
von:秋澤 弘
第一章
「うん、そっか。仕方ないよね、昔の話だし」
その加賀壬の声に密かな落胆を聞き取り、中野は重ねて謝罪した。
「ごめんね、宏子さん。私もお祖母ちゃんの田舎ここだったって、始めて知ったから。その頃の友人とかいたらよかったんだけど。お兄ちゃんも親戚んとこ電話してくれたんだけどだめだった」
「あ、大丈夫、他の方面からも調べてるから。お兄さんにもありがとうって伝えといて」
「いいよお、あんな奴。もうずっと友達のとこ隠れてたんだよ! 本当にもう」
「ふふふ、ぶーたれてるけど来てくれて安心したの、みえみえ」
「え、う、うん。あんなんでもまぁ家族だから」
「そか。うん、よかった。じゃまた明日かけるから。ちゃんと寝ておくんだよ、お兄さんと交代でもして」
「うん。じゃね」
電話を切る加賀壬。中野が明るく振る舞っているのが胸に痛い。母は順調に回復し、すぐに退院できるというが、父と北村の容態は芳しくない。衰弱が止まらないのでまた集中治療室に入るのだそうだ。加賀壬は唇を噛んだ。いつまで、いつまでもつのだろう。
加賀壬はしばらく俯いたままだったが、頭をぶんっと振ると、前向きにと自分に言い聞かせた。
携帯を狭い机の上に戻す。電池がやばそうだったので充電させてもらっているのだ。今日は電話ばっかりの日だ。ふと加賀壬は隣に背中合わせで並んでいる双子を見た。彼女たちの動かすマシンの先も通信回線がつながっている。もしそれが電話局のだとしたらご利用ありがとうの感謝状でももらいたい気分だった。
約束の10時を大幅に過ぎても茂木からの連絡はない。多分情報収集に奔走しているのだろう。加賀壬の方からかけるにしても、こちらもまだ途中段階だ。加賀壬につばさ、しずくの三人がかりでの調査でも、まだ決定的な情報を掴んではいなかった。既に双子の手による自動防衛システムが作動しており、数回にわたるネットからの侵入をロボットがなんなくあしらっていた。そこで今つばさもしずくも、茂木が要求した情報を探すのに全力を投入していたのに。
「国土もだめ」
しずくがつぶやく。それを聞いてつばさが悔しげに唸った。
「こっちも。今日のがバレたみたいでやたらうざい」
つばさは一条建設の基本ネットに潜り込もうとしているのだが、あちこちが切断されていて、セキュリティーLvの低いルートは根こそぎ消失していた。そこまでやるか? と眉を潜めるつばさ。
「よし、じゃ、河川敷の方やってくーちゃん」
「ついでに45年の護岸工事も見とくね」
二人の指は休むことがない。加賀壬からすると、二人が縦横無尽に操るプログラムが何のOSで走っているのかすら分からないのだから手伝いようがない。そこで中野恵子と情報を集めていたのだが、どうやらそちらも手詰まり。時刻はもうすぐ日付が変わる頃だ。連休初日の土曜日はまもなく終わる。
携帯の輝く充電ランプを見つめながら加賀壬は考えていた。
茂木。
あの危険な人物を利用するなんて器用なこと、自分にできるはずがない。こっちが利用されるだけだろう。学校に目を付けた以上、超常研に辿り着いているはずだ。本条前生徒会長、まりちゃん、そして自分。その重なるのはあそこなのだから。
彼が魔性の情報に到達したら。あの男はどうするだろうか。マスコミに流し、時の人になるのか。それとも結局記事は本条に握りつぶされるのか。でも本条にだってライバル会社はあるだろう。そういう所が本条潰しで茂木の情報を買ったら?
そもそも茂木は魔性の侵略をどう受け取るだろう。未曾有の危機? 大スクープ? 隠されたことを知らしめるのがマスコミ。そう動くのか。何故隠されるのかと考えてはくれないだろうか? そう、隠すことの重要性を理解してくれないだろうか? その可能性は万に一つもないのだろうか。
彼は一体どういう人物なんだろう。何を望んでいるのだろう。
加賀壬の脳裏にとりとめもなく浮かぶさまざまな思考。加賀壬は悩み続けた。
知りたいことがある。茂木はそう言っていた。それはこの地最大の秘密、魔性のこと? それとも別の? もし別の事なら、それを知れば満足するのだろうか? それとも、何を知ってもさらに、さらにと知りたがるのだろうか、この世の全てを知り尽くすまで。タマネギの様に何重にも包まれた秘密を暴き続けるのだろうか。周りがそれで涙を流していても。そして最後の一皮を向いた後に何もないとしても・・・
加賀壬が腕を組み、うなっているのを横目で見て、つばさが怒鳴った。
「あんたねぇ、こっちに働かせておいて、自分は何してんのよ!」
言いながらもその指は止まっていない。
加賀壬はどきっとして身を縮こませた。うはぁ、どうしよう・・・
「この低脳! なにぼーっと考えてんの!」
「あ・・・」
言葉もない加賀壬。そこにしずくの声。
「ぼーっとじゃない、真剣に考えてるよ加賀壬さん。だからいいの。考えて。一杯考えて」
「え・・・?」
「は?」
「私とつーちゃんで情報見付ける。で、加賀壬さんが情報から答え見付けるの。北村さん助ける答え。だから一杯考えて」
つばさの手が止まり、顔を上げて加賀壬と見つめ合う。それはほんの一瞬。次の瞬間、二人は同時に眉を寄せ、顔を背けた。
「これで無駄働きだったら、あんたの親の預金、0に書き換えてやるからね」
「ひとの事、低脳低脳って連呼するほどのお偉い頭脳で、何も見付けられなかったら大恥よね」
二人はぶつくさ言いながらそれぞれの作業に戻った。
加賀壬の携帯が鳴った時。時刻は23時50分だった。
「俺だ。見付けたぞ」
茂木の声は高揚している。
「喜多村高原だ。喜びの多い村って書く。喜多二村だった頃の代々村長の日記が倉に保管されてた。昭和20年付けでな、ミサキ郷の事があったよ」
「倉? も、もしかしてそこに行ったの?」
「いるんだ今も。北裏高原の次で助かった。残りは山脈の向こう側だからな」
「でもこんな時間に電車動いてるの?」
「こちとら大人の味方、レンタカーってのがあるんだよ。なんでもネットで見つかると思ったら大間違いだぞ。情報の大半は電子化なんかされちゃいない。ネタってのは目と耳と足で稼ぐもんだ」
「そ、そか」
「いいか、村長の日記だ、よく聞けよ!」
加賀壬は携帯を少し離し、双子にも聞こえるように向きを変えた。
「2月12日。悲報来る。前夜ミサキ郷大空襲。疎開第一陣62名の大半が短き生涯を閉じた、暗き壕内で。あと数刻早ければ。無念。三谷校長と酌み交わす」
三人は黙ったまま茂木の声を聞いていた。
「その三谷ってこっちの学校の校長だった奴な、ミサキ郷の生まれだったらしい。で、その縁で子供たちを迎え入れるはずだった。孫がいてな、そいつも教員だ。さっきまで話を聞いてた。
