2002/06/30(日) 言葉のない別れ・・・

A君が転勤になった。
今日が彼の最終出勤日だった。
彼は夕暮れのお客さんの少ない売場の中で
最後の時を惜しむかのように、みんなにひとりひとり声をかけていた。
そして、最後の別れの時を彼なりの思いで、笑顔と言葉で伝えていたようだった。
まだ若いA君は、私とは随分と年齢は離れていた。
かつてA君とは、仕事上で私と意見がまったく合わずに、口論になった事があった。
確か、かなり前の日記にも書いたと思う。
あるアルバイトの接客態度について、私はそのバイトに対してかなり厳しく注意をした。
そのバイトの態度が、私にとって許せないものだったから。
しかし、A君は、そんな私の厳しい態度に
「あなたの言葉は間違っていないとしても、あなたの言い方はどこか間違っている!」
そう私に指摘したのだった。
しかし、私は彼のそんな生意気な言葉に声を荒げることなく冷静に
「この場は接客の訓練の場だ。厳しくするのが当たり前だ。」と
大人の自分を演じた。私の言葉は、彼にさえ厳しいものだった。
しかし、彼は、年上の私にひるまなかった。
最後まで、私に食ってかかっていた。
私もつい、意地になり、結局は随分と大人げない言葉で彼のことを傷つけていた。
あの時、彼は私に「あなたはただ、自分の怒りを相手にぶつけているだけだ!」
とそう私に言って、そのアルバイトのことをかばうかのように、私を非難するのだった。
今だから言うのだけど、実は、あの日、私はただたんに、機嫌が悪かっただけなのだった。
あの日は、つまらないクレームに振り回され、私はどうかしていたのだった。
そのアルバイトの接客態度も、確かに注意しなければならないものだったけど
私には、それ以外の単なる漠然とした憎しみだけの感情があった。
あの時は、私にとって、誰かに怒りをぶつける格好のチャンスに過ぎなかったのだ。
それをA君は、ちゃんと見抜いていただけだった。
それに気付いた私は、一晩中、悩みに悩んだ挙句、私から彼に謝った。
「申し訳ない。あれは私が間違っていた。」と素直に言った。
彼は、そんな私のことを、「僕もつい、言いすぎました。」
と少年のような笑顔で私に言ってくれた。
そんな彼に、私は何か私自身の危うく道から外れそうなところを、
正してくれたような気がした。
勇気を出して謝ってよかった。A君も、きっと私を許してくれたと思っていた。
でも、それからほとんど彼とは会話をする事が無くなった。
無理をして無視をしているわけでもなく、私達は、まるで電車の中の他人のように
なんの感情もなく、ただ、他人でいたのだった。
あれから3ヶ月近くが過ぎてしまい、時間が人の心の痛みを癒すというけれど
そろそろそんな時間だと私は思っていた。
そのうち、気軽に話せるだろうと思っていたけど・・・。
そのうちなんて、結局来なかった。
とうとう彼は私に何も言わなかった。
私はもう1度、あの時のことを謝り、「あれは本当は、単純に機嫌が悪かっただけなんだ。」
と冗談みたいに明るく笑い合えると思っていた。
でも、何も言わなかった。違う部署だったとはいえ、そのことが、私にとって何か大切なものが
私の中に何か欠けているような・・・そんな気がした。
私のすぐそばで、彼が何人かの従業員達と、まるでサッカーで決勝ゴールを
決めたかのように、互いに抱き合い喜びあっているように見えた。
そして、彼が最後に私の目の前を、何も言わずに通り過ぎて行ったとき
私はひとり気付いていた。
結局、彼は私のことを、最後まで許してくれなかったのだと・・・。
私は私の人生の中で、よく、こんな思いをしてしまう。
私はきっと、誰からも好まれる性格ではないのだろう。
それは私個人の性格なので仕方ないと思ってはいるけれど
でも、私はひとり、考えてしまう。
私には何が一体欠けているのだろうか・・・と。
私はどうも、冷たい人間だと他人からは思われているようだ。
でも、それは正直なところ、かなり正しいのだと思う。
私は他人にあまり感情を見せる事がない。
それに、話し掛ける事や、しゃべる事もほとんどない。
私が喋るといつも誰かを傷つけているような気がしていた。
だから私はいつからか、すべての言葉を忘れた旅人のように何も喋らなくなっていた。
言葉を喋らなければ、誰も傷つけないと思っていた。
でも、それもどこか間違っているようだ。
人を傷つけるのは、その言葉じゃなく、心の中にあるもののように思えて
とうとう私は、私の存在そのもののが、間違っているような気がしていた。
だからと言って、私は私の存在を、消してしまうほどの勇気はない。
私は人として、大切な何かが欠けているのだろう。
こうして、日記を書いていると、こんなに言葉があふれてくるのに、
どうして現実にはこういかないのだろうか?と
今日もひとり、私は悩みつづけている。
A君が今日、この店を去っていった。
でも、私の心にはまだあの日の
彼の怒りの声が響いている・・・。
2002/07/01 0:17:24
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2002/06/26(水) 心、病んだ人。

これはもう、3年以上昔の話になる。
そのパートの若い彼女が、突然におかしくなり始めたことを
私はすぐには気がつかなかった。
「あの娘、最近、化粧が変わったわね。」
ある日、私はレジのおばさんに耳打ちされた。
その言葉には、どこか嫌味と言うか、
とても意地悪な皮肉が込められていたように思う。
確かに彼女の化粧が変わっていた。はっきり言って普通じゃなかった。
なんて言ったらいいのだろう?まるでその白いファンデーションが
なぜか血の気の失せた死人のように見えた。
いや、というより、彼女の無くした表情が、そのように見せていたのかもしれない。
もともとあまりしゃべらない彼女だったが、仕事はきちんとこなしていた。
時間を秒単位に考えているような人・・・と言ったほうがスッキリと当てはまる。
それは几帳面過ぎて、何か窮屈に感じるほどだった。
時々ではあるけれど、たまに見せる彼女の笑顔は、何か秘密にしていた大切なものを
思いがけず見たような気がして、私はどこか微笑ましく思っていた。
しかし、ある日突然に彼女は急に無表情になり、そして、無口になってしまった。
そんな彼女に、私は時々話しかけてみたり、たまには軽い冗談とかも
言ってもみたりしたけれど、彼女の表情は何一つ変わる事はなかった。
私はそのまま密かに見守ってはいたのだけど、ある日、決定的な事が起きてしまった。
お客さんが、その彼女の前で、大声で怒鳴っていたのだ。
それは普通じゃなかった。お客さんが顔を真っ赤にしている。
私は慌てて、その場に走った。
私は、あの時の場面を、今でもはっきりとこの目に焼き付けている。
その怒鳴っているお客さんよりも、その彼女の態度に私は信じられない思いだった。
彼女は無表情に床の一点を、ただ、見つめているだけだった。
その彼女の目の前には、怒鳴るお客さんがいるにもかかわらず、彼女は
それがまるっきり聞こえていないのか?問題でないのか?それとも見えないのか?
