メタルフィギュア(以下MFと略)は小さいし、一体五百円程度とフィギュアの中では安いのでコレクションも簡単です。実際のゲームに使うにしても、代用をうまく活用すればこれも簡単。でも、なかなか初心者が踏み切れないハードル、それが塗装。
96年前半のRPGマガジンで塗装は一通り解説しました。でもね、やっぱり解説し足りない部分があって……。「じゃこの続きはまた来月」ってのもつらひ。まあ実際の連載自体、半年もかかってしまったので、「下地だけ塗って、そのまま一ヶ月待てって言うのかぁ」って悲鳴が聞こえてきそうだったけど。あれ以上詳細に解説はできなかったんですよ。
実はですねぇ、最初私がたてた企画では一回で基本的なところをぜ〜んぶ駆け足で解説するっていうものだったんです。毎月読んでる人は知ってるでしょうが、あの頃は記事というよりMF完成品紹介のコーナーだったんですよね。だから実践的な記事は受けないだろうと思って、「まぁ一回くらいはこういうのがあっても読者は許してくれるだろう」ってな感じだったんです。簡単に「こうやって塗るのか、ふ〜ん」みたいなのなら、知識として受け入れてくれるだろうと考えたんです。模型誌じゃないから、塗装の実践方法は書いても受けが悪いだろうと。ところが作業に入った頃、担当の萩りん(仮名)じゃなく、編集長から直々に電話が来ましてね。
編集長 「模型雑誌も出しているホビージャパン社としてはもっと突っ込んだ記事が欲しいんです。半年ほどの連載で初心者でも一応は塗装できるように解説できませんか?」
あたし 「半年……。そんだけ待ってますかねぇ、読者は。カラー2P、モノクロ4Pの前後編ってのならハウツウ式にできるけど……」
編集長 「ページの追加は無理ですね。今のままでなんとかお願いしますよ」
というわけで、あの連載になったわけですが、半年じゃ基本しかできません。でも実戦編以前はほとんど無かった読者からの問い合わせなんかも来まして、連載にして正解だったようです。ちなみに読者からの手紙は萩りんが持って来てくれましたので、全部読みました。でもさすがに返事は書く暇がないので、なるべく記事内容に反映しましたんで勘弁してください。
話しを戻しまして、基本は解説してますから、補追が絶対になきゃだめってことはありません。あくまで「補追」ですからね。塗装方法は十人十色というわけで、十人いれば十のやり方があるもんです。私個人の塗り方をそのまま押しつけるつもりは全くありません。でも私自身、いろんな人の塗装法を見て参考になったって経験があるんで、ちょっとでも役にたてばなと、この補追編の企画を始めてみました。ま、一行でも役に立てば当初の目的は果たしたということで。
というわけで、とりあえず「塗装」という話題に関して、いろいろ思い付くことを書いてみようと思います。うちは本当は企画屋ですから、ちゃんと企画を練るのが本筋なんですが、原稿料が出るわけでも、なにか賞が貰えるわけでもなし、暇な時にMacに向かいながら思い付きで打ち込んでますので、すっごくとりとめのない内容になるのはカンベンしてください。
んじゃ、いつもどうり「論より実戦」ってわけで早速いってみましょう。
MFの塗装、実は簡単
FM企画は入門者を増やそうと、同人誌即売会などのイベントに参加してます。そういうとこで皆さんの話を聞くと、「塗装は難しそうだから……」って意見が多いんですね。確かに雑誌に掲載されてるような完成品を塗るのはそれなりの技術と年季がいりますが、プラモデルの塗装がそのまま応用でできるんですよ。ガレージキット(以下ガレキと略)の塗装に比べたら、本当に簡単です。実例を挙げてみましょうか。
1:組立が簡単
プラモデルもガレキも最大のネックは接合面の修正。パテやら瞬間接着剤(以下瞬着)やらを駆使して接合面を埋めて、紙やすりで丁寧に消して行く作業で全体の80%はかかります。でもMFはもともと組立不用なのが多いし、接着する場合でも瞬着を使えばOK。パーティングライン消しも最近は便利な針ヤスリがあるし。この針ヤスリと瞬着、できれば金属用瞬着があればとっても簡単。
