自己ベストエッセイ〜電器売場店員のクレーム日誌〜
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 2002/09/27(金) 年老いたまあるい背中・・・。



 時というものはこんなふうに
一瞬にして、過去を飛び越えて行くのだなぁと思った。

突然に、肩を叩かれ振り返ったとき
そこにはとても懐かしい笑顔が、私をやさしく包んでいた。

実に15年ぶりの再会だった。
かつての私の上司だった人だ。
今はもう、この仕事を辞められていたのだけど
照れくさそうに出してくれた名刺の中の”部長”という肩書きが
それまでの苦労を、そっと私に教えてくれているような気がした。

あの頃、実は私はこの方が恐かった。
毎日が緊張の連続だった。
まだ、新入社員だった当時の私は、仕事の要領がとても悪く
いつも同じ失敗ばかり繰返すのだった。
その度に、私はその方(上司)に大声で叱られていた。
時には足も出ていたように思う。
今思ってみただけでも、簡単に手に汗がにじみそうになる。

あの頃、こんなことがあったのを思い出した。
お客さんからテレビが映らなくなるというクレームがあり
「すぐに来い!」と言うお客さんの怒鳴り声で、私がすぐに見に行った時のことだ。
最初は配線関係かテレビアンテナが悪いんじゃないか?とその時思っていたのだけど
どうもただ単純に、テレビの故障のようだった。

私はすぐに店に戻り、修理サービスにその事情を電話で説明した。
「・・・ということで、すいませんが、お客さんのところへ
すぐに修理に行って欲しいのですが・・・」
実に腰の低い、情けないような声で私は言ったのだけど・・・。
すると、修理のサービスマンはこう言ったのだ。

「すぐって言ったって、そんなの無理だよ。
もう、明日になるんじゃないかなぁ・・・」

そんなふうに、それはまるで他人の事のように
とてもいい加減な言葉だった。

お客さんから、かなり怒鳴られた私はつい、すぐに修理サービスから伺わせますって
勝手に約束をしてしまったのだった。
どうしよう・・・たった今すぐ、すべてから逃げたい気持だった。
こんな失敗を、また上司に言ったらひどく叱られてしまう・・・。
そんなふうに、私が半分泣きそうになっていると、なぜかタイミングよく
上司が「テレビの件はどうなった?」と私に聞いてきたのだった。

それは最悪としか言いようがなかった。
でも、私は覚悟を決め、正直に話したのだった。
また叱られると・・・思った。
「お前が責任を取って直せ!」って言われるんじゃないかとも思った。

私の説明を聞くと、なぜか上司はすぐに電話を取ったのだった。
まるでそれは、救急車でも呼ぶようなダイヤルの仕方だった。
その上司の意外な行動に、私はワケもわからずに
何か不思議なものを見るような思いでポカンと見ていた。

上司は受話器に向かって叫んでいた。

「お前らはなめとるのか!
テレビが壊れてお客が困っているのがわからんのか!
オレの部下の懸命さを、お前らはどう思っているんだ!」
(そのあとも、かなりひどい事を言っていたのだけど、まぁ、これくらいにしておく。)

つまり上司はすぐに、修理サービスに電話してくれたのだった。
私を叱ることをしないで・・・。

そのおかげというか結果的には、サービスマンがすぐに動いてくれて
クレームはあっさりと解決したのだった・・・。

その言葉は、決していいものとは言えなかったけれど、私にとっては
はじめてこの方の本当のやさしさを知り、うれしくって泣きそうになったのだった。
あの時のあの人の懸命さが、今も熱く私に蘇ってくる・・・。


・・・でも、目の前のあの人は、もう、そんな熱いものは感じられなかった。
どこかまぁるい感じになっていた。
なぜだろう。うれしいはずなのに、心がどこかしゅんとなっていた。
この方のやさしい笑顔を、私は15年目にしてはじめて見たような気がして
心はどこまでもあたたかくなっていった。

「もう、結婚をしているのか?」

どうやら私の結婚指輪が目に入ったようだ。
あの人の驚いた顔が、とても可笑しかった。
それだけ時は、流れて行ったということなのだろう。

お互いの、どうでもいいような近況を少し話すと
なぜかもう、私たちには何も話す事がなくなってしまった。

わずかな沈黙が、なんとなくもの哀しくて
時の隔たりはこんな形で、まるで橋のない川のように
見えるのにもう、どこか届かない・・・そんな場所のような気がした。

短い別れの言葉のあとで
その人の背中がだんだん私から離れて行った。
それはもう年老いた、切なくてまるい背中だった。


私は深くお辞儀をした。
かつての私の一番恐かったあの人に

心から、感謝を込めて・・・。



2002/09/28 0:40:45


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 2002/09/26(木) 素直になれない怒鳴り声



 「オレの近所や親戚中にこのことは、言いふらしてやる!
もう、お前の店で二度と買わない!」

それは電話でのお客さんの言葉だった。
久しぶりに強烈で怒りの込められたクレームだった。
ことの起こりは、パートさんがその電話を取ったところから始まる。

「こちらでお調べして、それから居り返しお電話したいと思うのですが・・・」と
パートさんが何度も答えているのに、それにもかかわらず
その電話がなかなか切れないでいる様子だった。
つまり、相手が電話を切らせてくれない・・・怒っているのだろう。

私は目で”電話を代わろうか?”とパートさんに合図を送ったのだけど
パートさんは何か事情を知っているらしく
”私がなんとか・・・”みたいな目の合図が帰ってきた。

その会話の中に、「申し訳ございません」という言葉が
パートさんの口から何度も出てくる。
それを見ていて、とても切なくなってしまった。
私は心配をしながらも、その様子をずっと見守っていた。

ようやくその電話を切ったとき、
パートさんが一言、つぶやくように、こう言った。

「そんなこと、私は言ってもいないのに・・・」

そのクレームの電話は、3日前に受付けたある商品の修理品の問い合わせだった。
「まだ直らないのか?」という問い合わせだったが、このお客さんの修理品は
故障がひどく、(しかも、お客様責任による破損だった。)修理センターに送って
修理する事になっていた。たった3日間で直るはずがなかった。
最初の受付けの際、パートさんは、「1週間くらい時間がかかるかもしれませんが」と
ちゃんとお客さんに了解を取っていたのだった。
そして、それを承知でお客さんも修理に出されたのだった。

それなのに、「まだ、直らないのか!」と
パートさんはそのお客さんに怒鳴られたらしいのだ。
電話で怒鳴っていたのはご主人だった。
そして、受付の時に来られたのは奥さんだった。
その違いが時として、こんな大きなクレームを生んでしまう。

それから私がお詫びを兼ねて、そのご主人に電話でそのことを説明したのだけど
いくらそのご主人に「受付の時に、奥様に修理時間の余裕をいただきましたが・・・」と
きちんと説明をしても、「オレは聞いていない」になってしまう。実に簡単なものだ。

夫婦間のコミュニケーションが取れていないんだなぁ・・・と思った。
こんなケースのクレームは、結構多いものなのだ。

私はそのお客さんに説明をして、それでもお詫びを言いながらも
「もう少しお待ち下さいませ。修理完了次第、ご連絡しますので・・・」
と私が説明したところ・・・
あの言葉が、そのお客さんの大きな怒鳴り声になったのだった。

「オレの近所や親戚中に言いふらしてやる!
もう、お前の店で二度と買わない!」

こんなふうに言われ、私(店員)はなんと答えればいいのだろうか?
決まっている・・・ひたすら謝るしかないのだ。
でも、こんな時に私はよく思う。
私は自分の何に対して謝っているんだろう・・・って。