ただ、死んでいるかのように動かず、うつむいているだけ。
泣くでもなく、詫びるでもなく・・・ただ、無表情にうつむいているだけだった。
何も言わない彼女の横で、私はひたすらお客さんにお詫びをした。
あとからわかったことなのだけど、彼女は、そのお客さんの配達の受付時に、
お客さんに渡す大切な書類を、突然お客さんの目の前で
ポトンと床に(わざと?)落したのだそうだ。
そして、そのお客さんに、
何ひとつ表情を変える事なくこう言ったのだった。
「拾って・・・」
そのお客さんが紳士的な方だったことを、私は心から感謝した。
私が頭を下げる程度でこのクレームが終わった事は、
奇跡だったと言ってもいいかもしれない。
ただ、そのお客さんが、私に言った最後の言葉が、
私には心に深く刺さる痛みとして、とても複雑な思いがしたのだった。
「心の病んでいる人を、
売場に立たせるんじゃないよ。」
心の病んでいる人・・・。
その言葉を口にしてみて、私は始めて気がついた。
私はそれを、どこかうすうす感じていながら、ずっと逃げていたような気がした。
私が、接客の悪さを直す事は出来たとしても、病んだ心まで直す事は出来ない。
私の間違いは、あのお客さんの言った通り、心が病んでいる彼女のことを
見て見ぬ振りをしたことであり、心が叫び声をあげるほど病気だったのに
彼女を売場に立たせた事だった。
そのあと、私は、店の応接室で、彼女とふたりっきりになり
何か思いつめた表情で、テーブルの上の灰皿をじっと見つめる彼女に
私はポツリとつぶやくように、こう聞いて見たのだった。
「何があったの?」
その言葉に、彼女は突然、大声で泣きはじめた。
あとで彼女が話してくれたのだけど、
あの時、正気に戻っていた彼女は、私にひどく叱られる事を、
唇をキュッとかみしめながら覚悟していたらしい。
でも、私の「何があったの?」の一言は、意外にも彼女の心の奥深い場所にある
何か傷ついたものに触れたようだった。
結局、その数日後に、彼女は仕事を辞めてしまった。
”しばらくの間、休んだほうがいい。”と私はあの時、言ったのだけど
彼女なりに、こんな彼女自身が許せなかったようだ。
彼女の病んだ心。
とうとうその原因は、教えてはもらえなかった。
「何があったの?」
という私の言葉に、彼女の本当に伝えたい言葉は
あふれるくらいにあったのだろう。
でも、それは言えなかった。
私では力不足だと思ったのだろうか?
それとも・・・。
そう言えば、彼女がいなくなっていつしか
カウンターに置いてあった花瓶の花が枯れて下を向いていた。
いつも、彼女が花瓶の水を替えてくれていたのだった。
まるで枯れたその花が、寂しげなあの彼女のように思えた。
あの時、心が叫んでいても、私に何も伝えなかったのは
あれは、彼女なりのやさしさだったのかもしれない。
そのとき、私は少しだけ
彼女のことがわかったような気がした・・・。
枯れた花の花びらが
涙のしずくのように落ちていた。
2002/06/27 1:04:52
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2002/06/24(月) 4回電話が鳴ったあとで・・・。

4回電話が鳴ったあとで、接客を終えた私は慌ててその電話を取った。
突然の若い男の怒鳴り声。・・・クレームだった。
なんだかいきなり水をかけられてしまったような、そんな気分だった。
4度目で電話を取るべきじゃないなと思った。
なんとなく不吉な予感がしたからだ。
「買った覚えもないのに、
クレジット会社から請求がきている!どうなってるんだ!」
いきなりこう言われても、私には何のことかさっぱりわからない。
「申し訳ございませんが、もうすこし詳しく教えていただけますか?」
確かにそのときは、そう聞くしか仕方が無かったのだが
怒鳴っている相手に対して、その言葉は実に無責任に聞こえてしまうのだろう。
”オレがこんなに怒っているのに、何もわからないとはどういうことだ!”
お客様ご本人にとっては、たぶんそんな思いなのだ。
あまり具体的には書けないけれど、いくつか信じられないような罵声を私はあびせられ
男は感情のままにその電話を切った。
受話器をその場で投げ捨てたのじゃないか?と思うような切り方だった。
それから私は仕事が手に付かなかった。
最悪な事態を、いつも店員は考えてしまうものなのだ。
そのほとんどが、現実のものになることを、私はその2時間後に知る事になる。
あの若い男がやって来た。
その声を聞くまでもなかった。
偏見かもしれないが、たとえば満員電車の中、老人に席を譲ることなど、
彼の人生の中で、たったの1度も無いのだろうなと思わせるほど、
彼の歩き方や行動は最悪なものだった。
「オレはな、絶対に金を払わないからな!
このクレジットカードは、もういらん!」
そう怒鳴る若者に、「クレジットカード会社のサービスの窓口に電話してみますので
少々お待ち頂けますか?」と私が落ち着いて言うと、すぐに窓口へ電話した。
事前に調べて見たのだが、その若者は最近、
この店で小型冷蔵庫をクレジットで買っていたが
それにはなにひとつ、問題は無かった。
男も”それ以外に請求が来たのだ”と言っていた。
あとはクレジット会社に何か手違いがあったのかもしれない。
その男がどうであれ、その可能性はゼロではないのだ。
男はイライラしながらも、そこで待っていてくれた。まだ、何かを怒鳴っていたから
周りにいたお客さんも、怯えるようにどこかへ去ってゆくばかりだった。
2コールで窓口の相手はすぐに電話に出たけれど、私は随分と長く感じた。
その窓口の女性の何も悩みを抱えていないような明るい声が
まるで別世界から届いている声のような気がした。
あまりに今の状況とその声は、比較にならないほど場違いだったから。
私はその事情を説明すると、”責任者の方は・・・”とその明るい女性に告げた。
「少々お待ち下さいませ。」と彼女は(たぶん)深刻な表情でその電話を代わった。
誠実そうなその責任者の男性の声が、私の心の奥深くにやさしく届いた。
彼にこのクレームをゆだねるしかなかった。
その経緯をその責任者に伝えると、私は男に「クレジット会社の責任者の方です。」
と言ってその電話を代わった。
男に受話器を手渡す時、まるで私がクレームから逃げているみたいで、
誠実そうな責任者に対し、心が少し痛んだ。
「買ってもないのに、請求書を送ってくるとはどうなっているんだ!」
また、同じ事を言っている。
聞いていて、若い男の主張には、どれも具体性の無いものだった。
だったら、なぜその請求書をここに持っていないんだろう?
その金額は?いつ買った物なのか?
本当に身に覚えがなければ、どうしてもっとその証拠を提示しないのだろう。
それに友達か家族の誰かが勝手にそのカードを使ったとも考えられる。
これではまるで、”嫌いだから嫌いなんだ”と意味もなく駄々をこねる子供と一緒だ。
電話での話し合いは、その具体性がないばかりに並行線だったようだ。
やがて男はその電話の受話器を、ゴミでも捨てるように私に渡した。
「話にならない!」そう怒鳴っていた。
そして男は、次の瞬間、信じられない行動に出たのだ。
「オレは絶対に金は払わない。
このクレジットカードはもういらん、ココに置いてゆく!処分してくれ!」
そう言うと、男はまだ、何か怒鳴りながら走って行ってしまった。
あまりにも信じられないその行動に、私は引きとめる言葉すら言えなかった。
”もしもし、もしもし、”気付けば受話器から声が聞こえていた。
「もしもし。」と私はその電話に答え、窓口の責任者の男性に
クレジットカードを置いて帰ってしまった事を、そのまま告げた。
「え?」とその責任者も、思わず言葉を失っていた。
「本当なんですか?」と念を押して私にまた聞いてきた。
カードを置いてゆくなんて無謀な事だ。
このままもし、私が好き勝手にこのカードを使ったとしたら、
それこそ身に覚えなのない請求があの若い男にされることになる。
そんなことも考えていないのだろうか?
