Act 1.日曜日の来訪者たち

 

 

 湾岸都市シープクレストを東と西に分ける、バードソング・リバー。晴れた日にはきらめく帯を思わせるその川の中州に、保安局のとある部署は存在する。保安局刑事捜査部第四捜査室、通称<ブルーフェザー>。担当する事件は、魔法や魔物に関するもので、そういったものが減少してきた近年ではあまり注目されない。

 なので、のどかな日曜日の昼下がり、のんびりと食堂で新聞を読んでいた室長のルシード・アトレーは、唐突な来訪者を見た途端茫然と立ち尽くしてしまったのだった。

 予約なしの客その一は、第一捜査室のヴァレス。知的な額と鋭い眼光の、いかにも切れ者といった風情の男だ。客その二は第二捜査室のビノシュで、こちらは長い黒髪の優雅な物腰の美女である。それぞれ、一捜と二捜の室長であり、肩書きだけはルシードと同じだが、当然新任の彼よりもキャリアは長い。

 まさか食堂で話をするわけにもいかず、ルシードはティセに茶の用意を頼むと二人の客を二階の談話室に案内した。

 メンバーがほとんど街で自由行動を取る日曜日の事務所は、静かでがらんとしている。平日の喧騒がないだけよかったと、ルシードは内心で他のメンバーに怒鳴られそうなことを考えながら、ヴァレスとビノシュにソファを勧めた。

「で? 本部じゃなくここに来たってことは、よほど内密の話なんだろう?」

 別に機嫌が悪いわけではなく、この口の悪さは彼の生来のものである。何度か合同捜査をしてそのことをよく知っている二人の室長は、注意するわけでもなくただうなずいた。

「「実は……」」

「……」

 ヴァレスとビノシュの声が重なった。二人は驚いて顔を見合わせたが、一瞬ののち改めてヴァレスが口を開いた。

「実は、合同捜査の依頼に来たんだ」

「は?」

「合同捜査よ。一捜と二捜、そして四捜とのね」

 間抜けな声を上げたルシードに、今度はビノシュが補足して説明する。

「詳しいことはあとで書類にして回すけれど、その前に<ブルーフェザー>のリーダーであるあなたに、先に知らせておくことにしたの」

「どういうことだ?」

 表情を引き締めてルシードが問いかけたとき、事務所の家事手伝い兼見習いのティセが、よたよたしながら三人分の紅茶のカップを盆に載せて階段を上ってくるのが見えたので、彼はあわてて手伝った。転ばれでもしたら大事だからだ。

 

 

 ――なんだって河の中州なんてところにこれがあるのか、わたしにはわからない。少なくとも、この街に来たときにはすでにここにあった。通称<ブルーフェザー>、正式にはシープクレスト保安局刑事捜査部第四捜査室、の事務所。河が氾濫したらどうするんだろうと思わずにいられない。まあ、それは置いておこう。

 さっきから、わたしはこの建物をずっと見ているのだが、二人連れの客はまだ出てこない。一人はなかなかダンディな鳶色の髪をオールバックにした男性で、もう一人は艶のある綺麗な黒髪を真っ直ぐに背中に流したろうたけた美女だった。並んだらとっても素敵だったけど、恋人同士には見えなかったな。

「ねえねえ」

 ぼけーっとしていた私の後ろ頭に、能天気な少年の声がぶつかった。

「うん? あ」

 振り向いた先にいたのは、パイナップルみたいな髪型の少年と、赤い帽子をかぶった女の子(だろう。スカートはいてるし)。二人はわたしのことを不審そうな目でじろじろ見ている。

