2.4 妊婦かぜをひく


 

妊婦に病気は厳禁。

夫は仕事先からかぜのウイルスをもらってくることを許されず、こどもは友達のかぜがうつることを禁じられる。こどもはともかく、夫がかぜ気味だと、妊娠中の妻は夫を汚いもののように扱い、離れ、咳をしようものなら鬼のような目つきでにらむ(陰の声:「かぜをひいてなくても……にらまれて……ナイナイ!」)。

でも、現実には「できるかぎり」という言葉がつけ加えられ、かぜをひくことも多い。デパートや人ごみは避けた方がよい、とか、かぜをひいていそうな人の側には近寄らない、とか。無理難題を押し付けられる。妊婦だって買い物はするし、だいたい、かぜをひいていそうな人というのはどうやって見分けるのだ!友人の奥さんはお腹の大きくなる真夏は毎日デパートに涼みに行っていたそうだぞ。そんなのはアリか?

実際、こどもが他の友達と接触する以上、家にかぜのウイルスは呼びもしないのに入ってくるので、かぜは避けられなくなる。幼稚園や保育園にいっている上のこどもがいると、かぜは日常茶飯事だ。

他人にばかり責任を押しつけるわけではない。自分の不注意による寝冷えからかぜをひくこともある。

妊婦がかぜをひくと、第一に困るのは薬を飲めないこと。

「妊娠中のある期間にある薬をある量飲むと、お腹の中のあかちゃんに奇形や障害などの悪影響をおよぼすかもしれない」

こういう脅し文句はたいていの安産本には書いてあるので、相当オソロシイ。はっきり言ってビビッテしまう。だから、普段は「あれ?かぜひいたかな?一応飲んでおこう」という軽い気持ちで飲む薬も「もしかして妊娠?」の頃から控えなければならない。

それがわかっていてかぜをひいた。"ふたご"を妊娠中になんと4回も。

1回目のかぜをひいたのは2月初旬。妊娠推定3週。まだ先生に妊娠の判定もしてもらっていない頃だ。普段、こんなことはしないのだが、マサミツがお風呂に入るタイミングでぐずったため、私は食事の途中でマサミツをお風呂に入れることになり、彼を寝かしつけて再度食事をすることになった。その結果、湯冷め。微熱が出る。「もしかして妊娠?」の頃なので、ひたすら厚着をして寝る。翌日に妊娠しているかもしれない(その時はお腹のあかちゃんはいてもひとりだと思っていた)と告げて一応内科にかかる。漢方薬をもらうが、自力で治そうと決心してひたすら安静にした結果、これより悪くならずにすぐ治った。あーよかった。

2回目のかぜ。4月初旬。妊娠12週。ふたごであることも確定していた。不摂生からかぜをひいたのか、誰かから移されたかは不明。熱が38.3℃まで上がる。また内科にかかり、妊娠が確定したことを告げ、漢方薬をもらう。3日分もらうが、1回だけ飲んで、 

  1. ひたすら厚着をする
  2. 氷(デパートで刺し身を買うとつけてくれる保冷剤は役にたつ)を脇の下にはさむ
  3. 氷(同上)をおでこに乗せる
  4. 梅干し入りアツアツ昆布茶をのむ
  5. 大根おろしの擦りたてをすぐお汁ごと食べる
  6. はちみつレモンのアツアツお湯割りをのむ
と、ほとんど民間療法で治してしまった。その間夫は早く帰宅し、マサミツの遊び相手をしつつアツアツ雑炊(「鳥ほうれんそう卵入りみそ味ぞうすい」は私の具合が悪いときの定番メニュー。とてもおいしい。)を作ってくれたり、ポカリスゥェットを買ってきてくれたりして助けてくれた。そして、2日でめでたく完治。

3回目のかぜは明らかにマサミツのかぜをもらった。6月初旬。妊娠20週。熱は出ず、のどの痛みと鼻水だけ。ただ、鼻水のおかげで夜熟睡できないので昼間も疲労感がつのる。

そして、3回目のかぜをズルズルひきずったまま4回目のかぜをひいた。これがひどかった。

今日は6月15日。妊娠22週目の検診の日だ。しかし、前夜から右の上の歯が痛い。虫歯か。産院へ行く前にかかりつけの歯科医よっちゃんのところへ行くことにする。いつもは予約してから出かけるのだが、朝一番で電話をして、飛び込みで診察してもらうことにした。

「また、虫歯できました。ついでに他も虫歯ないか見ておいてください。」母子手帳に"妊娠中と産後の歯の状態"というページがあるので歯の定期検診もしてもらおう、というわけだ。ところが、「虫歯ちゃうでぇ、歯根膜炎(しこんまくえん)や」。

虫歯でなくてなぜ歯が痛い?原因は過労だった。疲労がたまってかぜをひき、かぜが原因で鼻水が出、熟睡できずにいたことで、また、疲労がたまる悪循環。そのおかげで夜寝ている間も歯を食いしばったりリラックスできなかったりしたために、歯の根と歯茎の間が炎症を起こしたらしい。何ということだ。

かみ合わせを少し調整するために、歯の詰め物を少しだけ削り、物を噛んでも炎症を起こしている部分にひびかないようにしてもらった。

続いて、タクシーで産院に定期検診へ。病院のはしごは生まれてはじめてだ。

ふたごは496gと506gの大きさに育っている。順調、順調。各々お腹の中で自分の足をもうひとりの頭につけている格好なので、子宮が段々になっているため、胃が圧迫されて食事がたくさん摂れない。この時点では性別は不鮮明で判断できない。順調だが、今後は早産にならないように38週になるまでがんばってお腹で育てること、と指示をいただいて、「歯が痛いなぁ」と思いつつも「すぐ治るわ」と元気に帰宅した。