結局私はその後も、その残されたカードの事で長い時間、対応をしていた。
「私のほうからあのお客様には連絡を取ってもう少し詳しく話をしてみますので・・・」と
誠実そうな責任者が私に言ってくれた。
”大変なことだろうな”と私は心で思いながらも、
後はその誠実な責任者に任せることにした。
これも私の偏見にすぎないことだが、
たぶん、お金が払えなくなってしまったのじゃないだろうか?と思った。
怒鳴ってクレームを言って、カードを店に置いてゆけば、
それが帳消しになるとでも考えたのだろうか?
私の想像にしか過ぎないけど、その可能性は確かに何パーセントかあるだろう。
クレジットカードは便利なものだけど、結局私達はこうして、それに踊らされている。
人間が作った便利なものなんて、所詮いつも、そんなものだ。
・・・なんて、私の心も、あの若い男のように、
どこか具体性もなく、ただ、愚痴を吐きたくなっていた。
やがてまた、売場に電話が鳴った。
私はそれを、必死な思いで3度目で取っていた。
私の中で、4度目はもう許されないのだ。
電話という便利なものに、
私はやはり、こんなふうにして、踊らされている。
2002/06/25 0:56:02
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2002/06/18(火) お疲れの潜伏者。

とんでもない事が起きてしまった。
いえ、今日のサッカーの事じゃないんです・・・。(日本、負けてしまったね。残念。)
先ほど、私あてに電話があったのです。店の警備員さんからでした。
人には、第6感ってやっぱりあるんですね。そのときの私がそうでした。
なんとなく、誰かが私に電話をかけてくるような、
そんな予感がしてたのです。不思議と。
それで、私がその電話を取ると、警備員さんがこう私に伝えたのです。
「あのう、売場に潜伏者がいたのですが・・・。」
「センプクシャ?」
その言葉の意味がわかるまでに、私は3秒間の時間を要したかもしれない。
でも、その言葉は
”閉店後の店に店員でない、誰かが残っていた。”と言うことだった。
盗難目当てか?私の心の中に、最悪の事態が思い浮んだ。
ビデオカメラや、パソコンが売場からごっそりとなくなっていて、
まるで台風が通過したかのように荒された跡。
そして、ひっそりとした誰もいない売場に、警報機だけが鳴り響いている。
そんな光景・・・。
こんなときに可笑しいのだけど、なぜか私の頭の中では、
映画、スパイダーマンの予告編の映像が思い浮んでいた。
潜伏者は、まるでスパイダーマンのように華麗な新体操を
するみたいに、目にも止まらぬ早さで盗んだのだろうか?
「もしもし、もしもし、」
警備員さんの電話の声が、だんだんに大きく聞こえてきた。
あぁ、私は受話器を持ったまま、ぼんやりとしていたみたいだった。
「あぁ、スイマセン、大変な事ですね、今から店に行きましょうか?」
そう私は言った。たぶん、警察を呼んでいるだろうし、
私が売場の状況を説明しなきゃならないだろうし
そう思うと、とても気が重くなった。でも、それくらいに大変な事になってしまったのだ。
「いえ、別に店に来られなくてもいいですよ。一応、報告をしたまでですから。」
その警備員のおじさんは、私にそう言った。
こんなに私は動揺しているのに、警備員のおじさんのその言葉には
ぜんぜん重みがなかった。
まるでその電話が、家族に”帰るコール”でもするみたいに、
ぜんぜん特別じゃないような感じだった。
「でも・・・」やはり行くべきじゃないのか?と私は迷っていた。
「いえね、別に盗難とか、そういうことじゃないんですよ。
本当にただの潜伏者、いや、潜伏者と言うほどでもないかも・・・
まぁ、ただ、そう言う事があったと言う事だけなのです。」
そう言う警備員さんの声が妙に明るかった。
それに、”ただの潜伏者”って、一体どういうことなんだ?
「あぁ、スイマセン、ちゃんと説明していませんでしたね。
つまりですね、こう言う事なんです・・・。」
「と、言いますと?」
私は早く、次の言葉が聞きたかった。
「その潜伏者のいた場所は、マッサージチェアの売場なのです。」
「え?マッサージチェアの売場?」
「はい、私も、閉店後の夜中の巡回の時に、そのお客さんから薄暗い場所から
声をかけられた時は本当にビックリしましたよ。
○○さん、閉店後の見まわり、ちゃんとしてくれましたか?」
その”してくれましたか?”が少し厳しく私に聞こえた。
「えぇ、ちゃんとしましたよ。いつものように。でも、潜伏者なんてどこにもいなかった。
それで、そのお客さん、マッサージチェアの売場のどこにいたのですか?」
「決まってるでしょ。マッサージチェアですよ。」
「え?マッサージチェアって、もしかして・・・。」
「そう、そのもしかしてですよ。
そのお客さん、マッサージチェアの売場で商品に座ってずっと寝てたんだよなぁ。」
”ギャオー”だった。
思わず心の中で、そう叫んでしまった私。
なんてことだ、ぜんぜん気が付かなかったぞ!
そう言えば、確か、閉店1時間前くらいに、マッサージチェアで試し運転している
方がいらっしゃったな。確か、小柄な中年くらいの男性の方が。
あぁ、もしかして、あのお客さんが、そのまま閉店後まで寝てたと言う事なのかぁ?
てっきり私は、ただ気持ち良くて、目をつぶっているだけだと思っていたのだけど
たぶんあの時、すでに眠っていたということなのかぁ。
それにしても、どうして気が付かなかったんだろう?
閉店後の見まわりの時に、
ちゃんとそのマッサージチェアの売場の前も歩いたのに・・・。
「あぁ、たぶん、マッサージチェアの色と同じような色の服を着ていらしたから
カメレオンの保護色みたいになってしまったのだろうね。
それにイスに座ったままだと、案外目立たないものだからね。
でも、普通、閉店後の大きな店内アナウンスで、起きるものだけど、まぁ、この
中年サラリーマンさんは、よっぽど疲れてたんだろうね。
売場であんなに熟睡できるなんて、僕も感心するよ。」
確かにその通りなのだろうな。よっぽど疲れていたのだと思う。
それで起きたら、いきなり暗い売場の中で、しーん、とただひとりだけで
その人も本当にビックリしたのだろうな。
もしかしたら、仄暗い家電売場は、宇宙人のUFOの中にいるかのように
思えたかもしれないな。
あのおじさんも、”私は連れ去られたのか?”と一瞬思ったかも。
なんて・・・ごめんなさい。(笑い事じゃないよね。)
私がちゃんと気付いていたら、こんなことにならなくて済んだのにね。
それに本当に盗難目当ての潜伏者だったら、とても深刻な事になっていた。
十分に注意しなければ・・・。
それから私は、警備員さんに、一応、少しばかり説教を受けてから電話を切った。
マッサージチェアで寝ていた中年のおじさんは
「私がうっかり眠っていたばかりに、大変ご迷惑をお掛けしました。」
と頭をかきながらおっしゃってくれてたようだ。心やさしい方で助かってしまった。
そのあと、私はA社員に電話した。
「こんなことがあってね、お互いに十分に注意しないといけないなぁ。」
別に、明日話しても良かったのだけど、反省も込めて
誰かにちゃんと伝えなきゃと思った。
万が一、その人が病気でもしていたら、それこそ大変な事になっていたのだ。
「え?ずっと寝てたって、もしかして、小柄の中年の男性のお客さんですか?」
A君はとても意外そうにそう言った。
「うん、そうだよ。もしかして気付いてたの?」
「ええ、僕もあのおじさんが寝ているのを、ちらっと見ただけなんですけど
まさか、あのままずっと寝ていたなんて・・・。」
「まさか、ってどういうこと?」
「だって、僕が見たのは、閉店の約3時間前ですよ。」
・・・・って言う事は、少なくとも3時間は寝ていたってことなのか?
