フェリシティの青春 第2シーズン第4話
#26  “The Depths”  ( 米 99/10/17放送)

 フェリシティは、自分のアパートで手鏡を見ながら、美術の課題である自分の右目をスケッチしています。そこに新入生のカールがもじもじしながら相談に入ってきます。彼は髪の毛を寝起きの直後のように逆立てて、よれよれの汚いシャツを着ています。聞けば、カールのルームメイトであるチャックが友人と電話で話していたことがたまたま留守番電話のテープに録音されており、それを聞いたところチャックはカールの悪口を友人に言っていたというのです。
フェリシティ「...ということは、チャックが電話で話したことをたまたま聞いてしまったという訳ね。」
カール「...そ、そうなんです。先輩、やっぱり僕のことよく分かってる。...それで、彼は僕のことをいろいろしゃべってたんです。」
フェリシティ「...どんな風に?」
カール「...う、うまく言えませんけど、僕がシャワーをあまり浴びていないとか、洗濯もあまりしないとか、...それから、自分の髪の毛を食べているとか...!」
フェリシティ「でも、それって本当のことではないんでしょう?」
カール「...いえ、全部本当なんです。」
一瞬凝固するフェリシティ。そこにちょうど、ミーガンが戻ってきます。
ミーガン「ただいま。あら!...あんた汚いわね!」
カール「先輩! 僕ルームメイトに変なことを言われて困ってるんですよ! もっと困るのは、この怒りをどこにぶつけていいのかわからないんです!」
フェリシティ「ちょっと、まず落ち着きなさいよ。他人があなたのことをどう言おうと関係ないじゃない。」
ミーガン「本当にテキストブックのような慰め方ね。」
フェリシティ「...なぜ?」
ミーガン「別に。」
カール「仕返しなんかしちゃいけないってフェリシティ先輩が言ってくれることは分かっていたんです。だから今ここに来た訳で...。僕、先輩のこと本当に尊敬していますから。」
フェリシティ「...あ、ありがとう。うれしいわ。(ちょっと得意気にミーガンの方を向いて)...ところでテキストブックのようなって、どういう意味?」
ミーガンはこれに答えようともせず、ベッドに寝転がって本を読みながら自分の話を続けます。
ミーガン「今Epstein-Barrから戻ってきたんだけど、あんたのかわいいジュリーがそこでパフォーマンスやってて...」
フェリシティとミーガンの会話など眼中にないカールは自分の話を続けます。
カール「チャックを目の前に座らせて、"おまえも男だろ"って言ってやるんだ!」
フェリシティもミーガンの言ったことが引っかかり、カールの言葉を聞いていません。
フェリシティ「(ミーガンに向かって)ジュリーがどうしたっていうのよ!? ...もう! あなたのその人を馬鹿にした言い方、頭にくるわ!」
フェリシティの怒りに何も感じないミーガンは続けて、
ミーガン「あんたとベンがこそこそと一緒に旅行してたことをジュリーが耳にしていたなんて、私も今のいままで知らなかったわ。」
フェリシティ「...ジュリーが話したの?」
ミーガン「彼女がパフォーマンスで歌っていたのをちょうど聞いたのよ。」
カールは2人の会話に耳を傾けることなく、完全に自分の世界に入っています。
カール「(目は宙をまっすぐ見つめて)チャックにこう言ってやるんだ、"僕に何か問題があるのなら、徹底的に話し合おうじゃないか"って!」
フェリシティはすでにカールの存在を忘れています。
フェリシティ「ジュリーが私の歌を歌っていたってこと!?」
ミーガン「"フェリシティ"って歌で、あんたのことがよくわかったわ。」
フェリシティ「もういい! やめて。」
ミーガン「あっそう。おしまい。」
カール「...先輩正しいです。合理的かつ冷静に対処することを僕の新しいモットーにします。」
しかしすでにフェリシティは冷静さを失っています。「やめて」と言ったものの、やっぱり歌のことが聞きたくなり、
フェリシティ「(大きな声で)何て歌っていたの!?」
一方、淡々としゃべるミーガン。
ミーガン「全部は覚えていないけど、...あ、わかった。あんたたち2人が友達としてまずつきあい始めて、ジュリーがベンのこと好きだってことをあんたが知って、だけどジュリーはあんたのために自分の幸せを犠牲にして、...結局あんたがこの世で一番悪い人だってことだった。」
フェリシティ「...この世で一番悪い人ですって...?」
ミーガン「簡単に言い換えるとそういうこと。」
カール「フェリシティ先輩、僕もう行きま...」
フェリシティ「(信じられないという感じで首を横に振りながら、カールの話の腰を折って)それってあなたの作り話でしょ!!」
ミーガン「(なおも淡々と)あ、そうそう、あんたの髪型のことも言っていた。"芝を刈ったような頭で、自分をジャンヌダルクだと思い込んで..."...んー、この後が思い出せない...なんとかなんとかで、...そうそう、"ワシントン・スクエア・パークの娼婦のような..."」
フェリシティ「...ワシントンスクエアパークの娼婦!?...」
完全にキレて急に立ち上がるフェリシティ。
カール「(心配そうに)フェリシティ先輩!...」
ミーガン「いいメロディだったわよ。」
フェリシティ「失礼にもほどがあるわ!」そういいながら上着を着て、
ミーガン「(微笑みながら)彼女2回も歌ってくれたし。」
フェリシティは「許せない!」と言って部屋を出、ジュリーのところに向かうのでした。
このやりとりの一部始終を見ていたカールは、
カール「...やっぱり、ルームメイトをとっちめないとだめだな。」
ミーガン「そうそう。早くやっつけてきなさい。」
カール「(ミーガンに向かって微笑んで)...先輩って、フェリシティ先輩より話の分かるRA(レ ジデントアドバイザー)ですね。」
ミーガン「(微笑みながら)もちろんよ。(しかしすぐ怖い顔つきになって)わかったら
さっさと出てく!!」

 「親愛なるサリー、ジュリーが私のことを歌にして歌って いるらしいの。信じられる? どうも私がとてつもない悪女だっていう内容らしいわ。 もちろん、本当にこんなことするつもりもないけど、ジュリーの顔を殴ってやりたいと 思っているの・・・」

 フェリシティはプンプンしながら、ショーンのいるアパートに足早に向かいます。アパートに着くと、ショーンがまた新商売のための料理を研究している最中です。
ショーン「やあ!」
フェリシティ「(鼻息荒く)ジュリーはいる!!?」
ショーン「いや、どこにいるか知らないけど。...あ、新しい調味料を作ったんだけど、ちょっと味見していかないか?」
フェリシティ「今日は結構!もし彼女が戻ってきたら、私が大事な話があると言ってたって伝えてくれる!? 緊急にって言ってちょうだい!」
ショーンはフェリシティの並々ならぬ態度に料理の手をめて、
ショーン「...おっと、...もしかして例の歌を聴いたのかい?」

