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失敗学のすすめ畑村 洋太郎著 registration: 2001.1.29 |
加工学を専門とする機械工学の先生によるリスクマネジメントに関する本である。
まず失敗を「人間が関わって行うひとつの行為が、はじめに定めた目的を達成できないこと」あるいは「人間が関わってひとつの行為を行ったとき、望ましくない、予期せぬ結果が生じること」と定義する。すなわち「人間が関わっている」と「望ましくない結果」の二つがキーワードであるとする。
そこで著者は、失敗の特性を理解し、不必要な失敗を繰り返さないとともに、失敗からその人を成長させる新たな知識を学ばせる目的で「失敗学」というものを生み出す。すなわち、マイナスイメージがつきまとう失敗を忌み嫌わずに直視することで、失敗を新たな創造というプラス方向に転じさせて活用しようというのが「失敗学」の目指す姿であるという。
この学問は、われわれが学生時代から慣れ親しんできた最短距離で解を導くといった学習方法と違い、あえて挫折体験をさせ、それによって知識の必要性を体感・実感する指導が必要であるという。
失敗の原因究明では、1)無知、2)不注意、3)手順の不順守、4)誤判断、5)調査・検討の不足、6)制約条件の変化、7)企画不良、8)価値観不良、9)組織運営不良、10)未知 など検討項目は多く、未知を除いては番号が大きいほど高度な判断、すなわち組織としての判断が必要とされることを理解しなければいけない。
失敗情報の特性として伝わりにくく、時間がたつと減衰することをおさえておく必要がある。それに対して、第三者の客観情報よりは、失敗した人がどんなことを考え、どんな気持ちでいたかという一人称でかたられる生々しい話として報告することが勧められる。そして、その記録の後で、「知識化」し、「伝達」というプロセスを踏ませることが必須となる。
また、業務の全体を理解させることを強調する。世の中には「ベテラン」と呼ばれる人はたくさんいるが、体験をベースにしながらも、さまざまな知識を貪欲に吸収する「本当のベテラン」と、経験だけはたくさんしても何一つ知識化できないでいる「偽ベテラン」がいる。後者が失敗の種を大きく成長させる張本人になるという。自分が対応できない問題が生じたときには、これを無視し、対策をとらず、見て見ぬふりをするなどして結果的に大きな失敗の発生に荷担することがしばしばあるからである。
単純な理由で致命的な失敗が起こる原因を
1) 技術・組織が成熟していること
2) 大増産、もしくはコストダウン策やリストラ策がはかられているところ
であるという。特に成熟企業におけるジレンマを解決させるためには、新しい技術、新しい組織を作る形で古いものと置き換えを行わなければならないという。衰退の段階までに新しい萌芽を作り、次の文化を築かないことには、組織の未来はないと組織論も展開している。
「失敗は、一時的に私たちの心を苦しめますが、じつは発展のための大きな示唆をつねに与えてくれます。そして、真の創造は、起こって当たり前の失敗からスタートするということを私たちは決して忘れないようにしたいものです」と著者は結ぶ。 組織にイノベーションが起こらなければ、衰退の一因として失敗がある、失敗が起こったとき、あるいは失敗が起こりそうなときにはイノベーションが必要だということだ。医療の世界ではきわめてイノベーションが起こりにくい組織であり、それ故に事故の話題に事欠かない。さらに、資格制度のもとで著者の言う「偽ベテラン」が多いのも事実であろう。医療は構造的に事故(失敗)をはらむ構造であるといえる。そういった実態を理解した上でわれわれは病院運営を行っていく必要があろう。