2:下地処理が簡単
ガレキは主にレジンキャストでできてるので、離形剤落としという作業があります。表面に付着している油を取る作業ですね。その後、サーフェーサーを吹いて、発色を上げるため白吹きしてから塗装に入ります。プラモデルもガレキ同様に中性洗剤で洗ってからサフェーサー、白吹き(特に人形の場合)してから塗装ってとこは変わりません。
一方MFだと金ブラシでこすってからプライマーを吹き、白吹きします。実際やってみれば分かりますが、金ブラシでこするだけって、プラモデルやガレキに比べればすっごく簡単なんですよ。
3:作業が簡単
一般的に模型はMFの数倍の大きさがあるので、作業中に様々な工夫が必要です。大抵のパーツは塗装乾燥のための取っ手なり台なりを自作しなくてはならず、さらに作業面積も机一つ丸ごと使っても足りないくらい。その点MFはほとんどが台座付きだし、塗料さえ用意しとけばちょこっとしたスペースでもできます。
4:資料集めが不要
模型の資料集めというのは予想以上に根気のいる仕事です。戦車や飛行機などは塗装色の調合やマーキングだけで一冊の本になってますし、考証的には気軽なはずのアニメメカものでも、ビデオチェックに雑誌の切り抜きなど、結構大変。自分の好きに塗れるって楽しいことなんですよ。なにせPCならあなた自身がクリエイター。誰も文句を言えません。
軍用車両研究家の大塚先生をご存知ですか?(アニメ「ルパンIII世」の原画などのイラストを画いている大塚先生、と言った方が早いでしょうか? ジープや模型の世界でも大変に有名な人なのです)
ある時大塚先生とドラゴンのMFについてお話しているときです。「こういうのはいいよね、楽しいよね」とおっしゃるのでお話しを伺うと、「塗料でね、好きなんだけどなかなか出番のない色ってあるでしょ? この色とあの色を組み合わせるといいんじゃないかなってのがたくさんあってねぇ。でもスケールものだと使用色ってのが決まってるじゃない。それを再現してるわけだかなねぇ。でもこういうファンタジーものだと自由に空想して塗れるじゃない。気分転換にうってつけだよね」と楽しげに笑っていらっしゃいました。自由な発想というのは我々RPGファンの最も得意とするジャンルのはずです。MFの塗装はやっぱり楽しくなくてはいけませんよね。
結局「簡単」、「難しい」というのは比較の問題なんですね。模型というジャンルで考えればMFは塗装技術を覚えるのにぜひ奨励したいほど気楽なものなんです。でも、模型製作を全くやったことのない人、例えばゲーマーにとって、あるいはファンタジーファンにとっては「難しい」と思えるんでしょうね。
最後の決めては「愛」と「熱意」
どんなに「簡単だ」「簡単だ」って私が書いても、実際にやってみると「確かに面倒だよな」という部分はあります。結局はホビーなんですから、勝負を決めるのは「愛」があるかどうかでしょう。
お気に入りのMFに色をつけてあげたい。「すっごくかっこよくしてあげるから待っててね。大変そうだけどお父さん頑張るから」(笑)みたいな愛が注げるかどうかでしょう。
一方DMの場合、「愛」とはいかにヴィジュアルダンジョンをやりたいかという熱意に他なりません。自分のワールドを少しでもリアルにしたいとか、もっと分かりやすくしたいという熱意がMFを塗らせることになります。まあどんな理由にせよ、「塗ろう」と思ったなら早速チャレンジしてみることです。誰でも最初は初心者なんですからね。
塗料
まず初心者が悩むのは塗料の種類でしょう。ちっちゃな模型店でも、水性アクリル、油性アクリル(ラッカーとも呼ばれる。理由は後出)、エナメルと各種あるんでねぇ。ましてやこの三種、性質が違うし、混ぜらんないし、困ったもんだ。
本格的に塗装してると、最終的にはほとんどの塗料が揃っちゃうんですが、始めたばかりなら一種類に絞ぼったほうが経済的。じゃ、その一種類って何がいいのって質問が出るのは当然でしょう。
んで、逆に質問。どんな塗装がしたいの?
