秋月電子 PIC簡易擬似電話交換機キットの改良
● 概要
秋月電子のPIC簡易擬似電話交換機キット(NTTモドキ公衆回線シュミレータ)は
とてもすばらしいキットです。
なんといっても、一般の回線交換エミュレータと比較してとても安価ですし、
TA等の内線交換では省略されている極性反転等も実現されています。
ただ、いくつか困った問題もありましたので、
このキットを、電話回線部の電圧を32Vとし、
モデム等のコンピュータ機器から600型電話まですべての電話機器で
普通に使えるように改造します。
なお、電源次第で公衆電話規格と同じ48Vにも対応できますが、
スペースの都合と入手できた電源トランスが48Vでしたので上記のようになりました。
このキットの問題点としては、以下の二つです。
● 説明
完成した電話交換機の写真は次のようになっています。
上側のモジュールは17V電源装置ですが、これはなくても動作します。
下記の改造でも最終的にThinkpadの内蔵モデムのみがRING反応しないため、
それだけのために用意しました。
続いて、内部の写真を次に示します。
左半分は32V電源で、右上は5V/12V電源です。
この部分は自明なので説明は省略します。
上のコネクタやスイッチは、アンプ(IC3)への外部17V電源のためのもので、
スイッチで切替えます。(詳細後述)
さて、本題のキットの部分です。
主な改造点は以下の通りですが、写真の基板は実験のためにパターンを切った
り貼ったりしましたので、必要以上にごちゃごちゃしています。
最初のものはマニュアルの通りですので、説明は省略します。
17V化の説明は後述しますが、パターンカットして電源供給した時、
LEDにも17Vが供給されないように気をつけてください。
IC3はかなり熱を持ちますので、放熱用のフィンも必要です。
● 電源電圧上昇時の問題 (低電流ダイオードと電解コンデンサC5)
キットの説明書にある電源電圧は48Vでも使用可能と書かかれていますが、 実際に行うと以下のようになります。
上の問題ですが、原因は低電流ダイオードです。
このキットで2つ使用されているCRD E-153は、耐圧25Vですので、
25V以上での使用はもともとできるはずがありません。
しかも、1本で代用できる品はラインナップにありませんし、
CRDの入手性もあまり良いとは言えません。
E-562が入手しやすいので、これを6本用意し、3本づつ並列に接続すれば、
正しく動作します。
トーンが小さくなる問題は、電解コンデンサC5 10uFを小さくすれば解決します。
1uFでもだめで、0.047uFの電解コンデンサがこちらの32V環境ではうまく動作しています。
電解コンデンサは実験的に選択してしまいましたが、よくよく考えれば、
使用するトーン信号の周波数等から必要な容量は計算で出せますので、
それが正しい方法です。
なお、私は電源の都合で32Vにしましたが、
これで、公衆回線の48Vへも対応できるはずです。
ちなみに、C5を取ってはいけません。
取った場合、RINGや回線切断時にたまにPICがリセットされます。
このキットではリセット時に受話器が上がっていた場合、常に通話状態になりますので、
自動で電話が取れて、二度と切れなくなったように見えて、
気付くまでわけがわからなくてとてもはまります。
PICはソースもなくわけがわからないのですが、
動作は理解していたため、H8あたりの安いので置き換えてやろうかと思ったくらいでした。
● RING問題の解決 (トランスの変更)
RING問題の解決ですが、結論から言うと、トランスを
オリジナルのTOYODEN HP-124 (12V-0-12V 40mA)から
HP-095 (9V-0-9V 50mA)へ変更するだけでほとんど解決します。
結論を一言で言えばそうなのですが、この理由はややこしく、
問題は電力不足にあります。
まず、以下の電話機について見てみましょう。
右側が600A型電話で、左が最近の電子式RINGの電話機です。
これを見比べるだけで、両者の性質はかなり違うことが想像できます。
RINGは16Hz 75Vの交流信号ですが、
これはもともと手回し式の電話の手回しによる発電に由来しています。
これらの電話を相互につないで、600型電話から電子式RING方式の電話を呼び