その間、誰も起こさなかったというのも大きな問題だ。
やれやれ、なんてことだ。
A君も、あの時起こすべきだったと、とても悔やんでいた。
それにしても、おじさんもよっぽど疲れていたんだろうね。
そう思うと、あのまま寝かせておいたままでも、やっぱり正解だったような・・・。
なんだか、そんな不思議な気持ちです。
それにしても、あの場所で、たったひとりであのおじさんは
どんな夢を見ていたのかなぁ。
たぶん、今ごろ、奥さんと(たぶん既婚者だと思うけど。)
今日の失敗話をしているんだろうなぁ。
「いやぁ、しっぱい、しっぱい。」なんてビールでも飲みながら
頭をかいて笑っているのかなぁ。
それが、奥さんとあの人の幸せな風景になってくれたらいいのになぁ。
なんてね。
そうしたらやっぱり、あのまま寝かせておいてもよかったと
私は少しだけ気が楽になるのになぁ・・・。
あとはあの人が奥さんに
叱られてない事を祈るばかりです。
やれやれ・・・。
2002/06/19 0:46:43
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2002/06/11(火) ひとり上手。

昔から、ひとりが好きだった。
幼い時、小学校の頃、中学の頃、いつも私はひとりでいた。
友達なんて、いつも片手の指で数えられる。それくらいのものだった。
でも、それさえも、本当に友達だったかどうかは私には自信がない。
気付けば私は、いつも友達の輪から離れてひとりでいたのだった。
別にそれが苦痛というわけじゃなかった。
楽と言えば楽だった。唯一心配されることといったら、このまま何も喋らなかったら
いつか言葉を忘れてしまわないだろうか?と少しそう思うことくらいだった。
つまり、それだけ私はどうしようもなかったと言う事だった。
さすがに高校ともなるとこのままじゃ、ちょっとまずいかな?と思ったりもした。
あれは学園祭の時だったように思う。
クラスのみんなで8ミリ映画を撮ることになっていた。
それはちょっとしたドラマ仕立てになっていて、結構本格的だった。
みんながみんな、役を与えられ、放課後遅くまで残ってがんばっていたのだった。
そして、学園祭当日にそれが放映された。
しかし、なぜかスクリーンには、私ひとりだけそこにいなかったのだ。
当たり前だった。私はそれに出ていなかったのだから。
あの頃私は、クラスの全員がそれに出ていることを知らなかった。
本当に私ひとりだけ・・・だった。
別にいじめとかそんなものでもなく、ただ、仲間にされなかっただけだった。
それはたぶん、誰からも、それを私が望まないと思ったからだろう。
あの頃の私を思えば、それは当然の事だった。
映画はありがちな恋愛物だった。
みんなのぎこちない芝居に笑いがこぼれる。たくさんのNGに泣いて笑う者もいた。
そして、映画が終わった時、何かを成し遂げたそれぞれの思いに
みんなが万歳しながら抱き合い、歓声を上げた。
最後列で私はひとり、ぼんやりとそれを見ていた。
歓声と拍手の中、私はひとり、それがまるで光も届かないような
深い水中で聞いているような不思議な感覚を覚えた。
知らぬうちに目から涙がこぼれていた。
慌てて私はうつむいた。そんな私に声さえかけてくれるものもいなかった。
ここから消えてしまいたい・・・本気でそう思っていた。
・・・・
あの頃、私は誰かと、どんなふうにしてしゃべればいいのかまったくわからないでいた。
もちろん、必要な時は話す事もあった。でも、それはいつも表面的な事だけだった。
友達のどんな言葉も、私はひどくどこか遠くに聞こえていた。
それはその人の心から、あまりにもかけ離れていたような言葉に思えたからだ。
どの言葉が本当で、どの言葉がウソかなんて、周りのみんなはとても器用に
わかっているのに、私だけちっともわからないように感じた。
その度に私はひどく傷ついていたのだった。
傷つかなければ、誰とも話さない事。つまり、ひとりでいること。
それが私の結果であり、この心を守る哀しい選択だった。
そんな性格から、私は大学に入ってからも寮生活や学校に
馴染めずに途中で辞めてしまった。
そんな私を見るに見かねて、今は亡き私の父が、今のこの仕事をすすめてくれた。
この接客という仕事に、私はまったく興味がなかったけど、
オーディオとかが好きだったからこの電器売場店員の仕事についた。
それは私のただの気まぐれだったのだ。
その気まぐれに、こうして15年間も付き合っている。
それは、なんて不思議な事だろうと今更に思う。
私がこの仕事をこうして続けられているのは、ひとつの奇跡とも言える。
いわゆる人嫌いな私が、人と接し、話し、笑いたくもないときに笑い
誰かの言葉に傷つきながらもお詫びをすると言う、
こんな接客の仕事をしているのだから。
普通、私のこの性格を考えれば、最悪な職業選択だったと思う。
しかし、私はひとつ賭けてみようと思ったのだ。
他人は本当に、私を傷つけるだけの存在なのだろうか?と
それを証明するには、この仕事はまさにうってつけのものだった。
結果的には、お客様という何か特殊とも思える他人の立場から、
私は実に多くの言葉で傷ついていた。
クレームは、弱くなった私の心を、まるで見えない大きな力で
ひき千切られるような思いがした。
辞めてやる!辞めてやる!と何度もつぶやきながらも、
そこには必ず心温まる誰かのやさしい言葉があった。結果としてあったのだ。
あるクレームで、その人に対して恨みの感情さえ抱いていた私は
泣きそうになりながらも必死で努力した結果、
その恨んでいた人(お客)から「あなたがいてくれてよかった。」
と言われた時、私ははじめてこう思った。
”人は身勝手で、わがままで、実に恐ろしい生き物には違いはない。
しかし、それと同じくらいに、人は誰でも必ずといっていいほど
やさしい心を持ち合わせている。”
接客や理不尽なクレームを通じて、私はそのことにやっと気付いたのだった。
それが私のこの接客と言う仕事の中で、そんなひとつの結論に達したのだ。
家族でも友達でもない、お客という特殊な他人の前で泣いた日を
私は忘れはしない。
私にとって、それは一生の宝物なのだ。
・・・・・・・・・
時がもしも、戻せるのなら、あの学園祭の日に戻ってみたい。
別に私はあの時のまま、ひとりだけ出演しないままで構わない。
ただ、上映が終わって、みんなが抱き合って喜んでいる中
私もその喜びに加わりたいのだ。
「よかったね、よかったね。」と誰かの喜びを自分の事のように分かち合いたいのだ
あの頃、私に欠けていたのは、自分の心ばかりまず考えていて
他人を思いやる心がなかった。
誰からも求められない事に、勝手にひとり傷ついていた。
自分から求めようともせず、与えようともしないで、
誰からもやさしくされたいと思うなんて
それはなんて愚かなことだったのだろうかと、私はやっと気付いたのだった。
そんなことに気付かせてくれた接客というこの仕事は、
どこか人生の縮図のように見える。
そろそろ自分のこの人生を、もう少し別な角度で見つめたいと思うけど、
なかなか思うようにはいかない。
まるで本人だけが内緒に準備されたバースデーパーティのように
接客やクレームと言う落胆の中から生まれる喜びを
まだ、この人生の縮図に味わいたいなどとと思う
そんな図々しい私がいるのかもしれない。
あの頃、思春期だった私は、大人になれば、何かが変わるだろうと思っていた。
そして、こうして大人になった今も私は、やっぱりひとりが好きでいる。
あの頃とは、ほんのちょっぴりだけ良い方向へ、変わったかもしれないけれど
私はもう、無理にひとりを後悔したりしない。
ひとり上手、いや、ひとり不器用な私の生き方も、それは私のひとつの人生であり、
私がこの人生を歩んで行くものには違いはない。
でも、決してこの人生は私一人だけのものじゃないことを
今の私は決して忘れないでいたいと、いつまでも心に思っていたい。
人は決して自分ひとりだけで、この世に生まれて来たわけじゃない。
誰かの思いやりや、やさしい心があって、
はじめて人は、この世に生まれて来るのだから・・・。
2002/06/12 0:39:52
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2002/06/06(木) 鳥かごの中。

朝からつまらないミスをしてしまい、叱られる。
本当にそれはつまらないこと。
「なんだよこれ?」とまるで他人事のように私はあきれてしまうほどだった。
どうかしている。この私は。
時々、自分がこの先どうしたいのかが、まったく見えなくなってしまう時がある。
いや、本当は時々じゃない。
ぼんやりと見えなくなってしまったものを、私はいつも、考えているような気がする。
気付けばひとり、じっと何かを見つめている事がある。
もしも、その時、誰かがそんな私を見ていたら、二度と私に近づかないのだろうなと思う。
私はきっと、どこか普通じゃなくなっている。
今朝から私の心はどこまでの深く沈んでしまい
もう、どうでもいいような気がしていた。
たかがミスをして叱られたくらいで・・・。と思う。
でも、私の心は、それとはまったく別な場所で深刻だった。
そんな時に、一本の電話がかかる。
誰も電話を取ろうとしない。どうしてだろう?