1:まずは自分のPCを塗りたい。
2:今度使うモンスターを塗装済みで出したい。
3:コレクションをじっくりと細かく塗ってみたい
基本的にはこんな大別でしょうかね。こういう模範的解答ならお薦め塗料を決めるのは簡単。1:の冒険者用なら基本的に目立つのが多いから水性系。2:のいわゆる大量生産ならスピード重視の油性アクリル系だし、3:の完成度重視ならエナメル系。
どうしてそうなるのかってのは表をどうぞ。
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ってわけ。大別すると、早く塗るなら油性アクリル、じっくり塗るならエナメル、水性アクリルは万能ってことです。
以下にこの三種についてよもやま話を交えて説明してゆきましょう。
油性アクリル
毎年2月に、ドイツの古都ニュルンベルクで模型関係では世界最大級の見本市、シュピールツォイク・メッセが開催されます。随分前ですが、現地に向かう飛行機の中で、長谷川製作所の社長さんとお隣りになったことがありました。長谷川、つまりハセガワといえばタミヤと並び、日本を代表するプラモデルメーカー。特に飛行機の精密なプラモで有名なここの社長さんと、飛行機でご一緒するとは思ってもみませんでした。(ちなみに帰りはトミーの人と仲良くなりましたが)
さて、飛行機で便利になったとはいえ、なが〜い移動時間、私は社長さんといろんなよもやま話で過ごしました。長谷川製作所創設当時の苦労話の後、日本で初めて本格的に模型を輸出した時のお話なども出ました。模型と言ってもむか〜しむかし、プラモではなく木製だった頃のお話です。ソリッドモデルと呼ばれていた当時の模型は、簡単に形にした木片と図面が入っていて、彫刻刀やヤスリで丹念に削って完成させていました。長谷川製作所が飛行機のソリッドモデルを海外に輸出し、日本にも模型メーカーありと世界に気付かせたのがこの時です。以来、日本の模型は高価ながら高品質と世界中に評価され、模型王国を築いたわけです。
で、話しをソリッドモデルに戻しまして、これを塗装するために塗料も登場しました。といってもペンキを小売りしてるのと大差ない状態で、色数も少なく、ユーザーは原色を買っては調合してセンスと腕を競いあっていました。
模型の材質がプラになってからも、ソリッドモデルは健在でしたから、一時期はソリッド用の塗料でプラを塗るという時代もありました。ところが当時一般化していたマメラッカーを代表とする模型塗料はその名のとうりラッカー系で、これはプラスチックを溶かす素材なんですね。今の塗料にも一部溶かすものがありますが、ラッカーは接着剤並の強さがあり、塗った塗料は二度と取れなくなるものの、運が悪いと、ぐんにゃりと曲がってしまう悲劇が待ち受けていたのです。しかも前記のとおり色数が少なく、一部のハイアマチュアやプロを除けば、ここは青、ここは緑でこっちは白。よ〜し完成、みたいな大らかな時代でした。
もちろん、模型業界がそんな塗料だけの状態にしておくわけがありません。プラスチックが模型の主流になったころ、当時世界最大級の模型メーカー、アメリカはレベル社からレベルカラーという塗料が入ってきました。この頃はグンゼ産業がレベルの輸入代理店で国内では同社から発売されることになりました。
現在、グンゼは塗料を除くとごく一部の戦車模型、車しか作っていないメーカーと思っている人も多いのですが、レベルカラーが登場してきたころ、レベルのプラモデルはそのままグンゼのプラモデルで、模型店の棚のかなりの部分を占める大企業という印象だったのです。塗料販売の時も大々的に宣伝をかけ、一気にマメラッカーなど、ソリッド時代の塗料を駆逐してゆきました。以後、模型塗料の代名詞となるほどの普及度でした。