 ま、しかたない。黄色のナップサック背負って<ブルーフェザー>事務所の前で何時間もぼーーーーーーっとしてる女なんて、思いっきり不審人物だ。

「何か用ですか?」

 帽子の子が、それでもそう訊いてきた。偉い偉い。

「用っていうか……。あなた、<ブルーフェザー>の関係者?」

「そうだけど、お姉さん、誰?」

 今度は、元気のよさそうなパイナップル少年だ。

「ええと……。どうしよう」

 いちおう、内密にことを進めたかったんだけど。このまま高笑いでもして走り去るべきだろうか。いやいや、それではまじで保安局に捕まる。まずいよな。

「なんか怪しいね。どうしようか、ビセット?」

「ここはまず、取調べだろう」

「おいおい」

 やっぱ、保安局のお荷物部署だの、給料泥棒だの言われてても、<ブルーフェザー>も保安局に変わりはない。とっ捕まったら、いろいろ面倒だよなぁ。しかたないな。

「わかった。降参。わたしは梓(あずさ)。フルネームは梓・フロンティア。これでいいでしょう?」

「駄目駄目。職業と年齢と、ここで何をしてたのかも言ってもらわなきゃ」

 くう、パイナップル少年ビセットくん、以外にやるな。

「あー、それ話すんなら事務所に入れてほしいんだけど。君らに言ったら、室長とか他の人にも教えなきゃならないだろうからね。いい?」

 ビセットくんと赤帽少女は、目を見合わせてひそひそモードに入った。でもすぐに、二人はわたしの前に立って手招きした。

「今お客みたいだけど?」

「えっ、お客?」

 念のためにそのことを確認したが、二人は来客のことは初耳だといわんばかりの表情でドアにかけた手を引っ込めた。

「そう。渋いダンディな男の人と、知的な美女。そう言う知り合いいる?」

「渋い男の人と……」

「知的な美女……?」

 反芻する彼ら。先にげんなりとした顔になってその場にしゃがみこんだのは、ビセット少年だった。

「なあ、ルーティ。俺ものすごくいやな予感すんだけど……」

「うん、あたしも……」

 やっぱり、心当たりはあったようだ。私は単なる興味から、彼らにその心当たりを質問してみることにした。

「で、誰なのその二人って?」

 赤帽少女ことルーティちゃん、答えて曰く。

「……一捜と二捜の室長……」

「俺らなんかやったっけ?」

 ――なるほどね。

 わたしは客の名前をあっさり推理できて、満足しながら二人を促して事務所へ足を踏み入れたのであった。

 

 第四捜査室の新任リーダーは、なんとわたしよりも一つ年下だった。淡い紫の、少々くせのある髪を長く伸ばし、首の後ろで無造作に縛っている青年ルシード・アトレーがそうなのだと紹介されたとき、私は思わず友好的に微笑んでしまったのだ。彼の、とても勝ち気そうな赤茶の瞳が好印象で。

「で?」

 ルシード・アトレー室長は、とっても無愛想な口調でそれだけ言い、あとは口を開かず視線だけでわたしに説明を促した。

(楽しい人じゃないの)

 そんな感想を抱きつつ、わたしはまず自分の名前を名乗った。

「そちらのお二人にはさっき言ったけど、わたしの名前は梓・フロンティア。職業と年齢と、ここで何してたかを言うんだったよね?」

 ビセットくんに向かって確認する。彼が大きくうなずいたので、わたしはその説明に入らせていただいた。

「年齢は今年で十九。職業はフリーライターだよ。何をしてたかって言うと、実は取材なの」

「取材ぃ?」

 ルシードくんとビセットくん、ルーティちゃんの声が重なった。あっはっは、予想通りの反応だ。

「取材って、まさか俺たちの?」

「うん。了解取らなきゃと思って来たはいいんだけど、お客さんみたいだったから外で待ってたの。んで、そのときにビセットくんたちに見つかってね」

 わたしは、さっきよりもずっと人懐こく笑ってみせた。

「そういうわけだから、協力をお願いします♪」

 一時的に取調室になっていた食堂に、見習いだというヒース色の髪の少女がお茶を注ぐぽこぽこという音だけが、しばしのどかに響いていた。

 

 

 


悠久幻想曲3の、長編に兆戦です。しかもオリジナルキャラまで

登場させてしまいました。ゲームでの主人公ルシードを

外から見てみたかったので。主人公を視点から追放するという

やつですかね。もちろん、ルシードではない視点からの

ビセットやルーティなども書いてみたいです。

 

 

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