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遊月の俳句 < hajko >



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2001年1月

やはらかに豆は煮えたり冬うらら

寒風を苦笑いつつ二人旅

もがり笛海峡の波白く跳ぶ

街路樹の電飾それぞれの聖夜

降る雪や電話の声の遠くなり

寒々とひそめし眉の細さかな

元日の京町ときたま靴の音

炬燵寝の顔にすり寄る猫の鼻

早朝のコンクリートから息白し

粉雪や路面に風を描きけり

父と娘が子どもではしゃぐ雪の朝

雪の足跡を残して晴れていく

ひよどりは冬の姿で鳴いている

珈琲の湯気北風は窓をうつ

冬の日の水の枯れたる井戸の底

さえざえと吾が行く道は続くなり

紙つぶてとんであなたの胸を撃て

麦の芽の少し伸びたる日和かな

駅前の駐車場にて春を待つ

日脚伸ぶするりと脱皮しておこう



2001年2月

春隣目覚めぬ父の頬の髭

読経和す中に聞こえぬ父の声

うたた寝の母の小さき春立つ日

日めくりがその日のままに父の部屋

カラコロと笑う声して二月かな

早春の道一歩ずつ一歩ずつ

野薊の棘触れしより無口なり

軒先に懸けたのはだれ春満月

自転車の老嬢凛と春帽子

春寒やひよどりの声耳を刺す

はらわたを刻んで焙る花芽どき

眼裏に影光っている春の朝

明星のしたたるほどに春の宵

如月や残る日数を数えつつ

テーブルにココア置かれて灯ほのか

バックパック弾み受験の朝の駅

青空の向こう頑張れ受験の子



2001年3月

知らせ待つそれぞれに降る春の雪

遠くへと続く線路と菜の花と

しゃぼん玉に命吹き込む子らのあり

菜の花を摘んでカウントダウンかな

卒業の子はベッドにて答辞読む

詩をつむぐ君のベッドに春陽射

さえずりや今日から部屋の模様替

家々にアンテナ光る春の鳥

紫木蓮二軒隣は白木蓮

亡父の声に送られ春の闇

疲れたら背骨をはずす朧の夜

硬質の優しさで編む鳥かご

一夜の嵐あけて春の残月

花冷や強くあれよと念じつつ

弾けつつ揺れつつ春の髪の色

ほとばしる想いのごとく雪柳

花時にきて花時の別れかな



2001年4月

墓掃除終え母の摘むふきのとう

納骨の父の墓にも春の雨

初燕桜の空を抜けてくる

花色のこだまのとどく春の空

便箋のインクの色や風光る

想い出のページにはさむ栞かな

ふかふかと真昼の桜一人占め

春河原交わす子の声鳥の声

車いす漕いで笑ってぐんと春

悲しさは君の尻尾がゆれる程

春昼の飯を一人で喰う男

学舎の灯に浮かぶ桜かな

遊園地ひとりで歩き続ける子

春風や電子メールの運ぶもの

麦の穂がみんなそろって空をさす

悲しみをかさね牡丹のこいむらさき

海空のかがやく隙を群燕



2001年5月

柿若葉から少年の声弾け

つつじつつじひねた娘の浮かれだす

城跡や緑の勝る今日の藤

線香の煙ひとすじ夏立つ日

川沿いの道に潮の香夏兆す

農道を車光りて麦の秋

柿若葉五枚あつめて買う記憶

気付かれぬように手渡す芥子の花

押入の奥で昔の僕に逢う

風吹かば飛ばしてみたきこころかな

牡丹散って確かに残す牡丹の実

網戸して聴く鳥の声街の音

板敷に猫の腹這う五月かな

若葉風洗濯物を高く干す

はつ夏の薫る日射を身にまとう

ちさきこと思うてばかり百日紅

脳幹に微熱こもれる卯月かな