発売後だいぶ経ってから、レベル社の版権はタカラに移りました。こうしてタカラから新規にレベルカラーが発売され、グンゼ産業は一時期塗料から撤退します。その後、素材に磨きをかけ、本家レベルカラーをしのぐ高品質で再度販売を開始しますが、この時につけた名称がMr.カラー。しばらくはレベルカラーと競合していましたが、タカラが模型業界から撤退した後、Mr.カラーは再びラッカー系の代名詞という地位に返り咲きます。現在でもMr.カラーをレベルカラーと呼ぶ人がいるのはこういう経緯があってのことなのです。
ところで今ラッカー系と書きましたが、ご承知のとうり、実際にはMr.カラーは油性アクリル系です。登場当時、すでに模型塗料の代名詞になっていた「ラッカー」の名前がそのままこの油性アクリルのあだ名になったのですが、本来は別の塗料です。時代的に遡ったのでラッカーと同一視して来ましたが、以後はこの冊子でも油性アクリルという呼称に戻します。
油性アクリル塗料の特性はプラスチックを溶かす溶剤が少量入っていることです。これによってしっかりとした食い付きを保っていますが、模型そのもののモールドを溶かすほどではありません。(まぁ、MFの場合、溶剤程度では金属は溶けませんので関係ないのですが・・・)
乾燥が早く、作業がスピーディなこの塗料、溶剤に溶けやすいという長所も併せ持っています。
塗料に溶けやすいということはビンの底を筆のおっぽでちょっと混ぜてやればすぐ塗れると言うことです。溶けやすさはエアブラシにも最適です。というのも、エアブラシでは微量の噴霧状で吹き付けるので、顔料が固まりやすい塗料は不向きなのです。現に各種塗料が発展した今でさえ、スプレー缶の塗料は99%この油性アクリルです。スプレー噴霧に向いている塗料だということが明らかですね。また塗装終了後、エアブラシを洗う時にもこびりつきにくいという長所もあります。
一方、この溶けやすいという点が短所にもなります。先に塗って乾燥させたはずの色が、後から塗った塗料に入っている溶剤に溶けだし、色が混ざってしまうことがあるからです。この悲劇は特に筆でベタベタ塗っているときに起こります。最初からエアブラシで塗装する人はまずいませんから、大抵初心者は筆で塗ります。ましてや塗り方も慣れていないので、当時はみな一度はする失敗でした。
油性アクリルは充分な乾燥時間と微細な筆の技術があれば、実に質感細かく塗装できます。私の知人では渡部ちゃんが、油性アクリルの技量をRPGマガジン誌上で発表していましたね。革や布の質感など、微妙な色の変化を油絵のように再現できる塗料なのですが、そこまで達するには多大な練習と才能がいるようです。私のような不器用な人間には即乾性を生かした大量生産向き塗料になってます、シクシク。
この塗料は被膜が丈夫で、触ったくらいはもちろん、ちょっとこすっても落ちたりはしません。また長期間の間に色が抜ける、いわゆる色落ち現象にも強い塗料です。こういった点から、DMがモンスターを塗っておくのにはちょうどよい塗料だと思うのですが。モンスターのMFは大量に持ち歩くので扱いが雑になりやすいものです。そこで被膜が丈夫な方がいいですし、早く塗れるので量産向きなのですから。
エナメル
グンゼ産業のレベルカラーの時代。同社が占める模型塗料の牙城を攻め落さんと登場したのがパクトラ・タミヤカラー。アメリカのパクトラ社との技術提携で田宮模型が販売し始めた塗料です。当初は「ユニフォームカラーセット」など、セット販売のみでしたが、後に単品販売が開始されました。
パクトラカラーの豊富な色数から、車やミリタリー物など、田宮模型が十八番としていたジャンルに向いた塗料を選別して販売していたので、商品ナンバーにはかなり空きがありました(今でもまだ空白がありますけどね)。商品ナンバーがXで始まる色、X−1やX−2などはグロス(ツヤ有り)、XFで始まる、XF−1、XF−2などはフラット(ツヤ消し)と統一されているのが特徴です。最初はプラ製の入れ物に入っていたので、この空きビンに、調合したレベルカラーを入れて取っておこうとすると、溶けて流れ出ちゃうという冗談のような実話もありました。私もその一人ですが、後にこれは改善されます。