こっちに疎開するため機関区に集合してたとこで空襲が来て、防空壕でほぼ全滅したって子供たちの話を聞いたことがあるそうだ。多分それが今回の一件だろう。一旦は汽車に乗ったんだが、遅れてる生徒を待つ内に警報。で全員壕にこもってそのまま生き埋めってことらしい。こっちではそのすぐ後に別の疎開を受け入れたんでミサキ郷の記録はしばらくないんだがな。後日もう一カ所関連してるのがあった。
これは終戦後だ。10月20日、三谷校長、校庭に植樹せし桜の一つをミサキと名付く。彼等の御霊平らかなるように。
今その桜の前にいる。校長の孫も校庭の桜の一本がミサキサクラって呼ばれてるのは知ってたが、その由来は知らなかった」
双子は黙ったままだ。今聞いた情報から新しい検索を模索しているらしい。そして加賀壬は。
「そ、それじゃ、恵子さんのお祖母ちゃんは・・・。高原にみんなと行きたかったって。まさか・・・
いきたいって、Goの行くじゃなくって・・・」
茂木は加賀壬の言わんとすることを察していたらしい。
「さぁなあ。マジに疎開を楽しみにしてたのかもしれん。とにかくメシが食えるんじゃないかってな。そんな時代だろ?」
「・・・」
「加賀壬、俺もお前も戦争なんて知らん。それを子供の目で見たばぁさんが何を思ったか。んなこたぁ分かるもんじゃないって。
とにかく二宮カナエは2月11日から12日にかけての第一次ミサキ郷大空襲を生き延びた。その事を死ぬまで覚えていた。
それ以外、その子、雄哉の件とどうからむのかも分からん。そっちはどうだ?」
加賀壬よりも早く、つばさが答えた。
「ちょっと煮詰まってたけど、日付が絞れた、何とかなる!」
言うが早いか新たな接続を開始する。
「うん、場所も絞られた」と、しずくも同じくキーボードを叩き始める。
「期待してるぜお嬢ちゃんたち。で、加賀壬、お前は・・・おい、加賀壬?」
加賀壬は額に手をあて、投げかけられたキーワードを真剣に考えていた。防空壕。地下。機関区。E2−1224。カナエ。雄哉。「急がないと」。そして「いきたかった」。
「加賀壬? どうした、おい嬢ちゃんたち、加賀壬いないのか?」
答えたのはしずくだ。
「いるけどいない」
「はぁ?」と間抜けな声が、加賀壬が持ったままの携帯から帰ってきた。
「少し待って、茂木。こいつ脳の回転遅いから」と、これはつばさだ。
「茂木ってなぁ・・・、さんくらい付けろよ。ろくな大人にならねぇぞ、お前」
ぼやきながら茂木が校庭から離れ、車に戻った時。加賀壬がようやく口を開いた。だがそれは独り言の域を出ていない。
「そうだ・・・きっとそうだ。雄哉はカナエの望みを叶えたかった。場所が分かればみんなでいくのになって・・・。でもそれがカナエにできるはずがない。子や孫を連れてなんて。場所を知らないと逃げ続けた。カナエの望み。雄哉はそれを見付けた。知ってしまった! まりちゃんは・・・それに巻き込まれただけだ。
この世で最も強いもの。それは・・・人の意志。人しかからんでない! だから、だから痕跡なんかあるはずない!」
イグニッションキーを差し込む姿勢で耳を澄ます茂木。マウスを操作しながら加賀壬に注目する双子。
「くーちゃん、おっさん、つば公、分かったよ」
「つ、つ、つば公!?」
立ち上がりかけたつばさを押さえるしずく。
「おっさん、戻ってきて。あたしでもあんたでも出来ないこと、してくれる人に話つけとくから」
「ほぅ、そいつぁ大きく出たな・・・分かった」
茂木は携帯を切ると、ポケットからバタースカッチを取り出して一粒を口に放り込み、夜の高原に車を走らせた。
「つ、つば公だと・・・」とつばさは怒り沸点に達した表情だ。
「お、おまえ、もし、くーちゃんにそんな呼び方したら、絶対許さない!」
「言うはずないでしょ、くーちゃんみたいな人を誰が侮蔑で呼ぶのよ。マジ頭悪いんじゃない、つば公」と加賀壬が煽る。
「ぐぬぬぬぬ・・・」と唸るつばさ。どうやら沸点を通り越し、ガキの口喧嘩レベルになったようだ。
「こ、こ、この、ひろ公!」
「はぁ〜い、ひろこぉですぅ〜〜。宏子だから、ひろこぉ。ぜ〜んぜん問題、なっしんぐ〜」
「うがぁぁぁぁぁああ!」
つばさはキレた。
第二章
「起きてくださいな。前原さん、起きて」
前原静音は肩を揺すられて目覚めた。
「ん・・・?」
そこにいたのは昆愛姫。ごっつセクシーなネグリジェ姿の。だが寝ぼけ眼で半分ずれたナイトキャップを被ったままという、ちょっと間抜けな姿だったが。
「昆さん・・・?」
合同合宿中の前原は弓道部と女子剣道部共同の部屋で寝ていた。あたりで何人か目を覚ましたらしい。
「昆? どうしたの・・?」
その声は前原違い、従姉妹の前原鈴音。彼女も目覚めたらしい。
「あら前原さん、こんばんわ」
昆はぺこりと頭を下げるが、その動作はあからさまにとろい。もとよりとろい昆に輪をかけて。その後で静音の方に向き直った。
「お電話ですよ、前原さん」
にっこりと微笑んで携帯を両手で差し出す昆。はぁ、と生返事をしながら受け取る静音。
「もしもし、前原です・・・おぉ! 加賀壬宏子!」
それまでに目覚めていなかった者を一気に起こすほどの声。
寝間着代わりのジャージを着込んだ鈴音が布団から出ると、従姉妹を抱えるように退出した。一歩遅れて、昆は何事かと見守る女生徒たちに頭を下げた。
「おやすみなさい」
おもわず頭を下げ返してしまう部員たち。昆はゆっくりと立ち上がり、部屋を出ていった。
鈴音は電話に夢中の静音を通路のソファまで連れて行くと、ふぅと大きなため息をついた。すぐ後ろで昆が静音を見ているのに気づき、頭を下げた。
「昆ごめん。やっぱりこの子にも携帯持たせた方がいいね」
「そうですねぇ。こんなに嬉しそうにお話しているのですもの。あったらきっと喜びますよ。でもメモリーは一個だけの気がしますけど」
くすっと微笑んでから会釈し、昆は自分に割り当てられた部屋に帰ろうと下り階段に向かった。
「あ、昆」
「はい?」とのっそりと振り向く昆。そのまぶたは半分落ちている。
「天使隊の部屋、上じゃない?」
「あら? ここは・・・まぁ三階でしたか。私ったらてっきり・・・」
弓道部主将、前原鈴音はまたため息を着くと、手のかかる同級生、昆を連れて登り階段に向かった。
「見付けたか?」
前原の声を聞き、加賀壬はハッキリと返事した。
「答えのある場所が分かった。それでね、協力してほしいの」
前原はソファの上で背筋を伸ばし、答えた。
「加賀壬宏子。お前の望みであればなんなりと」
だが加賀壬の望みとは前原の予想外のものだった。
「すぐに前原さんのお祖父さんに会いたいの。神主さんに。夜中だけど、人命かかってるから」
考えてもいなかった依頼に、瞬時言葉を失う前原。
「う・・・うむ、分かった。電話してみよう。すぐに。それはすぐにしようと思うのだが・・・。
加賀壬宏子、このケータイというのはどうやって電話をかけるのだろうか?」
