誕生日の贈り物

 

 

 

 赤い光が職員室に満ちるころ、ゼファーは本日の仕事をすべて終え帰り支度を整えていた。

 教師は精神的にも身体的にも疲れる職業である。その上、今年度から新しいカリキュラムが組まれて、教師陣はもとより生徒たちもなかなか苦労しているようであった。

 少し頭痛がする。彼はこめかみを軽く揉み解しながら鞄を取り、残っている同僚たちに挨拶して廊下へ出た。

「ん?」

 西日を反射して、薄紫の髪が窓からの風に弄られている。初夏に咲く花の淡い色彩を持つ人物で、彼をわざわざ待っているような相手は一人しかいない。

「ルシード」

 近寄っていって呼びかけると、ルシードはいつもの仏頂面で振りかえった。

「遅ぇぞ」

「だったら、先に帰っていればいいだろう。今日は別に、約束などなかったのだから」

 ルシードはこの学園の大学部に所属している。教師と学生という異なる肩書きを持つ二人だが、出身地が同じ幼馴染みなのだ。互いの時間があいたとき、二人で出かけることもしばしばある。けれども、今日はその予定はなかったはずだった。

「なんだよ。別に約束がある日じゃねぇと会っちゃいけねぇってことはないだろ」

「それはそうだがな。それで、何かあったのか?」

 並んで歩く二人の青年に――主にゼファーにだが――すれ違う生徒たちが挨拶してくる。それに短く返事しているうち、玄関ホールまできてしまった。それで、流れのままいっしょに帰ることにする。

 結局ルシードはゼファーの質問に答えず、校門を出て駅に向かう道の途中でも彼らはあまり話をしなかった。

 それぞれ利用する電車が違う。上り電車のホームへ行くためにゼファーが階段を昇りかけたところで、

「……ゼファー」

 ルシードはバッグの中から、小さな紙袋を取り出して、無言で彼に手渡した。掌に伝わる感触で、どうやらそれが本らしいと見当をつけた彼は、やはり何も言わずにルシードを見返した。

「もらったんだけど俺は使わねぇから、やるよ」

「いいのか? ミッションでは何がいつ役に立つかわからんぞ?」

「うるせぇな。やるってんだから素直に受け取れよ。じゃあな」

 何やらそそくさとルシードは去ってしまい、彼は肩をすくめてその袋をそっと鞄の中に落としこんだ。

 

 家に帰って、ルシードの行動の意味がやっとわかった。

「これをもらうはずはないだろうに。下手な嘘をつく奴だ」

 何も印刷されていない紙袋の中から出てきたのはやはりソフトカバーの本で、ゼファーが読んでみたいと思いつつもなかなか購入する機会がなかったものだった。

 ミッション授業のために各部・同好会からさまざまなものが生徒に支給され、生徒たちはそれを互いに交換している。文芸部員からは当然小説がもらえるが、やはり支給品であり古い本がほとんどだ。そんな中でたまたまゼファーの欲しい新刊がルシードの手にわたったとはまず考えられない。

「今度、どこかで夕食でもおごるか」

 素直でない幼馴染みの青年の顔を思い浮かべ、彼はくすりと笑みを漏らした。

 

 

 


ゼファー誕生日おめでとう、のはずなんですが……。

悠久シリーズの新作の発売日だ、としか覚えてなくて、

一日遅れてしまったのでした……。

新作『悠久組曲』発売ということで、その設定を使わせて

いただきました。教師と学生の間柄でも、

ルシードとゼファーはいいコンビです(^^)。

 

 

 

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