エナメル系の長所は乾きが遅いこと。短所に思えるかもしれませんが、乾くまでに時間がかかるので、筆の跡、つまり筆ムラが大幅に解消されるのです。塗料の伸びもすごくよいので油性アクリルなら大変だった細かい塗装、兵隊フィギュアの目や勲章なども手軽に塗れるようになり、人形塗装が盛んになります。また、まるで本物の布のようにしっかりとツヤを消すことができる一方、銀(クロームシルバー)や金(ゴールドリーフ)が本物の金属のように美しく発色するなど、油性アクリルにない魅力を持っていました。
この塗料はシンナーに溶けにくい性質なので、エアブラシに使用するにはなかなか根気がいりますが、筆塗りなら初心者でもきれいに塗れます。しかし被膜は悲しいくらいに薄く、完成品の触り方にも注意がいるほどなので、油性アクリルで基本色を塗り、エナメルで細部を塗るという混合方法が向いています。
この塗料も発売されてだいぶ経ってからパクトラの名称が消え、タミヤエナメルカラーになりました。こうして純国産塗料として生まれ変わったのです。とはいえ色が改定されたりはしていません。若干の塗料の名称が変わった程度で、多くの人は名前が変わったのも気にしていなかったほどです。容器の中央の彫刻や蓋からパクトラを示すティアドロップマーク、通称「涙」マークが消えたのに、あれっと思った程度の人が多かったでしょう。
昔のパクトラタミヤはパクトラの入れ物の金属製の蓋に、ぺたんとシールが貼られてましたからね。
色の変更がなかったことは、従来のユーザーを安心させましたが、この点が逆に難点ともなりました。赤が、もともとパクトラでの「フラット・インシグニア・レッド」、つまり米国国籍マーク用の赤だったり、青がこれもインシグニア・ブルーだったりしますので原色がないままです。これでは色を調合すると、どんどん暗くなり、明るい色が出しにくいのです。私は個人的な塗装にはタミヤエナメルを愛用してますが、せっかく塗料の性質上調合はしやすいのに残念だと常々思っています。
現在では各種の新色も増えましたが、結局原色や、調合に便利な明るい色は少ないままです。それに調合用のベースカラーを考えずとも色数ではまだ油性アクリルにはかないません。ネービーブルーなどの基本色もないのもメーカーに考慮してほしい点ですね。
通常、エナメルといえばこのタミヤエナメルだけなのですが、大きな模型店でなら、ハンブロールカラーという英国産の塗料を置いているかもしれません。これになかなかいい色があったりするので一度チェックしておくとよいでしょう。このハンブロールカラーは残念ながら国産化されたことがないので入手が多少困難です。しかし、実はだいぶ前から輸入されていた塗料なので、エナメル系といえばハンブロールという昔からの模型ファンもいるほどです。
ハンブロールが一般化しなかった原因は輸入のみということもありますが、この塗料、エナメル系の中でも極端に乾燥が遅いということもその理由でしょう。大抵はよく混ぜて使えばなんとかなりますが、湿気の多い時期に塗ると、一月はおろか、一生乾かない可能性もありますから。
しかし、タミヤエナメルよりエナメル系の特徴が色濃いということは長所もさらに伸びているということ。この塗料なら大型フィギュアの皮膚感なども再現できます。またツヤの微妙な変化も付けやすく、人形の塗装には定評のあるカラーです。私も瞳の塗装や女性キャラの頬紅などはこのハンブロールを使用しています。
エナメル系全体の特徴は塗りやすさなので、基本色を油性アクリルにして細部をエナメルにすることが多いでしょう。またこの復合法の利点はシンナーの強度の違いもあります。油性アクリルの溶剤(薄め液)はエナメル塗料も溶かしてしまいますが、エナメル溶剤は油性アクリルを浸食しないのです。そのため、細部塗装に失敗したらすぐにエナメルシンナーを含ませた筆でぬぐえばエナメル系塗料のみ落すことができ、シンナーが完全に乾いたら再度挑戦すればいいのです。また私がよくやるやり方ですが、最初に希望色より明るい下地を油性アクリルで塗っておき、次に影にあたる色をエナメルで塗装し、すぐにエナメルシンナーで洗い落とすと自然なウォッシングが再現できます。これなども多種塗料併用の利点でしょう。