日曜の早朝。まだ深夜といえる時刻に加賀壬はタクシーを降り、鳥居に向かった。そのタクシー代で遂に加賀壬の財布の中身は硬貨だけになってしまったが、足りただけ幸運だったともいえる。帰りは歩きだ。加賀壬は沈んだ表情で境内に向かう。
真先賢中り厳源社。土地の人々から上厳位(かみいわい)と呼ばれるこの社。バスからも見えるとんでもなく長い階段で有名だ。加賀壬はこの深夜、その階段を上るのかと気が遠くなりかけていたが、ちゃんと車で行ける道路が裏手にあった。
前原の手筈で社務所には出迎えが立っており、加賀壬はすぐに前原の祖父、照正の待つ部屋へと案内された。
始めて見る静音の祖父は長い白髪を後ろで束ねた老人だった。厳源流拳術の達人であったその肉体は痩せて見えるが衰えてはいない。老齢に入った今も頑強さを失ってはおらず、顔には深い知恵と強固な意志を示すかのごとく無数のしわがくっきりと刻まれている。
別の機会にこの老人と真正面から対峙したなら縮みあがるだけだろうが、今はその重厚で純白な存在感がなんとも頼もしく加賀壬には見えた。
「はじめまして。加賀壬宏子です。いきなり来て、それもこんな時間で、すみません!」
開口一番。加賀壬は畳に額を押し付けて謝った。その小柄な姿。大きな瞳に大きな眼鏡。
この子が加賀壬。静音の選びし者。
照正が口を開く。その口調はゆっくりだが、のんびりではない。
「前原照正です。加賀壬さん、事人命にかかわると聞き及んでおります。お話を伺いましょう」
照正に促され、加賀壬は双子がかき集めプリントアウトしてくれた地図、そして新聞を紙袋から取り出した。
「この記事の件です」
加賀壬は赤線で囲ってある新聞記事を前原に向けた。細い眼鏡を取り出す照正。彼もその事件は承知していたが、読んだのとは違う新聞だったので今改めて読み直した。
「中野雄哉さんと北村茉莉香さん。この二人、意識不明と書かれていますが。実際には魂が既にないそうです」
照正は厳しい面もちでその言葉を聞いた。厳位の社はもともと江戸の昔、美咲一党に使えるもののふが立てたと言われている。また本条家とのつき合いも昭和十年代まで遡り、美咲、本条の双方と深い関係で結ばれていた。しかし、今回の一件は魔性の痕跡もなく、厳位には詳細が伝わってはいなかったのだ。
「魂がないとな」
「はい。美咲の筆頭術者から聞きました。既に肉体に魂がないことを由見(ゆみ)の術者が確認したそうです。現界から異界へと連なる痕跡もないため、魔性の仕業ではない、とも」
照正はそれを聞き、眉を潜めた。と同時にその眼光が鋭くなったが、そのわずかな変化を見抜ける者は滅多にいないだろう。
「由見」のわざ。美咲の血のみに現れる力。縁(えにし)を解き、その由(よし)から過去を見る。これは美咲家に深く関わる者しか知らぬこと。鈴音は知る由もなく、静音も以前照正に告げられた程度しか知らない。しかし、今のこの娘の物言い。美咲、筆頭術者、由見、現界、異界。この娘は由見の何たるかを確実に知っている。そう照正は悟った。縁を見るだけでなく、異次元たる異界をも見るという由見の本質を知るこの娘。照正はしっかと加賀壬を見据えた。
「加賀壬さん。あなたは美咲の血には見えませんな」
「はい、超常研の会員ってだけで術者ではないです」
美咲と親しい者ではあろう。照正は加賀壬をどう扱っていいのか決めかねていたが、まずは人命優先である。
「由見で魂がないとなると。申し訳ないが儂にもいかんとも」
「あ、えっと・・・えと、聞いてください。これはこの事件について私の考えたことなんですが。
そもそもの発端は中野雄哉さんのお母さんだと思うんです。この春亡くなりました。旧姓で二宮カナエさん。この町の床屋さんの娘さんだそうで。カナエさんが小学生の頃に戦争で疎開話が出ました。場所は信州喜多村高原。でも集団疎開するために集まっていたところで昭和20年2月11日のミサキ郷大空襲で・・・」
照正は覚えていた。あの夜。修練場があったこの場所にいた彼は燃えさかる町を見ていた。呆然と。あの時のあの思い・・・
「第一陣62人の生徒ほとんどが死にました。受け入れ予定だった喜多村高原の小さな分校では戦後、幼くして亡くなった魂を悼むため、校庭の桜の木にミサキサクラと名付けたそうです。この写真の木です」
茂木が添付ファイルで送ってきた桜の写真を照正の前に差し出す加賀壬。
「夜なのでなんだか暗く写ってますけど、毎年見事な花を咲かせるそうです。今ではもうその由来を覚えている人もいないみたいですが、その名は使われています」
「ミサキサクラ・・・か」
照正はその名を持った古木の姿を思い出した。それは美咲屋敷へ通じる道端にあった大樹。かつては美咲の御山を象徴する存在であったが、枯れ倒れ、その姿を消して久しい。おそらくは鎮魂のため、その名にあやかって校庭の桜にそう名付けたのであろう。照正は懐から白い紙を一枚取り出すと、写真をそっとその上に置いた。それを待ってから加賀壬の言葉は続く。
「カナエさんは生き残って、結婚して雄哉さんを生みました。孫の恵子さんたちも生まれて。幸せだったと思います。でも。ずっとカナエさんは思い続けていたことがあったんです。よく言っていたそうなんです。亡くなる前の最後の言葉もこれだったとか。
みんなと一緒に高原にいきたかった、と」
照正は一瞬虚を突かれた。今、この娘は言霊を操った。いきたかった。その言葉に「逝きたかった」という思いを乗せて。この小柄な娘は術者として修行を成したようには見えない。ましてや美咲の血でもない。しかし、彼女は只人ながら只人とは思えない。
照正の驚きを読むだけの術のない加賀壬は言葉を続けた。
「孫の恵子さんから聞きました。お父さんがお祖母さんに言ったそうです。家族みんなで行こうって。でもお祖母さんはその場所が分からないって答えたと。喜多村高原をキタムラコウエンと、公園だと言っていたそうです、お祖母さん。聞き間違いを利用したかなんかして、そうやって誤魔化していたんです。
逝きたい。でも大事な家族を連れて逝くなんてできない。きっと昭和20年2月11日。その日はお祖母さんにとって全ての帰する時だったんです。
私思うんです。もしかしたらその日、カナエさんは集合場所に行けなかったんじゃないかなって。もしかすると遅刻したカナエさんをみんな待っていて・・・。それで自分ひとり生き残ってしまった。その負い目。それも彼女の心を苦しめた理由なんじゃないかなって。
そしてお祖母さんはその願いを隠したままこの2月に亡くなりました。奇しくも11日に。
息子の雄哉さんはお祖母さんが死ぬ間際の言葉、キタムラコウエンにいきたかった、というのを気にしていたのだと思います。叶えてあげたかったって。そして、仕事で地下鉄工事現場・・・ここです」