どうしてみんな、そうやって、いつも逃げて、知らないふりをするのだろう?
どうして?どうして?どうしてなんだ・・・?
何かどうでもいいような気持ちのまま、私は電話を取るしかなかった。
案の定、クレームの電話だった。
預けた修理品がまだ直らないのか!というお怒りの声だった。
「申し訳ございません。」と私は答える。
「そんな言葉で客を誤魔化そうと言うのか!」とおっしゃる。
じゃあ、どう言えばいいというのだ。
「申し訳ございません。」・・・と私はまた、答える。何度も答える。
それから長々と私は説教を受けることになる。
私なりにその状況を説明した。確かに途中経過を連絡すべきだったと思う。
それは素直に反省した。でも、その人のおっしゃる事は
すべてがその人の結果論であって、私の入る言葉の余地はまったくなかった。
つまり、私は人間の血も通っていない極悪非道なヤツだと言いたいようだった。
念の為、もう1度言っておくが、今日の私は最悪だった。
出来るなら一言も喋らずに、ただ、時が流れて欲しかった。
でも、店員にそんなことは許されはしない。
まるで”かかし”みたいに立たされたまま、ただ、接客をするだけなのだ。
「お前のとこの店なんかな、
俺みたいな客がいなきゃ、とっくに潰れてんだよ。」
どうしてこんな時に限って、そんな事まで言われなきゃならないのだろう?
人生は、実に納得のいかないことばかりで成り立っているような気がした。
そこまで言われながらも、それでも電話に向ってお詫びしている自分が
情けなくて泣きたくなった。
いつしか私はボーと立ったまま、まったく動けなくなっていた。
それこそ、”かかし”になっていた。
まわりの雑音や、お客さんの怒鳴り声さえ、どこか遠く聞こえていた。
このまま私はどうかなってしまうのだろうか?とさえ思った。
でも、このまま意識がどこか遠くへ行ってしまえば
どんなに楽になれるだろうと私は考えたのだった。
逃げたい・・・と思った。すべてのことから。
そうか、それは別に簡単なことじゃないか。
こんな電話なんか投げ捨てて、どこかへ逃げてしまえばいいんだ。
そうさ、それだけでいいんだ。何も難しい事じゃない。
クズだ、バカだと怒鳴られながら、どうして我慢しなくちゃならなのか?
もうどうでもいいじゃないか。
逃げよう。今、ココから。
心がまだ準備できないでいるのか?
そうか、この心は恐がっているのか?
じゃあ、大きな声でカウントダウンでもしてみようか?
まるでスペースシャトルのように、爆音とともに煙と炎を巻き上げて
空高く、飛んでやろうじゃないか!
よし、準備はいいか?
・・・何を言っているのか。
そんな勇気さえ、私には、・・・ない。
何もなかった。
ふと、気付けば、まだ、お客が電話で怒鳴っていた。
私はどこへも逃げる事はできない。
なぜだろう?
どうしてココは、こんなに歪んで見えるのだろう?
どんなに力いっぱい走って行っても、また同じ場所に戻っているような・・・。
ココは一体、どんな場所だというんだ?
「いらっしゃいませ。申し訳ございません。
お待たせ致しました。申し訳ございません。
申し訳ございません。申し訳ございません。
申し訳ございません。申し訳ございません・・・・。」
まるで飼いならされたオウムのように
同じ言葉をただ、繰り返している。
もしかしたら、
私はいつか知らないうちに
見えない鳥かごの中にいるのかもしれない。
2002/06/07 1:21:46
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2002/05/10(金) 上司が残したもの。

今思えば、私がまだ若かった頃、
あの時の上司はとんでもない人だったなと思う。
私がまだ、新入社員だった頃、それは私にとっての最初の上司だった。
私は、それまでその上司を見ていて、一番偉い上司は、売場にいなくても
接客もしなくても、まったく構わないものと思っていた。
だって、いつも裏方でふんぞり返ってイスに座ってタバコを吸って店の女の子とおしゃべりして
たまに書類を見ないで印鑑を押して、店長が来たら私を怒鳴ると言う始末だった。
今思えばだんだんと怒りが沸いてきた。(うぅ、、)
たまに接客していると思ったら若い女性のお客さんとだ。
しかも時間をかけて、笑顔を振りまいて・・・。
年配のお客さんは、いつも私が任された。
それが当たり前と思った私がとてもウブだったのだろうと思う。
あの頃は私にとって緊張の連続で、
その上司のいい加減な態度を不思議に思う余裕がなかった。
それにその上司は、パンチパーマに色黒の顔、黒縁のメガネという中年男性で
それが怖いくらいに似合ってた。
その上司は説教がとても好きだった。
夕方のなると、私はいつもその上司の城ともいうべき裏方に呼ばれた。
「お前はどうしてそんなに気が小さいんだ。
それで接客が出来ると思うのか!」
よく私はそう言われた。確かに私は今でもそうだが気が小さい。
いつもそんなふうに叱られながら、時として私は泣いていたのだった。
今思っても、とんでもない上司だったが、新入社員だった私は、よくお客さんを
怒らせてしまい、その度に私はその上司に助けられていたのだった。
あんな上司でも、クレームのお客さんに対しては実に真摯な人だったと思う。
あんなに偉そうにしている人が、私の為に頭をペコペコ下げている。
私はいつもその上司の背中を眺めていた。
私はそんな上司の後姿に、知らないうちに泣きたくなっていた。
「お前はやさしすぎるんだ。きっと接客には向いていないな。
店員はやさしいだけじゃ勤まらん。お客にはいろんな人がいる。
やさしいだけじゃお客は満足しない。逆に付けこまれることがある。
俺達は商売人でなければならない。
商売はつまり、バナナの叩き売りなんだ。声を張り上げ、その気にさせて
お客さんの財布の紐を緩ませ、お金を出して買っていただく。
そこから俺達は給料をもらうんだ。
お客さんをダマさなきゃ、どんな手を使ったって構わないんだ。
うん?それは違うんじゃないか?という顔をしているな?ははは、お前らしいな。
もちろん、どんな手と言ってもひとつだけ条件がある。
それはお客に喜んでもらうと言う事だ。わかるか?」
・・・わからなかった。その時の私は。
なんて乱暴な言い方だろう。それが正しいなんてとても思えない。
日頃、仕事もしない人が何言ってるんだ?くらいにしか私は思わなかった。
ある日、私は重大なミスを犯した。
お客さんのカラーフイルムを誤まって感光させてしまった。
撮った写真がすべて台無しになってしまったのだ。
当然お客さんは怒った。
うん十万円の損害を受けたから弁償しろと言う。
私は泣きそうになりながらも、そのお金を自分で弁償しようと思った。
そして、できもしない約束を簡単にしようとしていた。
しかし、そんな私を叱るようにして、上司は私の目の前で頭を下げたのだ。
