2.5 のぞみはマナ・カナ


 

長男マサミツが産まれたのは1996年10月第一月曜日だった。

その日からNHKでは朝の連続テレビ小説「ふたりっ子」が半年にわたって放送された。翌年の紅白歌合戦にはオーロラ輝子さんが頭にクルクルの通天閣をのせて出場したのでご記憶の方もいらっしゃるだろう。

初めての出産、育児が少し落ち着くと、テレビを観る余裕がちょっとだけできたので、寝ているマサミツを起こさないような小さなボリュームで、昼食の合間に「ふたりっ子」を観ていた。話の途中から見始めたわけだが、おもしろく、そのうち夫も巻き込んでかかさず観ることになった。15分間を録画して、晩御飯のときのおかずにしたのである。夫はすぐにふたごの姉妹、香子・麗子を演じるマナちゃん・カナちゃんのファンになった(注:ロリコンではない)。

ここまで書けばたいていこの先の文章が想像できるであろう。そう、「どうせなら、かわいい女の子のふ・た・ご!」である。

「男の子でもこ〜んなにかわいいし、女の子やったらもうめちゃくちゃかわいいでー」

「そんな言うこときかへん悪い子やったらもうほっとくしな。今度産まれてくるあかちゃんが女の子やったら、もうおまえなんか遊んだらへん!」

夫は早くも"女の子"と決めて、反抗期真っ只中のマサミツを脅した。

「ぼくに似た女の子やったら、どんだけカワイイか〜。それもふ・た・り!」

私に似たマサミツはどうだというのだ!夫婦ゲンカの種も2倍になる。

私はといえば、二人姉妹で育ち、父方も母方もいとこは女だらけの家系だったのに、自分が男の子を産んだので少々面食うことも多い子育て中だ。

一体"おちんちん"はどうなってんの?立っておしっこってどうやって教えるの?微妙な問題も湧いて出てくる。大体、"おちんちん"という言葉が氾濫する毎日など論外だ。こうなったら勝手の分かる"女の子を希望"というのは自然な感情だろう。

というわけで、なんとなくお腹のあかちゃんは「女の子」だといいな……であってほしい……「女の子」だ!となってしまった。

私自身は、5歳離れた妹(あーちゃん)とは、格別なかのよい姉妹でもないが、けんかばかりする姉妹でもなく、女どうしを適当に楽しんで買い物を一緒にしたり、ぐちを言い合ったりする間柄だ。

洋裁のとても上手な母は、高校生くらいまで私たちにお揃いの生地や色違いの柄でスカートやワンピースをせっせと作ってくれたので、いつも近所中で評判のかわいい姉妹であった(ほんまかいな!)。

かわいいふたごの女の子ならそりゃ一番にミシンを買って、お揃いのデザインで色違いのスカートや、まったく同じ形のワンピースなんか、たくさんたくさん作って着せてあげるんだ。私が小さい頃に一度もはいたことのなかったフリルのついた靴下も一度ははかせたみたいんだ。手提げかばんだって、そろばん袋(今そんなのあるのかな)だって、ピンクや赤やオレンジやチューリップやひまわりでキメてみせる!ああ、ついでに私の服だって一緒につくっちゃおう!親子3人同じ柄のワンピースってステキィ!!!!!

実は、洋裁は得意ではないのでこれは単なる妄想なんだが。この妄想がトマラナイ。後で聞いた話なのだが、一番目が男の子で二番目が女の子の場合、とにかくズボンばっかり、黒・茶・灰・紺・青・緑……永遠に続くきたなーい色というか、パッとしない色に嫌気がさして、狂ったようにフリルぶりぶり、赤・ピンク・オレンジ……とどまることを知らず、せっそうが無くなるらしい。現実には、赤いトレーナーの男の子もかわいいし、黒で決めている女の子もかわいい。しかし、妄想は"ふたごの女の子"のおかげで2倍にふくらんだ。

洋服だけではない。目の前に散らかるおもちゃといえば、ミニカーの山、電車の列、線路の残骸。リカちゃん人形やぬいぐるみ、ままごとセットが我が家にやってくるかもしれない。きっと、マサミツは、かわいいふたりの妹のためにお兄ちゃんぶりを発揮して、ままごとのおとうさん役もしてあげるんだろうな。なんだか想像するだけでホノボノする。

「やーん。どうするの。あっちこっちから取材とかきたら。」もしかすると芸能界にスカウトされたら、という話になることもあった。つきそいの私としては撮影所にも出入りできて、キャーッ!福山君にも江口君にも織田君にも反町君にも拓哉君にだって会えるカモカモカモカモ……まったく、マナちゃん・カナちゃんのおかげでえらい盛り上がりようだ。

ところで、あかちゃんの性別は妊娠中に知りたい?知りたくない?