彼女が見せたのは一条建設が傘下の一条電鉄のために行った試掘用のマップだ。つばさがセキュリティーをかいくぐって入手した情報である。そこには工事を始める前の現場周辺が描かれている。その一カ所に赤丸が付いていいた。
「この場所で、お祖母さんの本当の望みを知ってしまったんです。
これが昭和20年の、この場所です」
次いで加賀壬が出したのはしずくが見付けたもの。いかにも古い地図をスキャンした図面。元の図版が折り畳まれた後も残っている。戦後に行われた護岸工事の際、利用されたものだ。
「これは当時、軍がまとめていた避難関連の地図です。河川敷の形であわせると分かるんですがこの場所。当時機関区があった所です。今の工事現場、正確にはE2−1224と言われる現場の・・・すぐ北です」
照正は昔この手の地図を見たことがあった。そこに描かれている幾つかの四角形。防空壕だ。
「ここで62人の大半が命を落としました。見送りの家族とか、他の人もいたとは思うんですが、二回の空襲で資料、残ってません」
前原照正は加賀壬が告げようとしている事に気がついたが、そのまま聞き手に回った。さきほど受けた言霊であの日、あの頃の思いが胸に蘇り、声がつまってしまいそうだったから。
「雄哉さんに何が起きたのか。それは分かりません。母が果たせなかった望み。息子はそれを叶えたかった。その親子の意志が重なったのか、血が成せる技か。あるいは時の精霊の介入か。母の思いを知った息子はそれを叶えようとした。その課程は分かりませんけど」
加賀壬は一度言葉を切った。照正と二人、地図に見入っていたが、やがて次の話題を語り出した。
「雄哉さんが母に替わって願いを叶えようとした時、そこに北村さんがいました。北村さんはカナエさんの孫、恵子さんの友達。遊びに行ってカナエさんとも親しかったようです。
彼女がその時何を思ったのかは分かりません。でも何をしたのかは分かります。
まりちゃんは写真を撮ったんです」
沈黙が舞い降りた。加賀壬が口を閉ざしたままであるので、照正は急須に手を伸ばした。
外はようやく明るくなってきたようだ。人の気配もし始めている。神社の朝は早い。
やがて。湯飲みをゆっくりと置いて照正は尋ねた。
「儂に何をお望みか」
加賀壬は自分の前に置かれた茶の水面を見つめながら答えた。
「今、マスコミの目が向いていて、私たち超常研も、美咲も本条も動けないんです。下手に動くと魔性の事が暴かれてしまうから。でも、厳位神社なら動けると思うんです。私、嘉木の市に住んでるんでここに来たのは初めてですが前から知ってはいました。ここに大きな神社があるって。県内で一番有名な神社だから疑われることなく動けると思うんです」
「動く、とは?」と照正が促す。
「地下鉄工事現場から子供たちが亡くなった防空壕の跡が見つかった。その慰霊を近在一の宮、厳位神社がする。それなら表だって動けますよね?」
加賀壬の言葉に頷く照正。それに背を押されたかのように加賀壬は勢い込んだ。
「三つ、お願いがあります。全部大至急です。中野さんも北村さんも衰弱が激しく、長くは持たないからです。
一つ目。一条電鉄にかけあって、この防空壕を掘り起こしてください。記録では、駅舎が今の位置に変わった工事の時、周辺の遺骨回収がされているそうなんです。その後の再開発工事の時と昭和44年から45年の護岸工事でも、このあたりは全て掘り返されてます。だからそこにはもう何もないかもしれません。でも、思いはそこに眠っています。慰霊も行われたようですが、河川敷一帯が対象でした。ここにまだ思いが残ってるのなら。手の温もりを差し伸べてあげてください。
二つ目。これは喜多二町とも協議しないといけないんですけど。慰霊のツアーを組みたいんです。子供たちがやっと集まりました。でも汽車は出ない。なら、出せばいいんです!
その防空壕からスタートして、バスで駅へ、電車で喜多村高原まで。またバスで校庭のミサキサクラまで。そこがきっと子供たちの終着駅だと思うんです。そこには昔出迎えるはずだった校長のお孫さんが教師になって今もいます。出迎えて貰うんです、その人に。生き残った関係者、中野恵子さんとかも含めて一緒に旅行するんです。そうすればカナエさん親子の夢がかなう、きっと。子供の頃のみんなと逝き、今のみんなと行く。両方一緒なら。出なかった汽車のかわりにツアーでみんなをミサキサクラまで案内したいんです。
三つ目。警察がきっと北村さんの撮った写真、隠してます。それを返して貰ってください。誰に、どう頼めばいいのか分からないんですけど。北村さん絶対写真撮ってます。私、彼女をよく知ってます。絶対撮ってます。でもそれがないって警察は言ってます。つまり、無かったことにしなければならない写真なんです、きっと。
お願いします、なんとか警察からその写真をもらってください。その写真がカギなんです!」
また頭を下げようとした加賀壬の先を制し、照正はうむ、と即座に頷いた。
「三つと言われたが、儂には二つですな、加賀壬さん。一つ目と二つ目は儂には同義故。そこに嘆く思いがあるのならそれを放っておくことは出来ぬ故。分かりました。慰霊と写真、儂がなんとかいたしましょう」
「あ、ありがとうございます! と、突然お願いして、その・・・ありがとうございました」
おそらく寝ていないのだろう疲労の浮かぶ顔。それを満面の喜びで満たす加賀壬。
「あ、それと。もう一つお礼を言いたいことが・・・」
「ん?」
「あの、白令笙朝霧の事で。危ないところで加護を下さったそうで。私、気絶しちゃってて分からないんですけど。前原さんが、あ、静音さんが見たそうで。祓ってくださるあなたの姿を」
「なるほど、それでしたか。その礼でしたら無用です。儂は身を貸しただけですので。
加賀壬さん、儂こそあなたに礼を申し上げたい」
「礼?」と聞き返してしまった加賀壬。だが前原は深いシワの刻まれたその顔に笑みを浮かべたまま頭を垂れただけで、何の礼なのかは答えなかった。
第三章
連休の二日目。今日は日曜日だ。大きな窓の外から入る朝の日差しを見て、ウェイトレス、沼尻洋子がぼそっとつぶやいた。
「暑くなりそ・・・」
ぼんやりと店内を見回す。彼女の勤める喫茶店サハラには今6組14人の客が居る。まだ開店したばかりだというのに、暇人が多いようだ。その中で興味を引くのが少女四人の座る大机。その内二人は全然目立たない。帰った後には人相はおろか服装も覚えていないという、その他大勢の客にすぎない。洋子がちらちら見ているのは残りの二人。幼い顔の中学生らしい双子だ。一人はおさげを両側に降ろす、いわゆるツインテール。一人はストレート。双子は服装も髪型同様全然違っているが、その顔はそっくりだった。
洋子の気を一番引いているのはその髪の長さである。椅子に座った状態だと床にべったり付くほどの長さ。さすがに本人たちは慣れているのか、髪の先を器用に背中側に回している。