「もう、その商品はいらない!新品と交換しろ!」

あぁ、なんてことだ・・・今度はそんな無茶な事を言い出したのだ。
確かに買われたのは半年ちょっと前だし、その気持はわからないでもないけど、
しかし、今回の場合、保証期間内の無償修理扱いになるのだった。
それはどのお客様に対しても同じことだ。

「今回は、保証期間中なの無償修理になります」

私がそうきっぱり言い切ると、更に相手の反撃はひどくなった。
(本来はこのお客さんの場合、破損なので有料扱いになるのだけど
メーカー側の好意として無償になったのだ。それなのに・・・だ。)

それはどう考えてみても、そのお客様のわがままとしか思えなかった。
お客さんに、何か正当な理由があれば別だが、それすらなかった。

ここで店員は、オロオロとしてはいけない。

お客さんが怒っているからと言って、なんでも許すことのほうが
結果として、その他多くの見えないお客様に対しての裏切り行為になってしまう。
(同じ条件で商品交換をしていない人はたくさんいるのだ。)

ここではもう、書かない事にするけれど、更にお客さんは
信じられないような無理難題を言ってきたのだった。
「だったら、これくらいのサービスをしろ!」というような事を言ってきた。

まるでそれは接客の時に、例えばの話だけどお客さんが
「半額にして!」って言って店員が「いや、3割ひきまでしか出来ません」
と言うと、「だったらその間をとって4割引ならいいでしょう?」と言われて
「じゃあそうしましょう」・・・みたいな戦法だった。
(なんか変な例えになってしまったけど。)

その時の私も”思わずそれくらいなら・・・と危うく思いかけた。
そのお客さんの戦術?(かどうかはわからないけど。)に負けそうになった。

そのお客さんと話していて、たぶん、このご主人は、自分が間違っている事に
気づいていたのだろうと思った。
(奥さんから話を聞いていなかったこととか勘違いとか・・・)
でも、自分が一度、怒鳴ったものだから、あとには引けなくなったのだろう。
「いや〜失敬、失敬、家内から話を聞いていませんでした〜」って
ひとこと素直に言えば、それで済んだことなのに・・・。

結局、そのお客さんは、何一つ私から許してはくれないで
「オレの近所や親戚中に言いふらしてやる!
もう、お前の店で二度と買わない!」
とまた、思いっきり怒鳴って、そして電話を切られた。

もちろん、そのお客さんは本気じゃないと思っている。
あの奥さんだって、それは分かっているはずだ。

でも、私としては、たとえ店に非がまったくなかったとしても
そんなふうにお客さんに怒鳴られる事は、やはり、心は相当傷ついてしまう。

あとからパートさんに、そのお客さんのこと(もう二度とお前の店で買わない!
と怒鳴った事。)を話したら「あのお客さん、確か1年前にも同じ事を言っていたのよ。
よく来てくれているお客さんでね・・・でも、ちゃんとまたこの店で買ってくれてるのね。」
とクレームなのに、思い出したみたいに、なぜかちょっと笑っていた。

それを聞いて、私は少しだけ安心をする。
でも、小さな後悔はいつも、私の中に残ってしまう。

たぶん、あのお客さんも
今頃私と同じ気持でいるのだろう・・・。



2002/09/27 1:01:28


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 2002/09/22(日) 汚れ切った心。



 その言葉は、私の心を大きく引き裂いていた。
何気ない誰かの乾いた言葉だった。
気が付かなければ、通りすぎて行くような・・・そんな言葉だった。
しかし、その言葉には、私への歪んだ憎しみのような心が
確かにそこに存在していて、私をあざ笑うような声さえ
その偽りの表情の裏に聞こえたような気がした。

心は、その怒りのあまり、我を忘れそうになった。
”もう、どうなってもかまわない”と一瞬、心が思ったほど・・・。
でも、ふと、目の前に浮かんだ子供の顔が、私の暴走を止めてくれた。
あまりにあどけないその笑顔に・・・思わず涙が出そうになった。

守るべきものに、私が助けられるなんて・・・。

こんなことがある度に、私はこの人生を
うまく歩いて行けるのだろうかと不安になる。
こんなふうに怒りで我を忘れて、本当に守るべきものを守れるのだろうかと。

どうしてあの人は、あんな言葉を、私に投げ捨てたのだろう?
どうしてあの人は、あの言葉を、選んで私に言ったのだろう?
そんなに私が憎いのだろうか?
そんなに私を傷つけたいのだろうか?

ひょっとしたら、実は私は最悪な人間ではないのか?
もしかしたら、あの人は実はすべて正しくて、私がすべて間違っているのか?
あの人の、あんな言葉は、実はずっと昔から考えられてきた事で
思いつきでいい加減に生まれたのでもなく、それが、私の何かのきっかけで
その人の口から、十分に準備されてきたように、こぼれ出たのものではないのか?
まるでたった今の私が、そうであるかのように・・・。

別に私は同情されたい訳でもなくて、ただ、数学のようにその答えを
単純に求めているだけなのだ。

私に生まれたあの人への憎しみは、着々と何かを準備しようとしている。
憎しみの言葉・・・傷つける言葉・・・そして、怒り・・・苦しみ・・・哀しみ・・・

なんだか自分がだんだんに、相手と同じ人間に思えてくる。
こんなイヤな人間なら、憎まれても仕方なかろうとも思えてくる。
憎しみを抱えた人間に、二度と笑顔が作られることはない。

あれから一言も口を聞かなくなったふたりは
やはりどこか間違っていて、わかっていても互いを無視している。

目の前から、どうしてこの人は消えてくれないのだろうかと心が思った。
その時点で、私はどこか負けているような気がした。

友達に愚痴をこぼした。
「もう、相手にするな。」と忠告してくれた。
でも、その言葉に、私はどこか虚しくなっていた。
まるで円周率か何かのような、終わりの見えない
はっきりとしない答えに思えた。

私が求めていたのは、そんなものじゃなかった。

ウソをつく、約束を守らない人を、私は異常に許せない。
なぜかと聞かれても、わからない。
私はたぶん、体のネジがどこかなくなっているというより
すべてのネジがきつく締付けられすぎて、うまく身動きが出来ないのだろう。
もしかしたら、その人は私のネジを緩めようとしてくれていたのかもしれない。

私には潤滑油が必要だ。
心が乾き切っていて、キシキシどこからか鳴っている。
憎め!怒れ!傷つけろ!と私の中の見えない何かが
拳を上げて叫んでいる。


どうしてあの人は、あんな言葉を私に言うのだろう?
どうしてあの人は、あの言葉を選んで私に言ったのだろう?
そんなに私が憎いのだろうか?
そんなに私を傷つけたいのだろうか?

私の何が悪いんだろう・・・。


実は今も、この心は、怒りのあまり震えている。
真夜中の電車を乗り継ぎ、その人の目の前に行き、
今すぐ、どうにかしてしまいたいほどに・・・。
あの時に、もっと声を荒げてこう言えば、その人に勝ったんだと心が思っている。
あの時に、もっとこうすればその人の心を、大きく傷つけられたんだと
心が何度もシミュレーションしている。

なんて最低なこの心だろう・・・。

生きて、ただ、死んで行くのに
どうして人生は私たちに、何かを教えたがるのだろう?