水性アクリル
前二者は共に油性でシンナーを使用します。健康上、子供に薦めることはできませんので、以前から安全な水性アクリルカラーの開発に各社共努めていました。水溶性の塗料はごく当たり前の素材です。これが模型用として一般化しなかった原因は塗料自体が薄いこと。粘土のように染み込む素材ならともかく、プラへの食い付きは悪いのです。また重ね塗りしないときれいな発色が出ません。解決方法は塗料を濃くすることなのですが、濃度を上げるとベッタリと盛り付けるような形になり、微妙なモールドを持つ模型には向かないのです。
模型用水性塗料への挑戦は随分前からスタートしていました。レベルカラーの弟分にあたる「レペ」や「ホッペ」といった商品が現われては消え、「水性カラーはお子様向き」という不名誉な称号を与えてしまいました。また、「水性塗料で塗った模型に水デカールを貼ろうとしたら、色が落ちないかな」などという、今思えば笑える心配をした人も多かったのです。一度乾いたら水には溶けないという水性アクリルの性質が理解されていなかったのですね。
現在、メーカーの研究が実り、グンゼ産業の水性ホビーカラーも、タミヤ模型のタミヤアクリルカラーも、愛用者が多く、昔の「子供用」という印象は薄れました。なにしろほとんど臭いがしない塗料ですから、小さい兄弟がいたり、あるいはアパート暮らしだったりしても周囲に迷惑をかけない、素晴らしい塗料ですからね。しかし、登場当初は泡立ちしやすく、塗りづらいと酷評を受けていたものです。地道に改良を重ねていった開発担当者の苦労には頭が下がりますね。
水性アクリルは他二種に比べて濃度が薄く、現在でも重ね塗りが必要です。しかし、この重ね塗りというところが大事なポイントなのです。
水で筆洗いができるのに、乾くと耐水性になるという便利な塗料。ということは一度乾かしてしまえば下地が溶けだすことは皆無ということなのです。エナメルにせよ油性アクリルにせよ、筆でこすると溶け出すのが常識だったというのに、色の浸食から開放してくれるありがたい塗料なのです。
でも、最初はこの長所が全く理解されず、思いどうりの発色をさせるにはまず白を塗り、その後で重ね塗りという方法しかないというので、「厚塗りしやすい」と模型誌などでも書かれていました。確かに濃度の調節はなかなか難しく、慣れないとボタッとした塗り方になりやすいのは確かです。
(なお、写真は元原稿作成時のものです。今はタミヤ水性もグンゼのと同じ容量の、いわゆるミニボトルに変わっていますので念のため)
前に書きましたが、この塗料は他二種の間を埋める、中間的な用途に向く塗料です。乾燥は油性アクリルほど早くありませんが、エナメルよりはスピーディですし、塗りやすさはエナメルほど楽ではありませんが、油性アクリルより簡単ですから。この中庸性がかえって災いし、昔からのモデラーに浸透しずらかったのでしょう。現在では初心者が購入するのはまずこの塗料というように普及しています。
模型一般用なら水性アクリルについての記述はこんなところで終わるはずです。しかし、ここはMFファンの場。水性アクリルのコーナーなら次の行が出ないわけにはいきません。
シタデル・ショック
15年程前、MFの塗り方も特に模型とは変化なく、まず真っ黒に塗ってから影に黒を残してドライブラシ、という暗明法が一般的でした。もちろん120ミリサイズなどの大型のMFではハンブロールで丁寧に塗り、完成後は触らないというのが常識でしたが、我が25ミリサイズではドライブラシ全盛でした。
シタデル(正確にはゲームズワークショップ・シタデルブランド)も最初はその方法を推奨していました。ホワイトドワーフ誌でも「ペイント・ウィズ・ブラック」という聞き慣れたフレーズを転用していましたから。ところが、ウォッシングが脚光を浴び、事態は一変します。