「申し訳ございません、申し訳ございません。」と叫ぶように何度も頭を下げていた。
その背中には、何か強い意思のようなものを感じた。
私は泣いている場合じゃなかった。私も一緒になって頭を下げた。
心から、心から・・・。
やがて、そのお客さんは、「実はそんなに大事な写真じゃないから。」と正直に言ってくれた。
上司の真摯な態度にきっと、自分のウソが我慢できなくなってしまったのではないかと思う。
上司はお詫びとして、フイルム数本とアルバムをお客に渡した。心から感謝をしながら。
よかった・・・と私が胸をなでおろしていると、
そう思うのも束の間で上司から大きな雷が落ちた。
「自分の金で解決しようなんて思うんじゃねぇ!バカモノが!
商売人になれとあれほど言っただろうが!」
顔を真っ赤にして私は怒鳴られた。
今だから言うのだが、あの時、私は上司に殴られた。二度も。
でも、私はそれであの人を憎いとは思わなかった。
その時の私は、不思議と誰かに殴って欲しいとさえ思っていたからだ。
あの時、あの上司がそれをわかっていたかどうかは、今は知る術もないが・・・。
・・・・・・
それからしばらくして、その上司は転勤になった。
はるか遠い場所だった。
噂によると、実は経理課の女の子との不倫がバレて飛ばされたのだそうだ。
何も知らなかった私は唖然としてしまった。
その代わりに来た上司は、物静かなやさしい人で
私は二度と説教をされることはなかった。
それはそれでうれしいはずなのに、どこかつまらなかったのを覚えている。
今もあの上司が説教の中で言った言葉は、どこか間違っていると思うが
でも、「商売人であれ!」と言う言葉には、どこか生温い仕事をしている私にとって
思わずピンと背筋を伸ばしたくなる思いがする。
背中で本当に大切なことを教えてもらったのは
今もあの上司ひとりだけだと思う。
たぶん、今はもうあの人は、この仕事はしていないだろう。
なぜか、そう思うのだ。
でも、今日もどこかで、どこかの職場でふんぞり返って
若い誰かを説教していることには違いないのだろう・・・。
2002/05/10 22:37:48
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2002/05/07(火) 書けない日。

今日はなぜか何も書けないでいる。
だから”何も書けないこと”をこうして私は書いている。
書けない時は、”書けない”と書けばいいと私は思う。
心はいつも動いている。
この世のすべての見えない何かに
心動かない日など、ありえはしない。
たとえいつもと変わらない、退屈な1日が終わったとしても
二度と戻らないこの瞬間は
いつも日を記すに値する大切な一日なんだ。
私にとって日記とは、つまりそういうものだ。
・・・・・・・・・
人は落ち込んだりすると、何かにすがりたい気持ちになる。
それは、神様だったり、親だったり、恋人だったり、パートナーだったり・・・。
この心は、たったひとりで操るには、あまりにも荷が重すぎるのだろう。
抱え切れずにあふれたその荷は、両手ですくった水のように
やがて隙間からこぼれてゆく。
それは、ため息かもしれないし、涙かもしれないし・・・。
久しぶりにお客さんの前で、両手をついてお詫びをした。
それはたぶん、”これで許してもらえるなら”という
私の実に安っぽい気持ちだった。
なんてことはないんだ、これくらいのこと。
相手は法に訴えるとか叫んでいる。
今の私にはこれしか出来ない。
とても小さな私。
だけど、心が
それを抱え切れないままに
私の両手からこぼれてしまう。
それは、ため息かもしれないし、
涙かもしれないし・・・。
2002/05/08 1:19:12
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2002/04/25(金) 輝く夢。

「オレ、今度、資格を取ろうと思って、専門学校に通うことにしたんですよ。」
アルバイトのA君が、ちょっと照れながらも私にそう言った。
「へぇ、そうなんだ。どんな学校なんだ?」と私は彼にそう尋ねた。
ふたりで商品補充の手を止める事なく、私達はそんな何気ない会話をしていた。
閉店前なので、売場にお客様も少ない寂しい時刻。
仕事にちょっと疲れた頃合だ。これくらいの無駄話もたまにはいいだろう。
A君はまだ若いフリーターで、大学を卒業して、ある会社に就職したのだけど
上司とケンカをしてしまってすぐに辞めてしまったらしい。
ケンカの理由は知らないが、まぁ、すぐに熱くなる彼の事だ。なんとなくわかる。
クレームのお客様に対して「お客は自分勝手でわがままな生き物だ!」と
私に言い切ってしまうヤツだ。(その度に私は彼に怒鳴っている。)
たぶん、身勝手な大人社会に我慢できなかったのだろう。
このアルバイトを続けながら、仕事探しをしている彼。
もう、何度も仕事に就くことを失敗している。
「オレ、今度こそ就職できるような気がするんですよ。」
A君は何か宝物でも自慢するように私に言った。
「へぇ、でもそのセリフ、4回聞くとあまり驚かないなぁ。」なんて私はからかう。
「うわぁ、そうか。」と頭をかく彼は、まだどこか少年の面影を残している。
彼は本当はとても素直な子だ。それは私だけが知っている。
先日も、ある会社と面接も終え、「ぜひ、うちでがんばってください!」なんておだてられて
彼のうれしそう表情は、あの時、本当に久しぶりのことだったのだけど
直前になって「なかったことにしてくれ。」と冷たくその会社に言われたらしい。
その日は一日中、彼は不機嫌な態度で接客をしていた。(また私は彼を大声で叱ったが。)
やれやれ、それにしてもあんなに若い彼がこれほどまでにも就職が出来ないなんて・・・。
まぁ、彼のちょっと血の気の多いところは問題かもしれないけど、人間、欠点のひとつやふたつ
必ずどこかにあると言うものだ。たかが1回面接したくらいで彼の本当の良さは誰にもわかるまい。
「学校に通うから、ちょっとこのバイトも休みがちになるかもしれないです。」
なんて・・・彼なりにこの売場の事、心配してくれているようだ。
確かに人がいない中、彼がいないと私に負担が重くのしかかる。
「ま、それだけクレームも少なくなるから大丈夫なんじゃない?」と私はふざけて言う。
「そこまで言うかなぁ」なんて彼とふたりでククっと笑った。
彼の人生だ。
私の負担なんて、彼の苦しみに比べれば、なんてことはない。
もうすぐ閉店時間になる。
店内にまもなく閉店を知らせるどことなくもの悲しい別れのメロディが流れ出す。
それでも一生懸命に商品補充をしているA君を見ていて、思わず私はつぶやいた。
「お前って、あの頃に比べると、随分と変わったよなぁ・・・」
そんな私の言葉にA君は「え?何がですか?」なんて不思議がっている。
かわいいヤツめ。自分では気が付いていないのか?
