
青木俊明 (大学院2年 中世文学専攻)
『平治物語絵詞』について
《はじめに》
今年の河添先生の演習は、自分の関心のあるテーマについて、デジタルメディアを利用
して、発表をするというものであった。私は、卒業論文で『平治物語』について論じてお
り、修士論文では、引き続いて「平治の乱」を題材にした作品、それから『平家物語』に
ついて論じようと考えているため、本演習では、卒業論文では触れることのできなかった
『平治物語絵詞』(注1)について論じた。
このレポートでは、演習の発表以後、考察が進み、現段階ではあまりインターネット上
では公開したくない内容があるので、発表の全体像を明らかにするというよりも、デジタ
ルメディアと私の発表がどのように関わったのか、デジタルメディアを利用する際の注意
点などを中心に報告したい。以下が本レポート中で扱う内容である。
●『平治物語絵詞』について
●なぜ『平治物語絵詞』を論ずるのか
●インターネット上における『平治物語絵詞』について
《『平治物語絵詞』について》
『平治物語絵詞』は、「三条殿夜討巻」(ボストン美術館)「信西巻」(静嘉堂文庫美術館)
「六波羅行幸巻」(東京国立博物館)に原本があり、「待賢門合戦巻」(東京国立博物館)に
絵のみの色彩模本、「六波羅合戦巻」(東京国立博物館)に白模本が伝えられている。また、
これまでの絵巻とは別系統だが、「常磐巻」(個人蔵)の原本がある。一部欠ける部分があ
るものの、何らかの形で現在まで残っている絵詞を見ると、文字による『平治物語』のす
べてのストーリーを絵巻化したものが『平治物語絵詞』であると考えていいだろう。
この絵詞については、美術や書道、国文学の研究者から成立時期に関する研究がなされ
てきた。研究者によって成立時期に違いがあるが、13世紀中頃から遅くとも13世紀末
までには成立していたとするのがこれまでの成果である(注2)。
また、絵巻の研究の際に問題になる、絵巻作製の依頼者については全くわかっていない。
ただし、『看聞御記』の永享八年閏五月卅日の条に「平治絵ハ西塔南尾ニ有之。……秘蔵之
間綸旨院宣之外ハ不出云々」、永享九年六月廿三日の条に「平治絵ハ山門秘蔵。綸旨。院宣。
御教書ならてハ不出云云」(注3)とあること、また絵巻作製によって生ずる経済的な負担
を考慮に入れると、依頼者は院や天皇、摂関家などかなり限定されるであろう。
以上が、『平治物語絵詞』についての基本的な情報である。
《なぜ『平治物語』を論ずるのか》
大学三年生の演習で、演習の担当の先生に見せていただいたのが、私と『平治物語絵詞』
との出会いである。信西の首が獄門にかけてあり、京中の人たちが信西の首を見ていると
いう場面にひどく驚いたことを今でも覚えている。それから、平成12年の春になって、
名古屋ボストン美術館で「三条殿夜討巻」の原本を公開するということを指導教官に教え
ていただき、実際に自分の目で「三条殿夜討巻」を見たことがこの絵詞を論じてみようと
思ったきっかけである(注4)。実際に「三条殿夜討巻」を目にすることで、改めて絵巻の
大きさを実感し、また色についても日本絵巻大成のものとは微妙に違うのではないかとい
う感想を持ったことを覚えている。
それから、本格的に先行研究を調べていった。その結果、『平治物語絵詞』を絵と詞書を
あわせて絵巻として論じたものは、まだないのではないかと思うようになった。たしかに
宮次男氏の絵詞の構図に文字による物語の持っている文体のリズムを読みとる論考があっ
たり、千野香織、池田忍両氏によるジェンダー概念を用いての絵詞の読解はなされてきた
のだが(注5)、『平治物語絵詞』がどのような論理でできているのか、平治の乱をどのよ
うにとらえているのかについては全く明らかになっていない。したがって、絵巻自体が何
を表現しているのかを考えてみるべきではないかと思い、『平治物語絵詞』をテーマに選ん
だ。
演習では、『平治物語』における藤原信西の描かれ方と『平治物語絵詞』における藤原信
西の描かれ方の差異に注目した。そして、絵詞は物語と異なり、藤原信西が後白河院にど
のように仕えたのかはあまり問題にしていないのではないか、つまり物語は天皇親政を志
