|
「だいたいロッドは自分が何を言っているのか分かっているの。【闇の炎】がこの都を滅ぼしたのよ。
そして私はその宝玉を手にしている…」
ペンドラドはロッドの瞳を凝視しながら言う。
「ペンドラドが我が一族の滅びを気にする必要はないよ」
逆に同じようにロッドはペンドラドをみつめ返した。
「私たちは多分何としても生きようという、そういった生命力のようなものが足りなかったんだ」
ロッドの中で、長老の精霊には向かえないと言ったそんな言葉がよみがえる。
「なんてことを言うの。あの人たちの死を認めるような発言をするなんて!」
「死んだ人間はかえってこない」
きっぱりとしたロッドの一言にペンドラドは言いよどむ。
「それよりも生きている人間の未来を考えた方がいい」
「未来を考えるならなおさらよ。この宝玉の行くところ血が付きまとうから」
ペンドラドはうつむくとつぶやくように言った。
「ほんとに強情だな。それは何度も聞いた」
今度はロッドがため息をつく番だった。が、その顔がふいになごむ。
「な、何?」
そんなロッドに、ペンドラドは怪訝な表情を隠そうともしなかった。
「なんでもないって」
ロッドは苦笑すると、ペンドラドの首に琥珀色の石の埋め込まれた首飾りをかけてやる。
それは【迷い魂】になっていたあの時に、ペンドラドが宿っていた今はひび割れたそれだった。
「今度は何が目的なの?」
「詮索しすぎる人間は嫌われるぞ」
首にかけられた首飾りをつまみあげたペンドラドに、ロッドがぼそっと言う。
「嫌ってさっさとここから出してくれてかまわないんだけど」
平気な顔をしてペンドラドは言ったが、自分を嫌ってくれと言うのには胸のどこかがチクリと
痛むのを消すことは出来なかった。
「まっ、私はその中に入ってないということで」
ロッドはつぶやくように言うと、ペンドラドの髪をくしゃとかきまぜる。
「わっ。何するのよ」
ペンドラドは頭を抑えて、ロッドの手から逃れる。
「その首飾りの石はね、前にも言ったが感応力が高いんだ。ペンは一度そこへ宿っていたし、
言わば分身のようなもの。だから首にかけておくと力を貸してくれることもあるかもな、と思ってね」
「なんかごまかされている気がする」
ペンドラドは首飾りの裏側までひっくり返してながめた。何も分からなかったが。
「深読みしても何もないぞ」
にっこりロッドは言うと、その姿は現れた時にように掻き消えた。
「まったく、ロッドもそうとうの気まぐれなんじゃないの」
苦笑いとともにペンドラドはつぶやくが、その表情はすぐ真顔に戻る。
あの人のことを知っても、ロッドは自分と同行したいなどと思うのだろうかと……
◆
荒野の夜は寒い。昼にじりじりと乾いた大地を焼いた陽射しが、地平線へと沈むと熱は大気から
あっというまに離れていってしまう。かわりに降りてくるのは冷たく黒い夜だ。
「見事な結界を作ってくれちゃって」
だがその寒さからは隔離されたところでペンドラドは呟いた。
結界の中はしっかりと外界と遮断されているのか、空気は昼のままのあたたかさを保ち続けている。
しかたなしにペンドラドは塔の窓から夜を眺めた。
呪文などではなく、実力行使で結界を破壊するという方法もないではない。しかし、変に
結界の力場に手を加え失敗した場合、解けた魔法が自分に降りかかってくることを考えると実行に移せなかった。
なによりも結界に手が触れられて、ロッドが気づかぬわけがない。そんな事で逃げ切れようとは思えなかった。
「袋小路ね」
ペンドラドは外から目を離すと、そのまま壁に寄りかかる。
「もう、寝るぐらいしか思いつかないや…」
そしてずずず…と力を失ったように壁ずたいに座り込んだ。思わず膝を抱え込む。
「次に行くとこも思いつかないし」
【ファグルリミの都】へ来たのは、失ってしまったあの人の遺言のようなものだった。なぜここへ
行くように言ったのか、それはいくら考えても分からないのだけれども。
どうせ時は夜だ。寝る以上の時間つぶしは考えられなかった。ひとりで納得するとペンドラドはかかえて
いた膝を離して、床に丸くなる。
いつもは荒野で大地のくぼみに風を避けるように丸くなっていた。そんな日々と同じ格好で
眠りにつく。冷たい夜の風はここにはこない…、それが唯一ペンドラドが見つけることの出来たこの
結界の長所だった。
「久しぶりに暖かく眠れる」
やがて呼吸は寝息に変わる。
今、ロッドはどこにいるのだろう?自分なんかをこんなところへしばりつけて、塔のどこへいったのだろうか?
それともこの荒野のどこに?
本当に暖かい…そんな気持ちが湧き上がってくる。まるで守られているようだ。
溶けていく意識の中でペンドラドはそう思った。
◆
ペンドラドはびくっと上半身を起こし上げた。
眠りに落ちたときの安堵感はカケラもなく消え去っていた。
「ああ、寝てたんだっけ…」
首飾りが反動でかすかな音を立てた。
荒野での夜はつねに風と寒さで、浅すぎる眠りしか取れなかった。夢すらない眠りを貪る夜の繰り返し…。
だからあの時の夢を見たのは久々だった。
ペンドラドは首からかけられた首飾りの琥珀の石を見る。
「そう、ここは違う」
ここはあの悪夢の場所であるわけがないのだ…。ペンドラドは自分自身に言い聞かせながら
肩を抱くようにして腕をまわした。心の緊張を解きほぐそうと、深く息を吐いて目を閉じる。
そして、それはペンドラドが再び目を開いた時に起こった。まぶしい金の光が目の前に出現していた。
やがて光の中に輪郭が見えはじめる。
「誰、ロッド?」
ペンドラドは光に目を細めたが、輪郭がはっきりするにつれて目を見開いた。まぶしさなど気に
ならぬほどの驚愕。これは何が起きたのか…、光の中に確かに見知っている影をペンドラドは
見つけていた。失ってしまったはずのあの人の。
「ルビュール?」
その人の名をペンドラドは呼ぶ。
その姿をみまちがえることはあり得ない。金の光の中から、やわらかな金の髪の少女の姿が
出現していた。そして金の陽射しを浴びる若草のような、その明るい緑の瞳がペンドラドを
みつめていた。
『再会を喜んではくれないの?』
ペンドラドの問いかけに、ひんやりとした声が返ってきていた。
「ルビュール、生きて…?」
ペンドラドはつぶやいた。もしそうなら願い続けた祈りがかなったことになる。だが、それが決して
ありえないことはペンドラドが一番分かっているはずだった。その人の死を見届けたのが
この自分自身であるかぎり。
『私はあなたのために死んだのよ。いえ、殺されたというべきかしら』
その声はルビュールのものだった。けれども雰囲気は限りなくルビュールに似ていない。
ペンドラドの知っていた彼女とは……
[BACK]
[INDEX]
[NEXT]
|