「ありゃ洗うのはもちろん、Tシャツかぶるだけでも大変だぞ。トイレとか苦労してんだろうなぁ・・・」
洋子自身、高校の頃ずっと伸ばしていたが、満員電車で挟まれひっぱられたり、ガムがついたり。そりゃもう大変だった。で、結局ばっさり切った。まぁ実際には振られた腹いせで、なのだが。昔をふっと思い出していた沼尻はカラン、と鳴るカウベルで立ち上がった。
げ! あいつ・・・
嫌な客が来た。一昨日初顔出し、そして昨日は三回も来やがった。
沼尻は同僚が代わってくれないかなぁ、と一瞬淡い期待を抱いたが、今フロアは自分しかいなかった。
なんつぅタイミングで・・・
おひやとおしぼり、そして水差しもお盆に乗せる。メニューを見るとは思えなかったが、念のため小脇にはさんだ。
とその時。沼尻の動きが止まった。双子のいる大机にあいつが座ろうとしていたからだ。しかも少女の一人が軽く手を挙げて招いている。可哀想に・・・。洋子はその四人の行く末にこっそりと哀れみの表情を浮かべた。
「遅いぞおっさん」と、右手を挙げたままの加賀壬が開口一番クレームを入れた。
「お気楽学生とは違うんだよ。クライアントに愛想うるってのも仕事のうちでな」
茂木(もてぎ)は加賀壬と共にいる三人の少女に軽く会釈した。内心驚いたがもちろんそぶりにも出さない。茂木が驚いたのは双子にではない。神宮司がからんでいるのは知っていたからだ。驚いたのは最後の一人にだ。帽子と眼鏡でごまかしているが、加賀壬の奥に座る娘、あれは写真で見た中野恵子だ。
ウェイトレスが無言のままコップを茂木に差し出した。掴んで飲み干し、机に置く。注がれた二杯目も一気に飲み干す。
「アイスココアと小倉ホットケーキ、ミックスプレートの方」
三杯目を注ぎ、おしぼりを置いて立ち去る沼尻洋子。
ちっ、やっぱメニューは無駄だったか。
加賀壬が紹介する様子もなく、三人の少女も自己紹介する風もない。茂木はそれに合わせ自分も名乗ることもなく、話を加賀壬に振った。
「で? 偉いさんとやらの方は?」
加賀壬はすっと、隣に座った茂木を見た。いや、睨んだ、が正確かも。
「茂木さん」
加賀壬の言葉にまた内心驚く茂木。もてぎさん、ときたか。どうやら仲良しごっこは終わりらしい。
「最初に約束して。それがないならここまで」
「ん?」
茂木はポケットからのど飴を出した。買ったばかりなのにもうべたつき出している飴を包装紙から剥がす。それが口の中に消えてから、加賀壬が続けた。
「今日、これから答えが出る。みんなで探した答えだよ。茂木さんと私と恵子さん、くーちゃん、つば公。みんなで」
一瞬双子の片割れの目が光ったが、今は気にせず、茂木は飴を嘗めながら話を聞いた。その目はけだるそうに壁の絵をみつめている。
「それが茂木さんの知りたかった事かどうか分からないけど。
約束して。これから出る答えで事件が解決するなら、そこから先、もう首をつっこまないって。そこから次の答えを探そうとしないって」
加賀壬の声は低く、小さい。その抑揚の無い声を聞きながら、茂木の頭脳はフル回転をしていた。どんな答えを用意したのだろうか、こいつが、と。
「その答えで事件が解決しないなら仕方ない。私も100%自信あるわけじゃないから。でも多分。
約束して。答えを見たら、それで満足するって」
茂木は壁を見ていた視線を加賀壬に向けた。
「わかった。いらんことには首つっこまないよ」
まずアイスココアがやってきた。ストローを出すより先に、スプーンで上に乗っている生クリームをすくい、味わう茂木。のど飴と混ざる味も気にならないようだ。しかし、加賀壬は愛想のないウェイトレスが去るとまた聞いてきた。
「約束して。答えを見たなら、その先に次の答えを探さないって」
「はぁ? んだよ、OKしたろ?」
「約束して」
「しつっこいって!」
加賀壬を睨みながら目の端に写る三人の様子を見る。三人ともどうやら驚いているようだ。加賀壬と茂木の会話に。
「約束して!」
加賀壬の長く細いまつげが震えている。その膝で組んだ指先もだ。
「お願い」
茂木は黙ってその目を見つめた。加賀壬がまばたきをすると目尻に涙がちらりと浮かぶ。だが、それを堪えて茂木の目を見返し続ける。
十秒ほどの間。茂木がやっと口を開いた。
「答えがあるなら。それは俺とお前で見付けた答えだ。それに満足できず、それ以上何か探すにしてもお前と一緒に、だ。俺だけでその先を探しはしない。
それなら約束する」
加賀壬の瞳に涙が溢れた。笑ったすぐ後で左隣に座る恵子の肩に顔をうずめる。受け止めた中野は加賀壬の後頭部に片手を添えた。
ホットケーキが来た。フルーツや三色アイスも乗った大皿である。手持ちぶさたになりかけていた茂木はナイフを手にするとバターを刃に乗せ、二枚のホットケーキの間に入れ直して温めた。
視界には肩をふるわす加賀壬と、ぶすっと黙りこくる&微笑むという好対照の双子の少女。
妙なことになったな。茂木はそう思いながらも、今自分が出した結論を素直に受け止めている自分にこそ、驚いていた。
加賀壬たちは店を出るとロータリーを迂回した先に出た。そこにひっそりと止まるリムジン。加賀壬はすまなそうに、中野はこわごわ、双子は何の反応もなく乗り込んだ。茂木は助手席に座った黒スーツを見て顔をしかめたまま車中の人となった。
走行中は会話もない。しかし、行き先を知っているのは加賀壬だけのようだ。中野は緊張しまくっている。どうなるのかと不安もあるらしい。双子の方はまるで我感ぜずという感じか。だが、目つきの悪い方は事の行く末を既に予想したらしく、余裕の笑みを浮かべて茂木を見ている。
こいつだな、電話でタメ口利きやがったの。そう茂木は直感した。
しばらく走って。車は駐車場に入った。しかも一般用の屋外の方ではなく、わけあり専用の地下の方に。
そこは県警本部だった。
巡査に先導され、細い廊下を進む。資料室のすぐ脇にある小部屋に案内されて入った茂木は、そこで待ち受けていた人物たちに目を見張った。
いよいよ大詰め、黒幕の登場かい。茂木はひっそりと挑むような笑みを浮かべた。
「本条百合恵です。本条総理事会副会長を務めさせていただいております」
明るめのスーツ姿。揃えた前髪の下で人形の様にくっきりと描かれた細い瞳が光る。余裕綽々じゃねぇか。そう茂木は思い、新たな敵意を燃やす。
「一条電鉄専務、一条雅臣と申します」
この前取材した地下鉄二重環状線計画の責任者だ。細いストライプの入ったダークスーツ。白地に小さな模様の入ったネクタイ。俺のスーツとは世界が違う。
「厳位の社(いわいのやしろ)、真先賢中り厳源の前原照正です」
この長い白髪の老人には見覚えがない。中野も北村も仏門のはずだ。となると、カナエの線か?
