1.5 じじばば目が点になる


 

夫の父は、夫がはたちの年に亡くなった。

夫の母は、結婚式の二週間前に腸閉塞をおこして入院し、当日は外泊許可を取って式に参列してくれた。手術、退院、 また入院、の後、マサミツがお腹にいることを知りながら、顔を見ることなく逝ってしまった。

気が小さく、すぐ泣き、ふたりの息子が大事大事の女性だった。なんでも、「そりゃおそろしい!」「もうかんべんし てもらおう」「無理や、やめとき」で片づけるので、閉口した。病人なので我慢したが、何度も口論しそうになった。

この義母にふたごを妊娠していることを告げずにすんだのは、よかった。「そりゃおそろしく」て心臓発作でも起こし かねない。

義母に比べて私の両親(特に母親)は正反対の世界にいる女性だ。その言動は男勝りである。普通の人ではまあ、たち うちできないパワーを持っている。少々神がかりなところもあり、妹と私はいつも泣きを見る。

ふたごを産んでしまった今でも、なにかと呼び付けては孫の面倒をみてもらったり、その度にこれは!というおやつを 買って来てくれたり、また、閉店セールだったとかでドカッと服を買ってきてくれたりしたするので、私としては感謝感 謝感謝につきるのだ。ひたすら弱い立場なので、母と娘の間でどんなトラブルがあったか(誰でも出産の後、実家に帰る と母娘の間でいろいろあるらしい)は、今となればすべて“感謝”で片付けざるを得ない。

その母と父(父は本来、おまけのようなものだが、マサミツはいるわ、ふたごを妊娠したわで、父の手も大いに借りる ことになる)に「今お腹にあかちゃんがいる。で、ふたごだ!」の宣言をしたときは大騒ぎだった。

どれくらいの妊婦さんが、出産を機に実家に帰ったり、実家の父母に世話になったりするのか定かではない。義理の父 母に全面的に世話になっている妊婦さんもいるだろうし、夫がすべて面倒を見る場合もあるだろう。

デンマーク人と結婚した友人は、初めての出産も向こうで済ませ(かかる費用が雲泥の差だとか)、出産直後は夫はぴ っちり育児休暇を取り、その後も、毎日夕方5時以降に帰宅することはない、と言っていた。とにかく、お国柄もあるだ ろうが、日本のここ京都では出産した後、産院から実家へ帰るという話をよく聞く。

で、私も長男が生まれた際、産院から実家へ帰り、私の寝食およびあかちゃんの沐浴やおむつの洗濯まで、1ケ月間実 家の父母と妹に世話になった。

今回、ふたごが無事に生まれる頃、長男は3歳になり、反抗期真っ只中であろうし、“あかちゃん返り”というなにや ら厄介なものも控えていそうだ。

夫は育児に関してかなり協力的だし、家事もできるので、安心はしているのだが、3歳になったばかりのマサミツと、 生まれたばかりのあかちゃんふたりと疲労回復中の妻の面倒をみつつ、仕事もして家事もするのは、どう考えても無理そ うに思える。かといって何日も続けて休暇を取るわけにもいかないだろう。

父母にもこの段階で、今年秋に訪れる一大イベントに参加してもらう覚悟を決めてもらわねばならない。(実際には “一大イベント”が“大混乱大波乱”になるとはこの頃は想像できなかった。)

まず、世間話をして様子を伺った。父は新聞を読みながらお茶を飲んでいる。平和だ。

私「ほんでな、あのー。もうちょっと前にわかってたんやけど、あかちゃんできたんやねん。」

  母「へー。あ、そうなん。そら、おめでとうさん!マサミツちゃん、お兄ちゃんになんの。いつわかったん?」

私「うん。先月はじめて病院へ行って、今日2回目行って来たん。順調やし。」

母「ふーん。ほんでいつなん?」

私「ああ、10月18日……なんやけど、あのー、実はふたりいはるねん。」

母「へ?」ついでに父もお茶をこぼしそうになる。

私「ふたり。ふたごなんやて。私が一番びっくりしてるし。」

母「……嘘やろ。そんなわけないやん。」

私「ほんまなん。ふたつ袋が見えて、心臓がピコピコしてた。」

当然ここでも、何度も、“うそ”“ほんま”の言葉が繰り返されることになる。私は産院で起こった衝撃をセリフ入り で再現してみせ、先生から説明された妊娠中や出産の際のリスクについても説明した。私でさえ、今朝自分の子宮内の画 像をこの目で見てきたばかりだが、信じられないけれども信じなければいけない、というまだ半分自分に言い聞かせてい る状態である。母や父にすぐさま娘の体に起こったことを信じろと言っても無理はない。だが、母は

母「うちはふたごを産む家系と違うし、間違いちゃうの?」とまだ食い下がる。そして、最後に、とりあえず納得した ようで、

母「さあ、忙しいなるえ!ほんまに、もう。ここ2、3年はどっこも行けへんわ!」

私は「とりあえず、報告したし!」とそそくさと実家を後にした。

父母とは、お腹の中のふたりが順調に栄養を分け合って平等に大きく成長してくれたら、友人や近所の人たちにもふた ごがお腹にいることを公表することにして、今の段階では周囲の人には内緒にしておく協定を結んだ。

その日、妹が仕事を終えて帰宅した時、父母は、「大変なことが起こったんや!なんやと思う?当ててみ!」といきな りクイズ形式で挑みかかったらしい。妹は何が起こったかわからず、いろいろと言い当ててみたが、降参して答えを聞き 出したそうだ。「ほんまにもう!仕事で疲れて帰って来たのに、びっくりしたわー。」

誰に何を言われようとも、誰がどんなにびっくりしようとも、一番びっくりしたのは私である。この日のことを私は決 して忘れないだろう。“元気なふたごのあかちゃん”を産むんだと決心した記念すべき日なのであるから。





                 

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