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| 9月末現在の状況 2週間に一度の通院。 クスリは不安を抑える薬1錠と精神安定剤を2錠を朝晩に服用。(仕事は続けている。) まだ、波はあるものの、体調は良好。しかし、落ち込むと不安が止まらなくなる傾向がある。 |
| Page2 「心療内科クリニックという別世界へ」 私は地図を頼りに車を運転していた。 私の行こうとしている病院は、繁華街の中にあった。 はじめて行く場所というものは、ただでさえ、見慣れない風景や 威圧するようなビルや車の大群で、不安な気持ちは止まらないのに さらに私の抱えた病は、それにとどめを刺すように、追い討ちをかけていた。 汗が顎からこぼれる。 さっきからエアコンのスイッチを入れているというのに 生暖かい・・いや、熱風しか出てこない。なんなんだこれは。 数日前にはエアコンはまだ、効いていたが、こんな猛暑の日に限って 逝ってしまうとは・・・。 車の窓を全開にする。風が波のように流れ込む。 カーステレオのボリュームを上げる。 今はセリーヌ・ディオンだけが、私の心にとてもやさしい。 そろそろこのあたりだろうと、もう一度地図を確認してから 私はどこかの有料駐車場に停めた。 そこから歩き、病院を見つけたら、その駐車場に停めればいいと思った。 目の前に、アーケード街があった。どうやらあの中に病院はあるようだ。 まだ、開店前だからか、人は少なく、運搬業者らが忙しそうに店に 商品を搬入していた。まるで舞台裏をのぞいているような感じだ。 そんな中を、私は歩いていった。 その病院のホームページで見た感じでは、とても静かな場所だと思っていた。 入り口も間接照明がしてあり、どこかの高級ホテルのような たたずまいだと思っていた。 それをようやく見つけたとき、私のイメージは崩れ去った。 確かに間接照明はきれいに入り口を照らしていた。 あのHPの写真ように、実際にとてもきれいな入り口だ。 ただし、その入り口の隣には、花屋があり、その反対側には タバコ屋があり、そのほか、いろんな店が連なっており つまりは、店に挟まれた形で、その病院はあった。 もちろん、駐車場なんでものはない。私の車はあの有料駐車場で 時間というお金を勘定しているのか、と思うともったいない気がした。 いや、今はそんなことはどうでもいい。 この病院のことだ。ただ、そのアンバランスさに、 私は何か圧倒されてしまい、まるでその診療所の入り口が、アニメの ハウルの城のように、別世界への出口のように思えた。 人々が行き交う中、私はしばらく立ち続けた。 まだ、止めることができる、と思ってた。でも、もうココまで来てしまった。 今更帰ってどうなる?それこそ駐車場代が全部無駄ではないか? いや、今は駐車場代のことよりも、私が本当にこの病気を直す気があるのか ということだ。 また、汗がこぼれる。若いOLたちが笑顔で話しながら通りすぎてゆく。 中には私を不審に思い、急に声を潜める人たちもいる。 そうだった。私は今、心療内科クリニックの入り口の前に呆然と 立っていたのだった。仕方ない・・・私は人々に押されるように そして、何もなかったかのようにして、その別世界の出口に入った。 目の前に階段があった。数えればちょうど13段くらいの階段だ。 だから私は数えずに、それを上った。ガラスの自動扉の奥では 受付カウンターが見えた。小さな半円形のカウンターだ。 いつ、この病院が出来たのかは知らないけれど、 まだ2年目くらいの雰囲気と清潔感があった。 自動扉が勝手に開く。だから自動扉なのだけど 心の準備がまだ整ってない私の意志を、 尊重して欲しいと思った。 小さな玄関には、靴が2足あった。若い女性と サラリーマン風の男性が、待合室に座っていた。 それぞれ普通に、雑誌を見たり、本を読んでいたりしていた。 でも、この人たちも鬱病か精神疾患なんだ、と思うと複雑な心境だった。 この場所にいる以上、それは逃れられないんだ、と思った。 受付の女性が、明るい声で「どうぞ、こちらへ」と声をかけてくれた。 30代半ばくらいだろうか?笑顔がきれいな女性だった。 私の電話を取ってくれたのも、たぶん、この人に違いないと思った。 「先日、電話で予約をしていた青木です」と私は言うと 「初診ですね。保険証はお持ちですか?」と聞かれ 今朝、妻からもらった保険証を出した。 「それではこちらの紙に、お名前とご住所、勤め先 そして、2枚目のアンケートに記入してください」と 笑顔のきれいな女性が言った。長い髪で顔が少し隠れるのが ほんの少し残念だなと思いつつ、私はそれを受け取った。 