ウォッシングは基本色を塗ってから、薄めた塗料を流すように塗り、自然な印影を出す方法です。インクを使ったインクウォッシュがシタデルのハウスペインターに流行りだし、瞬く間にホワイトドワーフ誌上の作例に飛火しました。いわゆるシタデル塗りの登場です。ファンタジークリーチャーは暗闇からぬっと出るような暗い雰囲気がいい、という当時の常識をくつがえし、モンスターも冒険者も、目の醒めるような明るい色彩にしたMFの大量発生を生み出したのです。
これらの作例には水性アクリルカラーの使用が不可欠でした。なにせ溶けだしてくる心配がない塗料です。どんなに水で薄めてインクのようにした塗料でも、先に塗った塗料に混ざることがないのですから。「一色は単独でなく複数の色の重なりである」というテーゼが認識され、初めて流行したのです。薄いので重ね塗りが必須だった水性アクリルの短所が長所に転じたのです。
ホビージャパンのガンプラモデラー、ZEN吉本センセはこの激変の頃、イギリスにおり、ゲームズワークショップ社直営店の店頭に並んだシタデル塗りの作例にカルチャーショックを受けた人です。帰国後も最初は油絵の具で再現しようとしましたが、結局水性アクリル系の塗装に開眼しました(?)。
カラフルで派手な発色、スケール無視とも見える極端なグラデーションはファンタジージャンルならではの発想で、RPGファンの心をつかみました。以後、シタデルはシタデルカラーというMF専用塗料まで投入した上、95年頃、インク、グレーズなどのラインナップを強化した現行商品群を展開しています。
このシタデル塗りはMFの主流になっていますが、実際のところ現在でも賛否両論あります。現に私の知人でもこれ以外塗る気がないという人もいれば、派手過ぎていやだという人もいます。それぞれに言い分があるのですが、今の主流がシタデル塗りという事実は変わりません。まぁ個人的意見では使用方法次第だと思います。私は自分のPCなどはシタデル塗りで目立たせてますが、モンスターは(NPCレベル以外)油性アクリル+エナメル塗りしていますので。
しかし、このシタデルカラーの最大の問題点は入手が難しいこと。扱っている店がほとんどなく、あってもすっごく高いのでちょっと初心者にはおすすめできません。ま、各種インクとスカルホワイト等の必須色は見つけたら買って置いた方がいいでしょうが。でも、一本がMFより高いので、これで揃えるのは大変です。
さて、以上、油性アクリル、エナメル、水性アクリルの特徴を挙げて来ました。ごちゃごちゃといろいろ書きましたが、どうでしょう、「これがいいかな」というお気に入りはありましたか?
前にも書きましたが、本格的にやってますと、大抵の塗料が揃っちゃうモンです。水性で塗っていても、タミヤエナメルのゴールドリーフとクロームシルバーの輝きは捨てがたいものですし、油性で塗っていても、グレージングやクリアーのブレンディングのため、水性のクリアー色は欠かせません。
まずは「シタデル塗り」をするか否か、それだけでも決めておくといいでしょう。「派手」なシタデル塗りか、「渋い」油性塗りか。完成予想を想像しながら楽しんでください。結局のところ、あなたがさらに「楽しむ」ために塗るんですからね。
後書きに代えて
塗装編補追の第一弾、いかがだったでしょうか。ほーんと、とりとめのない話ばかりですみません。どっか一カ所でも役にたてばいいんですけどねぇ。
つまんなかったって人。次はもっとわやくちゃな内容ですから、見ないでもいいですよ、別に。現在Macにちまちま打ち込んでるのは「筆」のお話。ブラシにまつわるアレコレをいろいろ書いてます。
筆ってのは塗装する以上、絶対の必需品なんですが、塗料に比べて存在がいまいち地味なんで、模型雑誌でもあんまり詳しく解説されてないんですね。んで、めぐまれないブラシに愛の手を、とか思って始めたんですが、実際役にたちそうもない話ばっかりになってます。ま、塗料を解説したら次は筆をせにゃあかんので、かんべんしてくださいね。ってわけで次は筆のお話です。
そんじゃ、また。