 場面は変わってノエルとエレナのアパート。ジュリーに会えなかったフェリシティは翌日彼らの部屋を訪れました。
フェリシティ「ショーンもその歌を知っていたって言うのよ!」
エレナは宿題の手を休め、
エレナ「一緒に住んでいるんだから知ってるでしょう?」
フェリシティ「それが問題じゃないの! ジュリーはその下品な歌を歌って私をもてあそんでいるのよ!」
ノエルはコーンフレークを食べながら
ノエル「まだその歌を聴いていないんだろう? どんなに残酷な歌か知らないはずだ。」
フェリシティ「私がなぜ怒っているのかショーンがすぐ気がついたくらいだから、その歌がいかに下劣で残酷なものかは聴くまでもないわよ! もう、彼女ったら信じられない! いままで私は彼女にちゃんと連絡をとって、会ったときはいろんなことを話して、友達として付き合ってきたつもりなのに!」
ノエル「(もぐもぐしながら)君がこんなに怒ったのを見たことなかったよ。」そういってコーンフレークのお代りを取ります。
フェリシティ「もし私があなたのことを下劣な歌にして外で歌っていたらどう思うわけ!?」
ノエル「聴いている人に同情するな。君、歌とても下手だから。」
ノエルは全くフェリシティを相手にしていません。ため息をつくフェリシティ。
エレナ「...3年生の時に私のことを詩を書いた女の子がいたわ。ゼロックスして配っていたの。タイトルが"臭い子"だって。...私今でも一字一句覚えているわ。聞きたい?」
ノエル「いや、結構。」
フェリシティ「(ノエルに向かって)わかる? 11年経ってもエレナはまだ覚えているのよ! 心のトラウマになっているの!」
ノエル「わかった。君とジュリーは仲直りする。いいか、君と僕が仲直り出来れば誰だって出来るんだよ。」
フェリシティ「(首を横に振りながら)あなたと私のようにはいかないわ。ジュリーと私はもう友達でも何でもないのよ。今のあなたと私のような友達には...。」
ノエルはフェリシティを、"もう友達じゃないよ"といわんばかりのちょっと不可解な表情で見つめます。
フェリシティ「...かつてのあなたと私のようには戻れないの...。何でもいいけど。」
フェリシティはうつむいてしまいます。
ノエル「(軽い笑いを浮かべて)そうかい。」
エレナはノエルを睨みます。フェリシティはこの行き場のない会話を何とかしたいと思い、
フェリシティ「...い、今何時?」
エレナとノエルは同時に自分の腕時計を見て、ほぼ同時に、
エレナ「10時36分。」
ノエル「10時33分。」何故か微妙に食い違っています。エレナとノエルはこうも違うのかを実感したフェリシティ。
フェリシティ「(あわてて立ち上がり荷物を取って)遅れちゃう。...あなたたち自分の住まいをちゃんと持っていて羨ましいわ。」
ノエル「ミーガンといるのはいやなのかい。」
フェリシティ「ううん、楽しいわよ。見る必要のないRocky Horror Picture Showみたいで。(ノエルに向かって)近代美術館には行くつもり?」
エレナ「あら、2人とも美術館に行くの?」
フェリシティ「ええ。医学クラスをやめたら今度はこれが仕事のようなもの。」
ノエル「ああ、あの、ルビーも一緒に連れていきたいんだけど、...いいかな。」
フェリシティ「(一瞬間を置いて)え、ええ、...もちろん。...あ、あなたたちうまくいっているの?」
ノエル「俺達? あ、ああ。まあね。デートとかしているわけじゃないんだけど。」
フェリシティ「わ、わかっているわ。」
ノエル「わかってるって...何で? ...彼女君に何か言ったのかい?」
フェリシティ「...い、いえ、何も。何も言ってないわ。」
何かというと突っかかってくるノエルにちょっと神経質な笑みを浮かべるフェリシティ。
フェリシティ「...そう、それで授業が1時に終わるけど、2時に待ち合わせでいいかしら。」
ノエル「...わかった。2時に近代美術館の前で。」
フェリシティ「(ほっとため息をついて)ええ。」
エレナ「私のこともちょっと心配してよ。シクロヘキサンの同定を今度やるんだから。」
フェリシティ「あなたのことなら何も心配していないわよ〜っ。」
エレナ「とっても面倒くさいんだから。」
フェリシティ「じゃ、2時に美術館の前で。」
ノエル「OK。2時に。」
エレナ「じゃね。」
フェリシティは彼らの部屋を後にします。
エレナとノエルの間にしばしの沈黙が流れた後、エレナが鼻歌混じりに、
エレナ「..."臭い子、臭い子、触らないで私の..."」
ノエル「その詩聞きたくないって言っただろ。」

 フェリシティは放課後、美術クラスのカリキュラムの一環である、近代美術館で行われている写真展の見学に向かいます。2時にノエルと美術館で待ち合わせ、そして恐らくルビーも来ることを予感して...。
 フェリシティは美術館まで地下鉄を利用することにします。ところが、いざ地下鉄に乗ってみると、ドアの閉まる寸前にギターを抱えたジュリーもあわてて乗り込んで来ました。びっくりするフェリシティ。ジュリーはフェリシティに気づかず、向かいの席にどんと座ります。

「地下鉄はとても信頼できる完璧なシステムだとちょっと思っていたけど、まさかこんな皮肉なことが起こるなんて思ってもいなかった...」
ジュリーも目の前のフェリシティに気づきます。お互いしばらく呆然としてしまいます。
「...どうしてこうなったかわからないけど、ジュリーが乗ってきたときから、地下鉄はお世辞にも完璧なシステムとはいえないことがわかったわ...。」

 場面は変わって、ディーン&デルーカで仕事中のベン。彼はコーヒーを入れながら、店の外で忙しく携帯電話をかけている美人に見とれています。と、その美人が店に入ってきました。
女性「(忙しそうな口調で)ちょっといいかしら。5時までにブラウニーが125個いるんだけど、できるかしら?」
ベン「(ちょっとうれしそうに)...ブラウニーをおいしく召し上がって戴くようにですか? えーと、お名前は...。」
女性「私はパーティーサービスをやっているの。今夜CDリリースパーティを開催する予定だけど、いつも頼んでいる業者に都合がつかなくて。準備できるのかしら、それともここにいるのは時間の無駄!?」
ベン「(女性の剣幕にびっくりして)マネージャーが下にいるので、今連絡して聞いてみます。...すみません、あの...」名前を聞こうとするベン。
女性「ブラウニー125個。いいわね。」
ベン「わ、わかりました。125個...。」
急いでハヴィエさんに電話をかけるベン。かの女性も携帯電話が鳴ってまた忙しく応対しています。
ベン「ハヴィエさん? ベンです。(小さい声で)今上にいるんですが、5時までにブラウニー125個用意して欲しいというお客さんが来ているんです。パーティか何かに必要みたいですが...。パーティサービスをやっている女性です。...金髪です。会いたいなら上がってきて下さい。...本当ですか。...わかりました。」電話を切るベン。
ベン「あの、...ブラウニーは御用意できます。」
女性「良かった。(名刺を差し出して)ここにお願いね。じゃ、まだ仕事があるから。」といってその女性はディーン&デルーカを急いで後にします。
ベン「(女性の勢いに圧倒されて)...わかりました、奥様...。」