向するのに対し、絵詞はそのような論理を持っていないのではないかという結論になった。
《インターネット上における『平治物語絵詞』について》
インターネットの便利なところの一つは、家にいながら画像化された貴重図書を閲覧で
きることである。『平治物語絵詞』については、以下のホームページで画像を見ることがで
きる。
・「信西巻」の一部
静嘉堂文庫美術館 http://www.mitsubishi.or.jp/ (三菱のホームページから進んでください)
・「六波羅行幸巻」(「六波羅行幸巻」のすべてを見ることができます)
東京国立博物館 http://www.tnm.go.jp/ (「おすすめの二十選」へ進んでください)
ただし、これらの画像の色については、注意が必要である。以前、名古屋ボストン美術
館のホームページ上にあった画像と、実際にみた絵を比べてみると、赤い部分や白い部分
が実際の絵より、ホームページ上の色の方が、つまりパソコンのモニターの色の方が、鮮
やかであった。また、ホームページの画像を印刷してみると、印刷された色とホームペー
ジ上の色で若干の違いがあった。色が原本と変わってしまう現象は、原本を絵巻大成のよ
うな本にした場合にも起こる現象なので、色について何かを論ずる際は、実際に原本を見
る必要がある(注6)。
これまでは『平治物語絵詞』に関するものであったが、それ以外にも私が利用したデジ
タルメディアがあるので、そちらも記しておく。
・『平治物語』写本
京都大学電子図書館 http://ddb.libnet.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/index.html で見
られる(『平家物語』の写本も見られる)。
・CD-ROM 平家物語 櫻井陽子監修 富士通SSL 1997.7
『平家物語絵巻』、歴史紀行、辞書など『平家物語』について、わかりやすく解説した
CD-ROM。
京都大学電子図書館の『平治物語』は、古態本重視の最近の研究動向からすると、あま
り重視されない写本であるが、冒頭に平家の系図があり(源氏はない)、興味深い。また、
櫻井陽子氏監修のCD-ROMは、中学、高校における『平家物語』の導入に用いるのに、
適切であろう。
《まとめ》
このレポートでは、デジタルメディアを中心にしながら、もう一度、演習の内容をまと
めることが目的であった。デジタルメディアについて考えてみると、貴重画像のデータベ
ースなどは、形はCD-ROM、DVD、インターネット上などの違いはあるだろうが、今後
一層充実することが予想される。ただし、画像の色に関して何かを論ずる際は、パソコン
のモニターに映っている色は、実際の色とは異なる可能性があることを自覚しておく必要
があるということを指摘しておく。
(注1) 底本は『平治物語絵詞』 日本絵巻大成13 中央公論社 1977.9 を用いた。
なお、本文中の絵巻の呼称は、『平治物語絵詞』、絵詞に便宜上、統一する。
(注2) 『平治物語絵詞』の研究については、「軍記と語り物」35号に大島龍彦氏が
まとめられているので、そちらの方を参照されたい。
(注3) 本文は『続群書類従』より引用した。また旧漢字を私的に改めた。
(注4) なお、名古屋ボストン美術館における展示は、名古屋ボストン美術館のホーム
ページでも紹介されていて、「三条殿夜討巻」の一部が見られるようになって
いた。名古屋ボストン美術館のURLは http://www.nagoya-boston.or.jp/ だ
が、現在(2001/2/28)では「三条殿夜討巻」の画像はなくなっている。
(注5) 宮次男「『軍語り』と絵画」『国文学 解釈と鑑賞』53巻13号 、千野香織『平
治物語絵巻』 名古屋ボストン美術館 2000.4、池田忍「合戦絵の中の女性像
―「性」を印された身体―」『女と男の時空―日本女性史再考』U 藤原書店
1996.5 など。
(注6) 《なぜ『平治物語』を論ずるのか》参照。
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