新日本語入力方式の提案

左右同時打鍵方式
 日本語の入力方式は、ローマ字入力が広く普及している。しかし、ローマ字入力には、打鍵数が多くなるという大きな欠点がある。それでもJISかな入力や親指シフトに乗り換える人が少ないのは、まず第一に覚えにくいからであろう。覚えればいいというのは覚えた人のひとりよがりで、覚えにくさが障害になっている人には、それがいつまでも障害となって残るのである。だからこそ、いつまでたっても普及しない。
 それに、4段を使うJISかな入力は指がなめらかに動かないし、親指シフトは独自のキーボードが必要になる上、動きの鈍い親指を酷使するのも気になるし、シフト操作を打鍵数に数えないのも疑問である。そこで私は、まったく新しい日本語入力方式を考えようと思った。キーボードは、スペースキーを左右に分割した以外、標準的な英語キーボードである。

 なにぶん、国語教師ということで、技術的なことには疎いのだが、ここに書いたことは技術的にも十分可能と考えるし、仮にそうでなくても技術はアイデアのあとを追いかけるのが常なので、こういう日本語入力方式を実現してほしいという要望として読んで頂きたい。
 ひらがなが書かれたキーは、打てばそれぞれ表示の通りのア段のカナが出てくる文字キーである。携帯メールを打ったことのある人なら、日本語にいかにア段の音が多いかを実感していると思う。「朝が」「夜は」「静かな」「書いた」「大丈夫だ」の「が・は・な・た・だ」など、使用頻度の高い語も多い。「和歌山」という県名なら、ローマ字入力だとwakayamaと8打も必要なのに対し、携帯メールならたった4打で済む。携帯と違って連打によって字が変わっていくわけではないから、ア段の文字を続けて出したいときは、それを連打すればいい。たとえば「ささ」は「さ」を2回打てばいい。

 右側のキーのうち、カタカナで記した「イ・ウ・エ・オ・ヤ・ユ・ヨ・オウ・エイ」の9個のキーは、それだけを押しても文字は出ない、シフト変換キーである。今の日本語入力でいえば、無変換キーがこれに当たる。人間が同時に押したつもりでも機械は微妙な差を読み取り、意に反する結果が出てしまうが、シフト変換キーなら、この心配はない。たとえば「か」と「オ」を同時に打って「こ」を出したいとき、「オ」先に読み取ったときにはシフトキーとして働いて最初から「こ」が表示され、「か」を先に読み取ったときには一旦「か」となるがすぐに「オ」が変換キーとして働いて「こ」に変換されることになって、いずれにせよ結果は同じである。親指シフト方式では、シフトを先に押さないと違う字が出てきてしまうし、片手で打つことができない。それに親指を用いるより、左右同時打鍵のほうがずっと打ちやすい。

 文字キーとシフト変換キーの組み合わせによりどんな字が出てくるかを一覧表にしてみた。これに「ん」「っ」「を」を加えると、日本語に必要な音は一部の外来音を除き、単独打鍵や同時打鍵によってすべて一度に出すことができる。赤字で記したのは外来音や記号の表示に必要なもので、日常必要な外来音はすべて尽くされている。や行のイ段の「・(中黒)」など、隙間を利用して便宜的、恣意的に入れたものもあるが、覚えやすいと思う。それ以外の外来音も組み合わせればすべて可能だし、まだ空白の部分もあるので、必要ならば利用したらいい。
そのまま オウ エイ
しぇ ちぇ じぇ おう えい
きゃ きゅ きょ こう けい
しゃ しゅ しょ そう せい
ちゃ ちゅ ちょ とう てい
にゃ にゅ にょ のう ねい
ひゃ ひゅ ひょ ほう へい
みゃ みゅ みょ もう めい
いぇ       よう  
りゃ りゅ りょ ろう れい
うぃ うぇ うぉ てぃ でぃ    
ぎゃ ぎゅ ぎょ ごう げい
じゃ じゅ じょ ぞう ぜい
ぢゃ ぢゅ ぢょ どう でい
びゃ びゅ びょ ぼう べい
ぴゃ ぴゅ ぴょ ぽう ぺい
ふぁ ふぃ    ふぇ ふぉ ふゃ ふゅ ふょ    
    
 現行の無変換キーは、押し続けると、ひらかな、カタカナ、半角カナと目まぐるしく表示が変わるが、本案で用いるシフト変換キーは、単純に押せばその段、放せばア段ということにすればいい。「子供心」と打ちたければ、「オ」キーを押したまま、左手だけを動かせばよいが、「なにぬねの」と打つときには「な」キーをそのたびに押さなければならない。「左右同時打鍵方式」というと常に左右の指を同時にガッガッと押さなければいけないように思う人がいそうだが、たとえば、「みはころのまだから」(日本語には同母音の連続は多く、特にオ段は多い)では同時打鍵になるのは太字で記した3つだけであとは左だけを動かすことになる。右側だけの単独打鍵も、「ん」「っ」「い」「う」など頻繁に用いられるので結構多い。

 本案では、初めからムキになって同時打鍵をしようと思わなくてもいい、ここを2打で打ってもJISかな入力よりも十分に速いし、なれるにつれて間隔を次第に短くしていけばいいのである

 変換を頻繁に行う日本語で、確定に用いるEnterキーや、訂正に用いるBack Space(後退)キーが右上の隅に置かれているのは実に不便である。スペースバーの右半分にEnterキーの役割を与え、英文入力のときには、どちらもスペースバーの役割を果たすようにすればいい。そして、Enterキーには後退キーの役割を与える。訂正以外にも熟語で打って一部を消し、求める漢字を出すなど、後退キーの必要性は高い。後退キーを軽視する人は、PCを清書機と考えているのではないだろうか? 考えながら自分の文章を打ち込むことにだってよく使われているはずである。