 地下鉄の場面に戻ります。中は空いており、向かい合って座っているフェリシティとジュリーの間を流れる妙な沈黙を破るが如く、後ろの車両からジャンク品を売り歩く遊び人風の男が突然入ってきます。
男「(大声で)はい皆さん!! わたしゃ別にチャリティで商売しているわけではないんだが、ここにあるものは全部消費税無しだ。いい品物を正しい値段でお売りする。分かるかな!?」
そう言いながら、品物を1つ1つ乗客に見せながら渡り歩いています。
男「ヨーヨー、スリンキー、サングラス、裁縫道具、腕時計、懐中電灯、乾電池に傘もあるよ、全部5ドルだ!」
フェリシティとジュリーは男から眼をそらしていましたが、男が通り過ぎると今度はフェリシティが突然立ちあがりジュリーの隣に席を移します。ジュリーはフェリシティからわざと眼をそらして(何なのよ!)という感じでため息をつきます。
フェリシティ「...私があなたに会いに行ったっっていうメッセージは受け取った!?」
ジュリー「(眼を合わさず)...うん。」
フェリシティ「昨日の夜だけど...。私に連絡くれた!?」
フェリシティはジュリーを見つめながら話しかけているのに、ジュリーは涼しい顔で全く眼を合わせようとしません。
ジュリー「(首を横に振りながら)ううん。」
フェリシティ「(ジュリーの態度にあきれて)...あなたってこれからいつもそんな風な話し方を私にするつもり!?」
ジュリー「(やっとフェリシティの方を振り向いて)そうよ!」
フェリシティ「(完全に切れて)わかったわ!!」
フェリシティは向かいの席にさっさと戻ります。

「このとき、悪魔のような歌手のジュリー Emrickとはあと駅を4つ通り過ぎればこれで完全にお別れ! と思ってほっとしていたのだけど...」

...と突然、列車は急ブレーキをかけて停車します。同時に停電してしまい一瞬騒然としますがすぐ非常電灯がつき元に戻りました。フェリシティはジュリーの方を向きますが、ジュリーはフェリシティを一瞥してまたすぐ眼をそらします。車掌のアナウンスが入りますが、マイクの調子が悪く乗客たちはよく聞き取れません。
「...聞き取れたのは"そのままで"と"落ち着いて"の2つの言葉だけだったわ。もし何が起こったかあの時わかっていれば、落ち着いていることなんて本当に出来なかったけれど。...そしてこの日は私の人生にとって全くとんでもない日になったの。」

 時刻は午後2時36分。フェリシティが地下鉄に閉じこめられて1時間が経ちました。
フェリシティはスケッチブックを取り出して自分の眼のデッサンを始めています。他の乗客も本を読んだりウォークマンを聴いたり、落ち着いて思い思いのことをしています。1人の頭の禿げたプロレスラー風の大男が心配そうにドアの窓から外を見た後、席に戻り沈黙を破って、隣の足の不自由なもの静かな雰囲気の黒人の老人に向かって話しかけます。
大男「(見かけによらず当惑しながら)...ちょっとお聞きしたいんだが、...木曜日にニューヨークに来たばかりなんだが、地下鉄がこうやって止まるっていうのはいつものことなんでしょうか?」
黒人の老人は身動き一つせず、落ち着いて黙って正面を見つめたまま返事をしません。大男の表情は心配でこわばります。フェリシティは大男の方を見ますが、ジュリーは黙って本を読んでいます。そこに再び、後ろの車両からジャンク品を売る男が入ってきました。
男「はい皆さん! 今日ははどこでもやっていない大サービスをここでやるよ!! 全商品たったの4ドル、4ドルだ!! 25%引きだ!!」
大男は回りを見渡しながらうろたえて言い出します。
大男「こ、これって.....サリン...ガス...じゃないのか? 日本で起こった.....毒ガス事件...!! ...さっさと逃げたやつだけ、走って逃げたやつだけ助かったんだ...ここのみんなは落ち着いて平静を装っているけど、...これじゃみんな死んじまうよ!?」
大男は自分を失いかけ、今にも爆発しそうです。フェリシティと一部の乗客も不安の表情を見せます。ジュリーは全く気にせず本を読んでいます。ジャンク品を売る男が、その場を取り繕うように言います。
男「よーしよし! いい子を見つけたぞ。」と言って、ジュリーに目の前に近づきます。
男「さあさあさあさあ、君の欲しいものを持ってるぞー。ギターを弾くのかい?」
ジュリー「(一瞥してすぐ本に目を移し)...ええ。」
男「そうかい。もし女版ボブ・ディランになりたいんだったら、こいつが必要だな。」
そう言ってハーモニカを取り出し、軽く吹き始めます。
男「いいだろ?」
ジュリー「...ええ、そうね。でも結構。」
男「お嬢ちゃん、何もこれを売ろうって訳じゃないんだ。見てごらん。」
男は自分のジャケットを開いてそこにくくりつけたたくさんのハーモニカを見せます。
男「みんな新品で君のためにちゃんと包装してあるんだ。」
ジュリー「いらないわ。」
男「地下鉄から降りて普通の店で買ったら楽に10ドルはするんだぜ。」
ジュリー「いいの。いらない。」
男も引き下がりません。
男「60%引きを不意にするのかい?」
見かねたフェリシティがつい立ち上がり、2人の間に割り込みます。
フェリシティ「ねえ、彼女はハーモニカをいらないって言っているの。いい!?」
男「おいおい、ちょっと待った。俺はこのかわいいお嬢さんとすてきな会話を楽しんでるんだ。」
フェリシティ「(一息ついて)彼女がどんなにかわいいかなんてどうでもいいことだけど、彼女、あなたをいやがっているでしょう!?」
そう言ってさらに男の前を割り込んでジュリーの隣に座り込みます。
男「わかった、わかったよ。俺が悪かった。気にさわったらごめん。」
ジュリー「(男に向かって)...別にいいわ。」
男はすごすごと引き下がるかと思えば、すかさず他の乗客に「俺スコットって言うんだけど...。」とアタックしていきます。
ジュリー「(フェリシティに向かって)こんなことする必要ないのに。」と首を横に振りながらため息。
フェリシティ「ねえ、私あなたの歌のこと聞いたの。」
ジュリー「(眼を合わさず)何の歌?」
フェリシティ「わかってるくせに。私がいい気分しないってこともわかっていると思うけど。私がとんでもない化け物っていう歌を作って歌っているでしょう!」
ジュリー「(フェリシティの方を向いて)まだ聞いたことないでしょうに?」
フェリシティ「聞かなくたってわかるわよ。」
ジュリー「...いや、わからないと思う。私歌で怒りを発散しているの。」
フェリシティ「ちょっと、それがあなたのやり方!?」
フェリシティはあきれてしまいます。
ジュリーは「...フン。」と言ってすこし笑みを浮かべ首をまた横に振ります。

