2.1 母子手帳は2冊


 

「妊娠届」というのがある。

私妊婦です。というのを役所に届け出るのである。なんか、他に名称はないも のか。気恥ずかしいような嬉しいような。そんなこといちいち言わなくたって…… という気分になる。が、物事の本質をズバッと突いているので、役所の方もこ れより他にいい名前も浮かばないようだ。

そして、この「妊娠届」はあなどれない。届け出ることによって母体や生まれ てくるあかちゃんを保護してもらえるのだ。健康診断、保健指導、母親学級 (父親も参加してよい)の通知をもらえたり、希望者は母子手帳を見せると血 の検査や、歯の検査までしてもらえる。それに、結婚していなくても、できちゃっ た結婚でも、とにかくだれでもお腹にあかちゃんがいるとサービスを受けられ る。京都市の場合は住んでいるところの保健所に届け出ると、その「妊娠届」 と交換でいろんなものがもらえる。

  1. 母子健康手帳(俗に言う母子手帳)1冊
  2. 予防接種と子どもの健康 1冊
  3. 母子健康手帳副読本−母と子の健康を守るために 1冊
  4. それでいいよだいじょうぶ−子どもとの暮らしを応援する本(厚生省発行)1冊
  5. 家庭教育手帳(文部省発行)1冊
  6. 検診の際に一部の一般検査の料金を公費負担でしてもらえる券 1枚
  7. 腹部超音波検査をしてもらう検査料が1回分公費負担になる券 1枚(ただし、35歳以上のマル高妊婦さんにのみ)

母子手帳本体は、ちょうど保険証と同じハンディタイプのサイズだ。地方自治 体により発行されているので、いろんなサイズでいろんな表紙の母子手帳があ るらしいが、産院で他の妊婦さんがもっているのも、だいたい同じ物なので、 里帰り出産の人のをチラとみることができたときは、ラッキーである。母子手 帳は、文字どおり「母と子の」手帳である。父はもらえない。これは、あかちゃ んが生まれるまではお母さんの所有物で、生まれてからはあかちゃんのものだ、 と私は勝手に思っている。ここに記録されるものは、

  1. 妊娠中の経過(妊娠週数・子宮底長・腹囲・むくみの有無・血圧値・尿検査結果・体重、等)
  2. 出産の状態(分娩日時・あかちゃんの体重・身長・頭囲・胴囲、等)
  3. こどもの成育の状態(○○ができますか?・健康診査記録・発育グラフ・予防接種記録、等)

が主である。“胎動を感じた日”とか“予定日”なんかは妊婦自身が書くので、少しワクワクする。

 ところが、よーく見ると“出産の状態−死産”などど、目に入るだけで悲し くなる文字も書かれている。こどもが6歳になるまで記入できるようになって いる発育のグラフなどもついているのに、死産ややむをえない中絶、不幸にも せっかく生まれてきたのに亡くなってしまったりした場合、いきなりグラフは そこで途絶え、記入するデータも無くなるのだ。母子手帳自体が不要になって しまう。だから、「母子手帳をもらう」ということは重大なことである。

私が主治医の先生から届出書をもらったのは、3月下旬だった。出血騒動で1 週間安静にした後の検診で、10週目であった。“備考”の欄に“双胎”と書 かれていた。そして、先生のひとこと「2冊やしな」。

「やっぱりー!」と言ってしまった。まだ信じていなかったわけではモチロン ないが、何度も念を押されてはじめて納得するような、頼りない心情であるこ とを、自分の発した言葉で再確認した。ああ、情けない。

だが、その日の検診で、胎児の入っている袋(羊膜)が2つあり、ひとりずつ が袋に入っていることが確認されたので、ほぼ二卵性だということを告げられ、 ふたりの手足が絡まる危険はないことが判明した。たくさんあるリスクのうち 1つをクリアできたことの方が嬉しかった上に、“妊娠届出書がもらえる”イ コール“一応の危機を脱し、この妊娠は継続する”として発行されるのだ、と 私なりに解釈したので、嬉しかった。

これで8ケ月に入るまでの間、“単胎”の妊婦さんと同じように4週間ごとに 検診を受ければよいので、一気に2つリスクが減ったようなもんだ。

さて、この母子手帳だが、結構やっかいな代物である。2冊もあるとかさばる。 いつなんどき必要になるかしれないので、常に持ち歩くのに、マサミツの分も 一緒すると、3冊になる。すでに、マサミツの手帳にはあちこちの診察券や保 険証が付随している。それに、オマケに付いてくる、文部省と厚生省から配ら れるドエライ育児書なるものがまたスゴイ。(どのようにスゴイかは第9章第 1節で述べる。)

母子手帳本体はあかちゃんの成長を書きとめるページもあるので、大きくなっ てからも必要。予防接種をしたかしていないかは、記録しておかないと次々に 忘れるので、これまた必要。ひとさまに積極的にお見せするわけでもないが、 月日の立つうちにヨレヨレになってくる。子供がグレたときや、結婚するとき (あーそんな日も来るのか!)に本人に渡してやろうとは思っているが、結局、 現在3冊+3冊を持ち歩いている。まるで辞書を肌身離さずもっているようで、 ヒジョーに重たい。

まあ、妊婦の証だと思えばいいか。……と考えてフト思い出したことがある。 マサミツがお腹の中にいるとき、まだ、5ケ月かそこらだったにもかかわらず、 電車の中で見知らぬおばさんから席を譲られたことがある。少々疲れていたの で、ためらいながらも座らせてもらった。

「お腹にあかちゃんいはるでしょ。ここすわり。」生まれてはじめて席を譲ら れたので、気恥ずかしかったが、びっくりしたのも事実である。本当によーく 見ないとお腹が出っ張っているかどうか分からないほどだったからだ。ワンピー スを着ていたのだが、見るからにマタニティというデザインではなく、単なる Lサイズだったからだ(ちなみに私は162センチ45キロで細身だった)。 子供を産んだことがある人は、お腹にあかちゃんを持っている人のことがよく わかるのだろう。向かいでペチャペチャおしゃべりしている女子高生にはわか るわけもない。

その時席を譲ってくれたおばさんのように、「ちょっと太ってる」くらいの人 のお腹に、あかちゃんがいるかどうかを見分けるワザを持っていそうもない人 の前で、座りたかったり、助けてほしかったりしたときには“母子手帳を見せ る”というのはどうだろう?「エイッ」と黄門さまのインロウのように出せば、 通勤電車もラクラクかもしれないし、少しくらい少子化に歯止めがかかるかも しれない。あー、そういえば、電車が止まってホームに降り立つときに、“足 元に気をつけて、ソレ、ヨッコラショ”と一歩踏み出したら、乗ろうとしてい る若い男性に「サッサとしろや!」と怒鳴られたことがあったな。あの時は、 もう誰にでもわかる「デン!」としたお腹だった。あんな奴は罰金もんだ。

政府も、文部省さんや厚生省さんががんばって冊子をつくってくれるのはいい のだが、それで少子化対策をしたつもりであるなら大間違いである。世の女性 を、全妊婦をもっと保護しなければ少子化に歯止めはかからないゾ。

ましてや、ふたごのあかちゃんがお腹にいる妊婦やふたごを産んだお母さん、 ふたごを育てている家族にはもっともっと税金免除とか手当てなんかが必要な のではないか!私個人としてはお母さん個人にプレゼントというかごほうびを くれてもいいやんか!と強く思った妊婦だった。





                 

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