 「ヤ」「ユ」「ヨ」の三つの変換キーにより、「きゃ」「しゅ」のような拗音が一発で出せる。JISかな入力や親指シフト方式ではこれを二つに分けて入れなければならない。

 「イ」「ウ」キーと別にそれだけで字の出る「い」「う」キーを設けたのは、
日本語の半分を占める漢語には、「い」「う」で終わる二重母音が極めて多いからである。中でも「オウ」「エイ」は特に多いので、専用のキーを設けた。「アイ」「ウウ」も多いが、いずれも専用のキーを設けなくても割と楽に出せる。「神戸」「どうする」「泣いている」などの和語にも応用が利く。「い」「う」を単独に出せるようにしたので、「あ」と「イ」「ウ」を同時打鍵したときには、それぞれ開き括弧、閉じ括弧がでるようにする。

 子音の配列は日本人の慣れた五十音の配列に基づいたが、左から右ではなく、右から左の配列とした。これは中央から外へと考えれば記憶の負担とならないと考えたせいもあるが、それ以上に、日本語の音が五十音図前半の行が多いことに配慮したためである。中段によく使う行が並び、上段の右端で後半の中ではよく使うハ行が出せ、濁音を配置した下段の右端で助詞の「が」に必要なガ行が出せる。使用頻度によってばらけさせる必要はない。そもそも日本語と縁のないqwerty配列でもけっこう日本語が打てるのだから、覚えやすさを第一にした方が普及が速いし、不満な人は気に入るようにカスタマイズしたらいい。

 日本語では、ひらがな・カタカナ・漢字以外に、さまざまな記号が用いられる。こういった記号は、せっかく変換という手段があるので、変換によって出すようにすればいいと思うので、以下私案を記しておく。

「、」→々、ゝ、ゞ、ヶ、ヵ  「。」→?、!  「うぃ」→ゐ 「うぇ」→ゑ 「ぢゅ」→「でゅ」「ー(長音記号)」→〜、=、−(縦書きでは縦になる全マイナス) 「やじ」→→←⇔↑↓⇒ 「ぱー」→% 「あんど」→& 「あと」→@ 「すら」→/、/ 「しそ」→+−×÷ 「ほし」→★、☆、* 「こめ」→※

 キーボードの上部にある数字キーは、本案による日本語入力中は全角で出るようにし、半角や漢数字は変換により出す。半角をじかに出したいときにはテンキーを用いるか、英文入力に切り替える。

 日本語の文中でよく用いられるアルファベットは全角の大文字と思うが、これは「えー」「びー」などからの変換で出せばよく、その他は変換により出す。qwerty 配列が頭に入っている人は、シフトキーを押して該当のアルファベットを押せばよい。

 本案では、ローマ字からカナ、カナから漢字という二重の変換は起こらず、画面には最初からカナが表示されることに注意されたい。そしてタイピングの速さは、同時打鍵が可能となり、拗音や外来音が容易に打てるようになった以上、ローマ字入力はもちろん、JISかな入力や親指シフト方式をもしのいでいる。本案のキーボード配列は、誰でもすぐに覚えられる。普及の可能性は遥かに高いものと思う。

 最後に本案に英語キーボードを用いたのは、現行の日本語キーボードに全く不満だからである。まず、スペースキーが「無変換」「(再)変換」「カタカナひらがな」キーという、ほとんど必要のないキーによって、見る影もなく小さくなっていることである。特に、「カタカナひらかなキー」など、入力方式を替えるなら他にも方法があるし、一度設定したらめったに変更することはないので不要である。間違えて入力方式を変更してしまい、うろたえる初心者が多いことを考えると、百害あって一利なしである。私は再変換キーとカタカナひらがなキーをともにEnterキーにカスタマイズして用いているが、広々と一続きであるほうが打ちやすい。

 「無変換」キーは、いくらカタカナ語を辞書登録しても、次々と現れる新語や固有名詞を出すために必要であろう。しかしそれなら、手のかげに隠れている無変換キーを押すより、ファンクションキーに指を伸ばすのが楽である。「再変換」キーは書き終わってから校正するときに便利かも知れないが、それなら後退キーやEnter(確定)キーと併せて用いなければならない。変換ミスばかりでなく、ミスタイプや文章の推敲も必要なことを忘れてはならない。

 今の日本語キーボードは、JISかな入力を前提としている。そのためホームポジションが右に一つずれてしまっている。英文も打つし、日本語入力はかな入力という人にとってもホームポジションがずれるのはやりにくいだろうし、日本語をローマ字入力する人にとっては、Enterキーや括弧が打ちにくい。日本語のためにキーを増やすのなら、既に余分のある右にではなく、左に一列増やすべきだろう。qwerty配列も二列目からキーに書き込めばいいのである。この左側に「ふぁ」や「ぁ」などを移し、右側の余ったところに「アイ」「ウウ」「ユウ」「ヨウ」などの頻繁に用いる二重母音を割り当てたらいい。日本語キーボードを新たに作るとしたら、スペースバーが二分されていること、qwerty 配列の左側にもう一列あること以外は英語キーボードと変わりのないものにし、切り替えによって他言語の入力にもすぐ対応できるものにすべきであろう。むやみに奇抜な形のキーボードを考えることには、私は反対である。
2008.2.27  信太一郎記
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