花束を君に

 

 

 今日は特別な日、嬉しい日。

 だから、とっておきの贈り物をしよう。

 

 まだほかほかと温かいお弁当を、それはそれは大切に扱って、リールは家を出る。そんな少年を見送るのは、快活な少女だ。

「気をつけてな、リール」

「うん、いってきます」

 優しい笑顔を自然に浮かべることの出来る少年。彼の仕事は、薬を商うことだ。まだ自分の店は持てていないが、彼の薬草を見る目は確かで、人当たりの柔らかな雰囲気は人を惹きつける。けれど、少女――ビーシアは知っている。彼が堂々と人の目を見ることが出来るようになったのは、つい最近なのだということを。そしてそれが出来るようになった瞬間を、誇らしく見つめていたのは彼女であった。

 白い羽を、いつもはらはらと散らせて泣いていた少年は、今は誰よりもすばらしい微笑の持ち主となった。

 

 フォスカリールは、朝一番に草原や森へ行き、薬草を摘んでから仕事へ行く。仕事場ではそれを煎じたり茹でたりして、立派な商品にする。まだ年若く少年としか表現できない彼ではあるが、薬に関する知識と腕は一流と評判が高い。もともと、天使であった彼の得意科目であったから、当然ではあるが。

 朝靄はもう今日一番の風に連れていかれ、一面の緑の原は爽やかに薫っていた。

「おはよう!」

 彼はよく通る声でまず挨拶した。翼はなくとも彼には聞こえるのだ。草の歌声、鳥のお喋り、そして風の笑い声、耳ではなく心で聞くことが出来る。

「今日も、君達の仲間を連れていくよ。僕と一緒に来てね。そして、苦しんでいる人の力になってあげて」

 そっと摘み取る草に語りかけながら、リールは籠をいっぱいにしていく。もちろん、愛しい少女のお弁当の入ったそれとは別にしてある。

「ありがとう」

 籠の中と野原の草たちに礼を言って、リールは立ち上がり、たたっと走り出した。

 この時期になってから、朝に訪れる場所が一つ増えていた。

「おはよう!」

 息を弾ませて、もう一度リールが挨拶をした相手は、大輪の太陽の花だ。

「ああ、君が一番最初に咲いたね。おめでとう」

 水色の瞳が細められたのに照れたように、花はさわさわと揺れる。リールはにこにこと、まだ開いていない蕾の一つ一つにも声をかけていった。

「もう少しだね。……あ、君は少し元気がないね? お昼になったらまたここに来るから、そのときに肥料をあげるね」

 ある人の話だと、植物達は、優しい音楽と言葉を好むという。彼はそんなことを少しも知ってはいなかったが、この花たちは彼に好意を寄せていたのだろう。街にある同胞よりもずっと早くに咲いていた。

「向日葵……ビーシアが喜んでくれるといいな」

 彼の表情は、ビーシアの名を口にするときに柔和な印象を増す。心の中も、ふわりと温かくなる。

 少し前、閉ざされた時間の中にいたときにも、彼はビーシアに向日葵を贈りたいと思ったことがあった。しかしそのとき彼女の腕に抱かれた花束は、華麗な薔薇であった。そのことを彼はずっと悔やんでいた。彼女に似合う花を自分で見つけていたにもかかわらず、赤い花の美麗さに迷ってしまったことが、今でも棘となっている。

(今度こそは、君にこの花を贈るんだ)

 青空と花の黄色が、瞳に鮮やかだ。

 

 

 リールが出かけてしまうと、特にすることがなくなる。以前の彼女ならば空き時間は武術の訓練に当てていたが、今は少し違う。

「……っと。出来た!」

 フライパンの中身を満足げに見つめて、ビーシアは大声で歓声を上げた。出来あがった料理は、昨日隣の女性に教わった一品だ。

「味はどうかな……」

 皿に盛って、一口、二口食べてみて、まあまあ美味しいことに再び彼女は笑った。

「これなら、今日の夕食に出しても大丈夫だな」

 自分でも、少し不思議な感じがする。少し前までは、こんなふうに料理のために一喜一憂することはなかったのに。

「リール、喜んでくれるといいな」

 これが彼女の一番の関心事だ。

 会ったときは、うじうじしていて泣き虫で、いらいらしたものだった。びっくりしたような大きな水色の瞳が、好きになったのはいったいどういうきっかけゆえだったのか。それはごく自然に、静かに忍び寄ってきていたので、気がついたときには恋をしていた。いつからなどと、考えてももうわからない。

(優しい奴だよ、ほんと)

 動かない植物にも、温かく話しかける彼を知っている。狂暴な動物に対しても真摯に対峙できる彼を見たことがある。それから――自分にとろけそうな笑顔を見せてくれる彼を好きだ。

(って、何考えてるんだ!!)

 自分の思考に思いきり赤面するビーシアであった。

 

 

「ただいま! お弁当美味しかったよ」

 夕日の光と一緒に、リールが家に入ってくる。彼はまず、第一声をこうやって始める。

「そう……よかった」

 ビーシアはそれしか返せない。言葉がつかえてしまう。

「あのね、ビーシア」

 夕食の準備を二人でしているとき、リールがもじもじと切り出した。

「何?」

「えっと、明日の朝、僕と一緒に来てほしいところがあるんだ」

「どこに行くの?」

「……まだ秘密」

「なんだよそれ」

 リールは、秘密を隠す者共通の、人の悪い含み笑いを押し殺そうとしている。そんな彼を見ているうち、自分までわくわくしてくるから不思議だ。

「じゃ、朝御飯は外にするか」

「うん、いいね!」

 ああ、この無邪気な仕草が自分を惹きつけたのだと、そのとき唐突にビーシアは思ったのだった。

 

 

 


4444Hitのきゃらめる様の

リクエストで、リールとビーシアでした。リール

でリクエストをもらったのは、実は初めてなのです。

嬉しい〜(^^)。しかし書いてるときになぜかリールが

すごくいい子だってことに気づいた私って……。

もうちょい早く気づけよな〜。

何はともあれ、きゃらめる様、どうもありがとうございました!

 

 

 

 

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