友人は、はじめてのあかちゃんがお腹にいると私に告げてくれたときにこう言った。
「これから、春もん(春物)のマタニティ着られるし嬉しいねん。」
彼女は、春物のマタニティドレスは、かわいい色とデザインなので、それを着られる今、妊娠してよかった、という意味で言ったのである。その後、彼女の息子は7月に生まれた。
私はマタニティドレスにはあまり興味がなく、マサミツがお腹にいるのが発覚したのは真冬だったし、まだまだ、お腹はせり出していなかったので、サイズの変わらないズボンをはいていた。
夏を迎えると、さすがにお腹も大きくなり、洋裁上手なばばちゃんは、私のために綿のマタニティワンピースを縫ってくれたので、重宝した。夏にお腹が大きくなる妊婦さんには、汗をかきやすいので、身体を清潔に保つことが望まれる。ただでさえも、お腹まわりは腹帯やらマタニティガードルやらで暑いので、綿素材のゆったりしたワンピースで過ごしたいものだ。
"ふたご"を妊娠したこの夏には、ばばちゃんはもうワンサイズ大きい綿のマタニティワンピースを追加して縫ってくれて、これまた、くたくたになるまで着たおした。
"ふたご"のあかちゃんがお腹にいる妊婦が、妊娠中期〜後期に夏を過ごすワザとして、着衣を綿素材に統一するのは初級も初級であろう。
私は、もてあますほどのおっぱいをもっていたわけではないので、ブラジャーもせず、綿のタンクトップの上に例のワンピースを着ていた。楽な格好をするのが第一歩である。
さて、"ふたご"をお腹にもって外出するときには、「妊婦外出セット」ぜひ!そろえてもらいたい。
まず、はじめに「帽子」。それも"つば"の広い帽子だ。イメージ的には海水浴に行くと、おいしくもないカレーや丼を、高い勘定と引き換えに食べさせてくれる「海の家」の軒下にぶらさがっている麦わら帽子の"つば"くらい広いのが好ましい。
直射日光に当たると"ふたご"の妊婦でなくてもクラッとくる。"ひとり"のあかちゃんがお腹にいる普通の妊婦さんでも、帽子をかぶったほうがいい。
おしゃれな女性なら日傘……いえ、おしゃれにパラソル……をお持ちだろうが、あれはダメ。パラソルを持って自分に日があたらないように、横にくっついて歩いてくれる"ばあや"がいてくれる"超"お嬢さま妊婦ならともかく、パラソルは妊婦本人が自分にかざして歩くだろう。それがいけない。片方の手がふさがるし、太陽の向きに気を配って、お腹をかばうことがおろそかになりがちだ。雨傘なら仕方がないとしよう。夏の日差しのキツイ間は、ちょっとそこまでの外出時にも「帽子」をかぶろう。
次に、かばんは当然リュック型にする。「かばん」といえば、私が用意して使い勝手がよかったかばんを紹介しよう。
それは、日々の食料品を買い出しに行くときや、クリーニングを取りに行くときにも活躍した。ズバリ「旅行かばん」だ。私が愛用したものは、2泊3日旅行くらいなら充分できるくらいの大きさの、底にコロがついて、ひっぱると棒の柄がチャッと伸びて、リュックにもなるようにストラップもついているスグレモノだ。
こうお腹が大きいと毎日のスーパー通いもしんどいものだ。後に生協の個別配達(注文したものを翌週玄関先まで配達してもらえる)を利用することになるのだが、その頃は「今日は何を食べようかな、何が安いかな」と、日々買い出しに出かけていた。歩くのが面倒くさくなり、疲れてくると、当然、いったん外出したら2〜3日分の食料品を買い込む知恵がつく。ちなみに、我が家に車はないので、一週間分の必要品を週末に家族で買いに出かける生活はできない。
ここで、妊婦には重い荷物は厳禁だということ鉄則が立ちはだかる。牛乳2本、お肉300グラム、豆腐1丁でもかなり重い。だから、旅行かばんに詰め込んで、コロコロころがして帰るのだ。
マサミツの手をつないで、2泊3日の旅行ができるかばんをころがして、見た目にもうすぐ臨月のお腹をして道を歩いていると、ちょっと年配のおばさんなんかは、たいてい不審な顔つきでジロジロ見る。けれど、そんなことを気にしている場合ではない。これはとても楽チンだからためしてほしい。はれてお腹にへばりついた荷物を降ろせたときには、本来の使用目的である旅行かばんとして使えばよい。