「一応、誉めてるんだよ。」と私が言うと
「へぇ、そうなんすか。良くわかんないけどありがとうございます。」なんて言っていた。
”君が変わったのは、君は今、人生をとても前向きに歩いているということなんだよ。”
なんてね。すぐに調子に乗る彼のことだ。
私はその言葉をそっと心にしまっておくことにした。
君は本当に変わったよ。
随分と素直になった。このごろ生き生きとしている。
君から私は、実に多くの事を考えさせてくれている。
君を見ていて、自分は何かをあきらめていないだろうか?
あんなに前向きになっているのだろうか?なんて思う時があるんだ。
若い彼に、私は仕事を教えてやっても、この頃は私のほうが教えられている。
気付けば私はいつからか、物事を後向きに考えていた。
通りすぎた道ばかり気にしていた。
そうじゃない。
夢はいつもこの道の先にあるんだ。
通りすぎた道に夢はない。
だから夢を追いかけたいなら、前向きに
歩いて行かなければならないのだろう。
彼は今、その夢を、この道の先に見つけようとしている。
そんな彼に、私はどこかあこがれてしまうのだ。
閉店後、帰り間際に彼は私にこう言った。
「オレ、今、何度も会社をこけて、きっとダメな人間なんだろうけど
でも、なんかこう、生きているなって感じなんですよ。負けるものかってね。」
そんな彼の言葉が輝いている。
君はダメな人間なんかじゃない。
今は暗闇の中で見えなくても
君の夢は、きっと手の届く場所にある。
何も見えないことを、なにひとつ恐れることのない君に
夢はそっと、君に輝きはじめるのだろう・・・。
2002/04/26 0:48:47
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2002/04/24(水) おばあちゃんの夫婦愛。

「うちのおじいちゃんをお願い致します。」
それは一本の電話からだった。
どうも声からしてその方の奥さんのようだった。(70才は過ぎているかな?)
おじいちゃんがラジカセを買いに行ったので、ぜひ、面倒を見て欲しいと言われていた。
・・・やれやれ、子供のおつかいじゃあるまいし、
何がそんなに心配なんだろう?と私が不思議に思っていたら
「うちのおじいちゃんは、体が弱いし、目もとても悪いので・・・」と言われるのだった。
おいおい、それって無茶苦茶危ないんじゃないか?
だったらどうしてひとりで買いに行かせたの?
などと、私が疑問に思っていると、その心の声が聞こえたのかこうおっしゃっていた。
「私が付いて行ってあげたいのだけど、私も体が悪いので・・・」
ふむ、・・・私はそれで決意を固めた。
「わかりました。それでどんな格好で来られるのですか?」と私は尋ねた。
私はそのおじいちゃんを知らないのだ。何か目印が必要だった。
「白い帽子に、白い杖をついています。」とおっしゃった。
うむ。それならなんとかわかるだろう。
「わかりました。私が十分に注意しておきますので、ご安心下さい。」とおばあさんに伝えた。
「わがままを言ってすみませんが、よろしくお願い致します。」と
おばあさんは、(たぶん)電話に向ってお辞儀しながら私に言った。きっと”ホッ”としたのだろうな。
最後に私はお名前だけ聞いて、その電話を切った。
さて、私は重大な任務を任された。
”よぉし、がんばらなくては。”と気を引き締める。
私はまだ見ぬおじいちゃんを待ちつづけた。
30分も過ぎた頃だろうか?私がちょっと書類整理に目を離している隙に、なんと
70代くらいの白い帽子をかぶったおじいさんが、パートさんと接客しているではないか!
私は慌てて、そのお客様のところへ行き、お名前を確認した。
”あぁ、スイマセン、○○様ですよね。”と私は尋ねた。
”ね”と聞いたのは間違いない思いだったが、しかし・・・
”いや、わしはそんな名前じゃないぞ!”とちょっと叱られてしまった。
う、うかつだった。手っきりご本人様だと思ったが・・・。
良く考えれば、白い杖は持っていないし、メガネこそかけていたけれど、目は悪そうではなかった。
「どうしたのですか?お客さんの名前を間違えるなんて?」と
パートさんが不思議そうに私に聞いてきた。
それで、さっきのおばあちゃんからの電話のことを話した。
すると、「あぁ、そのおばあちゃん、さっきも電話をくれましたよ。私にも同じことを言っていました。」
とパートさんが私に教えてくれた。
私では安心できないと思ったのだろうか?なんだかそれを聞いてちょっと悲しくなってしまった。
「それでね、あのおばあちゃんが、”私が電話したこと、おじいちゃんに言わないで下さいね。”と
言ってたわ。」とパートさんが言っていた。それは私には言っていない事だった。
たぶん、おばあちゃんはそれを伝えたかったのだろう。
なんだかとても深い夫婦愛を感じてしまいます。
・・・なんて、ちょっと感動していたら、向こうから”あのおじいちゃん”がやって来た。
白い帽子に白い杖、そうだ、間違いない。このおじいちゃんだ。と思った。
それにしても、足取りがかなり危ない。
杖は1本で本当に大丈夫なのか?と思わず心配してしまうほどだ。
やがて、そのおじいちゃんが、私の目の前に来てこう尋ねた。
「ラジカセはどこじゃ?」
「はい、お待ちしておりまし・・・
(危ない、危ない、思わず”お待ちしておりました。”なんて言いそうになった。
おばあちゃんのことは秘密にしなきゃならないのだ。)
慌てながらも私は「こちらになります。」と少し気を静めて、おじいちゃんにそこまでご案内した。
その後、私は大いに後悔する事になる。
このおじいちゃん、並ならぬ頑固親父・・・じゃなかった、気難しいお客様だったのだ。
商品はどうにか決まったのだけど、おじいちゃんが持って帰るには、どうにも重たい商品だった。
私が”配達致しましょうか?”と気を効かせても「すぐ持って帰る!」と言ってなかなか聞かない。
「配達料は無料ですから・・・。」と言って、私はおじいちゃんをなんとか説得したのだった。
こんな重たいラジカセを持って帰るなんて(おじいちゃんにとって)無謀な行為だ。
私は無事におじいちゃんに商品を買って頂いて帰って行かれるまでの
重大な任務を任されているのだ。
しかもこれは、おじいちゃんには、決して知られてはいけないものなんだ・・・。
と思っていたら、パートさんが気を効かせて、おばあちゃんに電話をしていた。
「とりあえず店に無事に着いたことをおばあちゃんに言えば安心するよね。」
というパートさんの心使い。
さすがだ、私のような未熟者では、なかなかそこまで気が回らない。
そうだ、おじいちゃんに言わなきゃ別にそれは構わないんだ。
「え?おじいちゃんに電話を代わったほうがいいですか?」とパートさんの不思議そうな声。
えぇ?なんだって?だって、おばあちゃんが電話した事は秘密のはずじゃなかったのか?