そんな問いを誰かにしてみたくなる。
小さな子供が海の青さを問うように・・・。
その問いに、誰が答えてくれるのだろう?


嵐の夜も、穏やかな朝も、
海はただ、青いだけで
終わりのない波音を、鼓動のように繰返している。

どんなに汚されてもあの海は
何も憎むことなく、ただ、波音を繰返すだけ。

人が海に帰れなくなったのは、罪をもう、償えないから・・・。

それは今、心が汚れ切ったこの私と
何ひとつ変わらないような気がする・・・。



2002/09/23 1:20:35


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 2002/09/18(水) そこへ行くまでのちょっとした旅。



 外はとてもいい天気だった。
夏でもないし、まだ秋でもない、とても中途半端なこの季節は
なんだかこちょこちょとくすぐられているような、そんな妙な気分だ。

タクシーで20分
「あとは歩きます」と運転手さんに言って、車を降りた。
「いつかまた、景気がよくなったら会いましょう」という
運転手さんのセリフが面白かった。
(景気が悪くて売上が上がらん。けしからん!とふたりで愚痴っていたのだ。)

私の目の前には、のどかな住宅街のありふれた風景が広がっていた。
午後3時をとっくに過ぎてた。
昼でも夕方でもないとても中途半端なこの時間。
お年寄りが日向ぼっこをしていた。私は地図を片手にテクテク歩く。
日差しがほのぼのとしてあたたかい。老人達の気持がよくわかるような気がした。
何かいい事あるかなぁ〜なんて思いながら歩く。
こんな午後は、かわいい女の子とデートでもしたいような・・・
そんなホンワカとした気分になる。
なんだか心がワクワクする。誰が私を待ってくれているんだろうと・・・。

目指すはあるお客さんの家。
待っているのは、鬼みたいに怒っているおばさんだ。
残念ながら、かわいい彼女じゃないのだ。
人生なんていつもこれが現実。
いい事なんてあるわけないのである。コホン。

まぁ、いろいろとすったもんだがあって、とりあえず解決をする。
クレームは、やはり客先訪問が、一番の解決策だと実感をする。
電話じゃわからない事も、お客さんの住んでる場所だといろいろとわかる。
その場の雰囲気とか、匂いとか空気とか・・・そういうもの。うまくは言えないけど。
確かに行くほうは憂鬱になるし、手間と時間がかかって大変ではあるけれど
そんな時は、そこへ行くまでのちょっとした旅だと思って楽しめばいいのだ。

そういえば、お客さんの家を探している途中で、近くを歩いていた中年の女性に
私は道を尋ねたのだけど、なかなか目的地が見つからなくてあせっていたせいか
せっかく親切に教えてくださったのに、私はお礼も何も言わないで
そのまま教えられた道を行ってしまったのだった。
行ってしまった後で、”はっ”とその事に気づいたのだけど
もうすでに遅くて、あの女性はどこにもいなかったのだった。

「なんて失礼な人」と思われたかもしれない。
あぁ、ときどき私は、こんな初歩的なミスをやってしまう。

・・・ごめんね、あのときの親切な人。
おかげで私は、ちゃんとお客さんの家に辿り着いて、
そしてちゃんと叱られてきましたよ。
本当に心からありがとう。
(なんだかよくわからないお礼だけど感謝してます。)

・・・・・・
 結局のところ、私はその訪問先のクレームのお客さんに
どういうわけだか、好かれてしまったようなのだった。
「あなたがいるなら、また、買いに行くからね!」と言われてしまった。
実はこれ、別に私の対応に喜んでこう言ってくださっている訳じゃなかった。
「そのときは、絶対に特別に安くしてくださいよ!」と
その人が何度も言われるところに、
その人の卑しい気持が見え隠れしている。(あぁ、いやだ・・・)

何のことはない。

ただ、今回のクレームをネタに、値引きを強要しているだけだった。
やれやれ、これじゃ全然円満解決じゃないじゃないか!
いやはや・・・これはどうしたものなのだろうか?

そのときは、「ご来店をお待ちしています」なんて私は言いながらも
心では「もう、来ないで〜」と悲鳴のように叫んでいた。
だって、かなりしつこいんだもの。
”これからもお宅で買います!”って言ってくれるのは
本当にすごくありがたいのだけど、でもその度にまた、あーだ、こうーだと
同じようなクレームを言われてしまいそうで・・・あぁとても心配。

まぁ、その時はその時のこと。
今からクヨクヨしても仕方ない。もっと前向きに考えよう・・・と思う。

帰りはバス停を見つけ、時間が来るまで、
私はひとり、バスが来るまで待っていた。
タクシーの運転手とのあの約束を思い出していた。

「景気がよくなったら会いましょう」

一体、いつ、どこで会うというのだろうか?
ちょっとだけ苦笑いをした。

今は、夏でもないし、まだ秋でもない、
とても中途半端なこの季節。
まだ、そこにはのどかな午後が
やがて訪れる夕焼けを、あくびでもするかのように待っていた。

なんだかこちょこちょとくすぐられているような
そんな妙な午後なのだった・・・。



2002/09/19 0:32:42


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 2002/09/12(木) 伝えるべきことの大切さ・・・。



 いきなり頭から冷や水を”ばさっ”とかけられたような感じがした。
それは開店早々のお客様からの電話だった。

「お電話、お待たせ致しました!担当の○○でございます!」
朝からなぜか気分のいい私は、まるで40wの電球が、100wの明るさになったくらい
とても元気がよかった。

「○○はいるか?」
それは、どこか暗闇の中から聞こえてくるような声だった。
その声からして、たぶん50代くらいの男性のお客様だったと思う。
○○とは、S店員のことだった。

「申し訳ございませんが、Sは本日、休みを頂いておりまして・・・
よろしければ私が承りますが、どのようなご用件でしょうか?」

担当者が休みのときは、必ずそう聞くようにしている。
今回も、いつものようにそう聞いただけだった。
しかし・・・。

「なんでお前に言う必要があるか!
このアホンだらがぁ!」


なんなんだこれは?いきなり私は意味もなく、怒鳴られてしまったのだ。
神にも誓って言うけれど、別に私の言い方が悪かったわけじゃない。
私は明るく、前向きな受け答えをしただけだ。
急に怒鳴られるのは、本当に心外であって、
ましてや”アホンだらぁ”と言われる筋合いも無い。

「も、申し訳ございません・・・。」

私の明るいその気持は、100wから、一気に20wになっていた。
なんだか電池まで切れてしまいそうなくらい、とても危うい明るさになってしまっていた。

「○○に太田(仮名)から電話があったことを言っておけ!」

そう言うと、そのお客様は思いっきり電話を切ったのだった。
私は受話器を持ったまま、でも、確実にだんだんと怒りが込み上げてきていた。
”なんだっていきなりこんなふうに怒鳴られなきゃならないんだ!?”
私のその怒りは、自然とS君へと向けられていった。

公休日の人に、電話なんかしたくはないが、もはやそういう場合じゃなかった。
クレームなのだ。しかも、ワケもわからないクレームなのだ。
私はS店員のケイタイに電話した。

少しばかり長い呼び出し音を聞いた後
しばらくして「・・・もしもし・・・。」と答えるS君のはっきりとしない言葉があった。
まだ、寝ていたようだ。
人がこんなにもイヤな思いをさせられたというのに・・・なんてことだ。