 近代美術館の場面に変わります。午後2時。ノエルとルビーは館内を歩き回りながらフェリシティを待っています。
ルビー「フェリシティ先輩、2時って言ってたわよね。」
ノエル「ああ、そ、そうだけど...。彼女なら大丈夫だと思う。」
ルビー「私も。」
ノエル「うん。」
ルビー「あなたの時計、いいわね。」
ノエル「あ、ありがとう。新しいG-Shockなんだ。インターネットで買ったんだ。」
ルビー「...あなたって本当に変わった人ね。」
ノエル「(ちょっとビックリして)...あ、ああ、そうだよ。な、なんか、決まり悪いな。」
ルビー「(ノエルをみつめ微笑んで)そんなことないわ。」
ノエル「君の言う変わった人っていうのは、その、どんな意味で...。」
ルビー「ち、違うの。変な意味じゃなくて...。きれいな手をした人なのにってことで...。」
ノエル「えっ!?」
ルビー「男の人の手のごつさでその人の社会的地位の関係を占うっていうのがあるでしょう。大昔は本当に成功する人、真の指導者っていうのはごつい手をしていて、弱虫や社会に適応できない人がきれいな手をしているっていう話...。」
そう言ってルビーはノエルの左手を取り、手相を見ながら話を続けます。
ルビー「...でも私、最近ずっと考えてたの。そういう統計的な話とか、ものの見方って今は正しくないんだなって。」
2人とも顔を見合わせて笑います。ルビーはノエルの左手を彼の胸の前に差し出して、
ルビー「はい。手をお返しするわ。」
ノエル「あ、うん。ははっ...じゃ...そろそろ中に入って展示を見ようか。」
ルビー「...ええ、フェリシティなら中で私たちを見つけてくれるでしょう。」
ノエル「うん。」
2人は微笑み合います。フェリシティがいない方が嬉しいようです。

 地下鉄にまだ閉じこめられているフェリシティは、相変わらず眼のスケッチを続けています。
ときどきチラッとジュリーに目をやるフェリシティ。ジュリーは下を向いて曲作りか何か、書きものをしています。フェリシティは手を休め、自分の席からジュリーに向かって話しかけます。
フェリシティ「ジュリー、聞いて。今までのいろいろなこと、本当にごめんなさい。あなたの怒りや音楽のことについて私は...私はあなたを責める気はないわ。でも...、友達のいるクラブでそんな歌を歌うなんて...。それってまるで売り言葉に買い言葉みたいじゃない!?」
フェリシティの左隣りの黒人の若い男性が、おもむろにウォークマンのヘッドホンをはずし、彼女たちの話に興味を持ち聞き入り始めました。
ジュリー「(顔を上げ手を休め、腕を組み落ち着いた調子で)...違うわ。」
席を離れた別の社会人風の黒人男性も、うるさいというような顔で彼女たちの方を見始めます。
フェリシティ「...わかった。売り言葉に売り言葉ね。でも、自分の感じたことと公共の場にそれをさらけ出すこととは別のことでしょう?」
ジュリー「言論の自由って知らない? それに、あなたが私のところにすっとんでこなきゃならないような歌を歌った訳じゃないわ。」
フェリシティ「私は、私たちのプライベートをみんなの前で公開しないでくれればそれでいいの。」
ジュリー「...何でそんなに気にするの!? 何をそんなに罪悪感を感じているわけ!?」
...そこに突然車掌のアナウンスが入ります。例によって何を言っているのかよくわかりません。アナウンス終了直後に、例のジャンク品売りの男が後ろからまた入ってきます。
男「みんな、大変だ!。今聞いてきたんだが、この電車、人を跳ねたらしいんだ。」
皆目を見合わせます。先ほどのプロレスラー風の大男が心配そうに席を立ち、ドアの外を見ながら、
大男「何だって?...。自殺かい?」とあたりを見回します。ウォークマンの若者は、
若者「もしかしてかなり引きずられたのかな...。」
大男「たぶん相当何か落ち込んでいて電車の前に飛び出したんだろう...。」
1人の太った黒人の中年女性が、
黒人女性「誰がいったいこんなことを...?」
ジャンク品売りの男が言います。
男「きっとモグラの野郎だ。」
フェリシティ「...何ですって!?」
男「モグラ族だよ。知らないかい? みんなからそう呼ばれている。ニューヨークの地下に住み着いている野郎共だよ。」
フェリシティ「...地下に!?...」
男「ああそうだ。この中に大きな社会が1つあるんだよ。聞いたことがあるぜ、奴らに追われたことのある話や、何でか知らないが勧んでモグラ族になるやつの話とか。」
1人の小綺麗な白人の婦人が口を挟みます。
婦人「そのとおりよ。Diane Sawyerもモグラ族に関わっていたわ。」
男「ああ。外を見てみろよ。奴らは暗闇を自分たちの家だという。奴らの住むここではおれ達がよそ者だ。町の下にこんな奴らがいるなんて間違ってる!!...間違ってる!」
そう言いながら男は次に車両に向かいます。フェリシティの心に言いようのない不安がよぎります。

 場面はディーン&デルーカに変わります。ショーンは開発中の新調味料の名前を休み時間中のベンにいろいろ尋ねています。ベンもいやがらずにコーヒーを飲みながら応じています。
ショーン「スベスベ・スムーセイズ、ってのはどうだい?」
ベン「スベスベ・スムーセイズ!? そりゃあまりにひどい名前だ。」
ショーン「よーく考えてくれ。俺は調味料を発明中なんだ。そうだろ?」
ベン「ああ。」
ショーン「たとえばもしマスタードみたいな名前だったらどうする? 『ベン、マスタードってのはどうだい』って俺が言ったら。」
ベン「(疲れた微笑みを見せて)...わかった。他にどんな名前を考えたんだい? 全部言ってくれ。」
ショーン「エーと、ファット・テイスティック。」
ベン「ファット・テイスティック!?」
ショーン「マスタードロドロ、ラード・スプレッド、ベトベトワサビ、スパイス・オーレってのは?」
ベン「(疲れて頬杖をついてしまい)全然だめ...!」
ショーン「じゃ、ゼストリカは?」
ベンは笑いながら首を横に振ります。
ショーン「...スムーセイズは?」
ベン「(もうどうでもよくなって)...うん、スムーセイズって言うのもそう悪くないと思う。」
そこに、さっきブラウニーを注文したパーティーサービスのキャリアウーマンが突然戻ってきて、休憩中のベンの前に立ちました。
女性「今すぐクッキーが必要なんだけどいいかしら。」
ベン「あ、えーと、あの...」
女性「チョコレートチップ、オートミールレーズン、シナモンの入ったもの25個ずつ。配達込みで。いい!?。」
ベン「は、はい、今マネージャーに聞いてみま...」
女性「(時計を見ながら)早くして。あと30分で約束があるから...」
女性の態度に腹が立ち、突然机をたたいてベンが叫びます。
ベン「ちょっと待って!!。何であんたはそんなものの言い方をするんだ!? それも休み時間中の僕みたいのをつかまえて!。今休み時間中なんだ。わかるでしょう!? 興奮しているのはわかるけど、丁寧な態度で言ってくれればちゃんとクッキーも準備します! ...も、もうクビになってもいいから言うけど、マギーさん、あなたの名前はさっ
きクレジットカードで見たけど、さっきもここに来て僕のことを人でなしのように扱いましたよね!。僕の名前はベンです、そして僕も人間なんだ!! わかります!? ここにいるショーンと同じなんです。...」
女性(マギー)はびっくりしてベンを見つめています。ショーンは調味料の名前を思案中ですが何食わぬ顔で右手を挙げマギーにあいさつします。
ショーン「ども!」
マギー(女性)「(気をとりなおしつつ)...こんにちは。...」
一呼吸をついた後、マギーは彼らの横に腰を下ろし、ベンに話しかけます。
マギー「...あ、あの。...ベン、クッキー75個、5時までに用意していただくことできるかしら。そうしていただくとありがたいのだけど。」
しばらくマギーと顔を合わせたいように下を見ていたベンはおもむろに顔を上げて返事します。
ベン「...わかりました。...ちょっとチェックしてきます。...」
いつもの笑顔をマギーに見せ、ベンは席を立ちます。マギーはベンの笑顔を見てちょっと安心したかの様子。彼の姿をいつまでも見続けています。そこにショーンが彼女に話しかけます。
ショーン「スムーセイズってどう思います?」
マギー「...何ですって!?」
ショーン「スムーセイズ。(^^)」
マギー「...??...」
しばしの沈黙が流れます。