でも、「それじゃ、代わります。」と言って、パートさんが「奥様からですよ。」と
コードレスの店の受話器をおじいちゃんに手渡していた。
あちゃ、と思わずスッコケそうになったけど、それだけ心配なんだろうな。と思う事にした。
「わかったからもういい!」とおじいちゃんが電話で怒鳴っている。
やれやれ、あんなに心配しているおばあちゃんの愛情がわかっていないのかな?
というより照れ隠しかもしれないな。
そうだ、照れ隠しに違いない!と私は勝手にそう決めていた。
どんなに長く連れ添っていても、そういう気持ちはあの頃と何も変わらないのだろう。
・・・・・
私は配達の手続きを済ませ、いざ帰る時になって、またあることが心配になった。
この杖をついたふらふらした歩き方では、下りのエスカレーターで転倒するのは目に見えている。
これでは私の任務はまだ終わらない。
「お客様、よろしかったらエレベーターほうが・・・。よろしかったら私がご案内しますので・・・。」
とそこまで言うと、おじいちゃんは
「そんなことしなくていい、わしゃ、エスカレーターで降りる!」と言われた。
やれやれ、頑固親父!・・・じゃなかった気難しいお客様はなかなか素直じゃない。
困ったものだ。
仕方ないので「それではこちらへ。」と私は半強制的にエレベーターまでご案内した。
私も経験があるのだけど、エレベーターで1階へ降りると、
自分がどこに出たかわからないものなんだよね。
ということで、私はおじいちゃんと1階まで降りることにした。
エレベーターの中、おじいちゃんとふたりっきり。
ちょっと間が持てなかったので「今日はバスで来られたのですか?」なんて聞いたけど
おじいちゃんは何も答えない。
やれやれ、何も聞かないほうがいいか。
とあきらめていたら、おじいちゃんが一言何かをつぶやいた。
「え?」と私が振り向くと、かすかに聞こえたこの言葉。
・・・ありがとう。
「いえいえ・・・」と私も一言、ポツリと答えた。
”その言葉は、どうぞあなたの奥様にお伝え下さい”と私は心で思った。
”チン”と1階についた。
おじいちゃんを出口まで見送った。
ペコリとお辞儀をして出てゆくおじいちゃん。ちょっとかわいい。
ふぅ、やれやれ、私に任された重大な任務は、これでやっと終わったか。
あとは奥さんにお任せしよう。
うん、なんだかとてもすがすがしい気分だ。
こんな気持ちであとの仕事が出来ることを
私はあのおばあちゃんとおじいちゃんに感謝しなきゃなと思った。
ありがとう。心配性のおばあちゃんと、頑固なおじいちゃん・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・
それから約1時間後。
あれ?むむぅぅ、なんと!あのおじいちゃんが、ふらふらと杖をつきながら
こっちのほうへ戻ってくるではないか。
いったい何事?何か忘れ物?それとも何かクレームでも・・・??
この意外な出来事に、私の疑問は尽きなかった。
”どうしたの?おじいちゃん!!”
そんなふうに驚いている私の目の前で
おじいちゃんはひとことこう言ったのだ。
「やっぱり持って帰る。」
・・・だからぁ、おじいちゃんってばぁ、、
2002/04/25 0:44:35
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2002/04/15(月) もらった幸せな気持ち。

全然関係のない私のような店員に、そのお客様の身の上話をよく聞かされることがあります。
これってなんだかうれしいです。私としては大歓迎。
私は話し役はとても苦手ですが、聞き役はなぜか大!大!大好きです。
「へぇー、そうなんですか!それで!」とそれはまるで行き詰まりそうなこの仕事の中の
オアシスみたいな存在です。
でも、たまにとても忙しい時は「へぇ、そうなんですか、それでは、どうもありがとうございました。」
なんて途中で言わなきゃならない時もある。
お客さんもまだ、話したいのに「それじゃ・・。」って感じでなんだかとてもつまらなそう。
まるで中途半端で終わった好きなドラマみたいで、
次回までもう待てない!っていう思いと一緒です。
あ、でも接客の場合、次回はもうないかもしれないんだよね・・・。
・・・・・・・・・・
先日、とても品のいい可愛いおばあさんが、接客の中、こんな話をされていました。
まぁ、いわゆるお孫さんの自慢話なんですが、ピアノの小学生コンクールで
1等だったら電子ピアノを買ってあげると約束をしたのだそうです。
「へぇ、それじゃ、1等だったのですね、すごいなぁ。」と私が言うと
「いいえ、3等だったの。」とにこやかな笑顔で答えられた。
あぁ、まずい事を聞いてしまったなと私は少し後悔しながらも
「それは残念でしたね。お孫さんもがっかりされたのでしょうね。」と静かに答えた。
私もつい情が移ってしまい、ため息まで出そうになった。
でも、そのおばあちゃんは、一呼吸おくと、こう言葉を続けたのです。
「それでね、きっと悔しかったんだろうね。あんなに小さな孫が
”おばあちゃん、ごめんね。”って涙を流しながら言うものだから
私はこう言ってあげたの。
”何言ってるのよ。約束通りピアノを買ってあげるからね。
さっちゃんのさっきのピアノの演奏、おばあちゃんにとっては1等賞よ!”ってね。」
このあと、さっちゃんとおばあちゃんが、思いっきり抱き合うシーンが目に思い浮ぶようでした。
おばあちゃんのそんな幸せが、まるで春風のように私の心をやさしく揺らしてゆきます。
幸せを語れる人って、本当に心が透き通っている。
キラキラと輝いていて、こうしてまわりの人達まで幸せにしてくれる。
私はお客さんに商品を買ってもらう立場なのに
お客さんから幸せな気持ちをもらってしまった。
もらってしまったこの気持ちは、どうやってお返しすればいいのだろう。
そう思いながらも、私はおばあちゃんのピアノの配達の受付をしていました。
20万近くもする高額な商品です。
決してポンと簡単に出せるお金じゃないだろうに。
そんな私の思いを知ってか、おばあちゃんがお金を払いながらこう言っていた。
「これは私にとっては大金だけど、孫の喜ぶ顔が、今の私にとっての生きがいなのよ。」
その”生きがい”という言葉の重さが、私の心にズシリと響いた。
その生きがいに比べたら、お金なんて、きっとおばあちゃんにしてみれば
実にちっぽけな存在なんだろうなと・・・ そう思うと私は自分が恥ずかしくなった。
おばあちゃんに私は大切な何かをもらってばかりいる・・・。
・・・・・・・・・
もうすぐ、あのピアノがおばあさんの家に配達されます。
その日もまた、おばあちゃんは、幸せを両手一杯に抱えるのだろう。
そう思うだけで、私はまた幸せな気持をもらってしまう。
やれやれ、仕方ない。
私がもらったこの幸せな気持ち。
せめて、この気持ちを日記に書いて、誰かにそっと伝わるといいな。
そうだ、ピアノの配達が終わったら、もう1度おばあちゃんに電話してみようかな。
おばあちゃんの喜ぶ声を、もう1度聞いてみたいと思うんだ。
でも、邪魔しちゃ、悪いかな?
きっと、その頃おばあちゃんは
さっちゃんが奏でるピアノのやさしい音色を
まるで幸せな人生のように、楽しんでいるに違いないから・・・。
2002/04/16 0:28:07
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