「ポシェット」もよく利用した。特製タオル(後述)・ティッシュ・家のカギ・さいふ、を常に入れて肩からななめにかけていた。かばんの部分がちょっとお尻にまわるくらいにかけると、お腹の邪魔にならない。
小物として、リュックの中には、必ず母子手帳と診察券、前の晩に冷やしておいた「ペットボトル入りのお茶」を入れていた。
信号待ちやひなたを歩いた後、目的地に着いたとき、のどが渇いたらいつでも一口のんだ。水分補給は絶対必要だ。恥ずかしがらずに、遠慮せずに、どこででも休憩しよう。
その昔は、むくみがあると、水分の制限もされたそうだ。一日に飲める水をあらかじめやかんにいれ、それを少しずつ分けてのんだらしい。現在は腎機能に障害があるなど、妊婦の身体の水分調節に異常がある場合のみ、お医者さんより指導がされるらしい。
靴下のゴムの跡が足首まわりについて、「ちょっとむくんだなぁ」と自己判断した私は、先生より水分の制限が必要かどうかたずねたが、これくらいは普通だということだったので、ひと夏の間、たくさんお茶をのんだ。
「特製タオル」は私の発明品だ。ミニタオルに氷をはさんだ、夏の妊婦必需品である。もう何度も登場した「デパートでお刺し身を買うとついてくる保冷剤」がまた出番だ。これをミニタオルの中に忍ばせてポシェットに入れておく。汗を拭くときにいつも冷たくて、とても気持ちがいい。"ふたご"のあかちゃんがお腹にいると、汗も思った以上に噴き出る。おしゃれなハンカチで顔をおさえている程度ではすまされない。冷たいタオルで拭くのが一番だ。
まれに、タオルから保冷剤がすべり落ちることがあった。目撃したおばさんは「なにそれ!」と、見てはいけないものを見た顔でチラッと私に視線を送る。しかし、私が何気なくハンカチの間に保冷剤を戻し、涼しげにそれで汗を押さえるのを見ると、妙に納得した表情で去っていく。きっと、その日家に帰ったおばさんは、冷凍庫のどこかにころがっている保冷剤をみつけだし、マネをするに決まっている。……と確信している。
"ふたご"の赤ちゃんがお腹にいる妊婦が夏を乗り切るのには、思いもよらぬところで、どうしようもない障害が発生する。上の子がいる場合は、どうしても上の子に振り回されるのだ。
じじちゃんに三輪車を買ってもらったマサミツは、「おとうさんがお休みのときだけ、広場に行って乗れる」約束をみごとに破り、ダダをこねた。暑い中でも、エアコンで涼しい部屋の中より、外へ出たがった。ピカピカの三輪車があれば、乗りたいに決まっている。当然ながら「三輪車でいくっ!」だ。
ところが、この頃のマサミツは三輪車の運転ができない。ゆるくカーブのついている道路では、勝手に道路脇にかたむいていく。「トラックが来た!」と、トラックに向かって突進し、マンホールがあると、その上を通りたがった。広場に到着するまでの道がサバイバルだ。
お腹が大きいと、広場までこどもの手をひきながら、三輪車をかついで行くこともできない。かといって、こどもを乗せた三輪車を、うしろから正しい道にコントロールする体勢も不可能だ。
そこで、私は知恵をしぼった。そして、またまた発明した。「犬の散歩三輪車」だ。近頃の三輪車には、親が後ろから押してやれるような取っ手がついている。その両側にヒモをくくりつけるのだ。二本のヒモをひとつに束ね、さらに一本のヒモ(輪になっている方が持ちやすい)をつけ、できあがり。
「行ったらあかん!」ヒモをひっぱってストップ。「そっちとちゃう!」ヒモをひっぱってストップ。そうして、時間はかかるが、ほぼ安全に広場までたどりつくことができる。マサミツも、近所のおじさんにも「おっ!ドライブか。ええな!」と言ってもらえ、イイ気になってストレス発散になったようだ。
あかちゃんを産むのに、春がいいとか秋がいいとか、季節を選んだり、親の誕生日に合わせようとしたり、いろいろとたくらんで計画する人もいるだろう。しかし、忘れるなかれ、神様の業の結果、あかちゃんが誕生するのだ。
だから、"ふたご"のあかちゃんがお腹にいて、動きづらいわ、しんどいわ、暑いわ、苦しいわ……の"夏"に妊娠後期を迎えることになっても、それは素直に受け止めて、工夫をして過ごすしかない。
1年365日。必ず誰かの誕生日だ。大きなお腹で日々を乗り越えるワザをあみ出して、少しでも危険の少ないように、無理のないように、安全に、大切にお腹を守っていくことは、"ふたご"のおかあさんになるための練習なのだ。