Act 2.魔法盗賊団
一夜明けた日の正午、ルシードたちは一捜、二捜のメンバーとともに警護の仕事についていた。新市街のアクア宝飾工房からボジェーロ百貨店までの道の要所要所に、目立たない私服姿で保安局員が張りこんでいる。もちろん、<ブルーフェザー>のメンバーも同様だ。彼らは、アレクトール広場寄りの場所に、配置されている。
「(なあ、ほんとに昼の十二時なの? 夜じゃなくて?)」
「(そうだって。何回説明すりゃいいんだよ)」
「(だって、どう考えても変だよ。あのアスカリトだって、夜に出てきたじゃない)」
「(そうだよね。なに考えてるんだろうね、その……)」
「(魔法盗賊団ドラグニア、ですよ。バーシアさん)」
張り込み中なので、こんなことを大声で話すわけにはいかない。ルシードたちは世間話でもしている風を装って、ひそひそと会話していた。
「(まあ、ビセットの言うこともわかるけどよ。まさか一捜、二捜の室長が二人とも十二時間も間違えるなんてことはねぇだろ)」
「(うーん、そうだよね。ヴァレス室長もビノシュ室長も優秀だもん)」
「(うちの室長とは大違い)」
「なんだとビセット!」
「(せ、センパイ声が大きいです!)」
昨日、書類ではなく直に事務所に持ちこまれた任務は、前述のボジェーロ百貨店とアクア宝飾工房の護衛だった。他の街で最近になって現れた魔法盗賊団が、二つの店を狙っているというのだ。予告状を受け取ったそれぞれの店長から通報があって、以前の盗賊団の凶悪な犯行から鑑みて二捜の他に一捜、四捜も出動ということになった。
「(かなり強力な魔法を使う連中だってね? でもさーなんで真昼間に出るんだろうな)」
いきなり割り込んできた声に、一同はのけぞった。まったく気配を感じさせずに、彼らの後ろには、茶色の三つあみを背中にたらし、野次馬根性を碧の目にいっぱいたたえた梓が立っていた。
「(あ、あんた……)」
「ん?」
(た、ただものじゃない……!)
メンバーの考えなどまったく無視して、彼女はにこにこしている。
「……お前なぁ。俺たちについてくるなって言っただろうが!」
真っ先に着れたのは、当然の成り行きながらルシードだった。彼は昨日のうちに、彼女の申し出を拒否していた。
それをさらりとかわして、梓はほほほとか笑う。
強者だ、と誰もが思った。
「別に、今日は<ブルーフェザー>の取材じゃないもん。捕り物の取材だもんねー」
「だからっ! あぶねーって言ってんだろ! 相手は魔法も使う盗賊団だぞ!」
「そういうやつらから一般市民を守るために、保安局がたくさん動員してるんでしょ?」
「――っっっ!?」
ルシード、爆発寸前。その気配を敏感に察知し、フローネがあわててフォローに入った。
「あの、梓さん。それは確かにその通りなんですけど、今日はやっぱり危ないんです。取材は後ほど必ずお受けしますから……」
「こらフローネ、勝手に決めんな」
「お前らっ!」
またしても、会話に乱入してきた者がいた。
「何をやってるんだ! 盗賊団が現れたんだぞ! もたもたするな!」
一捜のレスターだった。あいかわらず嫌味な調子で言いたいことを言って去っていく彼を睨んでから、<ブルーフェザー>も表情を引き締めて走り出す。
「あっ、ちょっと!」
あっという間に置き去りにされて、梓は一瞬ためらったが、すぐに彼らのあとを追いかけた。
――断られたって、言うこときくわけにはいかないんだから。
足腰だって、こういうときのために鍛えたんだ。それに、今まで平和に書いてきたわけじゃない。なんたって、わたしの担当は特別だから。
それにしても、魔法盗賊団とはね。ちょっと皮肉なものを感じるな。だけど、私だってやつらがこんな昼日中に出る理由は不審に思っている。ボジェーロ百貨店とアクア宝飾工房は、どちらもシープクレストじゃ有名な店だ。街の人間がほとんど利用するし、盗まれてしまったときの被害なんて想像するのも恐ろしい。
保安局員たちは、同じ方向に走っていく。さすがに足が速くて、必死に追いかけているうちにたどり着いたのは、アレクトール広場だった。
ますます変だ。こんなところにどうして?
