|
だからこれは小説なんだってばさぁ
言わずもがなの清水義範の代表作である本書は、「吉川英治文学新人賞」を受賞した作品でもある。いわゆる短編集で、「国語入試問題必勝法」は7編ある作品のうちのひとつである。その「国語〜」については、ほかの書評を読んでもらうことにして、ここでは、他の6つの短編を紹介しよう。
「猿蟹合戦とは何か」は、軽妙洒脱の文章でとりこにさせてくれる丸谷才一氏の「忠臣藏とは何か」のパロディである。独特の「さういふものぢゃないだらうか…」というような古い文体なのにとても柔らか味のある文章は、誰でもすぐに真似したくなるものだが、清水氏はこの文体で猿蟹合戦を見事に説いてしまうところがすごい。ちなみに、この本の解説を書いているのがその丸谷才一本人である。また、猿蟹合戦4部作(?)の2番目という位置づけもある。その他の猿蟹合戦の関連作は以下の通り。
→猿蟹の賦、船が州を上へ行く、ターゲット
「時代食堂の特別料理」は、心にじんわりくるハートフルストーリー。裏道を入った人気のない通りにたたずむ一軒の古びた「時代食堂」。そこで出される特別料理は、その昔ながらの味とともに食べた人のかつての記憶をよみがえらせて、懐かしいあの頃の気分にさせてくれる不思議なものだった。
「靄の中の終章」は、ボケ老人が主人公の恐ろしくもやるせない話。自分が奇妙な行動をとっていることに気づかない老人は、最終的には意識が混濁して薄暗いもやの中で終焉を迎える……。
「ブガロンチョのルノワール風マルケロ酒煮」は、ミニ情報満載の料理の作り方(レシピ)の小説。愉快におしゃべりしているうちに、おいしそうな料理が出来上がっていく料理番組のようなもので、一度作ってみたくなるほどだ。しかし、材料は架空の珍品ばかりだから、食材屋さんに行って「ブガロンチョをください」と言うと恥をかくことになる。
「いわゆるひとつのトータル的長嶋節」は、エッセイ風の長嶋茂雄論。解説者としての長嶋の言動を他の解説者との対比で際立たせる。また、もしも長嶋茂雄が学校の先生だったら、ワイドショーのコメンテーターだったら、と空想して、彼が言いそうなことが書いてあるからおもしろい。
「人間の風景」は、4人の老人が書いた素人のリレー小説を、作家のはしくれが読んでいるという設定の小説である。元八百屋の青木さんは書くのに困り、元警察官の佐藤さんは供述調書風になってしまい、元新聞記者の新美さんはやっぱり新聞記事のようになってしまう。これぞ、パスティーシュ(文体模倣)小説家の真価発揮というところだ。
そんなバラエティ豊かな作品たち。清水義範の入門編に最適である。そして、どれもこれも小説なんだってことをどうぞお忘れなく。
国語入試問題必勝法
問題を読まなくても、選択肢を見ただけで答えがわかる。長短除外の法則、正論除外の法則など数々の法則、解法をわかりやすく教えてくれる、という読み物。
実際の入試問題に役に立つかどうかは定かではないが(結構いけるという話も・・・)、勉強の息抜きにはもってこいかも。
受験という共通の体験をしている多くの人に受けるヒット作。
英訳版「Japanese Entrance Exams for Earnest Young Men」が講談社インターナショナル刊「MONKEY BRAIN SUSHI」に収められている。
|