 地下鉄の中に戻ります。フェリシティは眼のスケッチも終わり、腕を組んで席にだらしなく座っています。思い出したように席を立ち、ジュリーの右隣りに座り直します。
フェリシティ「あなたがさっき言ったけど...。私は罪悪感を感じているわけじゃないの。怒っているの。あなたに連絡を取って話そうとしたけど、あなたは話してはくれなかった。その後あなたが何を考えているかミーガンから聞く羽目になったの。わかる?.....本当にごめんなさい、ジュリー。ベンと一緒に行ってしまって。」
ジュリー「...ごめんなさいってどういうこと?」
フェリシティ「(少し間をおいて)...それは、...あなたのいやがることをして、あなたを傷つけてしまって、...」
ジュリーはフェリシティの目をじっと見つめて尋ねます。
ジュリー「もし出来ることならもう一度ベンと同じことする!?」
フェリシティはジュリーの顔を見て言葉に詰まってしまいます。
ジュリー「フン、...沈黙ありか。...長い沈黙ね。...ってことはまた同じことをするわけだ。私はもう驚かないけど。」
フェリシティ「もしあなたとベンがまだ付き合っているのなら、もちろん私はそんなことはしなかったわ!」
ジュリー「自分の立場を正当化しないで! 私の気持ちをわかっていて一緒に行ったくせに。」
フェリシティ「そうよ! でもあなたがノエルのところへ行って、あなたの聞いたことを彼に告げ口した後だったわ!」
ジュリー「(声を大きくして)だからベンと一緒に行ったってわけ!?」
フェリシティ「私とベンはまだ決めていなかったわ。」
ジュリー「(大声で)だからあなたと彼がキスしようとしてた時に出くわしたわけね!? もう許せないわ!!」
回りの乗客は彼女たちの口論に振り向きます。一人の黒人の紳士は何か重い表情をしていましたが、この口論に頭痛がしてきたように頭を抱え込み始めます。そんなことに構わず、2人の口論は白熱化します。
フェリシティ「あなたを傷つけようなんて気持ちは全くなかったの!!」
ジュリー「あたななら間違ったことをしないと思っていたわよ!!」
フェリシティ「正しいことがいつも簡単にできるわけないで...」
ここに、パンパンパンと急に手をたたく音がフェリシティの声を遮ります。例の頭を抱えた黒人紳士の手の音でした。
黒人紳士「(大声で)わかった、わかった、わかった! いいから2人とも静かにしてくれないか!!」
フェリシティとジュリーはびっくりして黒人紳士の方を振り向きます。
黒人紳士「(怒りの表情で)僕はさっきからここにじっと座って電車が動くのを待っているんだ!。君たちじゃすぐに解決しそうにないことを何をそんなに今口論するのかって考えながら!!。彼女が君のボーイフレンドを盗んで、何かい、彼女は君の心を傷つけたってことだろう!? ...いや、ちょっと言い方を変えよう。彼女が君のお気に入りのジャケットを無断で借りたってことだ...。...いい加減目を覚ますことだな。こんなくだらないこと! 贅沢ってもんだ!!...。」
フェリシティとジュリーはうつむいてしまいます。しばしの沈黙の後、再び黒人紳士が口を開きます。
黒人紳士「...僕が今日何をしに行くのかわかるか!? (手元のがっと書類を掴んで)ローンをもらいに行くんだよ!! ローンが組めれば僕も家族も食っていける。」
フェリシティとジュリーは黙って紳士を見ています。
黒人紳士「...口を慎むんだ。君たちの痴話喧嘩にはうんざりだ! ...あんたたちにとっては大きなトラブルかも知れないが。」
先の小綺麗な白人の婦人がこの話を聞いてうなずいています。
婦人「(黒人紳士に向かって)あなたの仰ることがわかるわ。まるでRENTショーを観ているみたいですもの。」
黒人紳士がフッと口元で笑います。そこにすかさず、ジュリー側に座っている落ち着いた中年の黒人婦人が口を開きます。
黒人婦人「問題の重さは人それぞれによって違うものよ。心が傷つけられることは時に身を切られるより辛いこともあるわ。」
先ほどのプロレスラー風の大男がフラフラとよたりながらフェリシティ立ちに近づき、話しかけます。
大男「(うつろな目で)今薬を飲んだところだから...へへっ、自分でも何やっているのかよくわからないけどさ...はっ、でも、俺はこの紫のシャツのお嬢さん(ジュリー)に同情するねっ。裏切られたんだもんな。」
フェリシティ「(大男に向かって顔をしかめて)何ですって!?」
ジュリー「(仲間がいたと思って安心し、大男に向かって)...ありがとう。」
大男はジュリーに微笑んで、ふらつきながら自分の席に戻ります。
黒人紳士「ハッ、僕は両方とも同情できないね。」
そこに、小綺麗な婦人の隣に座っているワイシャツ姿の小男が、胸ポケットから名刺を見せながら立ち上がります。
ジャッド「ヤア、あの、弁護士をやってるジャッド・バーマンという者だが、...」
黒人紳士「ああ、弁護士見つけるのも大変だったよ...。」
ジャッド「全ての事実を知らないうちに、この2人に対して判決を言い渡してはいけません。...(一息ついて彼女たちに近づき)君たちは何をそんなに感情的になっているのかい?」
フェリシティ「(ちょっとあわてて)あ、あの、別に心配してもらわなくても私たちのことは私たちで解決...」
そこにジュリーが口をはさみます。
ジュリー「彼女は、私が彼女の歌を書いてみんなの前で歌ったことに腹を立てているの。」
ジャッド「(顔に手をやって考えながら)ほほう、もしこれが実際の民事、つまり法廷での裁判の場合であれば、私はまず陪審員の前で、君に実際に歌を歌ってもらうことにするな。」
大男「(うつろな目で)いやー、それはとっても面白いな。歌を聴きたいよ。」
ウォークマンを聴いていた若者が話に入り込んできます。
若者「そうだよ、ジュリーっていったっけ?」
ジュリー「ええ。」
若者「歌いなよ。」
ジュリーは一瞬ためらった後、フェリシティの方を向きます。
フェリシティ「(ジュリーから目をそらし大きく頷いて)...ええ、構わないわよ。歌いなさいよ。」
ジュリー「...わかった。」
回りの乗客も大きく頷きます。ジュリーはギターを取り出して構えます。
ジュリー「歌のタイトルは、"フェリシティ"です。」静まった回りの中、ジュリーは歌い始めます。

