The Knight & The Angel

「珍しいことしているな」
 来たなりにそう言った不躾者を、勇者シーヴァス・フォルクガングは睨みつけた。
 彼は剣の稽古中で、額から流れ出る汗を無造作に拭うと手にしていた剣を地面に突き立てた。
「珍しいものでも見ているような目だな」
「当たり前だろ。どこかの騎士団長ならいざ知らず」
 シーヴァスの声を受けた不躾者は飄々とした声で返す。
 当然だろう?とばかりに、彼は口元に笑みを浮かべた。
 そして、彼はシーヴァスに近づくと、地面につきたてられた剣を抜き、検分する。
「いい剣だな」
 さすが、大貴族のご当主様。
 稽古用の剣でも一般兵にはお目にかかれないものを使っている。
 彼、アレクスは感心したようにその剣に見入った。
「何の用だ?」
 まさか、この剣を見に来たわけでもなかろうに…。
 シーヴァスは、剣に見入っているアレクスに問いかける。
 すると、アレクスは、さも今思い出したかのように振りかえった。
「暇つぶしにな」
 ……。
 よりによって暇つぶしか。
 シーヴァスは、諦めたように息をついた。
「で、暇つぶしの相手にはなれたかな?」
「…まぁな」
 アレクスはにやりと笑みを浮かべる。
 その笑みに、シーヴァスはぞっとした。
 …何かいやな感じがする。
「これなんかどうだ?」
 そう言って、アレクスは手の中の剣を煌かせる。
「どうせ稽古中なんだろ?だったら、こっちの方が効率がいい」
 嫌な予感が的中し、シーヴァスは青くなる。
 だが、アレクスはそんなシーヴァスに気がつかないのか勝手に事を進める。
 そして、もう一本同じような剣はないかと、シーヴァスに問いかけてきた。
 ……冗談じゃない。
 シーヴァスは、その表情を曇らせる。
 こう見えても、シーヴァスは、騎士大国ヘブロン有数の剣の使い手だ。
 騎士団に入れば、それなりの地位につけるほどの腕と、そして地位を持っている。
 だから、アレクスの腕の程は知らないが、天使と本気で打ち合えるわけない。
 万が一、彼に怪我でもさせたら、彼の補佐の妖精たちに何を言われるか…。
「遠慮願う」
 だからその剣を返してくれと、シーヴァスは手を差し出す。
 だが、アレクスは剣を返そうとしない。
「負けるのが怖いとでも言うのか?」
「……」
 そんなわけあるか。
 シーヴァスが睨み付けると、アレクスは意地の悪い笑みを口元に浮かべた。
「あまり、俺を過小評価しない方がいい。こう見えても、結構強い」
「…ほほぅ。どのくらい」
 強い、という単語に思わず反応してしまった。
 こう言うところは、騎士道馬鹿の親友を馬鹿にはできない。
「レイヴから、三本に一本はとれる」
 アレクスの言葉に、シーヴァスは驚かせられる。
 あのレイヴから三本に一本とれるのなら、それはなかなかの腕だ。
 これは、天使だからと言って侮っていると、こっちが危ない目を見る。
「…その前に、アレクス。お前、レイヴと手合わせしているのか」
「ああ、時々」
 …レイヴ。
 シーヴァスはヴォーラスにいるはずの親友を心底恨んだ。
 アレクス曰く、レイヴとは何度か彼の稽古中に手合わせしているらしい。
「で、どうする?」
「…わかった。やろう」
 これは、拒否できなさそうだ。
 そう結論付けると、シーヴァスは演習用の剣を取りに壁際まで歩み寄る。
 そして、壁に立てかけてあった剣を手に取ると、構えた。
「じゃ、こっちからいくぞ」
 そう言うなり、アレクスはシーヴァスに向って走り出す。
 シーヴァスも気を引き締めると、アレクスの剣を受ける。
 …いい腕だ。
 しばらくアレクスと打ち合いながら、シーヴァスは、ふと思った。
 自分で言うだけのことはある。
 この腕なら、レイヴから三本に一本とれるというのは、あながち間違ってはいないだろう。
「!」
 アレクスの剣が、頬を掠める。
 まるで、考え事などするな、と言っているように。
 シーヴァスは雑念を振り払うと、アレクスに剣を突き出した。


 しばらく決着がつかないまま打ち合うと、互いの精神力と体力に限界がきたのか、どちらともなく手合わせは中断された。
 支え会うように、背中を合わせよりかかる。
「…言うだけは、ある」
「あ…たりまえだ」
 息も切れ切れに皮肉を言い合う。
 こんな時でも変わらない奴だ、とシーヴァスは呆れたように空を見上げた。
 どこまでも続く青い空が、なぜか気持ちいい。
 シーヴァスは額の汗を拭うと、口元に笑みを浮かべた。
 …久々に、楽しい時間を過ごせた。
 そう思えるのは、本当に久しぶりだった。
 シーヴァスは、今も背中ごしで大きく息をついている天使に心から感謝する。

…願わくば、この時間がいつまでも続くように。

 背中の向こうで、シーヴァスがそんなことを考えているなんて露知らず、アレクスはあがる息を整えていた。


                            fin

 

高乗様にリクエストという形で書いていただいた

お話です。ありがとうございました。アレクスは書きやすいときと

書きにくいときがあるので、大変だったと思いますが、

とてもかわいいお話でした。自分以外の方の

アレクスというのは、おもしろいです。シーヴァスとの掛け合いも

楽しくて、読み終えた瞬間私は悶絶してしまいました(笑)。

 

 

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