「太田さん(仮名)というお客さんが、ワケもわからず怒ってたけど
何か覚えはあるのか?」

私のそのトゲのある言葉に、そのときS君が漏らした”・・あっ”というわずかな声を
私は聞き逃さなかった。そのかすかな響きには、何か大変なことを知られてしまった
意味合いが含まれていたように思えた。

詳しくは書けないけれど、つまり、S君はひとりでそのクレームを黙ったまま
抱え込んでいたようだ。”なんで言ってくれなかったんだ?”という思いが
私の心の中をどこまでも暗く沈ませていた。

「迷惑をかけたくなかったんです。元はといえば、オレが悪いのですし・・・。
俺一人で解決しようと思ったんです・・・。」

受話器から聞こえてくる彼の声は、私と同じ、20wの声だった。
私は彼が、そういうヤツだと言う事を、どこか遠い友を懐かしむように思っていた。

「そうは言っても、結局は迷惑をかけてるだろ?」
「そ、そうですね・・・」

どこかかみ合わないふたりの会話が、
いくつかの小さな沈黙を重くその場に作っていた。

接客と言うのは、結局は、お客様と店員という一対一の中で行われる事であり
他の者達が知らない事実は、計り知れないくらいに多い。
本来、私達店員は、店員同士で、そのコミュニケーションを取り合うのだけれど・・・。
例えば恋人同士であったとしても、言えない事のひとつやふたつは、
必ずどこかあるのと同じで、店員にも、言えない何かがそこに存在している。

もちろんこれは、仕事なのだから、そう言うわけにはいかない。
悪い意味で取れば、それが何か金銭的な不正にもつながりかねないのだ。
もちろん、今回の事が、そう言うものではなかったとわかってはいても、
”どうして私に相談もしないで一人で抱えてしまったんだろう?”と
そう思うと何かやり切れないものがあったのだった。

そのクレームの内容を聞き、”確かにやっかいだな。”とは思ったものの
あとは私が対応するからと、S君には言ったのだけど
結局それからS君は店にやって来て、そのお客様に電話し、対応していたのだった。

S君の、見えない電話のクレームを相手に何度もお辞儀するその姿は
”何やってるんだよ、S君・・・”となんだかとてもやりきれない気持ちになっていた。
きっと”バカヤロウ”とでも、あのお客さんに怒鳴られているのだろう。

「ボクのクレームのお客さんですから・・・仕方ないです。」
そう言いながら、白い歯を見せるS君。

”何もわかっちゃいないなぁ”と私は思った。
その何かは、あえて言葉にはしない。
それはきっと言葉にすべきものじゃない・・・そう思うからだ。


「本当に申し訳ございません・・・」

S君はまた、同じ言葉を繰返していた。
その相手の声は、私には、届かない・・・。



2002/09/13 0:12:35


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 2002/09/08(日) たおやかな心の流れ・・・。



 「私の暴言を許してください。」

お客様から電話があった。
あの”お前なんか死んでしまえ!”のあのクレームのお客様だった。
私は次に言うべき言葉がすぐに見つからず、
思わず売場の雑踏を意味もなく眺めていた。

レジを打っているパートさんや、接客の中で店員と笑っているお客さん。
ビデオテープを片手に、レジを待っているおしゃべりなカップル・・・。
売場には、何気ないありふれた時間が、ただ、流れているだけだった。

私の心は、その人の突然の気持をどう受け止めていいのかわからず
こんなに気持が動揺しているというのに、目の前にいる人達は
私のそんな状況も知らずに、実に幸せそうでいるのが不思議だった。

私がいつまでもうまく言葉に出来ないでいると、その人は更に言葉を続けた。

「私は弱い人間です。だからあんなことをつい、言ってしまった・・・。
弱い人間は、ただ、吠えるしかない。
そう信じている私は、実につまらない人間なのです。」

私はあの時、一瞬でも、その人のことを傷つけたいほど憎んだことを、
どうしようもないほどに悔やんでいた。
本当につまらない人間が「私はつまらない人間です。」と自分で言う事は、まずないのだ。
それは「私は正直者です。」と本当に正直な人がそう言わないのと同じように。

「私もどこか間違っていたように思います。
・・・申し訳ありませんでした。」

私がやっと声にしたその言葉は、どうやら、その人にとっては
意味のあるものとして伝わらなかったようだ。
その人の「何が間違っていたのですか?」という私への問いかけが
それを証拠付けていたのだけど・・・。

でも、その言葉が、なぜか私の心をどこまでもあたたかくしてくれていた。
それはその問いかけ自体が、まるで「あなたは間違えてなんかいませんよ。」と
やさしく私に言ってくれているような・・・そんな気がしたから。


人の心って不思議だ。
時はどうしてこんなふうに、心をそこに止めることなく
川のように流れて行くのだろう。
悪魔と天使のあいだを行ったり来たりして・・・。

日記を一日でも書いていない日があると、私はいつも戸惑ってしまう。
どうしようもない時に書いた私の日記が、そのイヤな気持を抱えたままいつまでも
このネット上に漂っていて、日記の中のこの私は、いつまでも時が止まったままで・・・。

それを見つけてくれた人が、私のその日記を読み、そして心配してくださる。
(その度に、人はなんてやさしいのだろうと私は思うのだけど・・・)
でも、現実には、時はこうして常に流れていて
たとえ涙が止まらないような日でも,、時は朝を作り、そして夜を作る。

時は、私達の事情に関係なく、いつも非情に流れている。

”もう、大丈夫だから”といくら心の中で思っていても、
更新しない日記の中のこの私は、ずっと心は落ち込んだまま変わらない。
今の私とその時の私の心の隔たりに、とても戸惑ってしまう。
私を気遣ってくださるメールを前に、私の今のこの心が、
まるでケイタイ電話のようにすぐにその人に伝わるといいのに・・・・と思った。

クレームのお客さんは、何度か私にお詫びの言葉を述べて
そして、すべてを成し遂げたかのように、ゆっくりと電話を切った。
まるでその電話が切れる音でさえ、どこか幸せそうな満足に満ちて聞こえた。
私はなんだかまだ話し足りないような・・・そんな不思議な感覚が残った。

あの人の中にも、こうして時は流れていて、そして、心も流れて行く。
泣いたり、喜んだり、そして同じ後悔を何度も繰返しながら・・・。

「私を許してください・・・。」

かつて”死ね”と言ったあの人が、私にそう言ってくれた。

許すも何も、私はまだ、本当のあなたを知らないだけ。
そして、あなたが本当の私を、ただ、知ろうとしてくれただけ・・・。

あなたをちゃんと知ろうとしなかった
私のほうこそお許し下さい。

あなたのおかげで、私の心は
こうしてたおやかに流れているのです。

ただ、この流れが、いつか小さな波になって
いつか必ず、届けばいいと願う。

あなたやその周り人達、すべてのその心の中に・・・。



2002/09/09 2:01:59


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 2002/09/06(金) ヒトハコワイ・・・。



 もう、どうでもよかった。
人の世なんて、クソ食らえと思った。

実は今まで、ここに書けないような大きなクレームを抱えていた。
誠心誠意、その人のために私は尽くしていた。
何度も電話をした。何度もお詫びをした。
時には深刻になって、時には理解しあい笑顔を浮かべて・・・。
その為に、私はどれだけの時間をかけたのだろう。

その人も、私の対応に喜んでくださっていた。
私もうれしかった。万事、これで解決したと思っていた。

でも、・・・結局うまく行かなかった。
どうやらそれが原因ではなかったようだ。詳しくは書けないけれど・・・。
人生とは、結局こんなものだろう。うまくいく事なんてない。

