手塚真初期作品DVDレビュー
| ポニー・キャニオンからリリースされた手塚真氏のお茶の子博士のホラーシアターとMOMENTのDVDを買ってきた。これ、普通の人にしてみれば大した事もないんだろうけど、あたしみたく80年代の自主映画絶頂期をリアルタイムで体感した者にとっては大事件だったりする。事情に詳しくない人の為にこの2タイトルに関する解説を少々・・ お茶の子博士のホラーシアターは80年代初頭に東京ローカル局で放映された(一部地方局でもネットされてたらしい)バラエティ番組「もんもんドラエティ」の1コーナーで、毎週3分ほどのショートホラーを手塚氏が8ミリフィルムで撮影・製作し、自身でホスト役も務めた。 ローカル局とは言えゴールデンタイムに3分間の自主映画を毎週放映するというのは業界的にも大冒険だったと思う。それなりに好評を得たものの再放は一度もなく(バラエティ番組だから当然か)長らく伝説と化していたんだけど、これが今回まとめてDVD化されてしまったわけ。 MOMENTの方は手塚氏が10代の頃に製作した生粋の長編自主映画。8ミリフィルムで製作されたアマチュア作品としては異例の観客動員数を誇り、当時のコアな映画ファンなら知らぬ者はいないほど知名度の高い作品ではあるけど、これが20年を経てDVD化されるとは夢にも思わなかった。 お茶の子博士の方は約半年ほど前に全作の録画ビデオを関係者の方からお借りする機会に恵まれ、その際レビューも書いたので今回は簡単に触れる程度で。画像はオリジナル通りだけど今回リリースされたDVDでは音声が新たに作り直されている。これはオリジナル作品のBGMに既成曲が多用されている為で、著作権をクリアするにはニューレコーディングが必須だったんだろうね。一度オリジナルを見ちゃうと少し違和感があるけどSE(効果音)の完成度は高くなってるし(プロの仕事だから当たり前)雰囲気は損なわれてないと思う。 MOMENTの方は完全にオリジナルのまま。そもそもこの作品は興行目的で製作されてるから既成曲を一切使用してない。故に音声へ手を入れる必要がないんだな(既成SEは結構使ってるけど)。 この作品を初めて観たのはあたしが高3の時だから84年か。その時は面白いとかつまらないとか、好きとか嫌いとかそういうレベルじゃなく凄え映画だなと思った。当時既に自分も8ミリで自主映画を撮っていたから尚更そう感じたんだけど同じ土壌でこれだけの物が作れるのか!?と驚愕させられたってのが正直な所。 どういう作品かを一言で説明すれば学園ドタバタコメディ。ヒロインのポッキーはよく当たる占いのおかげでテストで90点を取りボーイフレンドも見つけ幸せいっぱい。ところがある日、その占い師から3日後に君は死ぬと予言されてしまう。果たして彼女は本当に死んでしまうのかを物語の主軸として展開される笑いありミュージカルありのエンターテイメントなんだけど、あまり作品に陶酔してると最後に手痛いしっぺ返しを食らうという極めてシニカルな作りになってる。 実際、台詞の中でも登場人物達はスクリーン上で繰り広げられる物語が作り物に過ぎない事を幾度と無く観客へアピールする。そういった演出を含め一見すれば作者が目一杯楽しんで作った能天気で無邪気な映画といったイメージなれど、その実かなりクールに計算し尽くされたシナリオだったりする。10代にしてこれだけの物を作れる才能にも脱帽したけど、それ以上に驚いたのは作品の規模。 いや、これが莫大な巨費を投じて作られた映画という意味ではなく、アマチュア映画としてはスタッフ・キャストの人数が尋常じゃないわけ。自主映画製作ではスタッフ・キャストを含めてもせいぜい数10人というのが通例。ところがMOMENTの場合総勢100人からのクルーが動いてる。勿論アマチュア映画だからそこにギャラは発生してない筈。すなわち作者の声かけで100人もの人間がノーギャラで集結して作り上げた映画という事になる。 学生の頃は単純にやっぱ親が有名人だと人集めも簡単そうで羨ましいなと嫉妬したもんだけど、その後この作品にまつわるエピソードを聞くとこれが大きな間違いで、これはもう正に手塚氏及び主要スタッフの行動力の賜物だという事実を知った。 例えばこの映画には鈴木清順、伊藤蘭、故横溝正史といった著名人が特別出演という形で1・2カットだけ登場するんだけど、この著名人達は別に好意で撮影現場へ足を運んでくれた訳じゃない。スタッフの中に著名人の知り合いがいればその人を通じて出演交渉、OKが出れば彼らの仕事場までカメラを持ったクルーが出向いて数カット撮影し、その素材を作品中に無理矢理繋げてしまうという形での特別出演だったりする。 ミュージカルシーンのエキストラにせよ、面識もない自主映画団体へ片っ端から電話して頭数を揃えたと言うんだから恐れ入る。そりゃ無名の学生より多少は人が集まり易い環境だったとは思うけど、それ以上にこの映画の持つある種の規模は手塚氏本人の行動力によって形成されてる事に疑いの余地はない。 実際、手塚氏に限らず8ミリ映画製作から始まりメジャーデビューを果たした映画監督はクリエイターとしての才能以上に行動力が凄まじい。例えば山本政志氏は「ロビンソンの庭」の製作にあたりスポンサーを求めて長者番付の1位から順番に電話をかけまくったという逸話がある。結局誰からも相手にされなかったらしいんだけど、如何に映画製作の為とは言え普通こういう事は思い付かないし行動も起こせないでしょ。それが出来てしまう時点で彼らって真のプロだなあ、と思う。 話をMOMENTに戻せば、己の行動力で集めた100人に及ぶクルーや著名人の特別出演は結果的に作品へ箔を付け宣伝の売り文句として使える。勿論、作品そのものが面白くなければお話にならないけど、作品が優れていてなおかつ上記の売り文句があれば更なる観客動員数が望めるし話題にもなる。確かにMOMENTは優れた作品に間違いないけど、ただそれだけでは当時あれほど話題にならなかった筈。やはり話題性を持たせる為の様々な仕掛けがあってこその成功だったと今更ながら思う。その点で手塚真という人はクリエイターとしてのみならずプロデュース能力に長けた人だったと言えるんじゃないかな。 ・・とまあ、ここまで一塊のアマチュア映画作家としての目でMOMENTを論じてきたわけだけど、この作品が21世紀の一般人の目にはどう写るんだろう。同じ土壌で映画製作を続けてる者にしてみればこの作品の完成度は半端じゃないんだけど、やはり35mmの劇場用映画と比べたら8ミリ独特のチープさは否めないし、一般人の目から見れば所詮自主映画って事になっちゃうのかもね。 ともあれ、この伝説的な自主映画のDVD化はファンの一人として喜ばしく思う。興味を持たれた方には一度ご覧いただきたく。 |