実在しない苗字の読み方 幽霊読み事例集  表紙へ

 幽霊苗字事例集の続編で、漢字でそう書く苗字は確かに実在するが、読み方が実在しないという事例集。

 苗字の読み方については、実状がよく認識されておらず、両極端の考え方をしている人が多い。一つは、この苗字はこうと決め付ける人である。

 たとえば「東海林」という苗字があり、「しょうじ」という読み方が難読であるにもかかわらず、よく知られている。しかし、「とうかいりん」という読み方も多く、全国最多で全国の4分の1以上を占める山形県では「とうかいりん」が常識で県外に住む人も多い。私の知人にもいて、一緒に司会つきのカラオケに行ったことがある。「とうかいりん」と名のると、司会者(若手落語家)は「まじでぇ?」とツッコミを入れた。マジである。

 もう一つの極端は、どの苗字にも無数の読み方があると思い込んでいる人である。それに応えて、あるものないものとりまぜた読み方を並べる苗字本、苗字辞典、苗字サイトが世にあふれることになる。そういうのを見ると、「よく調べてある」と思い込む人が多いが、読み方が多いのは、実はよく調べたからではなく、思いつく読み方を片っ端から羅列し、実在するかどうかの検証も全くしていないからに過ぎない。

 苗字の読み方に関して、正しい認識は、「どの苗字の読み方も一種類とは限らないが、一つまたは少数の読み方が大半を占めるのか一般的である」ということである。

 当サイトが挙げる読み方の種類は、世にある苗字本などに比べればぐんと少ない。しかし、人口のカバー率は、こういった苗字本などよりむしろ高い。実在しない読み方を載せたところでカバー率が上がるわけではないし、当サイトではどんな読み方が実在しているかを、きちんと調べ、どんな読み方が多いかまで可能な限り調べて、より正確なものを目指しているからである。

 世に珍難奇姓辞典の類は多いが、「珍」は見かけによらない。「御手洗」が五千人もいる一方で一見ありそうな「北塚」は五十人にも満たない。「難」も住む地域によって違う。「薬袋(みない)」など山梨県の人ならたいてい読めるだろう。「奇」にいたっては人の苗字を調べもせずに「奇」と決め付けるのは、実に失礼な話である。

 当サイトは、実質上、苗字辞典の役割を果たしている。読めない苗字の読み方を調べる人も多いだろう。そういうとき、必要なのは「薬袋」のような奇抜な読み方だけではない。たとえば、かなり多い苗字なのだが、「井藤」という人に出会ったとき、どう読むだろうか? 「いとう」「いふじ」という読み方が同列に並び、どちらか迷う人が多いだろう。実際には「井藤」はほとんどが「いとう」であり、「いふじ」は極めて珍しい。そういう情報を伝えることこそ、奇抜な読み方を羅列するより、ずっと実用的で必要なことではないかと考えている。

 幽霊読みは、幽霊苗字(漢字表記自体が実在しない苗字)より実害が大きい。幽霊苗字の場合は、そんな苗字の人が誰もいないので文句は出ないが、幽霊読みの場合は、同じ漢字表記の人が現にいる。そういう人にとっては、苗字本や苗字サイトで仕入れたありもしない読み方で呼ばれることは迷惑な話である。

 ここに挙げた読み方も、国家が全件を発表していない限り、実在の可能性が原理的にはゼロとは言い切れないが、まず無いと考えていい。確実に存在する苗字と読み方だけしか載せないという方針の当サイトから見れば、どんな根拠があって載せているのだろうかと疑いたくなるものばかりである。