その人から電話があった。はじめから怒鳴っていた。
さっきまで、売場ではあんなにお互いに笑っていたのに・・・。
私はその電話の人が、さっきと同じ人だなんて信じたくなかった。

そして、その人は私にこう言った。
「お前なんか、生きてるだけで吐き気がする!ボケ!タコ!
お前は虫けら以下だ!××××だ!すぐ壊れるような商品を売るな!
このボケが!責任を取れ!アホ!」

この人は二重人格だ・・・と思った。いや、思いたかった。
どうやら私は、生きる価値のない虫けら以下になったらしい。
というか、ずっと知らなかったけど、私はすでに虫けら以下になっていたようだ。
これがさっきと同一人物だなんて信じたくなかった。
だって、さっきまでお互いに笑ってさえいたんだ・・・。

哀しかった、ただ、哀しかった。もう涙も出ないほど・・・。
お客とか、店員とか、そういうつまらないもの以前に、人間として・・・。
「お前は死んでしまえ!」とその人が言ったとき
私はそのままその言葉を繰返した。

「オマエハシンデシマエ?」

何だろう?この言葉は?
意味を無くした言葉の音が響く。
私の言葉は疑問形で答えていた。疑問形だったのだ。
だって、私にはわからなかったから。生きてる事とかそんなこと・・・。
その私の疑問形に、その人は数学を解くように答えるわけもなく
更にその罵声とひどい言葉が増えるばかりだった。

「オマエハシンデシマエ?」

私はそのとき、その人が、私の目の前にいなかった事と
ナイフが手元になかった事に、どれだけ幸せに思った事だろうか。
本当に・・・。

信じられないような事件と言うものは、もしかしたら、
こんなふうに、ちょっとしたタイミングなのかな?と思った。
犯人の事を、近所の人達は声を揃えてこう言う。

「虫も殺さないような、おとなしくて、マジメな人だったのに・・・。」

そのときに、たまたまそんな黒い感情があって、
そのときに、たまたま人を傷つける鋭利な武器が目の前にあって・・・。
そんなタイミングが、たまたま合ってしまった時、人はどうなってしまうんだろう?

心が瞬時に氷になって、パラパラと崩れてゆく。
人はこうして簡単に壊れるのものなのか。

接客で、こんなことがある度に、私は自分の殻に閉じこもる。
誰にも会いたくないし、誰とも喋りたくもない。だから、こうして日記を書く。
私から言葉があふれて仕方ないから。誰もが寝静まったこんな夜遅くに
私はこうして日記を書いてる。

普通、こんな日記は誰も書かない。私はきっと、どこかおかしい。
どこか狂っているのかな?どうしようもない? そう、どうしようもないほど。

匿名希望で、名も知らぬ誰かに、この想いを押しつけてる。
キーを叩く乾いた音だけが、私の耳に響いている。

ヒトハコワイ・・・ヒトハコワイ・・・・ヒトハコワイ・・・・
その音さえ、そんなふうに聞こえてくる。

結局未解決のまま、このクレームは私から消えてなくなってはくれない。
どこまで私は戦うんだろう?どこまで私は戦えるんだろう?
相手は最新鋭の兵器を持ち、私はその素手のままで、棒を持った猿のよう。

負けると分かっていながら、私はどうして相手に向って走るのだろう?
接客ってなんだろう?店員とお客と、何が違うんだろう?
死ねとか、ボケとか言う人に、私はどうして敬語を使っているんだろう?
なんで笑ってるんだろう・・・。

変だよな。変だよね。誰が?誰のことが?
私?そう私。私のこと。誰のことでもない。私のこと。分かってるよな。分かってるよね。
うん、分かっている。たぶん。きっと。いや、間違いなく・・・。

店員はクレームのお客を前にした時、
どうして普通の人間になれないんだろう?
なぜ、自分の言葉が、自分で言えないんだろう?

素朴な疑問。誰に対して?誰が答える?
私?あなた?となりの人?知らない人?誰?誰?
何になりたいの? 何になりたかったの? あのお月様。
お月様?ただ、黙ってそこにいるお月様。
なれやしない? なれやしないよ。
誰も答えない。 うん、分かってる。 いや、誰も分かっていない。
信じる?いや、もう信じない。誰も?うん、誰も・・・。

深い海の底で、眠っていたい。
目を閉じて、耳をふさいで、胎児のようにまるくなって・・・。

私の殻・・・私の殻

いつか私は貝殻になって、海の底に沈みたい。
誰の声も届かない・・・誰の顔も見えないくらい・・・。

海?どこの海?
・・・知らない? 知らない海?
そう、知らない海。 ・・・誰も? そう、誰も。


誰も知らない海・・・。



2002/09/07 1:14:43


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 2002/09/01(日) イメージという名の非常識



 言葉がわからない事への歯がゆさは、
時として危険な苛立ちになってしまう。
今日の私がそうだった。
売場で接客の合間に、「いらっしゃいませ」と声を掛けながらも
私が商品清掃をしていた時の事だ。

「ドンドンドン!」

いきなりこんな大きな物音が聞こえてきたのだ。
突然の大きな物音にビックリした私は、危険を避ける思いで、
ほぼ、反射的に顔を上げた。
すると、向こうから中年のおばさんが、ものすごい形相で私を睨みながら
げんこつで商品棚を「ドンドン!」叩いているのだ。

「なんなんだ一体?」

どうやら私を呼んでるらしい。
確かに今思えば、一見そのおばさんは日本人に見えるけど、
実際には外国人の方だったので、言葉がわからずにそうしたのかもしれない。
でも、あまりにも非常識な行動だった。まわりのお客さんたちがじろじろ見ている。
それにしても、なんだろう?あの態度といい表情といい・・・・
まるで私を犬か何か、言う事を聞かない動物だと思って呼んでるような感じだった。

正直言うと、そこで私はかなりカチンときていた。
たぶん、その前の接客でつい、私がイラついていたからかもしれない。
まぁ、どうあれ、その横柄な態度に、私はカチンときてしまったわけだ。

「ドンドンドン!」

まだ、おばさんは叩いている。
私はやれやれと思いながらも「いらっしゃいませ」と小走りで走り寄った。

どうもそのおばさんは、目の前の商品のカールドライヤーが欲しいようだった。

その売場には、そのおばさんの他に、4、5人の男女がいた。
そのいずれもが中年のおばさん、おじさんだった。

「こちらでよろしいですか?」と私はそのカールドライヤーの箱を持って
確認しようとした。するとおばさんは、ワケのわからない言葉で
怒鳴り上げ、見本があるにもかかわらず、
商品を箱から乱暴に取り出そうとしていたのだ。

私は過去に今まで、こういうお客さんは、外国人という事で
ルールとかマナーとか、それぞれそのお国柄と言う境界線のもと、
価値観が日本人と違うんだ。と書いたことが何度かあって
そのわがままぶりを許そうと思っていた。

でも、今日のは違った。

これは許せない。非常識としか言いようが無い。
それは人としての大切な何かだ。
これはもう、”価値観が違うから。”では済まされないと思った。
こんなのただの、常識を無くした大人達みたいだ。
その人、個人の問題なのだ。

”売り物だから、箱から出さないで!見本品がココにあるから。”

私は叫びたい気持を押さえて、何度も
・・・もちろんわかるようにジェスチャーも加え・・・
説明するのだけど、容赦なくどんどん開けようとする。

箱を開け、中身を引っ張り出し、中の部品はバラバラと落ち、ジロジロと眺めている。
まわりにいた男女4人くらいは、ただ、立っているだけで
何もしようとはしない。この人達には意思があるのだろうかとさえ思ったほどだ。