鉛筆で名前と住所と勤め先を記入する。 なんだ、普通の病院と変わりはないじゃないか。と私は思った。 なんてことはない。簡単なことだ。私は警察の取調べみたいに 根掘り葉掘り私のことを聞かれるのかと思った。 ふぅ、と安心しつつ、私は2枚目の記入にかかった。 そこには「どんな症状ですか?」と書かれてあった。 そうか・・・さっきの名前や住所はただの序章に過ぎず これから本番が始まるのか、と思った。 私は少し、考え、そして書いた。 「落ち込んだような気分がずっと続いている。 朝、ひどくイライラする。不安な気持ちが止まらない」 そのほかにもあるような気がしたけど、それ以上 書けるような言葉が私には見つからなかった。 「同じような症状が家族にもありましたか?」と書かれてある。 欝は遺伝も関係あるのか?と不思議に思ったが、私は「なし」と 書いた。 「食欲はありますか?」「夜は眠れますか?」とあったが 私は食欲あり、であり、夜は眠れる、であり、なんだか不安になった。 本当に私は鬱なのだろうか?もしかしたら、「単なる心配性ですよ」 と先生に笑われるのではないか?と思った。 でも、とりあえず、今は正直に書くしかない。 心療内科だからといって、わざわざ鬱病を装うことはないんだ。 後は過去の病歴や、薬によるアレルギーがあるか、などだった。 よく考えれば、これも普通の(という表現は語弊があるが)病院の 初診の受付となんら変わりはしない。 ただ、症状の内容が、体温が40度近くあるといった 数字化できない曖昧なもの、ということだ。 私はその受付用紙を係りの人に渡すと、イスに座って待った。 待合室は、まるでどこかのホテルのロビーのようで 10人くらいがやっと座れるくらいのスペースではあるけど とてもくつろげる空間だった。心療内科だけあって スピーカーからは、常にゆったりとしたクラッシック系の静かな音楽や 小鳥のさえずりの声、水の流れる音など、そこには何一つ ストレスになるものはなかった。 待合室の若い女性が呼ばれた。「はい」という小さな声。 やがて、待合室は私とそのサラリーマン風の男性だけになった。 相手も私を少し意識しているらしい。やはり、考えることは同じなのか この人も、心に病を・・・と思っているんだろう。 やがて、私が呼ばれた。 いや、次はあのサラリーマン風男性ではないかと不思議に思ったが どうやら私の場合、診察を受ける前に、さっきの受付の女性の方から 用紙に記入した内容について、確認するものだった。 私は受付の隣にある部屋に入った。そこにはベットがあり いろんな目的で使われてる部屋なんだろう。 受付の女性が私に尋ねた。 「えー、ずっと落ち込んだ気分になってるんですね・・・ それはいつ頃からなんですか?」 こう聞かれることは、最初からわかっていても 私にはそれがうまくいえなかった。それを言うには 私の子供時代からのいろんなことを話さなきゃならない。 それじゃ、時間がかかるので、私は大学時代のことから 話し始めた。 大学になじめなかったこと。 そこで、ひきこもりのように部屋を出られなくなったこと。 そして、中退したこと。そして、電器屋へ就職したこと。 それからはひどいクレームの嵐に、人間不信に陥ったこと。 そして何度も、仕事を辞めようと考えたこと・・・ 話し始めると、私の口から言葉が次から次へとあふれだし 止まらない勢いだった。そんな自分に驚いてしまった。 「もう、随分と長い間、苦しんでいらっしゃったのですね・・・」 とやさしくこぼすように、受付の女性が私に言った。 こんなふうに、私の心の闇の部分を、 誰かに話したのは初めてのような気がした。 そして、最後にその人は聞いた。 「死にたいと・・・・思いますか?」 私は少し、考えて、そして思い直したように答えた。 「はい・・・」と。 待合室に戻ると、あのサラリーマン風男性はいなかった。 たぶん、今、診察を受けているんだろう。 次はいよいよ、私の番だ。 何をどうされるんだろう?不安がさらに不安を呼ぶ。 さっきの受付の女性の人が、診察を終えた若い女性の名を呼んだ。 1500円になります。とその受付の女性が言うと、小さなかわいい財布から 若い女性は細い指で千円札2枚を差し出していた。 見た目はどこにでもいるような普通の女の子。 でも、鬱病なんだ・・・・そう思うと不思議だった。 普通と鬱病と、一体何か違っているんだろうと。 「青木さん、どうぞ・・・」 担当医師が私の名を呼ぶ。 いよいよだ。 私の戦いは、これから始まるのだ。 次回につづく。 |
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