紫陽花の葉は風にゆれ深呼吸



2001年6月

裏庭に気付かれぬよう枇杷熟るる

駅前の風は青葉を通りぬけ

どくだみを踏みて訪ねし人ならん

紫陽花の玉ふくらんで薄日さす

潮の香や青葉若葉に鳶の声

青葉風みな海をむく墓碑の群

さつき咲くほどよく小さき聖母像

殉教碑夏鶯の鳴くばかり

藩侯の墓石渡る蟻の道

灯台の海風に立つ夏薊

雀なき濡れ鳴きつのる梅雨の朝

少年の緑陰に読む航海記

黄昏れて語り続けし蛍かな

珈琲の琥珀に映る街の朝

梅雨晴間玄関で待つ傘と猫

草原を駆ける翁の黒き皺

少年とリュックを乗せて梅雨のバス

水暗く深く海月の叫びあり

夏薊棘に触れれば朝の露

すもも食ぶ午後の庭からはしゃぐ声



2001年7月

外に出でよ総身に受けよ夏嵐

ふるさとの水をたたえて植田かな

空蒼し白鷺一羽また一羽

エスカレータ追い抜いて夏の階段

茂りたる庭を歩めば亡父のこと

痩せ犬の黙せし後の夜の蝉

梅雨明けの雲のまぶしきアスファルト

蝉時雨集めて今朝の光かな

校庭は広々として朱のカンナ

眼裏に面影残り夏の朝

草原の牛の重さよ雲の峰

鶯と蜩を聴く夏の阿蘇

夕すげやここに天まで届く原

山裾を涼風渡る無人駅



2001年10月

夕暮れにあすの朝顔蕾みけり

ゆるやかに東へ流る秋の空

秋風に楽譜一枚とばしけり

十五夜の渡り廊下を教室へ

ほどけゆく飛行機雲よ秋の風

コスモスの海辺に霞むビルの群

花薄どこまで行けど花薄

コスモスを散らしミサイル飛び来たり

人恋しほのかに香る青蜜柑

少年の消えてしまいし花野かな

月光につつまれていて猫と逢う

悲しきは朝の目覚めの隙間かな

柿の実の熟れてますます深い空

物言わず鶏頭の色深くなり

この藪に入るべからず烏瓜

落日や金の薄の原をゆく

木の実落つ響きに山は深くなり

それぞれが風にうなずく薄かな

尾根越えて小鳥の群は風になり

角を曲がれば緑の子象秋深し



2001年11月

祖母語りつ孫応えつつ栗をむく

ふるさとの夜道あしたは秋祭

父に問うアジアの空の鰯雲

ぷるぷると月昇りゆく影の街

長き夜や電話の先の母の声

車椅子駆って球追う少年の眼

立冬やテレビの上の眠り猫

寒き夜の人の声するガラス窓

草の実のわけを猫から聞いている

小春日や横断歩道の忘れ靴

カチカチと振り子の刻む冬木立

彗星の塵に飛び込む冬半球

冬の流星見上ぐ少女の夢よかなえ

小春窓はずむ言葉とほほの色

珈琲やマスクのうちに香りけり

月冴える最上階のタワーより

小春日や蹠(あうら)にやわき海の砂

街なかはみな着ぶくれて押しくらべ

はあと盗まれたカナリヤ檻の中

人の世の汚れ捨てつつ二度童子



2001年12月

枝にあまり山茶花の紅こぼれ落つ

加湿器やながれる刻(とき)のゆるやかに

冬の日に包まれており位牌かな

億万の落葉を喰らふバクテリア

冬晴や青ひと色の空がある

濡縁を拭く霜焼の手に力

若者に空ひろびろと冬の旅

鴨のすむ池あり八畳1DK

午後の陽の微かに凍る金の窓

街の音遠くひとりに冬野かな

凍て空やパシンパシンと屋根瓦

ダンスステップ踏みつつ越える黄泉の坂

冬の雲遠く離れてしまいけり

凍雲の低く鴎はなお低く

鮮やかに記憶のなかの冬花火

歳暮には関屋と母の電話かな

眼をだして蒲団のなかの朝である


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作成日 2003年8月15日