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遊月の俳句 < hajko >



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2000年3月

二ツ河歩け歩けと風光る

土手道を行く人とどむ土筆かな

春の陽が心をほぐす田んぼ道

雛飾る造り酒屋のにごり酒

さげもんを手縫いし母らの愛思う

花日和伸びしたねこのまた眠る

ねこ眠る頭隠して春の宵

軒下でねこニャアと泣く春の雨

ドリカムを聴きたく思う春の朝

春の雨「未来予想図」リピートす



2000年4月

花びらを吹いて楽しむ花見酒

常々の憂さは下界に山登り

夢見るや妻の寝顔の春炬燵

れんぎょうの陰に子ねこの見え隠れ

菜の花や友去りてなお日々はあり

打ち明けはすまいと決めて雪柳

たけのこを一つ掘りあげ深呼吸



2000年5月

柿若葉飛行機雲のぐんぐんと

窓越しに壁まぶしくて夏来る

梅雨寒や心に足らぬことありて

おはようと告げてたちまち風五月

笑わせてその身を揺らす若葉かな

真夏日や腹見せて寝る猫も居り

書を読むや猫の寄り来て風涼し

書を置きて見る窓越しの柿若葉

五月雨に心の澱も流したき

鬱々の想いは千々に青嵐

涼しげに紅残りたる白磁かな

薔薇の香や住まえる人も美しと

ジャガイモを引く子とヨイショと囃す子と

おだやかに亡き人しのぶ棉の花



2000年6月

茫々と生命はびこる夏の草

病棟のコンクリートや夾竹桃

一服の話題になりて柘榴咲く

ワイパーのリズム正しく梅雨に入る

茹で豆の緑やわらかランチ皿

麦焼きの土黒々と腹を割る

ひとつだけ渡せぬままで梅雨に入る

梅雨雲や濃淡ありて草深し

濡れ縁に四五日猫の居着きおり

梅雨の猫病みて少しを食べ余し

病み猫のなおすり来るや身の細き

水漬く田やつがいの鷺の後先に

梅雨晴やベッドにありてはきと答える

遠雷やわが内に潜む響きあり

夏草や修羅と化したる蝶ひとつ

***

草むらに白きレースの姫女苑

紫陽花のあふれる雨の堤かな

棉の花ともに愛でし子今は亡き

見渡せば衣更えして田は緑

国道を死に場所とされ蟇蛙

梅雨雲低くうつむいて人の列

ボタンひとつ外して夏至の風求め

水色と緑で描く梅雨景色

駅ごとに紫陽花を見る汽車の旅

検札の車掌きりりと夏の服

雨雲の低き青野を汽車走る

海空の混沌として梅雨の浜

海淡く梅雨雲を行く連絡船

黒南風や駅頭帽を深くして



2000年7月

ねぢ花や想い真直ぐに成りきれず

梅雨深し濡れた鴉の鳴き騒ぐ

雀躍る口に余れるばった食み

猫寂し吾の素足に枕して

雷鳴に風立つ街や雨匂う

雷鳴やすっくと猫の身を起こし

天界のロック楽しき雷雨来る

水晶の砕け散りたる夏の河

鬱々と雲の閉じたり梅雨の空

草はらや眼を閉じ夏の声を聴く

連れ合って楽しく飛ぶな揚羽蝶

***

ひと言に笑顔の戻る梅雨の明け

もう少し寝かせてほしい油蝉

窓にきて何処へさそう黒揚羽

雲の峰かなしいほどの藍の中

夏草や名も無き草は無いのです

片蔭や野良の子ねこの寄り添いて

庭涼し子ねこ三匹朝ごはん

西日射す四畳半では逃げきれぬ

病棟の壁に紅さす夾竹桃

窓あけて風をいれるや蝉の声

夏草の高くて君を見失う

仰ぎみる吾には遠し雲の峰

海空の青より生まれ夏の雲

蒼穹の隠すものなし青田風

会場へ続く人々青田波

子らの声車内を駆けて夏休み

潮の香や真夏の出島表門

夏の雨照るあお瓦あか瓦

いくさ火を知らずことしも夾竹桃

閃光のなぎ払いけり蝉時雨



2000年8月