  幽霊読み→実在の読み     コメント
あい→にぎ 和気藹々?
秋鹿 あいけ→あいか 「き」が「い」になるのはイ音便だが、「か」が「け」になる理由が無い
四十 あいそ→あい 「四十(あい)」のつく苗字は富山県にはいろいろあるが、重ねて「そ(十)」をつけたのか?
四十物谷 あいもの→あいものや 「や」を落とす理由が無い
あお→あおき 途中までしか覚えていなかった?
明海 あお→みょうかい
浅尾 あおき→あさお 素直に読みなさい! 
あがた→おり
あかなし→と・もり 杜と杠の区別もついていないのでは?
あかなし→ゆずりは 上に同じ
馬酔 あせぼ→ますい 馬酔木なら「あせび」だが……
安心院 あつみ→あじみ 大分県にあじむという地名があり同県に苗字もあるが、苗字では「あじみ」が普通
あな→いぬい 乾風(あなぜ)は実在。「いぬい」なら関西ではありふれた苗字
漢人 あゆみ→かんど 古代に漢(あや)氏はいたが
到津 いとう→いとうづ 「津」を無視した根拠は?
いん→なばり・かくれ 新潟に多い屋号「隠居」を姓名と間違えたもの
王来王家 おうらいおうけ→おくおか 読みが分からぬまま適当に読んだもの
万年 おもと→まんねん 「おもと」なら万年青でないと
かね→いん 印牧(かねまき)ならあるが……
上戸鎖 かむてすい→かみとくさり 「神」なら「かむ」と読むこともあるが、「上」を「かむ」とは読まない。「てすい」は論外。 
きのした→そら 空のそのまた上に「き」があるの? 
きよし→はく・つくも 子供の名前につけるなら分かるが……
くらぶ→ほう・かた 「方」に「くらべる」という意味はあるが……
毛穴 けあな→けな 堺市内に「けな」という地名があり、苗字も同市内に多く、読み方も同じ 
こうけ→こう 外国姓に多い「黄」に「家」をつけたものか?
平地 さかなし→ひらち・へいち 「坂無」という苗字ならあるが……
一青 しともと→ひとと・しとと 歌手の一青窈の一青は母の苗字 
七五三 しの→しめ ひらがなを見誤ったのか?
しもたけ→だけ なぜ「しも」をつけたのか不明
上海 しゃんはい→じょうかい 論外
しりえ→うしろ 「しりえ」とは読めるが苗字には無い
主計 すずえ→かずえ 律令時代の主計寮は「かずえのつかさ」 
月見里 すだち→つきみさと・やまなし 茨城県稲敷市にある地名「月出里(すだち)」との混同か? 「月出里」という苗字は確認できない
間人 たいけ→はしうど 「たいざ」と読む地名ならあるが、なぜ「け」なのか?
松登 たかぎ→まつと 松が高い木ということ?
日日 たかだち→ひび
宝塚 たからづか→ほうづか 有名な地名だが、苗字では「ほうづか」しか確認できない
一富士 たなべ→いちふじ 「いちふじ」さんに失礼
照屋 ちいら→てるや 間違いとは言い切れないが、昔の沖縄の読み方は厳密には「てぃーら」
ちゃん→でん 外国姓にもあるが韓国朝鮮語読みのチョンの誤りか
ついたち→さく 漢字の意味としては正しいが……
栗花落 ついり→つゆり・つゆ 栗の花が散るのが梅雨入り時という意味を知らぬままで多分うろ覚え
十() つなしえだなし・よこだて・にご・つじ・もげき・もぎれき→もぎき 全国の電話帳に2件しか無い希少な苗字にこんなに多くの読み方があるわけがなく、「もぎき」のみ実在。1件はテレビ番組に本人が出て「もぎき」と明言。もう1件は毛利~杢谷の間に載っている
とうもろこし→とう 「とう」か「もろこし」のどちらか一つにしてほしい
北向 とさ→きたむき 「とき」という読みなら実在の可能性があるが、「とさ」は仮名の見誤り
井石 どんぼり→いいし 丼の字を分解? 『丼」という字を含む苗字も確認できない。
母袋 ながれ→もたい
西周 にしあまね→さいしゅう 「にし・あまね」は明治の文化人のフルネーム
にのまえ→はじめ・いち・かず かなり広まっているが誰かの思いつき
伊野波 にゅうふぁ→いのは 昔の沖縄の読み方というなら「ぬふぁ」
水主 ぬえかこもひとり・かて→すいしゅ・かこ・みずし 「もひとり」なら「主水」のはず 
十七女 ねごろ→となめ コラッ!
安田 はたかす→やすだ 下記の「安口」をさらに誤認したもの
安口 はだかすはたかぢ→やすぐち 兵庫県篠山市に「はだかす」という地名があるが苗字としては確認できない
山谷 はつえ→やまや
巴里 ぱり→はり P音で始まる苗字はアイヌ系の辺泥(ぺて)」と帰化姓の「波握」「辺銀」のみ確認
ひもろぎ→ふく ひもろぎといういう神道用語はあるが、なぜ「福」にあてはめられるのか? 
保栄茂 べん→ほえも・びん 沖縄本来の読み方は「びん」で「べん」はそのうろ覚え。今はほとんどが「ほえも」
大海 ほんだ→おおうみ
水分 みくまりみまくり→みずわけ・すいぶん 「みくまり」は神社名にあるので、まだ分かるが、「みまくり」はひどすぎる
儲口 もうけぐち→まぶぐち 間違えるのも無理はないが調査不足
石割 ゆるすぎ→いしわり 石動(いするぎ←いしゆるぎ)ならあるので「ゆするぎ」ならまだしも
四十八願 よいかた→よいなら うろ覚えの典型
よぼろ→ちょう・ようろ 古代には「よぼろ」と読んだが現存するか? 
わたなべ→きそい・きそお 渡辺競(わたなべ・きおう)という武士の姓名の混同
栂村 んがむら→とがむら 「ん」で始まる読み方は苗字に限らず日本語には無い
兼坂 んねさか→かねさか 「ん」で始まる読み方は苗字に限らず日本語には無い

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