草原にて

 

 

 

 シーヴァスへ

 

 ――心配をかけたが、こちらで過ごすようになってから身体の調子はすこぶるいい。過労が原因だと医者は言うが、私は特に疲れるようなことはしていないはずだ。自家中毒だと私は思っている。精神が弱まっていたせいだ。

 ここでの生活について少し書くことにする。お前があとからラケシスを送ってくれたので、私は毎日夕食のあとに遠乗りに出かけている。とても夕日が美しい場所を見つけた。太陽が沈んでいく瞬間、最後の光は世界を真紅に染める。その赤は本当に燃えるようなのに、不思議と穏やかで静かで、優しいと感じる。赤は精神を高揚させる色なのに。そうして、赤が藍色に変化していく様をただじっと眺めているのが、私は好きだ。夜は闇、恐ろしい時間と人は言うが、闇は決して人に徒なすものではない。光の裏、対である闇が私たちを黙って包んでくれるからこそ、すべてがさらけ出され、絶えず動いていなければならない真昼にも歩いていられるのだ。ここへ来て、そんなことをしみじみと考えるようになった。

 お前は毎日、どう過ごしている? やはり変わらず、夜会や職務に追われているのだろう。静かな闇の中ですら光に取り巻かれていなければならないとは、酷なことだ。たまには気晴らしに、全力で草原を駆けるといい。私も最近、ついてこられるほどに乗馬に長けた相手がいなくて退屈している。気が向いたら、こちらへ来てはどうだ?

 それでは、またいずれ。 

                     マイア

 

 追伸 本当に、気が向いたらでいい。無理はするな。

 

 

 この夏体調を崩し、フォルクガング家の別荘に静養に行っている妻からの手紙を読み終えたとき、シーヴァスは苦笑を禁じえなかった。彼女の手紙はいつもそれほど長くないが、その分気持ちは多分にこめられているのだ。

「元気なようで、何よりだ……」

 ある朝彼女が突然発熱したときは、本当に狼狽してしまった。思い出すと赤面してしまうのだが、彼女の身だけがあのときの気がかりだった。結局その日は公務も何もかも放りだし、当のマイアにあきれられたのだったが。

 過労と診断されたマイアを、シーヴァスは半ば無理やりに別荘地に送り出した。彼女自身は自覚がないようだが、自分を押し隠したまま振舞いつづけることは、身体よりも心に負担をかけるということを、彼自身が身を以って知っていた。仕事で夜会などに出席するとき、彼女は完璧な女性を演じている。そのままで笑い、誰かと友人のようにつきあっている。それで疲れないはずはなかった。

(このままでは、いけない)

 彼女が元気になって帰ってきても、今のまま自分を偽り続けるのならば何の解決にもならない。

(少しずつ、話していくべきなのだろうな)

 マイアが、心から微笑むことができるようになるためならば、彼は自分の持つすべてをなげうつこともいとわないつもりだった。

 けれど、今は。

 彼は椅子から立ち上がり、執事を呼んだ。

 

 朝の冷たい空気の中、黒馬が疾走する。

 その背にいるのは、旅装のシーヴァスだった。

(どんな顔で出迎えてくれるのだろうな、君は)

 想像するだけで、楽しくなってくる。

 言葉は短くてそっけないが、マイアが自分を心配してくれていることは伝わってきた。わざわざ追伸に書いていたのだから。『無理はするな』と。

 少し前ならば『無理してこなくてもいい』という意味にとってしまっただろうが、本当は『無理をしないよう、適当に休め』という、彼女なりの気遣いなのだ。とても嬉しくて、それと一緒に彼女に会いたい気持ちが膨らんだ。

 きつい癖のある金髪をなびかせ、広い草の絨毯を走り抜ける美しい彼女を、自分は追いかけようと思う。そして、並んで夕日を見るのだ。彼女の好きな。

 朝靄が晴れ、その向こうに目指す緑の地平が広がっていた。足蹴の馬と金の髪の人物を目に留めて、彼は馬をさらに走らせた。

 思い描いた瞬間が、すぐに現実になろうとしていた。

 

 

 


3000Hitのミフユ様からのリクエストで、シーヴァスと

マイアのほのぼのラブラブというこ

とだったんですが……ど、どうでしょうか?

どうも自分では「ほのぼの」の平均レベルが

わからないので、こんな感じになってしまいました。

今回は、なぜか二人が離れているのです。うう、ちょっと

新しいことをしたかったのです……。

何はともあれ、ミフユ様、ありがとうございました!

 

 

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