)