私の忠告に、ほとんど無視するかのように、そのおばさんは
まるでアリの巣をつつくゴリラのように、意味の無いイタズラを
繰り返すばかりだった。

そのあたりで私の怒りは軽くピークに達していた。
おばさんが私に千円札を何枚か出してきて、何かをしゃべっていた。
そのジェスチャーからして、このカールドライヤーに決めたようだ。
私は怒りを押さえながらも、「こちらのレジへどうぞ」とレジまで案内を
しようとしたところ、また、おばさんが「ドンドンドン!」と商品棚を叩くのだった。

「ドンドンドン!」

どうも私を呼ぶのに、このほうが最適だと思っているようだ。
日本語が話せないにしても、ちゃんと目の前でジェスチャーしてくれれば
私だって理解できる。
結局私は犬みたいに、またお客さんのところへと戻るのだった。

「テスト、テスト、テスト!」

それははじめて私が理解できる言葉だったように思う。
確かに商品を買う前のテストの要求は、その国では当たり前のことのようで
日本では、その為に見本があるわけだし、品質も優れているため
ひとつひとつテストなんかしたりはしない。

ここでも私はイライラが募るばかりだったが、そう言う事実を知っているので
これも許さないとダメか・・・とここは素直に反省しつつ、その要求通りに
その支払いの前に、カールドライヤーのテストをした。

電源を入れ、ブゥゥ〜ンと吹き出し口から熱風が出てきた。
もちろん商品には異常はない。
ただ、商品に異常はなくても、そのお客さんが異常だと言う事を
私は忘れるところだった。

そうなのだ、そのおばさんの異常ぶりに拍車がかかった。
なんと、そのおばさんは、新品のカールブラシを自分の髪に当て
使い始めたのだ。
まだ、お金も払っていないというのに・・・。
そこまでテストする必要がどこにあるというのか?

私はあまりにもの怒りのせいで、体と声が震えていた。

「ノーノーノー!」

イエスとノーくらいなら誰だって分かるだろう。
でも、どうせ買うのだからと思っていたら、なんと突然に「いらない。」という
ジャスチャーをおばさんがした。
まるでテレビゲームに飽きた子供の言い草みたいだった。
ポンとゴミのように商品を棚に置いた。箱に戻す事もなく・・・。
私は一瞬、自分の目と耳を疑った。そんなことってあるのか?

”いらない?”

もう一度、私は自分の心の中で、その言葉を繰り返した。
今更イラナイと言われてもどうしたらいいんだ?一度箱から出して
更に一度使った商品など、もう2度と他のお客様には販売は出来ない。

「それは困ります!買っていただかないと
これはもう、売り物になりません!わかりますか!」
私はジャスチャーさえもこの怒りが通じればいいと思った。
これはもう、お国柄価値観も違うから・・・なんてお人好しな事は言えないと思った。
商売なのだ。これは買物ごっこなんかじゃない。
ここには常識もあれば、国境を超えた最低のルールもある。

私は何度も叫ぶように、お願いした。
頼むからこのままにしないでくれ、と・・・。

結局、おばさんとその他数人の男女は、そのまま帰っていってしまった。
そこに私と乱雑になった商品の空箱と部品と、そしてカールドライヤーが
死んだように棚に横たわったままで・・・。

この時、私はふと、なぜか大企業の不祥事を思い出していた。
ほんの一部のごく限られた無責任が、その企業全体が、
そのすべてが無責任だと言うイメージに塗りかえられる。
その商品がたとえ問題が無くても店頭から撤去され、大量に廃棄されて行く・・・。
それに正しいも間違いも無い。ただ、人々の中にあるイメージが存在するだけなのだ。

私はもう、その外国人の、同じ国籍の人達がすべて
こんなにも非常識なのだと思っていた。
もちろん、それは正しくない事だ。
でも、イメージが私に植え付けられてしまった。

そのイメージはなかなか塗り変える事は出来ない。
それは当たり前だろう。イメージは私達の心が作るものだから・・・。

そして、あのおばさんの私や店に対するイメージは
こうかもしれない。

「不親切な店員がこの店にはいるものだ!
私の言う事などちっともわかろうとしない。
あんな店、もう2度と行くものか!」と。

崩れたそのイメージは、もう二度と戻らないものなのだろうか?

あのおばさんのように、
そして、この私のように・・・。



2002/09/02 2:22:16


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 2002/08/21(水) 破り捨てられたクレーム。



 お客さんが、私達の目の前で、その怒りをあまり言葉にすることなく
商品カタログを何度も破り捨てるというのは、やはりその接客が
いかに最悪だったのかを知るには十分過ぎるものなのだろう。

それは、数日前の出来事だった。
その接客を受けたのは、アルバイトのK君だった。
フリーターのK君は、とてもマジメな青年なのだけど、マジメ過ぎて
冗談を言っても、すぐに真に受けてしまうというちょっと困った性格をしている。

彼の接客もマジメそのものだった。
若いわりには、腰の低い丁寧な言葉を使うし、親身になって接客も出来るので
私は彼の接客には、どこか安心出来るものがあった。
だから今回も、それほど私はその接客を、気にしてはいなかったのだった。

大型テレビの配達の受付をしていた。
かなりの高額のテレビだった。K君もはじめての高額商品の接客に
少し興奮さえしていた。まだ、配達の受付けに不慣れなK君だが、私は任せても
大丈夫だろうと思い、どこか安心し切っていた。

しかし、お客様のその一言があって、それが間違いと気づいた時には
私の対応は、すでに遅すぎていたのだった。

「何度言ったらわかるんだ!
どうして君は私の言葉を最後まで聞かないんだ!」

40代の紳士風の男性は、言葉を荒げなかったにしても、
その怒りはK君やそばで聞いていた私にも、十分に伝わるものだった。

思いがけない展開に、私はお客様から事情を聞き
そして、K君と一緒にお詫びをしたのだった。
しかし、紳士風のそのお客様は「テレビはもういらない。
店はほかにいくらでもある。」と
そう言葉を捨てるように言うと、私達の目の前で
カタログを破り捨てたのだった。

そのお客さんのちょっと異常ともいえる態度に、K君も相当なショックを受けていた。
目が今にも泣きそうになっていた。まさか、こんな事になってしまうなんて・・・。

そのクレームの原因は、元はといえばK君の何気ない”クセ”によるものだった。

K君は、人の話をとにかく最後まで聞かないことがある。
K君にとっては、別にそれが”いい加減に話を聞いている”という訳ではなく
ただ、言われた事を、すぐに行動しなくちゃならないと思ってしまうみたいで
だから人によっては、そんな誤解を与えてしまうのだ。
この点は、私も気付いていたのだけど、私にしてみれば
それが彼の一生懸命な態度に見えて、”まぁいいか”くらいにしか思っていなかった。

でも、それが、あのお客さんにとっては許せなかったのだ。
ちゃんと話を最後まで聞かない彼の態度は
それこそ”いい加減な接客”に思えたのだろう。
本当はそうじゃないんだけど、人のクセは
初対面の人にすぐにわかるものじゃない。

落ち込んでいる彼に、私はこんなアドバイスをした。
接客は、”お客さんの目を見て接客をする”こと。そして”ゆっくり接客する事”
大切なのは、このたったの2点だけだ。
かなり大まかではあるけれど、これさえ出来れば
接客クレームの80%はなくなるんじゃないかとさえ私は思う。