「加賀壬宏子です、はじめまして」
加賀壬は一条に向けて頭を下げたようだ。初対面は彼だけなのだろうか。
「神宮司つばさ。こっちは姉のしずく」
目つきの悪い方が双子をまとめて紹介した。姉と言われた方は無言のままだ。
「な、中野、恵子です。え、えと、父がご迷惑を・・・」
言いかけた言葉は肩に乗せられた手で止められた。加賀壬が中野に軽くうなずくと、中野も口をつぐんだ。
ここにいるのは後は茂木だけだ。茂木は営業口調になるのもやめ、いつもどうりに告げた。
「茂木建造だ。フリーライターでカメラマンもしてる」
言い終えると立っている皆には勝手に堅いソファーにどさりと身を沈めた。
「で? なんで県警で警察がいないんだ? 今日のパーティのホストじゃないのか?」
茂木はだらしなく両手を広げてソファーの背もたれに乗せた。
「それとも全員、招かれざる客か?」
「そうかもしれないな」
答えたのは一条雅臣。本条と並んで座ると続けて言った。
「いきなり飛び込んできたって感じだろうね。それにだ・・・」
一回言葉を切り、のど飴を口に放り込む茂木を見守ってからさらに続けた。
「パーティはまだ始まってないよ。まぁここは楽屋裏ってところだね」
裏ときたか。茂木はけだるそうな態度のまま、部屋に並ぶ顔を眺めた。挑発、無視、蔑視、とまどい。様々な表情が並ぶ中、その顔に何の印象も出さぬ神主が声をかけた。
「加賀壬さんからの依頼を受け、この前原が皆様をお招きいたしました。人の命がかかっております故、事は迅速に」
言いながら手にした大きな茶封筒を机の上に置いた。皆の注目が集まる。
「警察に保管してあったものです。先ほど内密に譲り受けました」
そう言いつつ封筒の留めをするすると外すと紙の束とオレンジの横縞が入ったビニールシートを中から出した。
茂木は思わず身を乗り出し、左右にいた加賀壬とつばさを押しのけるようにして手を伸ばした。それは四つ切り印画紙。そしてフィルムホルダーだった。印画紙は無視して、短冊状に切られたフィルムが数列並ぶシートを天井の蛍光灯にかざし、ポケットから出したルーペを当てながら茂木がうなる。加賀壬は印画紙の方を手に取った。
「北村さんのカメラにあった写真です」と照正が告げた。
「あ・・・」
息を飲む声は中野。無理もない。そこに写っていたのは闇の中にいる父、雄哉その人だったのだから。血にまみれ、それでもその顔には歓喜があるのが粒子の粗い横顔からでも見て取れた。一条と本条、そして双子も黙ったままその写真を見ている。加賀壬が一枚目をどかし、二枚目を皆に見せた。ほぼ同じ写真だったが、その腕の場所から、手を振っているのが分かる。中野は涙を流しながら、それでもしずくに支えられ、父の姿を見ていた。
三枚目、四枚目。両腕を振り回し、叫ぶ中野雄哉。五枚、六枚・・・徐々に薄くなる印画紙の束。似たような光景が続くが、その顔に歓喜の色は増しているようだ。無言で見守られながら、加賀壬は残った束をめくり続ける。その束が軽く、薄くなり、加賀壬の手は速度が落ちていった。
そして。めくられて姿を現した最後の一葉。
加賀壬の手にあるそれを見て。号泣する中野。驚愕に目を見張る一条、つばさ。そしてしずくまでもが凍り付いていた。この手の現象に慣れている本条と照正は驚きよりも悲しみが大きいようだ。
四つ切りの印画紙。その真ん中に大きな蒸気機関車があった。しかし写真というより絵だ。軸数はB系なのに上部はなめくじ型D51風に見える。ちぐはぐな、まさに子供が書いた汽車の絵。その周囲に居並ぶたくさんの子供たち。頭巾を被り粗末な布をまとっているがその顔は満面の笑顔。嬉しげに叫んでいる。彼らは汽車の横、流線型煙突の上、ボイラーの隣と思い思いの所に立ち、しゃがみ、よりかかり、こちらに手を振っていた。
そこには何十人もの小学生に混じり、子供以外も四人写っていた。一人は中央に写るいかめしい髭をたくわえたかくしゃくたる老人。手袋をした両手で杖を持ちしっかと立っている姿は、思わずこちらも姿勢を正してしまいそうだが、その目は笑みを湛えている。その横にいるのは大柄な中年女性。所々継ぎを入れた綿入れ姿。頭巾をかぶり、大きな鞄を背負っている。足下には小柄な女の子がじゃれるようにまとわりつき、共に笑顔をふりまいているようだ。
そして山盛りの石炭の上にひざまづき、手を振っているのは。それはパジャマ姿の中野雄哉だった。その脇に同じ姿勢で思いっきり両手を振る少女。おかっぱの彼女は恵子そっくりだった。
四人の最後の一人。彼女は左手を腰に、前に付きだした右手でVサインをかざし、得意げに汽車の隣に立っていた。男の子が二人、見よう見真似でその姿を模し、そばの子供は笑い転げていた。大きく開く口がVサインの奥に見える彼女。その笑顔。
「まったくもう・・・相変わらずだねぇ、まりちゃん・・・」
加賀壬は笑っていた。涙をこぼしながら笑顔で写真を見つめていた。
第四章
中野は神宮司双子に送られて帰ることになった。加賀壬も全てを前原照正に預け、家に帰ることにした。ここから先は加賀壬には手が出せないと分かっていたから。一方、茂木はその場に残ったが照正ならうまくとりまとめてくれるだろう。
そう、加賀壬は照正を信用していた。静音や主将の祖父というだけでではない。あの重厚で純白な存在感。それは信じるに足るものだったから。
今回の件はまごうことなき超常現象だ。しかし、魔性が絡んでいない以上、それへの「本職」は超常研ではなく、神職たる照正なのだ。加賀壬は自分の役割を終えた。照正にバトンタッチしたことで。そう分かると、急に眠気と疲れが襲ってきたのである。
