出産ドキュメント



 2000年3月某日、約1〜2億分の1とも言われている壮絶なバトルが始まる。
 勝者はただ1人。
 1億以上のライバル達を蹴落としながら、たった1つのゴールに向かって、ひたすら泳ぐ泳ぐ泳ぐ・・・
 「生命誕生の神秘」のドラマの幕開けである。
 真っ先にゴール辿り着いた、たった1人の勝者は順調に育ち、生死を賭けた出産の時を迎える。



 2000年12月17日の夕方5時。
 出産予定日を明日に控えた嫁が、突然の破水???
 病院に電話すると「入院の準備をして至急診察に来るように」との状況みたいだ。
 病院に連れて行き診察を受けた結果、やっぱり破水しているようだ。
 そのまま入院となる。

 しかし、この時点での嫁は極めて元気。
 実家や友達に「入院したんよ〜ん♪」と嫁は携帯で笑いながら連絡しているではないか。
 おいおい・・・。

 私は夜半まで付き添っていたが、陣痛が始まる気配が無いので一旦家に帰り仮眠を
 とる事にする。


 そして18日の午前3時。
 「う〜ま〜れ〜そ〜う〜」と弱々しい声の嫁から電話が入る。
 痛みに対して大げさな嫁の態度から推測して今すぐ生まれるという事はないのだが、この
 パターンの場合、男というものは慌てるものである・・・と思う。
 車をぶっ飛ばして病院に到着すると、約10分毎の陣痛に悶え苦しむ嫁の姿がある。
 夜半前までの笑顔は全く無い。
 助産婦さん曰く「出産予定時刻は、お昼前後になるだろう」との事。
 とにかく、ここから先は、嫁に頑張ってもらうしかない。
 私は、腰を擦って励ましてやる事ぐらいしかできないのだから・・・。


 時間の経過と共に、徐々に陣痛の間隔が短くなってくる。
 午前6時に、いよいよ分娩室に移動する。
 しかし子宮口の開き具合は遅く、再度病室に戻される。
 どうも長期戦になりそうな感じである(~_~;)
 

 昼を過ぎて、嫁の友人達が次々に激励に来てくれる。
 しかし、嫁の体力は既に限界に達していて、とても怖い顔をしている。
 嫁は「お願いだから腹を切って一刻も早く赤ちゃんを出してくれ」と口走っている。
 そんな嫁を、皆がなだめる。
 午後3時を過ぎても子宮口の開き具合は、依然として順調ではない。
 何故だ???
 

 空しく時間だけが経過していく。
 陣痛は1〜2分の間隔できているものの、徐々に弱くなっているみたいだ。
 そして午後5時・・・どうやら決断の時が来たようだ。
 破水してから24時間が経過、このままでは母子共に取り返しのつかない状況のなるかもしれない
 と医師から説明を受ける(-_-;)
 残された道は2つ。
 1つ目の選択肢は、帝王切開で赤ちゃんを取り出す方法。
 そして残りの1つは、陣痛促進剤を使って子宮を収縮させ出産する方法。
 苦悩の結果、陣痛促進剤の助けを借りて出産する道を選ぶ・・・


 午後7時、再度分娩室に移動。
 私も分娩室に入り、出産に立ち会う事にする。
 そして、陣痛促進剤が投与される。
 しかし・・・


 陣痛は依然として弱々しく、それに赤ちゃんの心音が時々停止していて計器の警報音が頻繁に
 鳴っている。
 TVのドラマ等でよく見る”患者の心音が徐々に低下していき、最後にはゼロになって計器の警報音
 が空しく鳴り響き、医者が「ご臨終です」というシーン”が、今、目の前で起きようとしている。
 赤ちゃんの心音が停止する度に、お産を中断して嫁に深呼吸させ赤ちゃんに酸素を送る・・・という
 動作が暫く続く。


 午後8時を過ぎて助産婦の動きが慌しくなってくる。
 素人目には転送先の病院を探しているように見える。
 もう母子共に限界のようだ。
 陣痛も既に止まっているし、赤ちゃんの心音も止まっている時間が長くなってきた。
 依然として赤ちゃんは、全く出てくる気配がない。
 医師は「最後の手段」を打つ。
 吸引分娩の道具とメスが用意され、私も覚悟を決める・・・


 会陰切開が行なわれ、鮮血が飛ぶ。
 普段ハマチの鮮血を見ているので、「怖くない」と自分に言い聞かせながら分娩を見守るが、
 やはり自分の嫁の鮮血を目の当たりにするのは、相当にキツイものがある。
 何とか赤ちゃんの頭部に吸引分娩の道具が装着され、お腹を押す側と赤ちゃんを引っ張る側に
 分かれてお産が進む。
 私は、左手で嫁の口に装着されている酸素マスクをしっかりと押さえ、右手で嫁のお腹を
 必死で押すのを手伝う。


 そして・・・
 分娩室に高らかに赤ちゃんの産声が響き渡る。
 12月18日、午後9時3分、3470gの女の子が誕生!
 お産に立ち会うのは勿論初めての経験だが、実に感動的なシーンである。
 本当に嫁も頑張ってくれたが、赤ちゃんも頑張った。


 すんなりとお産が進まなかったのは、赤ちゃんの首に「へそのお」が巻きついていたからだと、出産
 の後に医師から説明を受ける。
 そして、体を洗ってもらった後の赤ちゃんと、ご対面!
 産道で長時間止まっていたのと吸引分娩の影響で、赤ちゃんの頭部が縦長に変形している。
 赤ちゃんの顔も、かなり歪んでいるようで、酸欠による後遺症も心配だ。
 吸引分娩による器具の摩擦で、赤ちゃんの額からにじみ出ている血も実に痛々しい。
 とにかく母子共に生きてくれて良かった。
 「元気に育ちますように」と、私は伊予灘の方向に向かって祈りを捧げる・・・


             生まれた直後は、こんな顔でした