お客さんの目を見て接客すること。
これがなかなか店員には出来ていないようだ。
目を見ないのは、接客や自分に自信のない証拠だ。
その自信のなさは、お客さんに必ず伝わってしまい不快にさせてしまう。
(そう言う私も相手の目を見ることが苦手だったりするので、偉そうな事は言えないけど。)

だからと言って、じっと見つめすぎるのもどうかと思うので、ポイントポイントで
一番伝えたいところで”目で聞く、目で話す”のがいいのだと思う。

次に”ゆっくり接客する”というのは、心に余裕を持つということ。
忙しいと字のごとく、人は心をなくしてしまう。
マジメ過ぎる彼は、いつも余裕がないように見える。
だから人の話を最後まで聞かないで、すぐに商品を探しに行ったりするのだろう。
それが、お客さんにとっては、”いい加減に聞いている”と誤解されてしまうのだ。
お客さんとの接客は”私はあなたの話をちゃんと聞いていますよ”
という態度でなければならない。

そのお客様には申し訳ないけれど、今回のクレームは
彼にとってはいい経験になったのだと思う。
それまで1度もクレームになったことのない彼だから、ショックは大きかったろうけど。

目を真っ赤にしてレジを打つK君。
お客さんに何か聞かれて、一生懸命にお客さんの目を見てゆっくりと接客している。
その態度に、もう私の言葉を忠実に守ろうとしているのがわかる。
なんてマジメなK君・・・。あぁ、なんだかうれしくなってしまう。

でも、K君、1度その顔を洗ったほうがいいと思うよ。

一生懸命な気持はわかるけどさ
真赤なその目で、お客さんをじっと見つめるのも
ちょっとどうかと思うんだけどなぁ・・・。

まぁ、それはともかくとして、がんばれK君!
その気持は、必ず相手に伝わるからねっ!
そして、その気持は、ちゃんと言葉で帰ってくるからねっ!

”ありがとう”っていうお客さんの言葉でね・・・。



2002/08/22 0:48:26


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 2002/08/14(水) 人に与えられたコード。



 住基ネットの住民票コード(番号)が、今、いろいろと問題になっているけど
その中で、こんな小さなニュースを見つけた。
ある県で「数字が縁起が悪い」などの理由でコードの変更を求める通報があったそうだ。

「オレに番号を勝手に付けるな!」
「プライバシーの問題はどうなってるんだ!」

住基ネットそのものを拒否するクレームは、それまで連日のニュースで
何度も聞いてきたけど、住民票コードの数字そのものが問題になるとは・・・。
でも、こう言うのも”あり”なんだろうなと私は思った。
数字にこだわる方は、意外と多くいらっしゃることを、私は知っているからだ。

昔の事、お客様からカメラの返品交換を求められた事があった。
まだ、商品は買われたばかりの新品だった。
私は初期不良か?とあせりながら、心の中でお詫びの準備をしながらも
その理由を尋ねた。

そのお客様は真剣な表情で私にこう言ったのだ。

「製造番号の末尾の数字が、とても不吉なんです。」

・・・。

私の中で準備されたお詫びの言葉が、どうにも出来ず
カラカラと空回りをしていた。
「はぁ?」と拍子抜けした私は、もう1度聞き返す始末だった。

人の信じているものは、それが数字だとしても、人それぞれなのだろう。
「どんな数字でも問題ないですよ。」という言葉を
あきれていた私は言いかけたけど、その言葉に意味が無いことに気が付いた。
私の否定する言葉のほうも、実はまったく根拠はないのだ。

あの頃、まだ新鮮な新入社員の私だったからだろうか?
そんなお客さんにも、邪険に扱うことなく親身になって
「どんな数字がいいんですか?」なんてマジメくさって聞いて
カメラをかたっぱしから箱を開け、そのお客さんにとって
縁起のいい製造ナンバーを、ひとつひとつ探したのだった。

そんな事をしたものだから、たくさんのカメラの外箱が汚れてしまった。
後でこっぴどく私は先輩に叱られた。
「どうしてあんな事をしたんだ?」と先輩にきつく聞かれ
「だって、製造番号が不吉だから・・。」と言った私は、もう一度先輩に頭を叩かれた。
まるで童話の中の、ウソばかりついていたオオカミ少年のような心境だった。

人はそれぞれ数字に対して、実はいろんなこだわりを持っているんじゃないかと思う。
中学生の頃、こんな印象的な事があった。
数学の授業で友達が、突然に手を上げて、先生にこう質問をした。

「先生、この計算問題の答えが”13”になったのですが、これって間違いですよね?」
「いや、答えは”13”であっているが、どうしてそう思うんだ?」
「だって、”13”って数字、2で割れなくて不吉じゃないですか!」

友達のその言葉に、教室中のみんながどっと笑ったものだ。
でも、あとでみんなが共感していたのを覚えている。
「確かに、数学の答えで”13”に限らず奇数が出ると、
思わずまた、計算しなおすよなぁ。」なんて数人の友達が言っていた。

笑われるかもしれないけれど、実は私も計算しなおしてた。
数学の答えで、奇数は不吉だった。偶数じゃなきゃ間違っているような気がした。
私もある意味、数字にこだわっていたのかもしれない。

数字というものは、実は多くの場面で人の心に何かしら影響を与えている。
そう思うと、たがが数字だけど、されど数字なんだ。
無秩序に並べられた数字だとしても、軽く侮ってはいけない。
数字には人ぞれぞれに、心の奥にしみついている意味があるのだ。
それは、これまでの長い歴史の中で培われてきたもの。
人がいて、そしてはじめて数字は存在しているのだ。
それを忘れてはならない。

・・・・・・・・

「住基ネット」の是非を、ここで私は問うつもりは無いけれど
管理すべき物は、かけがえのないあたたかな命を持った人であり
その数字そのものではないことに、せめて私は祈るばかりだ。

数字に意味を与えたのは人である。
数字が人の代わりにはなれない。



2002/08/15 0:12:44


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 2002/08/06(火) 心、冷たい夏・・・。



 「この頃、ちょっとしたことで、すぐにクレームになってしまうのよね。
みんなどこかイライラしているのよね。
あ〜あ、早くこんな夏、終わらないかしらねぇ・・・。」
開店前レジの準備をしている最中に、レジのパートのAさんが
しみじみとそう言っていた。

「もうちょっとの我慢だからね。」と
私はあまり慰めにもならない言葉しか言えなかった。
そう言ったあとで、もっと気の効いた言葉を言えなかったものだろうかと
自分がちょっと情けなく思った。

実はこのAさんのセリフには、ちょっとワケがあった。
そのクレームに、Aさんはちょっと落ち込んでいたのだった。

それは、今思っても、別にそうなるほどの事でもなかった。
Aさんが、お客さんのある商品の部品の注文を受付けただけだった。
そして、その商品が予定よりも1日ばかり遅れただけだった。
お客さんには、あくまで”予定”と伝えてあったのだけれど・・・。

その部品は、1日遅れたくらいで何か生活に支障が生じたり
するものじゃなかったし、それほど重大なものでもなかった。

でも、そのお客さんは、まるで親の仇みたいに、
たまたま受付けたAさんを電話で怒るばかりだった。
Aさんの言葉さえ、何も聞き入れてくれないみたいだった。

すぐに私が対応したのだけど、お客さんの言ってる事のほうが無茶苦茶だった。
こうしてあまり詳しく書けないことが、悔しくて悔しくて仕方ない。
要するに、Aさんの言葉がちょっと足りなかった為に、入荷が遅れたと言うよりも
その対応に対してクレームを言っているようだった。