出した時のRING波形は、次のようになっています。
なお、これはトランスの変更後の波形ですが、出力が高い以外はほぼ同じです。
今度は、600型電話を呼び出した時のRING波形です。
オシロスコープのレンジは、上の左側の波形と同じです。
波形がくずれていることから問題は明らかで、
もともとRINGを鳴らすには電力が不足していて、
600型電話ではなんとか鳴っているということになります。
じゃあ、電力を上げるためにはIC3を中心とした増幅回路を改良する、
ということになり、ここでIC3のスペックを見て、
このICがかなり大きなパワーを持っていて、
同等品の入手さえもかなり難しいということ気付きます。
別に、このような大出力の増幅回路を用意するとなると、
かなり大きな回路になるのは言うまでもありませんし、
かといって、トランス抜きで直接75Vのサイン波を発生させるとなると、
さらに面倒なことになります。
特に、今回はもうケースも電源も用意しているので、困っていまいました。
しかし、よくよく考えてみたら、
600型電話で電力が必要なのは物理的にベルを鳴らしているからであって、
モデムの場合は電力が必要なはずがないので、
動作しない理由は電圧不足、それもある一定の電圧になるまで検知されないだけ、
ということになります。
実際のベル信号は本来は75V必要なのですが、
この交換機キットではrmsで35V程度しか出力されていませんでした。
電圧アップだけならばトランスの変更で少しならば対応できそうだったので、
やってみたところ、40V程度出るようになって手もとのいくつかのモデムも
RINGを検知するようになりました。
ただし、Thinkpadの内蔵モデムのみは動作しませんでした。
それで、トランス変更によって600型電話が動作しなくなる可能性も
考えていたのですが、これもOKでした。
ここで重要なのは、同じサイズのトランスを使っていて、
トランスのドライブに必要な電力はほぼ同じということです。
もともとこんな小さいトランスは持ってなかったため、
もっと大きいトランスでも試しましたが、
電力不足が酷くなって波形がぼろぼろになるだけで、まったくダメでした。
また、これ以上の電圧アップは難しく、HP-068 (6V-0-6V 80mA)も試して
みましたが、こちらは駄目でした。
6Vの50mA程度のトランスがもし入手できるならば、試してみる価値がありそうです。
これで完成としても実用上困らないのですが、
動かないものがあるということそのものがすっきりしませんので、
Thinkpad対策としてIC3の電源電圧を上げて対応することにしました。
● Thinkpadの内蔵モデム対策 (外部17V電源モジュール)
実は、モデムがうまく動作しなかった時に、こんな実績のあるキットだから、
開発元は解決方法を持っているだろうと思って、開発元に電話して聞いたんです。
とても親切にいろいろ対策を教えてくれて全部試しましたが、
残念ながらこれらのモデムには効果がありませんでした。
上に書いてあるのは、それらを参考に調べた結果なのですが、
その時に聞いた話の中にIC3のアンプの電源電圧を上げるという話がありました。
単体では効果がなかったのですが、トランスの変更と組み合わせると、
Thinkpadの内蔵モデムは完全ではありませんが、
動作に不都合がない程度にはRINGに反応します。
IC3の電源電圧へ17V加えて、20〜30秒たった時の波形は次のようになります。
それ以上の電圧を加えても同じか、逆に更に波形がくずれて出力は悪くなりまので、
17.2〜17.5Vであたりで使用します。
また、少し熱を持つまで待ちます。
オーバースペックでの動作なのでヒートシンクが必要です。
波形はくずれますが、電圧は少し上がりますので、
9割程度の確率でThinkpadの内蔵モデムでも反応します。
この電源モジュールの内部は次のようになっています。
これは秋月で売られていた19V/15V電源を17V強にしただけのものです。
以上を行っても、実際のNTTの交換機とは細部の動作が違いますが、
実際に使う分には問題ない範囲になりました。
最後に、けちをつけているような内容なので補足しますが、
コストを考慮した部品の選択、回路構成、総合的な判断で、
とてもよくできたキットだと思います。