 ...時刻は午後4時11分。地下鉄に閉じこめられて2時間半が経っています。冷たい地下道にジュリーの歌声がこだましています。
ジュリー「♪...1つ1つの命がフェリシティをめぐる...。♪」
フェリシティは恥ずかしそうな笑みを浮かべてはいるもののちょっと心外な様子。回りのみんなはジュリーの歌に大きく拍手を送ります。一息ついた後、先ほどの黒人の婦人がフェリシティに問いかけます。
黒人婦人「彼女のボーイフレンドを奪い取ったというのは本当なの?」
フェリシティ「(大きな声で)違います!」
ジュリー「(ギターを片づけながら)もちろん本当の話。」
フェリシティ「もう別れていたんです!」
若者「何だって!? じゃあ何でこんな歌でグチるのさ?」
ジュリーがすかさず弁解します。
ジュリー「もちろん、私たちは表面的には別れていたわ。でもまだ冷め切ってなかったの。」
大男「この話、めまいがしてこないかい?」
白人婦人「(ちょっと涙を浮かべて)悲しいお話だわ。大の仲良し2人が、1人の男で引き裂かれるなんて。」
ジャッド「よしよし、いいたいことはわかった。1つ質問があるのだが...。」
彼は手に持った電子手帳を座席に置いて、上着を颯爽と着ながらフェリシティとジュリーの席に近づきます。
ジャッド「ジュリー...っていったね。」
ジュリー「ええ。」
ジャッド「ジュリー、君はかつてベンとデートをしたわけだね?」
ジュリー「そうです。」
ジャッド「...そして、君の信頼を裏切ったということでここにいるフェリシティを責めているということも事実だね?」
ジュリー「そうです。」、
フェリシティは頭を抱えてしまいます。
フェリシティ「もう...信じられない。」
ジャッド「さて、私が君の歌を誤解していないという前提でこれから話をするが、...あ、ところでメロディはすばらしいと思いますよ。」
ジュリー「ありがとう。」
大男「(視線が一定しないまま鎮静薬の瓶を片手に持ちながら)異議あり! 証言を誘導している! ハッ、ハハッ。冗談。ごめん。」
ジャッド「(気を取り直してジュリーに向かい)その後君はその男性の下へ引っ越してきたわけだね?」
ジュリー「ええ。」
ジャッド「それでは、君の大切と考えている親友を責める代わりに、その彼を許してあげるというのはどうなのだろうか。」
ジュリーは言葉に詰まりため息をついてしまいます。
フェリシティ「(人差し指を立てて大きく頷き)...これはとてもいい質問だわ。」
黒人婦人「それもそうね。」

 場面は近代美術館に変わります。ノエルとルビーは展示を見終わり、2人きりで出口付近の踊り場で向かい合って他愛のない話をしています。
ルビー「...チーズバーガー5個ですって?」
ノエル「もううんざり。」
ルビー「どうしてそうなったの?」
ノエル「いや、でも君にこんなことを話すともう二度と口をきいてくれなくなると思って、話すつもりはなかったんだ。」
ルビー「絶対そんなことないから。」
ノエル「よかった...、そうだね。でも本当なんだ。友達のFelixと僕は、あの当時いつもカッコイイナイスガイだと自分たちで思っていたんだけど...。」
ルビー「今でもカッコイイわ。」
ノエル「(ちょっとビックリして)あ、ああ、もちろん...。えーと、それで、あのときちょっと賭けをしたんだ。たくさん食べた方がおごってもらうって。ボストンにあるPepersっていうやすいバーガーの店で、チーズバーガーを次々と2人で食い始めたんだ。1つ、2つ、3つ、4つ...だんだんいやになってきて。」
ルビー「まあ、どうなったかは聞きたくないわね。」
ノエル「そうかも知れないけど、もうここまで話しちゃったからいいよね。それで5つ目のバーガーを2人共殆ど同時に食い終わったんだ。そこで信じられないくらい気持ち悪くなって...。言葉に出来ないくらいに。だからこれは引き分けだと思っていたんだけど...。」
ルビー「そうね。」
ノエル「でフェリックスはそこでフレンチフライをつまんだんだ。」
ルビー「うん。」
ノエル「ん。」
ルビー「やだー。」
ノエル「そして一口かんだ。勝利の一口。でもそれを見ていたら僕がもう我慢が出来なくなって、つい吐いてしまったんだ。」
ルビー「もおー。」
ノエル「もちろんそれを見てフェリックスも吐いてしまった。2人でゲロ爆発さ。」
ルビー「もう、信じられない!。」
ノエル「はは...。聞いてくれてありがとう。」
お互い笑った後一息ついて、
ルビー「...ハンバーガーでも食べに行かない?」
ノエル「...何だって!?」
ルビー「それとも他のものがいい?」
ノエル「もちろん! バーガーは絶対だめ! ね。」
ルビー「うん。」
2人はお互い笑いながら美術館を出ます。

 再び地下鉄の場面に戻ります。時刻は午後5時15分。すでに3時間半が過ぎています。フェリシティとジュリーのいる車両は、彼女たちの話題で持ち切りです。皆がケンケンガクガクと激論を交わしています。フェリシティは腕を組んで、もうやめてほしいという険しい表情をしています。ジュリーは頭を抱えてもう聞きたくないといった感じです。
「赤の他人同士が地下鉄に閉じこめられて息がつまる思いをしたからなのかどうかわからないけど、最後にはなんかとても解放された気分になったわ...。知らない人たちがジュリーと私の関係をいろいろと詮索してくれたおかげで。」
ジャンク品を売る男が言います。
男「ちょっ、ちょっと待った。もう1回聞くけど、ベンって誰だっけ?」
他の皆は話を振り出しに戻した男に、一斉に「もーっ!」と言って白けた顔を向けます。
黒人婦人「このニューヨークで、この2人が好きになった男性よ。」
大男「口を出すなよ!」
男「(すごすごと)な、何だよ。ただ聞いてみただけだよ。そ、そんなこと言うなよ...。」
若者「ちょっと待って。ジュリーは、フェリシティが何年も前からベンのことが好きだって知っていたんだろう?」
ジュリー「だから?」
若者「それじゃあどうってことないじゃないか。まじめな話、彼女と彼が付き合っても。」
白人婦人「私が以前の友人に会いに行ったとき、その友達は大学前からのつきあいだけど、今でもみんないい友達だったわよ。」
ジュリー「で、でも、私の場合は全く違うの。」
ジャッド「どうして?」
ジュリー「私には高校時代にたくさんのボーイフレンドがいたわ。...でも、いろんな事情で、私には同性の、女性の友達があまりいなかったの。」
一人の表情のない男、デニスが口をはさみます。
デニス「...わかった。君は男をもてあそぶタイプの女なんだな。」
ジュリーとフェリシティはいきなりの言葉にあきれた表情でデニスを見つめます。
ジュリー「(怒って)ちょっと!、私はあなたの名前なんか知らないけど、...」
デニス「デニスだ。...君のような男をもてあそぶ女に分別があるなんて言うつもりはない。...俺はあんたみたいな女とデートしたことがあるんだよ。あんたは本当に大したやつだよ!」
皆は苦笑してしまいます。
ジュリー「とにかく!、...フェリシティは私にとって初めての本当の親友だった。だから、彼女のしたことに私が本当に驚いたってことはみんなにもわかると思うわ。」
皆がジュリーの言うことに納得します。そこにフェリシティが意を決して話し始めます。
フェリシティ「あの、ちょっと、大学に入る前は私にも同性の友達はいなかったんです。女友達だけでなく、もちろんボーイフレンドもいなかった。...箱入り娘っていう感じで。」
黒人紳士「わかった。それじゃ君たち、そんなにお互いいがみ合っているのに何でここで一緒にいるんだい?」
フェリシティ「一緒にいたいわけじゃありません。たまたま同じ地下鉄に乗り合わせただけです。私は美術館に行くところで...。」
ジュリー「(フェリシティの方を向いてキョトンとして)ええ、私もよ。」
フェリシティ「(ジュリーの方を振り向きびっくりして)そんなばかな...。」
黒人婦人「(落ち着いた物腰で)...あなた達がこの同じ地下鉄に乗って自分たちを見つめ合うことになったのも何かの巡り合わせね。おそらくあなたがたが乗っていたから地下鉄も止まったのよ。」
黒人紳士「地下鉄に引かれたやつにも聞かせてあげた方がいい。」
黒人婦人「...だから私たちはここに集ったのね。...あなた達がまた仲良く出来るようにするために。」
と、そこに大男の悲鳴が割り込みます。
大男「お、おい、モグラ族、モグラ族だ! ...モグラ族だよ!」
皆は一斉に窓から外を見ます。すると右側から人影がいくつか近づいてくるのがわかります。ジャンク品売りの男が言います。
男「本当だ! サファリスタイルみたいだな。この地球上で最大の変人達が妙な格好でこっちにやって来るぞ!」
彼らは線路に沿って脇をこちらに歩いてきます。殆どヘビメタを崩したような格好の若者達です。1人、また1人とゆっくり堂々と歩いてくる様は地下鉄の乗客の目を完全に釘付けにしていました。列がとぎれる頃、1人のモグラ族の男の肩に抱かれた女性が楽しそうに歩いてきます。女性の目が地下鉄の見物人達に向けられます。
フェリシティは彼女と目があった瞬間に思わず自分の目を疑いました。それは何とミーガンだったのです。
ジュリーも彼女に気づきました。目を細めて横目で軽蔑するかの如くミーガンを見るジュリー。一方、フェリシティは驚きを隠すことが出来ず目を大きくして彼女が通り過ぎるのを見つめています。当のミーガンはもちろんフェリシティとジュリーに気づき、一瞥して「バカみたい」とため息をつくだけで通り過ぎてしまいます。