本条が出してくれた車で帰宅すると母にこっぴどく怒られた。そういえば北村の事件でみんなと合流するから、と出かけて行ったままだった。
「あんな遠いところまで行くなら、ちゃんと説明して行きなさい! しかも勝手に泊めて貰って!」
なんだかよく分からない。神宮司の家は学校の側だ。遠いのか、やっぱし・・・。疲れている加賀壬が曖昧に返事しているうちに話が見えた。どうやら、昨日自分は会のみんながいる長野の合同合宿所まで行って、そこで泊まった事になっているらしい。美咲会長か、あるいは副会長だろうか。とにかく自分が走り回っている間にも先輩がフォローしてくれていた事、それが今の加賀壬には嬉しかった。
私はまだ超常研の一員なんだ。
ほっと安堵する。
とりあえず風呂に入ることにした。洗濯機やらで狭い脱衣所に入った時、気が付いた。24時間以上この格好だったのだ、と。
これは16歳の娘としてはどうよ。加賀壬はそうつぶやきながら洗面台の鏡に向かって呆れてみせた。
シャワーを浴びている内にすぐに風呂の湯も温めが終わった。さすが夏だなぁ。冬場なら温め直しにすごく時間かかるのに。妙な事に関心しつつ、湯船に入る。
「うぃーーーーっ」
江戸っ子を気取って声を出し、膝を両手で抱えた。そこまでは覚えている。その後は・・・謎。
母の怒鳴り声で目が覚めた。
「電話だって言ってるでしょ! 大体いつまでお風呂付けてるの! 電気代勿体ないっていつも言ってるでしょ!」
慌てて頭の後ろにあるパネルを押して保温を切った。そのままわたわたと湯船から立ち上がる。
電話は照正からだった。バスタオル一枚という情けない格好に真っ赤になるのが鏡に映った。
「書類の方はもう少しでなんとかなるようです。お二方の容態を鑑み、本日15時開始で強行します」
加賀壬は驚きのあまり何の反応も出来なかった。今日は日曜である。明日は県民の日。当然県庁も市役所も連休。そのため防空壕を掘り起こす役所の許可が問題となっていた。どう急いでも開始は明後日になるはず。いや、そのはずだったのだ、加賀壬が帰宅すると挨拶した時には。
加賀壬の驚愕を聞き取ったか、照正が現情を伝えた。
「土地は一条の物ですし、緑地帯工事のため試掘許可はおりてましてな。本条側の法律顧問があちこちから認可済みの書類を調べ、なんとか追加工事が出来る解釈を立てたようです。後日問題になった場合、解釈の違いで押し通す事になりました。
臨時列車の方ですが。やはり単線区域への乗り入れは出来そうにないため、一条松本駅からバスということに・・・」
照正が式の予定を語る中、加賀壬はただ聞いているだけだった。
解釈の違い? 自分の土地を掘り返すのに何が問題なのかすら分からなかった加賀壬だ。もうその辺は大人に任せるしかなかった。
大人ってスゴイや。でもやっぱり大人ってズルイや。電話を切ってから加賀壬はそうつぶやいた。
ご飯だというので行ってみるとお昼はそうめんだった。市販のめんつゆと麺のみで具にあたるものはない。他には麦茶のみ。くーちゃん、お持ち帰りしたいなぁ。そう思う加賀壬。
ところで、これって私にとって・・・えっと昼食? 朝食? 夜食なのか?
まるで時差ボケ状態だ。
部屋に戻ってみると携帯に着信履歴があった。中野恵子からだ。早速かけてみる。
「な、なんだかすごい勢いで決まってくね。私、お祖母ちゃんの写真持って歩く役になったの。でも困っちゃった、喪服なんてないし・・・」
「お祖母ちゃんのお葬式は? 制服?」
「うんそう。お兄ちゃんは黒いのあるんだけど」
「えっと、お葬式二月? ってことは中学のだよね? だったら高校の制服っしょ! お祖母ちゃんに見せてあげなよ」
加賀壬の返事を聞き、中野の声は明るくなった。
「うん、うん、そうする。ありがと。えと、それと。お父さんの事、よろしくね」
「はいな。ツアー、TVも来るんだって? 転んだりすんじゃないよ、大恥だからね!」
「その時はVサインしながら前のめりに転んでやるぅ!」
大笑いしながら電話を切った。
加賀壬はベッドに座り込みながら昨日の朝の事をふっと思い出した。あの時はここに座りながら正直途方にくれていた。でも今は違う。そうだ、超常研の仲間には本条先輩が連絡してくれたけど、茜ちんとしおやんには電話しておかないとな。一杯心配かけちゃったろうから。そう思いまた携帯を手に取った。
夕闇が近づきつつある。スキーシーズンにはにぎわいを見せる喜多二町だが、今それに倍する人が集まっていた。
慰霊ツアーの一行が決められた順番でバスから降りていく。前原照正と見知らぬ僧侶、県教育委員会のなんとかいうおっさん。ずっと後ろにちらりと、なす紺の制服を着た恵子も見えた。
おっさんは大きな写真を持っている。それは恵子のお祖母ちゃんが通っていた学校の開校当時の写真だそうだ。校門の前にずらりと職員が並ぶ写真。髭のかくしゃくたる老人も幾分若返ってその中に収まっていた。戦災を逃れた隣町の写真館に眠る原板からしずくが複製した物だ。そして、その立派な額縁の内側に、北村が撮ったあの汽車の写真とフィルムがこっそりと納めてあるのを知る者は少ない。
病院の一室で。看護婦さんが持ち込んでくれたTVを食い入るように見つめている加賀壬。彼女はツアー組みではなく、居残りだ。
一行は二列になり、小さな学校の校庭に急遽しつらえられた祭壇に向かう。出迎えの地元の人たちが頭を垂れている上で、緑を茂らせる一本の桜。
ゆっくりと進む一行を校庭の反対側で見守る男。茂木である。彼の隣には電話の対応に忙しい樅塚がいた。昨日まですっかり社長から忘れられたかのような扱いに憤慨していた彼だったが、今日はがんがん指示だけだして駆け回っている社長に憤慨していた。
「面倒なこと全部押し付けて。ったくあの人は!