「あいつらだ!」
誰かが叫んだ。でも、言われるまでもなくどれが盗賊なのかすぐにわかった……。
「うっわ、あからさまー」
ビセットの一言がすべてを物語っていた。本当にその五人組みはあからさまだった。上から下まで黒ずくめで、物騒な刃物とかこれ見よがしに持ってるし。もしかしてこいつら、別な意味で有名か?
しかしここはプロの保安局員たち。突っ込み入れたいくらい間抜けなやつらを、てきぱきと包囲していく。
「見ての通り、お前たちは完全に包囲された。武器を捨てろ」
ダンディなヴァレス室長さんが、包囲網から一歩進み出た。何気ない歩き方なのに、どこにもすきが見られない。眼光は鋭く、小物だったらまずその視線だけで戦意も抵抗する気も失せるだろう。
つまり、ひるまなかった黒ずくめ五人は、そこそこ強いつもりでいるというわけだ。
「まだだ。まだ捕まるわけにはいかん」
またしても、悪役お馴染みの悪あがき台詞。いいかげん頭が痛くなってきたけど、わたしは物陰からこっそり様子をうかがいつづけた。捕り物はこれからだ。
「俺たちは、魔法盗賊団だ!」
あああああああ! わけわからんっ! 何が言いたいんだ悪役たち!
「なに言ってやがるんだてめぇら!」
あ、おんなじこと考えてたんだ、ルシード。気の短い綺麗な色の髪をした青年は、すでに剣を抜いて戦闘体制に入っている。続く仲間たちも同様だ。魔法能力者が相手なら、彼ら以外に戦える者はいないってことか。
「我らの恐ろしさ、思い知らせてくれるわ!」
「行くぞ、みんな!」
とてつもなく陳腐な敵のリーダー格の台詞が、戦闘合図となった。広場を囲んでいた局員たちは、迅速な動きで後退していく。魔法が飛び交う戦いに巻きこまれたら、確かにひとたまりもない。でも、私は動くつもりはなかった。この戦いを、見守らないとならないんだ。
すさまじかった。魔法と魔法との戦いがこんなにすごいなんて、知らなかった。幸い安全な隠れ場所から少しだけ顔をのぞかせて、わたしはただただ<ブルーフェザー>の動きに魅入った。
「ヴォルケイノ!」
「サイクロン!」
ビセットとフローネが、それぞれ強力な炎と竜巻を生み出した。黒ずくめたちは悲鳴をあげる間もなく強い力に飲み込まれる。
(すごい!)
強い力。手がかたがた震える。手だけじゃなく、身体全部が。
(わたし……わたしは、わたしは!)
赤、青、緑、そしてオレンジ色の光。周りすべてを塗り替えて、飲みこんで、真っ白にしてしまう――。
「よっしゃあ!」
嬉しそうな、会心の叫びでわたしははっと意識を取り戻した。
すでに、戦闘は終わっていた。始まってから三十分くらいしか経っていないんじゃないだろうか。
「よし、こいつら縛り上げるぞ」
あんな激しい戦いのあとなのに、<ブルーフェザー>のメンバーは一人も動くのをやめようとしない。黒ずくめたちを次々と拘束して、やむをえず被害を受けてぼこぼこになってしまった道の片づけまでしている。もちろん、本格的な修繕はあとでどこかの部署がやるんだろう。でも、彼らの行動はわたしにとって驚きで、喜びだった。
(あの人たちは……とは違う)
魔法をただの力だって思ってないんだ、彼らは。何かと戦うし、物を傷つけるけど、それだけじゃない。
(やっぱり、わたし間違ってなかった)
それを話すつもりはなかったけど、どうしても一言だけ言っておきたくて、わたしはよっこいせと立ち上がった。すっかり身体が強張ってしまっていた。
(え!?)
気がついたのは、奇跡に近いことだった。伸びているはずの黒ずくめの一人が、少しだけ顔を上げていたのだ。その口は、小さく何かを唱えている。さらに、空気を震わせる独特の波動!
「危ないっ!」
わたしはほとんどなにも考えず、飛び出していた。ルシードたちが私を見ている。
(間に合わないっ!?)
「ブレイズ!」
そして、どかんと炎が爆発するまで、わたしは自分が何をしたのか認識できなかった。
『悠久幻想曲3』の長編の続きです。
今回ちょっと急展開がありましたね。でも、ゲーム中の
事件もあんまり長くないので、短くするために(^^;)。
一人称は久しぶりです。この形式だと、つい秘密をばらしそうに
なっちゃうんですよねぇ(おいおい)。
そしてなんだか、キャラクターたちの影が前以上に薄い……。