 ここで場面はディーン&デルーカに変わります。ベンが仕事を終えて「あとよろしく!」と言い店を出るところで、先ほどのマギーが赤いドレスを着て入ってきます。
マギー「まだいたわね。」
ベンはちょっとビックリします。
ベン「ああ、その、あの... またマフィンでもご入り用ですか?」
彼は人なつっこい笑顔で尋ねます。マギーも笑顔で答えます。
マギー「2階の裏の部屋にいたのよ。そこでパーティを始めるから準備をしていたんだけど、...今日あなたに言われて初めて気がついたわ。私ってなんて礼儀知らずだったのかって。」
ベン「いやあ、そんな...。もういいんですよ。済んだことだから。」
マギー「...そうね。そういうところがあなた素敵よ。」
ベン「(ちょっと照れながら)...はは...。」
マギー「...その、私が言いたいのは、あなたの態度が気に入ったってこと。本当によかったわ。」
お互いに照れ笑いする2人。
ベン「...それで、そのビッグパーティの準備の方はもういいんですか?」
マギー「(バッグの中から手紙を出しながら)実は、あなたを招待するためにここに来たの。」
そう言って招待状をベンに渡します。
ベン「えっ...」
マギー「私の友達がパーティを開くから、私も是非出たくって。緊張もするけど、もしあなたが来てくれたら嬉しいわ。9時からだけど、何時でもいいわ。私はもう戻らないといけないけど、...会場で会えるのを楽しみにしているわ、ベン。」
ベンは招待状を見てちょっととまどった様子。しかし、彼はいつもの笑顔をマギーに見せ、軽く頷きます。マギーも笑顔を見せ出ていきます。その後ろ姿を見ながら、ちょっと嬉しそうに口元で笑うベン。

 場面はノエルのアパートに変わります。美術館から帰ったノエルはルビーを自分のアパートに誘い、コンピューターのソフトの話をしています。ノエルもルビーも床に横たわってくつろいでいます。床に置いてあるノエルの作った家の模型を見てルビーが言います。
ルビー「良くできているわね。」
ノエル「ありがとう。殆どはコンピューター上でやるんだけど。AfterEffectsっていうソフト、使ったことあるかい?」
ルビー「いいえ。」
ノエル「すごく良くできたマルチメディアソフトなんだ。(起き上がって)でも、ときどきこうやって本物の3Dモデルを作りたくなるんだ。このきれいな手が汚くなるけどね。」
2人とも笑います。ルビーも起き上がって彼に近づいて話しかけます。
ルビー「Zap Glueって知ってる?」
ノエルも彼女に顔を近づけて聞き返します。
ノエル「Zap Glue?」
ルビー「ええ。私が一番よく使う接着剤。」
ノエル「それが一番いいの?」
彼はさらに顔をルビーに近づけます。
ルビー「ええ。」
ノエル「何がいいんだい?」
ルビー「2種類の接着剤なのよ。」彼女もさらに顔を近づけてノエルに話しかけます。
ノエル「何か難しそうだね。」
ルビー「そんなことないわ。」
ノエル「そ、そうか...。」ノエルはルビーの唇に見とれています。
ルビー「接着面に第1の接着剤をそれぞれ塗って、...」
ノエル「う、うん。」ノエルはますます自分の顔を彼女に近づけます。
ルビー「...そしてそこに第2の接着剤を少し落とすと、...」
ノエル「うんうん、...。」
ルビーは次第に近づいてくるノエルの顔に心地よさを感じながら話し続けます。
ルビー「...そ、それですぐに、...くっつけ...」
ルビーが気がつくと、くっついてきたのはノエルの唇でした。静かに目をつぶりノエルに身を任せるルビー。ノエルはルビーにキスしながらゆっくりと横になります。しかし、ルビーの背にはノエルの作った模型があり、ルビーはそれを押しつぶしてしまいます。
ルビー「きゃっ。あなたの大事な模型を壊してしまったわ...。」
ノエルは手で無造作に模型を横に払い、
ノエル「(息も荒く)...大丈夫。君の接着剤を使うから。」
ルビー「...うん...。」
2人は再びキスを続けながら床に横たわります.....。