しかし、ま、もういかにも事件もみ消しバレバレの性急さですよねぇ。こんだけゴリ押しして一条痛い目見るでしょうねぇ、いい気味だ。
それをうちが独占配信。さすがっすねぇ、もてっさん、一人でこんなネタ掴んでくるとは」
茂木は照正が壇上に上がるのを見ながら小さなチョコバーをかじった。
「いや、二人だよ」
「そっすね、もてっさんと社長、最強タッグっす」
そう言った途端、樅塚は鳴り出した携帯を持った。どうやらまた社長からの指示らしい。
「いや、吉田さんとじゃないよ」
答える茂木の声は樅塚には聞こえなかった。菓子の袋を左手に提げたコンビニ袋に放り込み、茂木は携帯を取り出した。
病院から渡されていた小型の無線器のような移動電話が鳴った。加賀壬がTVを見ながらそれを受ける。
「そだよ。あぁ、TVで見てる。なんかアナウンサー適当な事言ってるねぇ。本条先輩から後で大ひんしゅくだよ。
あ、始まった」
よぼよぼのじいさんが、車椅子のままスロープを上がる。押しているのはその孫。違う学校だが、終戦時、ミサキ郷で教員だったという老人だ。ちゃんと生きてる人は生きてるんだなぁ。そう加賀壬は思う。彼が震える細い手で持った立派な千羽鶴が照正に渡される。あの千羽鶴、いつ作ったんだろう。加賀壬はそれがちょっと気になった。
続いて「ざーます」口調の似合いそうなおばさん。ど派手なデザインだが、喪服のつもりらしい。彼女が持っているのはつぎはぎだらけの古いお手玉だった。
その次が知らないおっさんの持つ学校の写真。あれだ。加賀壬は振り返った。この病室には北村が二人の医師と数名の看護婦につきそわれて眠っている。その横顔を見つめる加賀壬。
「どうだ?」と電話から茂木の声。TVを見ると祭壇に炎が舞い上がりだしたところだ。桜の、ミサキサクラの梢がその照り返しを受けている。
北村をまた見る。
「ん・・・まだ・・・」
と加賀壬が答えた時。加賀壬からは反対側の壁面にある機械を見ていた看護士が、びっくりしたように振り返った。続いて医師も北村にかがみ込む。その動きで彼女が見えなくなった加賀壬は立ち上がりベッドに駆け寄る。北村の顔に変化はないようだったが、看護士の一人が加賀壬を見て力強く頷いた。
顔を近づけてしっかりと北村を見る。かすかにそのまつげが揺れた。きびすを返し、ドアを開け、隣の病室に向かおうとした加賀壬の目の前で。その扉が開き、若い看護士が飛び出してきた。自分の方に突っ込んできた加賀壬を見、上擦った声をかける。
「中野さん、い、意識、戻りました!」
もうすぐだよ。中野恵子は両手で抱いた祖母の遺影に語りかけた。その前にはまだふらつく母とそれを支える兄。母はすっぽりと大きめの黒いヴェールを被り、包帯を隠していた。その両手は祖母の位牌を持ち、兄は数珠を持っている。
その背中で前が見えていない恵子はふと目の隅で何か動くのを見付け、右側に顔を向けた。柵の向こう側で手を振る人影。茂木だ。彼は恵子が振り向いたのを見て取ると、左手を腰にあて、右手を前にかざし、Vサインを出した。目を見開く恵子。涙が溢れる。熱い。瞳が、まぶたが涙で熱かった。
茂木は肩から提げていたカメラを構えると、縦位置のバストショットで涙を溢れさせながらも笑顔を向ける恵子をファインダーに捉えた。ストロークを短めに改造してあるレリーズを押し込む。0.3で露出補正をかけたオートブラケティングが三回シャッターを切った。続けてプログラムシフトで背後の家族も被写界深度に入れようとした時、思いついた。もう家族はそこにいることに。笑顔の恵子と彼女が捧げ持つ遺影とを主題にし構図を決め直す。その時、遺影を下から支えていた恵子の右手の向きが変わり、震える指がVの字を作った。それはまるで遺影の中からカナエがかざしているかの様だ。すかさずレリーズボタンが押し込まれる。
茂木は満足げな笑みを浮かべた。
第五章
夜が明けて。連休も最終日になった。今日は県民の日。月曜日である。これは休日と言うのか平日というのか微妙だ。首都圏に向かうサラリーマンにとってはいつもの月曜。公立校の生徒には休日。私立校は大半が授業をする。サービス業にとってシフトが妙な事になるのは当然だ。
駅前の喫茶サハラのカウンター。ウェイトレスの沼尻はあくびをかみ殺していた。明日が彼女の交代休みの日。本当は今日だったのだが、半休日ということで出になった。それはつまり、今日が一番つらいということ。またあくびをした時、カウベルの音で振り返った彼女はげんなりとなった。
あいつか・・・。
おひやとおしぼりを右手で持ち、水差しを左手に持って彼が勝手に座った席に向かう。こいつは来るたびに一人だが、いつも誰かが待っていた。遅刻の常習犯なのだろう。しかし、どうやら今日は先に着いたらしい。彼が座った席には彼しかいなかったのだ。
無言でおひやを差し出すが、彼は大きな旅行鞄から出した手帳を見ており、気づいていない。机におしぼりと共に置き、水差しを持って待つ沼尻洋子。数秒の間。茂木が顔を上げた。
「メニューは?」
洋子、目が点。戻ってメニューを取り、客に渡す。
「んー・・・。じゃアイスコーヒー」
洋子、再び目が点。一杯の重い水差しを持ったまま、カウンターに向かった。その脳裏に浮かぶ昨日の双子。もしや。こいつも双子?
時間になったので茂木は駅に向かった。中長距離列車のホームは結構込んでいた。茂木は天井から下がっている自由席の乗車案内を確認し、ホームの奥に向かう。この駅から乗っては座れないだろう。多分ほとんどが終点まで乗るのだろうし。そう踏んだ茂木は並ぶのを諦め、人混みを避けて壁際のベンチに旅行用鞄を置いた。ポケットからキャラメルを出そうとして違和感を覚える茂木。引き抜く指はキャラメルとゆずりんご飴を掴んでいた。
そうか、まだこれが残ってたんだっけ。
茂木はその妙な味のするゆずりんご飴をポケットに戻し、キャラメルの方を開けた。
ホームはだんだん人が増えてくる。ぽんとキャラメルを口に放り込んだ時、声がかけられた。
「さらに太るぞ、おっさん」
加賀壬である。今日も学校は休みだが、これから香土岐の語学講義に行くので制服だ。
「ほぉ制服か。そうしてると・・・」と加賀壬をじろりと見る茂木。
「制服ふぇちの血が騒ぐん?」としなを作る加賀壬。
「立派な中学生だな」
その大きな瞳に憤慨を示す加賀壬。
「さっさと東京帰れ! んで、もう戻ってくんな、おっさん!」
「多分な」
特急到着間近になりアナウンスが流れ、ホームが騒がしくなった。鞄を持つ茂木。その背に加賀壬が声をかけた。
「なぁ、おっさん。気になってたんだけど。
知りたいことがある。そう言ってたよね? それって・・・何だったの?」
茂木は振り返ることもなく、一歩前に出た。そのまま近づく特急の先頭車を見ながら語る。
「知りたいっつぅか、見たかったっつぅか。
カメラマンがな、体を張って撮ったフィルムがそのまま闇に葬られる。それって、あっちゃなんねぇだろ? 俺はあの手が撮ったフィルムを見てみたかった。そんだけだ」
特急が入ってきた。むわっとした風が舞い、騒音が響く。アナウンスがその上に被さり、ホームの人々が動き出した。
茂木は予想どおり満員の自由席を見て肩をすくめ、歩き出した。
「じゃ、おっさん、満足だな」
その大きな声に茂木は足を止め、加賀壬を振り返った。その明るい顔を見つめる茂木。
「お互い様だな、そいつは」
そう言って彼の手が小箱を投げる。慌ててそれを受け止めた加賀壬。見るとお菓子だ。
加賀壬が顔を上げた時にはもう茂木は乗車口のステップに足をかけていた。人混みの中に姿を消したが、今度は窓越しにちらりと見えた。すし詰め状態の車内。彼は器用に片手で雑誌を読み出したらしい。
加賀壬は飴を出してみた。ゆずりんご飴? ちょっと不思議そうな顔になりそれを一つ口に入れる。それはなんだかざらっとした舌触りで・・・。
うげっ、まずい!
思わず顔をしかめた時、サラリーマンたちの奥で茂木の口元が歪んだのが見えた。はっと見ると彼は横目でこっちを観察していたのだ。
「くっそ〜〜っ、二度と来るな〜〜〜〜!」
加賀壬、怒りの形相。彼女が飴の小箱を握りしめた拳を天に差し伸べる中、ベルが鳴り、特急は走り出した。
加賀壬さん頑張る。第四部:完