黄昏の覇たる王・第1話『いつか時を環って』

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 森の中、不規則に立ち並ぶ木々の間を駆け抜けていく2頭の馬があった。先頭は白馬、後に 続くのが黒馬である。
(どうだ居心地は?)
 ロッドは馬に乗りながら話しかけた。もちろん、ウールヴァーンにではない。
(悪くはないわ)
 ペンドラドは答えた。
 はじめにトルクに宿れなどといわれたときには、そのまま封じられてしまうのではないか? などという嫌悪感があったのだが、ペンドラドは宿ると封じるの違いを身を持って知る。 外界の様子は、ちゃんと感じることができるのだ。
 ただし、声ばかりは、意志をロッドに伝えることしかできない。
「おい、ロッド。急ぐぞ」
 もうすっかり辺りは薄暗くなってきている。先を行くウールヴァーンは、せかすように馬を ロッドのすぐ横につけ並んだ。
「すまんな」
 ロッドの声がどこかぶっきらぼうになって、ペンドラドはおや?と思う。
「すまんなじゃないだろう。今日の主役が遅れてどうする」
 あきれ声でウールヴァーンが言うが、ロッドはウールヴァーンの方を見向きもしない。
「最後のわがままくらい大目にみろ」
 いくらかの沈黙の後、ロッドは口を開いた。
「いつもはこっちがお前のわがままにつきあってきたんだから」
 ロッドの返事にウールヴァーンは苦笑する。
「ましてや今後、これからはヴァーンお前と会うときは私はお前に仕えるものだ」
「ロッド!」
 ウールヴァーンはたまらないような目つきになって、ロッドを見る。
「ヴァーン、前!」
 ロッドの声に、はっとウールヴァーンは前を向く。
 目の前にいきなり大木が映った。けれども、それを彼はいとも身軽によけると
再びロッドの横へとつけた。
「ロッド、私は同族の民というものをもたない」
 並び立つもののない、深い藍色の髪と古代紫の瞳を持つ男がいう。彼の髪の色も瞳の色も、 大陸に八つある民のどれともあてはまらない。
「だからそれをうらやましく思うし、守っていって欲しいと思う」
 急に森が切れて、目の前が開けた。2人は馬の足を止めると馬上より眺める。蔦に覆われた 古めかしい外壁が現れていた。
「戦などで、滅ぼさせはしない。ましてや…」
「ウールヴァーン?」
 あまり聞かないウールヴァーンのきつい声にロッドは男をみる。
「いや、もう終わりだな。今日の遠乗りも」
 ウールヴァーンの口調は元に戻っていた。
「ああ」
 2人は馬を外壁の門へと向けた。ぼんやりとたいまつで、両脇を照らし出された門が見えてくる。
「ヴァーン。私達、大地のもの皆がお前の民だ。もっとも、お前に責任を背負わせているわけでは ない、守られているだけなんて私はごめんだからな」
「ロッド。もっとはやくに話しておくべきだったかもしれない」
 馬のひずめの音が硬いものへと変わる。それは門をくぐり、石畳の街中へと入ったことをしめしていた。
「何をだ?」
 ロッドが問い返したときだ。
「若長!!」
 大きな声がした。
 1人の少年が、やっと2人の姿を見つけ出したとばかりに駆け寄っていく。
「何事だ。エルトアルナ」
 ロッドは馬から下りる。その反動でトルクは琥珀色のきらめきを放ちながらゆれた。
「何事もなにも、その何事な事態をつくり出しているのは誰ですか!!」
 少年はロッドに、噛み付かんというばかりの勢いだ。
「誰っていわれてもな。それより…」
 何を言いかけたのだと、ロッドはウールヴァーンを見る。
「それよりも、なによりもありません。ウールヴァーン様を連れ出したあげく、供も連れずに!」
 エルトアルナの言葉は尽きることがないように、ロッドへと向っていく。
「まったく、あなたという方は長としての自覚が無さすぎます」
「私はまだ正式な長ではない」
 ぼそりとロッドが答えた。
「今夜、長の認を受ける方が何を言いますか!」
 このエルトアルナ、どうやらロッドの従者らしい。
 自分を見て心臓が止まるとしたら、彼のような人物かもしれない…なんてペンドラドは思う。
「エルトアルナ、もういいではないか。何事もなかったのだからな」
 ウールヴァーンはそんな2人の状景を、楽しそうに一通り眺めてから声をかけた。
「ウールヴァーン様…」
 エルトアルナはしぶしぶという感じで、馬上のウールヴァーンをみると引き下がる。
「ところでエルトアルナ、ディスレーンスがどこにいるか分かるか?」
 ウールヴァーンの問いに、エルトアルナは答える。
「はい。ディスレーンス様も森へ出かけられてましたよ」
 そして、エルトアルナはにっこりと一言を付け加えた。
「ちゃんと、供の方を連れられてね」
 後半は自分の主人へと向けられたものだ。ロッドの表情がむっとなる。
「ディスが森へ?」
 ウールヴァーンがつぶやく。
「先ほどお帰りになりましたよ。今はまだ馬屋の方でしょう」
「そうか、私はディスレーンスに話しがあるが、ロッドお前はちゃんと準備しろよ」
 ウールヴァーンはロッドに釘をさすのを忘れなかった。
「ウールヴァーン、さっきのは」
 ロッドは馬屋へと向かいかけているウールヴァーンの背へと投げかけた。
「ん?ああ、これからはしっかりやれよって言おうと思っただけさ。また、後でな」
 ウールヴァーンは笑って言うとそのまま行ってしまう。
「おい、エルトアルナ。誰かに声をかけてヴァーンの手伝いに行かせろ」
 ロッドは、自分の馬の手綱をエルトアルナに渡すと命じる。
「そうですね。みんなで慌ててましたから」
 色々安心させてあげないと…、エルトアルナはつぶやくとそばにいた人間をつかまえて 何か言っている。
「若長は先に塔に行って下さい。清めの湯浴みの準備もすべてできていますから」
 その他にも今夜の手配など色々あるのだろう。
 さすがに観念してロッドはうなずく変わりに肩をすくめた。


(どうしたんだ、黙ったままで)
 ロッドはペンドラドへと語りかけた。
(なんだか、話しかけていいような雰囲気じゃなかった)
 語りかけるといっても、お互いに言葉を口に出しているわけではない。伝えたい意志 を心で念じてる感じだ。ロッドの体の中に入っているわけではないので、精神は近しいところ にあるが、心の深層までは当然お互いには分からない。逆に表層の感情は隠しようもない。
 ペンドラドのそれは、どこかいいわけするような感じで伝わってきた。
(私とウールヴァーンがか?)
 ロッドの気持ちが瞬間、何かをためらった。そしてつぶやく。
(そうみえたか…)
 しかし次には慈しむような気持ちが広がって、ペンドラドにも届いてきた。
(ペンドラド。この街をどう思う?)
 白色の石で築かれた街並み。塔への道すがらロッドが尋ねる。
 家々の角に掲げられているたいまつは、今日ロッドが正式に長になることを祝って 掲げられたものだ。照らされた街の様子は整っていて、奇麗だ。




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