ところが、翌日夕方より発熱した。久しぶりの37.5℃だ。歯痛からくる熱かもしれない、と歯科医のよっちゃんに電話するが、発熱するほどひどくないので、「かぜとちゃうか?」といわれる。これはあかん。夜には歯も頭も体も冷やして(しつこいようだが、デパートで刺し身を買うとつけてくれる保冷剤は便利。脇の下にミニタオルを巻いてはさむと体を冷やす)とにかく寝る。

そして、朝。私は平熱。マサミツが発熱37.5℃。もうどうなっているのだ!私が移したのか?ごめんな。謝りつつ小児科に連れて行くが、夜には38.5℃まで熱が上がり、母としては熟睡できず,疲れる。相変わらず歯は痛い。

また、朝を迎える。マサミツは少し落ち着いたが、私は夕方にまた発熱37.5℃。またもや内科にかかる(林内科診療所)。先生もお腹が大きいのに何度もかぜをひくので心配そうだ。妊婦にも安心な薬(漢方薬、解熱剤、鼻詰まりをなくして熟睡するための薬)をもらう。不安そうな私にくわしく薬の効能や、お腹の赤ちゃんへの影響について説明して下さる。本当は飲みたくない、という気持ちまで察してくださるので、助かった。とにかく、マサミツの面倒を見てやるために、私が早く元どおりにならなければならないので服用。

そして、6月19日。昨晩の薬のおかげで久しぶりに割合眠れた感じがした。だが、今日から28日まで夫はアメリカに出張だ。ヒエェー!アメリカなんか行ってる場合と違うやろう!と思うのだが、ずっとずっと前からこういう出張は決まっているものだそうで、さっさと出かけてしまった(本人は心配で仕方なかったらしい。後ろ髪を引かれたと言っていた)。母子ともども具合の悪い状態なので、車で3分のばばちゃん・じじちゃん宅へお泊りに行くことにする。

マサミツを小児科へ連れて行き、すこし症状がマシになったのを聞いて安心するが、私の歯がまた痛み出した。じじちゃんの所には車があるのをいいことに、またよっちゃんの所へいく。だが、やはりかぜが原因で歯の根が痛いのだろうとのこと。妊婦にレントゲンも厳禁なのだが、歯のレントゲンは比較的安全なので撮ってもらう(防弾チョッキのような鉛のベストを着て撮るので安心)。これも異常なし。今まで、かぜからくる歯痛は経験したことがなかったので、信じ難かったのだが、レントゲンでも歯には異常がなかったので私もようやく納得した。

そして、またもや夕方に発熱。なんたる悪循環。奥に詰まっている鼻水がとうしても気持ち悪いので無理にかむと、こまくが倒れるし、目はウルウルしているし、で首から上がもうボロボロだ。

夫はアメリカでどうしているのだろう。夜誰にも起こされることなく、ぐっすり寝ているのだろうな(いいな)。食事はおいしいのだろうか。夫は根っからの和食好きなのでたぶんもうストレスがたまっているだろう(こっちは、ばばちゃんのおいしい食事で毎日大満足だ。今日は天ぷらよ〜ん。あまり食べられないが食欲だけはあるかぜひき妊婦)。

なかなか治らないかぜは、歯が痛くなりはじめてから8日目。内科でもらった薬が切れるので、このまま薬をのみ続けて良いかどうかを産院の先生に聞きに行く。ずらっと並べた薬を前に、先生は、

「(あかちゃんは)もう6ケ月に入っているので、この薬やったら飲んでもいい。かぜはだいたい1週間で治るもんやけど、治らへんかったら、治るまで薬飲んでもええよ。まあ、おとなしくしてることやな。」と言って、薬は内科でもらうように、とえらく簡単な話ですんだ。あんまりビクビクすることないんだ。でも、1つの薬を手にとって、「これは、10ケ月になったら要注意やけどな」との言葉がやたらとひっかかる。解熱・鎮痛の薬だが、血をサラサラにする作用があるので、臨月の妊婦にはダメだそうだ。まったく、先生の一言一言に一喜一憂だ。

なんにしても、かぜなどひかないことにこした事はない。でもひいてしまったら、積極的に治すということが大事らしい。「積極的に」という中に薬も含まれるんだ。

 6月26日。歯が痛いのからはじまり、鼻が奥に詰まって息苦しかったり、夕方になると熱が出たり、食欲はあるが味覚がなくなったヘンなかぜは一応治った。13日間も調子が悪かったことになる。あかちゃんは大丈夫なのだろうか。先生を信じるより他はない。夫はあさって帰ってくる。

すでに1999年夏。ことのほか暑い日々が続いている。インフルエンザのようなひどいかぜをひく可能性のある冬に妊婦である人はもっと大変だろう。だが、京都の蒸す夏を"ふたご"のお腹で越すのかと思えば、気が遠くなりそうだ。

それにしても、仕事を持っている妊婦さんの大変さといったら、想像がつかない。かぜをひくような場所へ出かけるなということ自体無理だもの。毎日通勤電車やバスに揺られている人もいるだろう。仕事場に行けばかぜ気味の人だっている。通勤する、しないにかかわらず、自宅で仕事をしている人も、とにかく尊敬してしまう。

どうか、今お腹にあかちゃんのいる女性がみんな健康でありますように。あかちゃんもみんな順調に大きく育っていますように。 祈らずにはいられない。





                 

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