でも、こんなふうに言われるほどの手落ちと言うほどのものでもなかった。
まるでそれは、思うようにならないと言って駄々をこねる子供のようだった。
挙句の果てに、「すぐその部品を持って来い!」とそのお客は怒鳴るばかりだった。

「お前の店の対応が悪いのだ。オレがタクシー代を払ってまで、
どうして取りに行かなきゃならないんだ?持ってくるのが当然だろう。」

何が当然なんだろう?
冷蔵庫や洗濯機の配達なら話はわかる。
でも、これは手のひらに乗ってしまうようなある部品なのだ。
それがなければ使えないというものでもなかった。

1日入荷が予定より遅れたこと、対応が悪かった事(?)
それがそのお客さんにとって気分を害したのであれば、それに対してはお詫びする。
本当に心から。でも、だからと言って、なんでもかんでもお客さんの言葉に
従わなければならないというのか?もちろん、そう言う対応が必要な時もある。
でも、今回の場合は、とてもそれが必要と思えなかった。

言ってしまえば、それは私達店員を、日頃のストレス発散の為に
何か無性に困らせたいが為の行動のように思えた。
そんなふうに、私の心の深いところでは、見えない怒りで心が震えていたように思う。

なのに、結局なんだろう?これは。
気付けば、私は何かをあきらめならがも、お客さんの言う通りにする事になる。
また、怒りで心が震える。お客に対して、自分に対して・・・。
そのお客さんもどこか救いようがないけれど、私もきっと、救いようがない。
言葉では「申し訳ございません。」なんて言って私はお詫びしている。
なんなんだ?これは?私は何を謝っているんだろう・・・。

電話を切った後、私が届けようと思ったけど、私はもうひとつ別のクレームを抱えていた。
それはそれほど大きなクレームじゃなかったけど、私は残ったほうがよさそうだった。
申し訳なく思ったが、社員のSさんに、お客さんのところに届けてもらうようにお願いした。
遠方のお客さんだったので、届けるのにかなりの時間も費やす事になった。

今回のたったこれだけのことに、実に多くの時間とお金がかかってしまった。
Sさんが外出している間、人が足りないので、アルバイトに残業をしてもらった。
そのアルバイトも、それがどこか面白くなかったみたいで、いつもより仕事がいい加減だった。
やがてクレームから戻ってきたSさんもどこか機嫌が悪かった。
あのお客さんにいろいろと言われたようだ。

本音を言えば、”どうして僕がこんな目に会わなくちゃならないんだ?”
というSさんの思いだったのだろう。
申し訳ない・・・。パートのAさんも、ひたすらSさんの謝っていた。
「私のせいでゴメンナサイね、ゴメンナサイね。」
そんなマジメ過ぎるパートのAさんを見ていて、ちょっと私は辛くなった。

確かに店側の落ち度は、謙虚に反省しなければならないけど
お客さんの心無い一言が、どれだけ多くの人の心に冷たく影響するのだろう。
あの日はみんなが、うまく言えないけど、何かがダメになってしまっていた。

・・・・・・・
Aさんが、また
私にこうつぶやいていた。

「あ〜あ、本当に早くこんな夏、終わらないかしらねぇ。
あのお客さんも、決して悪い人じゃないんだよねぇ。
全部、こんなに暑い夏のせいなんだよねぇ・・・。」

Aさんのそう言う言葉に、私は少しだけ
何かから救われるような思いがした。



2002/08/07 0:14:44


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 2002/07/14(日) 追いかけて、追い求めて。



 何か自分の限界を感じる時。
そんな時に限って、”自分に何ができるんだろう?”なんて私は考え込んでしまう。
片手で数えられるくらいの、くだらない事しか思い浮ばなかったけど
これが今までの私なのかと、妙に納得する自分がいた。
それはどこか、あきらめにも似た気持ちのように思えた。

まだ、人生の途中なのに、何か間違って生きてしまったような・・・
ふと、そんな気がした。

突然の土砂降り雨の激しさのように
心が急に暗く切なくなっていた。

・・・・・・・
クレームがあった。
若いアルバイトに中年男性が、顔を真っ赤にして怒っていた。
私は接客の途中だったけど、別の社員にその接客をお願いをして
私はそのクレームのお客様の対応をした。

”いかがされましたのでしょうか?”訳もわからず私は尋ねた。
「お前が責任者か!」と男は怒鳴った。
昼間っから酔っているのだろうか?鼻の頭が妙に赤い。
それとも、もともとそんな態度しかとれない人なのだろうか?
普通じゃない・・・ひどく私は憂鬱になった。

アルバイトのクレジットのサインを頂く時の態度が気に入らなかったらしい。
弁解する訳じゃないけど、アルバイトの彼の接客態度は
私は何一つ間違っていないと思う。
もちろん、そのときの現場を見た私は訳じゃない。
それは言い切れないかもしれない。
でも、彼の日頃の態度を知っている私は、彼を信じたいと心では思っていた。

心ではそう思っていたのに・・・
「申し訳ございません。私の教育不足です。」

それはお決まりの言葉だった。

私の言葉は、何一つとして間違った何かを否定する事もなく
ただ、それは自分を守りたいだけで、選んだ言葉のような気がした。
その言葉に、思わずアルバイトが私の顔を見る。
”僕は間違っていないんだ!間違っていないのに・・・”
彼の心がそう叫んでいるのが、私には見えるような気がした。

私は彼の目を、まっすぐに見られなかった。
「十分に私から注意しておきますので・・・」

ので・・・で、なんだろう?何が言いたいんだろう?
その”ので”の続きの言葉は、一体なんになるんだろう?

”どうか、ご勘弁下さい。私をどうか許してください。
悪いのはこのアルバイトなんです・・・。私じゃありません。”

その言葉の裏に、まるで頭に地面を押しつけたような私は、
どうしようもなく弱い人間に思えた。
この仕事をしていて、時々、ワケもわからず自分の限界を感じる時がある。
私は何がしたいんだろう?何を求めているんだろう?って。
頭の中をそんな思いが、ぐるぐると駆け巡っている。

私はこの仕事には向かない・・・。
何度も思った。

何度も何度も心でそう繰り返しては、
結局何も変えられない自分に、あきれ果てていた。
私はすべてに追いつけないでいる。
追いつこうとしているものすら私は何一つわかっていない。
私は何をこの人生でしてきたんだろう?

何もしていない。・・・何も出来てもいない。
誰かの言葉や行動に、後からついて行っただけだ。
追いつこうとして、追いかけたというワケじゃない。
たったそれだけの人生に、何の意味があるというのだろうか。

涙を流すだけなら、誰にだってきっと出来るはず。
そうじゃなく、その涙をぬぐう力が、今の私には欲しいんだ。

涙は決して誰かに見せるものでもなく
誰かに訴えるものでもないんだ。

涙は自分が悲しい事を
心がそっと、教えてくれているのだと思う。
だから涙は、透明に頬を流れて行くのだろう。

まだ、人生の途中なのに、
何か間違って生きてしまったような・・・
今の私は、そんな気がしてならない。

この心は、一体どこへ行こうとしているんだろう。

追いかけることもなく
そして、追い越す事もないままに・・・。



2002/07/15 0:39:00


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