贈り物

 

 

 

「ここをこうして・・・」

 彼女は一人で何かをしている。よく見てみると、手元には毛糸玉が幾つか転がっている。頭の中で、彼女は繰り返し復習をしながらセッセと編む。ふと窓を覗くと、冷たい風が吹き抜けていく。彼女は思わず両手を擦り、息を吹きかけながら編物を進めた。もうすぐ、2月に入る。

 事の起こりは一ヶ月程前。元勇者のティア(グリフィンのみリディアを使用)が自分の兄グリフィンの元へ遊びに来た時の事であった。グリフィンはまだ眠っている為、彼女が一人でティアを迎えている。

 ティアは微笑みながら腰を降ろす。

「赤ちゃんができたってききました・・・お体、大丈夫ですか?」

 彼女はお茶を煎れながら微笑う。

「ええ。今のところは。ティアも元気そうでよかったわ」

 まだお腹は然程目立たないが、確かに自分とは違う命がそこにはあった。不思議な感じがする。

 これが、人間の女性の楽しみなのだろうか。

「はい。お兄ちゃんも忙しいみたいですね」

 彼女は口元を緩ませ、寝室の方へ視線を向ける。

「そうなの。・・・子供のために、今から稼ぐって・・・。色々と仕事を引き受けているみたい」

 静かに手作りのクッキーを彼女はテーブルの上に置く。

「だからちょくちょく来いって言ったのね・・・。ルシフェル様の事が心配だから」

 ティアは紅茶を口元へ運ぶ。

「あまり辛い事はしていないのに・・・心配なのね」

 約一年程前まで、元天使である彼女は幼い体をしていた。

堕天使の呪いだったのだが、その時にしなくともいい苦労をグリフィンと二人でしたせいもあるのだろう。

「一緒に暮らしてもいいですけど、二人きりなのをお邪魔するのも・・・」

 グリフィンは、彼女と二人きりの生活をとても大切にしている。その事をティアも分っているからだ。

「いいのよ。まだ、そんなにお腹も大きくないし・・・それは何?」

 彼女はティアの鞄からはみ出ている毛糸を発見する。ティアは鞄から取り出すと微笑う。

「2月14日はバレンタインデーですよね?・・・わたしも上げる人がいるので、作っているんです」

「バレンタインデー?」

「女性が、好きな男性にチョコレートをプレゼントするんですけど、今年は一緒にセーターもと思って」

 そういえば、以前にも二月位にグリフィンがそわそわしていた事があったような気がした。

「ルシフェル様?」

 彼女は真剣な表情でティアに詰め寄る。

「わたしにも、編み方を教えていただけませんか?」

 こうして、彼女はない時間を編物へ注ぐ。全ては愛するグリフィンを喜ばせる為に。グリフィンが寝ている時や、仕事に行っている時に何よりも優先でひたすら編む。

「もう少しで完成ね・・・」

 バレンタインデーまで一週間程になり、つい最近は眠る事をしない事もしばしばあるせいか、彼女は大きな欠伸をした。時計を見ると、そろそろグリフィンが仕事から戻ってくる時間である。

「・・・よいしょっと・・・」

 ゆっくり立ち上がり、作っておいたシチューを暖めようとした。火をつけ、再び椅子に座ろうと腰を降ろす。が、一瞬の内で目の前が暗くなる。咄嗟にお腹を抑え、彼女は床へ倒れてしまう。

「ただいまー・・・ルシフェル、腹減った・・・」

 シチューが温まった頃、グリフィンは帰宅をした。いつもだったら、居間にいる彼女がいない事を不信に思い、グリフィンは台所へと足を向ける。そこには、倒れている彼女がいたのだった。

「ルシフェル!!」

 グリフィンは慌てて彼女を寝室に運び、ベイオウルフの仲間に医者を呼びに行かせ、グルフィン自身は彼女の側にいるのだった。彼女は寝ていても、あまりいい顔色はしていない。

「どーして倒れて・・・ん?」

 グリフィンがふと目に付いたのは、ベッドの隅にある毛糸玉。幾つかあるが、どうしてあるのかはグリフィンには分らない。

 その後、医者が彼女を診るが、特に異常はなく、子供も無事である。寝不足による軽い貧血だった。グリフィンは安堵し、居間に行く。居間のテーブルを見ると、先程の毛糸と同じ色をした物で、何かを編んでいるような物が目に入った。

「・・・そうか」

 そういえば、最近彼女は何かを隠してやっているような場面を幾つか目撃している。このことかもしれない。彼女が必死になって編んでいる姿が、手にとるように分ってしまう。

「ルシフェル・・・」

 グリフィンは彼女への想いがいつも以上に募る。ちょうど、彼女が寝室で目を覚ます。

「・・・!!」

 いつの間にか、彼女の目の前にはグリフィンの顔だけがあった。

「グリフィン・・・??」

「今日位・・・いいだろ?」

「え・・・でも・・・今は・・・」

 戸惑う彼女を無理矢理抱きしめる。

「少しだけだから・・・な?」

 彼女は動揺するが、今のグリフィンはどうにもならない。水を得た魚のように、手のうちようがない。

 が、その時。

「お兄ーちゃーん!ベイオウルフの人から聞いて来たんだけどー!」

 玄関の方からティアの声が聞こえた。グリフィンは舌打ちをしながら、彼女の上から降り、玄関へと急ぐ。彼女は苦笑しながら、ベッドから出る。

 結局、ティアはその日のうちに帰り、グリフィンもその後すぐに眠ってしまう。次の日に彼女はセーターを編み上げ、十四日にチョコレートと共に渡すと、セーターの事を忘れていたグリフィンは狂喜乱舞したのは言うまでもない。

 

 

 


高橋怜様からいただきました。

赤ちゃんができると、きっと不思議な気持ちがするんだ

って思います。嬉しくて切ないような……。

生まれてくるまで、すごく楽しみなんだろうな。

ルシフェルちゃんもグリフィンも、

ティアもとても幸せそうなお話でした。

読んでるほうも幸せ(^^)。

怜様、ありがとうございました。

 

 

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