ミヤマクワガタの飼育

ミヤマクワガタは日本産の普通種の中では飼育が難しい種類と言われています。確かに採集してきた雌雄を一緒に飼っていても、産卵する事はまれで、幼虫を羽化するまで飼い続ける事も困難です。しかし、ミヤマクワガタを野生の環境で探すと、いる場所には他のクワガタを圧倒してたくさんいるクワガタなのです。彼らがいない場所は、乾燥して暑い場所です。この事を頭に入れてミヤマクワガタの繁殖飼育をやり直して見る事にしました。実は筆者はもう30年くらい前にミヤマクワガタを何世代も累代飼育した事があるのです。ところが近年は東京のヒートアイランド化のせいか、全く産卵しないまま全滅と言うこともしばしばでした。30年前と今と一番違うのは、なんと言っても真夏の酷暑と乾燥です。そこで室内用クーラーや虫用のクーラーを使って、ミヤマクワガタの繁殖に再チャレンジして見ました。

1.交尾

夏の野外で採集した個体であれば、たいてい交尾済みですが、念のため、少し小さめの容器に雌雄を一緒に入れて見ます。雌雄は1:1または2:1くらいの割合で入れ、1週間くらい交尾をするか観察します。

交尾をしていた雌雄がいきなりけんかになって、雄が雌をかみ殺す事があります。これはミヤマの雄がごく単純なロジックで自分の交尾相手と攻撃相手を決めているからの様です。

雄は交尾していた相手でも、交尾を受け入れなくなると攻撃する様になります。これは「行為を受け入れない♀=他の雄と交尾済みの♀」→「自分の遺伝子を残せない♀」と言うロジックになっている様です。交尾済みの雌を雄が攻撃する様になったら、もう交尾は十分ですので、雌雄を分けて雌は産卵セットに移す様にしましょう。

上は産卵セットの一例です。高タンパクゼリーをいくつか封を切って、雌が満腹するようにいれてやります。産卵床は粒子が細かい発酵マットに、半分くらい粗い白色腐朽マットを混ぜて、団子にした時に少し水がにじむ程度に加湿します。マットを底から5cmくらい堅く詰め込み、柔らかめのコナラ材などを良くしめらせて埋め込みます。このセットを気温23℃以下に保たれた部屋におくと、雌は産卵床に潜り産卵します。

写真はつくばにある国立環境研究所のクワガタ飼育室の様子です。この部屋は23℃の恒温室です。

産卵セットを1ヶ月後にあばくと、卵と孵化してしばらくたった初令幼虫が出てきます。上の写真はまだ産卵して間もない卵で、母虫が作った木くず団子の中に埋め込まれています。

上の写真は産卵後しばらくたった卵です。ミヤマの卵は色が褐色で、一見すると生きているか不安になるような色ですが、このまま通気と湿度を確保しておけば、普通に孵化して卵殻を食べた幼虫はマットを食べ始めます。

上の写真はふ化後数日たった初令幼虫です。体内には回りから取り入れた腐食が詰まっています。このくらいから単独飼育に移すと、死亡率は高いですが、大きな成虫に育てやすいです。

ふ化後一ヶ月くらいたった初令幼虫です。ずいぶん大きく育っていますが、頭部の大きさはあまり変わっていませんし、頭部の後ろの節に破卵器があるので初令であることがわかります。

こちらは産卵セット後2ヶ月後に暴いた産卵床からでた亜終令幼虫です。このサイズになっていれば、そのまま単独飼育に移す事が出来ます。筆者はミヤマ幼虫の飼育に、奈良オオクワの「小麦粉発酵マット」を使っています。このマットを1リットルくらいの容器に詰め、その上に産卵床のマットを載せて軽く圧縮してから幼虫を放します。この時、自力で潜り込めない幼虫は、残念ながらその後の飼育には耐えられません。

ミヤマクワガタの幼虫は、濃い柿色の頭部、短くてがっしりした大アゴ、他のクワガタ幼虫より毛深いなどの特徴がありますが、一番の特徴は上唇の上の頭蓋に横に4つの小さい穴が開いている事です。日本産のクワガタはたいていこの穴が、2つなので、これを見れば、他の幼虫と簡単に見分ける事が出来ます。

幼虫の飼育温度は16℃〜20℃が最適です。この二匹の幼虫は同じ親から生まれた初令を異なる温度で飼った例です。左のまだ若い終令は16℃恒温環境で飼育した個体で、成長は遅いですが、健康に見えます。右下の老熟した終令や25℃固定で飼った幼虫で、身体のあちこちに黒変した部分があり、この後しばらくして死んでしまいました。

餌変えのタイミングは、上の個体の様に、終令が若い内に行います。こうすると、幼虫は幼若ホルモンが体内に多いため、環境が変わっても変態する事が出来ず、成長を続けます。

餌替えの際は、環境を極端に変えない様に、底に新しい餌を詰め、その上に古い餌を詰めます。こうしておくと、幼虫は最初古い餌の層にとどまり、やがて新しい餌を食べ始めます。

上の幼虫は同じ幼虫の半年後の姿です。まだ老熟はしていませんが、体重は15gを超えています。このくらいの体重を維持して成長させれば、65mm以上の雄成虫を羽化させることが可能です。

上の写真はサト型のミヤマクワガタ雄の蛹です。この個体は20℃恒温状態でおよそ1年かかって蛹化しました。

上の写真はヤマ型の雄の蛹です。この個体は16℃恒温飼育で、およそ1年半かかって蛹化しました。

上の写真はフロッピー10枚入りケースの中にしめらせたキムタオルを敷いて作った人工蛹室の中の蛹です。人工蛹室は少し湿度を高めに保ち、23℃以下の場所においておくと、問題なく羽化させる事が出来ます。

20℃の恒温環境で、およそ8ヶ月で蛹化、10ヶ月で羽化した雌新成虫です。まだ腹部が鞘翅に収まっておらず、目が白濁しているので、羽化後間もないことがわかります。

この雄も目が白濁していますので、羽化後間もない個体です。この個体はサト型です。

上の雄は23℃恒温環境で飼育したところ羽化不全になってしまいました。腹部を鞘翅が覆い隠す事が出来ないため、こうした羽化不全個体は短命に終わります。

同じ23℃恒温室でも、初令の初期からずっと同じ温度で飼った個体は、この幼にきれいな雄成虫として羽化して来ました。

上の写真は蛹室から取り出してしまった雄に昆虫ゼリーを与えているところです。23℃恒温環境でこうして単独飼育すると、ミヤマクワガタはおよそ3ヶ月強で繁殖が可能になります。しかし16℃恒温環境で飼育していると、交尾産卵出来る様になるまで8ヶ月以上かかる事があります。同じ温度で雌雄を飼うと、たいてい雌の方が先に羽化して来ます。このため、雌雄の繁殖時期合わせは、新成虫の保管温度を調整する事によって行うと良いでしょう。

ミヤマクワガタのトップへ ミヤマクワガタの採集へ


著作権者 情報:copy right by K.Fumishima
最終更新日 : 2005/10/15..