「絶対に教えてくれはらへん!」病院があるかと思えば、「すぐ言わはるし、知りたくなかったら最初に知りたくないですって主張しとかなあかん」先生もいるらしい。お腹にいるあかちゃんがはじめての子か二番目以降の子かによって、妊婦の希望も「知りたい、知りたくない」に分かれるが、まだお腹の中にいるのにどうして性別がわかるのだろうか?

私の通う産院では、毎回の妊婦検診で、血圧検査、尿検査、体重測定、お腹周りの太さ(ウエスト)測定、子宮の長さ(子宮が縦にだんだん長くなるのを手でお腹を少し押さえて確認してメジャーで測る)測定があった。

妊娠しているかどうかの判定も、薬局で手軽に買える尿をかければ色の変わるスティック(私は使ったことはない)でわかるくらいだから、あかちゃんの性別も尿を検査のときに何かにピッとかけて青になれば男、ピンクになれば女……とかで判別すると思っているアナタ!大間違い!あかちゃんの性別はズバリおちんちんがついているか、ついていないかでわかるのだ!(なーんだ!簡単!)おちんちんがついていれば、お腹が少し大きくなってからはじまる、超音波検査で見えるのだ。ごくたまに、おちんちんが見えない角度だったり、何かに隠れていたために女の子と思っていたら、アレまあ、男の子が生まれた、ということもあるらしいが、見えれば男の子というのは割合高確率で当たるそうだ。

超音波検査はお腹にゼリーをぬって、その上を分厚いヘラのようなものでスーッとなでると不思議なことに内臓の状態がブラウン管に映し出されるのだ。つまり、あかちゃんの形が映るっていうわけ。先生は分厚いヘラをお腹の上で動かしながら(ちょっとこそばい)、ブラウン管を見つめ「ここが頭、これが心臓、この白いのが足の骨」と説明してくださる。あかちゃんが起きて動いているときには、お腹を蹴って足がピクンと動くのも画面で見えるわけだ。スバラシイ。"ふたご"の場合は、ふたり分の時間をかけてあかちゃんが元気かどうかを診てくださる。

私は"ふたご"とわかったときから性別はお腹の中にいるときから知りたかったので、「どっちですか?」とたずねた。マナちゃんだ、カナちゃんだと盛り上がったハイな状態に水をさされたのは7月13日、妊娠26週の検診の時だった。あかちゃんの体重は超音波画像に写る足の骨の長さから割り出して、だいたい、1014グラムと944グラムだと言われた。

先生「こっち(右側)の子は男の子やなぁー」と一言。

私 「うわぁー、はぁー男の子で、すか。」気のぬけた返事。でも、内心は水を差されたというより、シャワーを浴びた感じだった。でもでも、まだまだ!もうひとりの子が女の子かもしれないじゃない。なんてったって、二卵性なんだから、性別が違うこともあるんだ。けれど、「のぞみはマナ・カナ」破れたり。

そして、次の検診時7月27日、妊娠28週で、

先生「こっち(左側)の子も男の子や、なぁー」とつぶやく。

私 「あぁぁぁ。男の子ふたりです、か。」念を押す。(ザアーッ。滝に打たれる音。)マナ・カナ完全に破れたり。ふたりともおちんちんをつけてやってくる。

そして、結果的に「ふたりの男の子のあかちゃん」が産まれた今となっては、合計三人の男の子のお母さんになってしまい、マナちゃん・カナちゃんはあっさりと遠い存在となった。(さようなら……拓哉君。)

おかげで洋裁をする気は失せ、ぬいぐるみに埋もれることもなくなった(マサミツは、知り合いのお兄ちゃんからひとかかえもあるピカチューをもらい、ときどき踏んづけている)。まあ、考えれば、女の子ふたりであれば、マサミツのお下がりは半分くらいしか着せられないし、ミシンでせっせと服を縫いすぎて過労で倒れてしまうかも知れない。(だから、洋裁ができる気になってるだけだって!)

私の毎日は、とても幸せで、得をした気分である。望んだとおりにはならなかったけれど、望んだ以上にハッピーだというヘンテコな日々である。この子たちは私たちにあたえられた最高のこどもたち。それがハッピーでなくてなんであろう。「ひとりくらい女の子やったらよかったのにね。」絶対そんなこと言わないでね。私は大満足。大ハッピー。大うれしい。なれないものになれた、手の届かないものに手が届いた、そんな感じ。まるで、シンデレラのように。

夫は「こんなカワイイ子やし、ひとりちょうだい!って誘拐されたら困る」とのたまっている。ほら、結局女の子でも男の子でもどっちでもええんやんか!

そして、マサミツは、上手に立っておしっこができるようになった。本当に一人前の格好をして、服を着た小便小僧のようで見ていて笑えてくるほど滑稽でカワイイ。しょっちゅう横に飛ばしたりこぼしたりするので、ため息もつくが、こんな小便小僧がもうふたりできると思うと、早くも今から笑えてくるのである。

あ、そうだ。「立っておしっこする方法はマサミツ兄ちゃんに教えてもらいなさい」って言おう。

手間がはぶけそう!





                 

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