 再び場面は地下鉄の中へ。時刻は6時35分。5時間半が過ぎました。フェリシティとジュリーの乗っている車両は、2人をそっちのけで彼らの恋人問題の話題でますます盛り上がっています。すっかり疲れてしまって何も言えない2人。黒人紳士は白人の婦人と地上の様子を心配して話し合っています。プロレスラー風の大男は自分の恐怖の体験を語っています。そこに、1人離れて座っていた足の不自由な黒人の老人が、ゆっくりとフェリシティ達の方を向いて、杖を頼りに静かに立ち上がります。騒然の中を割ってゆっくりと歩き、フェリシティとジュリーの席に向かう老人は、周囲の皆を黙らせるのに十分な雰囲気と迫力を持っていました。彼は車両の中央で立ち止まり、ゆっくり支柱につかまってから2人に向かって話しかけます。
老人「(ゆっくりと重い声で)...わしが思うに、...君たち2人は、...初めから親友でなかったのだ。...」
フェリシティが反論します。
フェリシティ「...で、でも、私はお互い親友だと思っていました。...」
老人「わしの考えが正しいなら、...いや、正しいと思うが、...君たちは本当に独りぼっちのときにお互い出会ったのだと思う。...何もかもいやになった、絶望的なときに。お互いが親友を必要としているときに。...そして君たちには共有できるものがあり、親友として身を委ね合いはじめていた。...しかし、それはきっとまだ時期尚早だった。そうじゃないかね? ...君たちの得たものは親友という言葉ではなかったからだ。...」
フェリシティとジュリーは考え込んでいます。老人は続けます。
老人「...わしにも63年間付き合った親友がいた。小さい頃より一緒に遊んだ親友が。...共に戦争にも行った。...63年間だ...。これでわかるだろう。親友というものは"得る"ものではない。"なる"ものなのだよ。1、2年付き合ったところでそうなれるものではない。...それはただできあいの付け焼き刃で、友情というものだ。友として付き合って、時間をかけていくことで初めて価値あるものになる。...つきあい始めて1年後に、今日のように皆からいろいろ言われ、...たとえここでいろいろな真実がわかったとしても、...それは試合の終わる前に最終得点を探し回るようなものだ。...わしは、...君たちは初めから親友でなかったと思う。...」
的を射た老人の言葉に、フェリシティは黙ってうつむきます。そしてジュリーの方を振り向きます。ジュリーはフェリシティの目をちらっと見たあと、老人の言葉に賛同するように黙って軽く頷きます。老人は再びゆっくり歩き席に戻ろうとしますが、急にフェリシティたちの方を振り向き言葉を続けます。
老人「...おそらく、君たちはどちらかの道を選ぶだろう。自分たちが思い描いていた友情を築くために君たちなりに時間をかけていくか、あるいは今の友情を思い出とするか...。...思い出は、結局は何も残らないものだ。...」
そう言い終わると、老人は何事もなかったかのようにゆっくりと席に着きます。すると突然車掌のアナウンスが流れ、事故の処理が終わったことが告げられ、地下鉄が動き出します。
考え込みながらもちょっと安心したフェリシティとジュリー。他の乗客からも思わず笑顔がこぼれます。

 地下鉄が最寄りの駅にようやく到着し、ドアが開いて乗客が降り始めます。
フェリシティとジュリーが降りようとすると、先に降りた黒人紳士が声をかけます。
黒人紳士「じゃあ、2人ともがんばれよ。」
フェリシティとジュリーは笑顔で頷きます。
フェリシティ「ありがとう。あなたも。」
と、そこに弁護士のジャッドが自分の名刺を黒人紳士に差し出して、
ジャッド「やあ、何かあったらここに連絡してくれ。いいかい?」
紳士は苦笑しながら「わかったよ。」と言います。
ジャッド「じゃ。」弁護士は急いで階段を上っていきます。白人の婦人がフェリシティとジュリーを引き留めます。
白人婦人「あなたたちならきっとうまくいくわ。忘れないでね。」
ウォークマンの若者が通り過ぎざまに2人に言います。
若者「あの歌、本当にリアルだったぜ。」
ジャンク品売りの男もまだ商売っ気たっぷりに、
男「傘、5ドルだよ! 外はきっと雨だぞ。傘が5ドルだ!...」と言って通り過ぎま、2人は笑います。
 2人が階段を上り地上に出るとフェリシティが開口一番、
フェリシティ「はあ! 空気がおいしいわ。」といいます。お互い立ち止まって回りを見回した後、お互い恥ずかしそうに見つめ合います。
ジュリー「...大変な1日だったわね。」
フェリシティ「本当!。信じられないわ。」
ジュリー「この町にはいろいろ変な人たちがいるのね。」
フェリシティ「...私たちもそうよ。」
ジュリー「...そうね。」
ちょっとためらいながらフェリシティが言います。
フェリシティ「...ねえ、もしよかったら、...コーヒーか何か飲んでいかない?」
ジュリーはちょっと考えた後、
ジュリー「...ううん、今日はいい。もう帰るわ。...それじゃ。」
フェリシティは笑顔をジュリーに見せますが、ちょっと寂しい様子。ジュリーはギターを抱え帰途につきます。しばらく彼女の後ろ姿を見送った後、フェリシティも自宅に向かいます。

 その夜、自分の部屋でフェリシティはボイスレターを吹き込んでいます。
「...ニューヨークの地下鉄の中でジュリーと私は何時間か同じ時を過ごしたけど、...私たちはうまく仲直りできなかったみたい。私が彼女にしたことは、...彼女に許してもらうようお願いするしかないけど...許してくれるかどうかは彼女次第のような気がする。...それでも、たとえ私たちが親友でなくても...彼女がいないと寂しいの...。」
そこにドアをノックする音がします。フェリシティは録音をやめて、「どうぞ。」と言います。
入ってきたのはルビーでした。
ルビー「あ、先輩ここにいたんですか。いったい何があったんですか?」
フェリシティ「...地下鉄事故で閉じこめられていたのよ。」
ルビー「(疲れた顔に喜びを隠しきれず)よかった! もう、ノエルって、とっても素敵なんですよ! はあ!。」
そしてフェリシティに近づき隣に座ります。フェリシティも彼女の嬉しそうな表情に微笑みます。
ルビー「私、彼から離れられなくなりそう。彼って、ちょっとおっちょこちょいで、グラフィックデザインをやっているおとなしいタイプなのに、とっても逞しくて...こんなの初めてです。」
フェリシティ「そ、そうね。彼は素敵だわ。」
ルビー「それに、とってもキスが上手なんです!」
フェリシティ「そう...。」ちょっと返事に困った様子のフェリシティ。
ルビー「先輩とノエルは友達ですよね。でも、今話したこと、絶対誰にも言わないで下さいね。ややこしくしたくないんです。」
フェリシティ「ええ、わかっているわ。」
ルビー「彼って本当に熱いんです! はあ。...」
フェリシティはちょっと唖然としてしまいます。ルビーがそれを見て、
ルビー「...どうかしました?」
フェリシティ「(気を取り直して)い、いえ...。何でもないわ。よかったわね。」
ルビー「ええ!」
ルビーは立ち上がり部屋を出ようとします。
ルビー「本当に先輩が来なくて助かりました! ありがとうございます!」
フェリシティ「(笑顔で)...どういたしまして。」
ルビーが出た後、フェリシティはちょっと苦笑しながら大きく頷きます。

 一方、この時パーティ会場では、ベンとマギーが楽しく談笑しています。2人共きちんとしたスーツとドレスに身を包み、本当にうち解けた様子。

 さらに場面は、翌日の近代美術館の写真展覧会場に変わります。フェリシティはプログラムを片手に写真を見ています。彼女はカメラの前に大きく左の手のひらを見せ、何かを遮るような姿をした男の写真を見つめています。と、そこに後ろからジュリーがやってきます。フェリシティはジュリーに気づきますが、目を合わせられません。
ジュリー「...あの歌は本当に下品だったわ。」
フェリシティ「...ええ、ちょっとね...。...でもあなたの言うように、言論の自由だから。...」
ジュリー「...もう二度と歌わないから。」
フェリシティ「...ありがとう。...」
ジュリー「この写真、ほんとにすごいわね。」
フェリシティ「本当に...。」
2人の仲違いをストップするかの如く左手を広げたその写真は、フェリシティとジュリーを釘付けにしていました。