自分らしく自分らしくと蝉時雨

迷い蝉網戸に鳴いて飛び去りぬ

生命あるものみな生きよ蝉時雨

鉄塔に朝日照りはえきょうも夏

教室のしばし賑わい雷走る

肝臓をかかえて今朝の蝉時雨

窓の下はなしとぎれぬ夜の秋

この町が君の住む町芙蓉咲く

廃線の駅舎ことしもカンナ咲く

門火燃ゆ子らもならいて手を合わす

団欒にかえりみされず盆の月

ここはふるさと母の肉じゃが

ひげそりの二つ並んで盆の朝

薄明にかなかなかなと秋のくる

星流る満たぬ想いのまたひとつ

芙蓉咲くふるさとの家ひとの住む

貴婦人の血潮とみえてカンナの緋



2000年9月

戸をあけて猫のたじろぐ残暑かな

のほほんと生きてみようか秋のかぜ

新涼や赤子ときどき眼をひらき

朝風にきらきら揺れて草の露

新涼の窓は開いたままにして

もう少し吹かれていよう秋の風

爽やかにひと日をはこぶ朝の風

無きほどの風のさやかに白露かな

そよ風のほほにさやけき白露かな

きりぎりす歌い暮らして死ぬもよし

雲間ゆく無音の機影秋嵐

秋の蝉きょうは鳴かなくてもいいよ

起こされて眠れぬ夜半の秋嵐

群雀雲に散らして秋嵐

路上死の猫に供えん彼岸花

天高しあおぐ心も伸びをして



2000年10月

秋晴や朝のバス停まで二人

猫の尾を真直ぐに立てて秋の風

秋草の並び見送る無人駅

新しき炬燵蒲団の硬さかな

夕暮れを襲う茜の鰯雲

月の舟明星ひとつ乗せてゆく

朝霧や慣れたる道を見失い

アンテナに鵯鳴いて空の藍

さよならの空に真っ赤な鰯雲

手のひらに熟柿となりし我が心

わがままなゆで玉子にも秋の風

片恋の三角定規星流る

秋の田にブリキの兵隊鎌を研ぐ

コスモスのあふれて闇き難破船

少年のポケットより出す秋の虹

***

コスモスの色薄くなる帰り道

目つむりて闇をみている夜長かな

天空に躍る人魚のうろこ雲

鳥の声まねて猫鳴く秋の窓

夕闇の交差点にも虫の声

秋日和ベッドに寄りて語る子ら

団体の案山子の守る田んぼかな

枝先に揺れて弾けぬ石榴の実

秋の日のクロワッサンの微苦笑(にがわらい)

猫抱けば瞳の中の十三夜

ほろほろと炎をあげて曼珠沙華

秋の日の折れ線グラフ抱き合えり

少年をレモンの眼して少女見る

星月夜温もり残す屋根瓦



2000年11月

秋空の切取線はまっすぐに

ふるさとのくんち囃子の節回し

屋根越えてくんち囃子は近づけり

ふる里に父母居ます木守柿

百舌鳴いている古ぼけた曇空

夜の闇電照菊の一千本

その先が墨絵に変わる霧の朝

身に沁みてただ横顔をながめ居り

夕空に線香花火の大火玉

皿洗う澱む想いを流さんと

冬立つと言えども今日の陽射しかな

孤独なるもの集まりし冬銀河

生まじめに真下に落つる枯葉かな

吾ひとり汝もひとりゆく冬の月

葱刻む音の正しく朝来る

直線と鋭角で切る冬の空

凍月をかじる奄美の黒うさぎ



2000年12月

凍蝶の翅透きとおる世紀末

蟷螂の枯れて一輪挿にあり

けんか疵また舐めている炬燵猫

小春日や子猫三匹現れず

胸骨をよじる力や冬軋む

晴々と絶望はあり冬の空

銀杏散る冷たき朝の陽の中へ

北風や花一輪の揺れやまず

金網に枝を絡めし冬トマト

ねずみもちの実を摘みとって車椅子

ふるさとを見たくてめくるアスファルト

月冴える孤高の人に巡り合い

冬かもめ吾が手に触れし風の重さ

足元に島影を抱く冬の雲

具雑煮の具は色々で十二人

踏み出して非常階段冬の空

霧を産み生命眠らす冬田かな


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作成日 2003年8月15日