黄昏の覇たる王・第2話『幾千の悲しみと幾億の想いを懐いて』

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 もともと人とは違うサイクルで生きる彼ら、精霊族。ましてや風の精霊は捉えがたいという。 彼らは常に隙をねらい、主人の命令から逃れようと欲している。
 だからわざと人の心を乱そうとするようなことや、話しをそらすような事を言ったりする。
 ロッドが問いを口にするよりもはやく、風姫がロッドへと尋ねていた。
『さて、ところで火霊王は元気かの』
 ロッドの予想に違わず風姫は話しをそらすようなことを言い出す。
 が、ロッドはそんな精霊をとがめることもなくその話しに乗った。
「私が生きているのならば【炎の王(ロギ・リーグ)】も元気でしょう。おそらくね」
 ロッドは風姫が言う存在を【真なる名】で呼び捨てた。精霊たちの間では、高位に立つ【王】位を その名に冠する存在を。
 そもそもただの人であればこんなに永く生きられようか?ロッドの肉体は人というより、魔的なもの に近づきつつある。
 人よりも永い時間を得るためにロッドが選び取った未来。それは精霊を体内に取り込み、同化する といことだった。それにより、彼らの永遠に近い時間を得ることが出来る。この禁じられた技を ロッドは自分に行った。ロッドの一族の中でも、ごくごく一部でのみ伝えられてきた技を。
 ロッドは暗黒の名を与えられ、【ファグルリミの都】に火を放ったあの精霊を内に取り込んだのだった。
「【炎の王(ロギ・リーグ)】と会わせることは出来ませんがね。その健在ぶりをお見せするために、 なんならもう一度…炎を味あわせてさし上げましょうか?」
 不敵な表情がロッドの顔に表れる。
 風の呪縛を解くのではなく焼き尽くしたあの炎を今度は、風姫に直接打撃が及ぶように手を 出しましょうと。ロッドの顔がそう言っている。
『その表情では本気でやりかねんの、そなたは…』
「試してみますか」
 ロッドの手が精霊へと向けられて…。しかし、風姫は無言で首を振る。
 が、その一瞬後…彼女はにぃと笑う。
『まだ、我はこの世界を見たりないゆえ。ましてや精霊が精霊の炎によって消されるなど、冗談にもならんわ』
 どうやらロッドはこの精霊をとりあえずは、その気にできたらしい。
 そのことにほっとしつつロッドは呟く。
「風姫殿がまだ世界を見たりないというのであれば、2本の足で地に立つ人などはどれほど生きれば よいのやら…」
 精霊はそれにはこたえず、ロッドは問いを口にした。山ほどの疑問。
「まずは簡単なことから聞きましょう」
「おや、問いは1つではないのかえ?」
 さっそく話しのこしを折るかに精霊が口をはさんだ。
 けれども気を害したふうもなく、ロッドは今度こそ問う。
「【全て知るもの(アルヴィース)】よ。この大地の王を現在しているのは誰なのだ。名を答えよ」
『グラッドロス=へリア=エスカンデルクール』
 風姫は呼ばれた自らの【真なる名】を前にして、一つの名を口にする。そして付け加えた。
『【真なる名】までは知らんがな』
 そんな風姫にロッドは苦笑する。
「そこまでは聞きませんよ。で、そのものウールヴァーンの血を受け継ぐものなのか?」
『引いているとも、否ともいえる』
 ロッドの問いに対して、風姫の答えは実に曖昧なものだった。
 言霊に縛られる彼ら精霊族。ゆえに問答も聞かれたこと以上は答えないし、こちらの聞き方が ぼんやりとしたものであれば、回答もそうなる。
「ではもっと具体的に問いましょう。そのグラッドロス王とやらは、ウールヴァーンの直系の子孫なのか」
 ロッドが知る限りではウールヴァーンの子など知らない。
『それは否』
「あの特徴ある深い藍の髪と、紫の瞳は持っているのだろう」
 そして言霊に縛られるがゆえに精霊は嘘は口に出せない。だからその答え一つ一つに秘められた 真実を探り出し、つなげてゆく。
『持っている』
「その紫とはウールヴァーンと同等な古代紫なのか」
『否。ウールヴァーンの死後、弟のスグルヴァーンが王位についた。それが今の王族ゆえ、 以来あのような古代紫の瞳の王が即位したという話しは知らぬな』
 ロッドは思う。確かにウールヴァーンとスグルヴァーンは兄弟、その血は繋がっているから 現在の王であるグラッドロスとやらは、その血を継いでいるともいえるが直系の子孫ではないわけだ。
 さっき思った問いをロッドは口にしてみた。
「ウールヴァーンに子供は…?」
『我の知る域ではないの』
「【全て知るもの(アルヴィース)】との名を持つ、風姫殿が知らぬことがあると…」
 はっきりと風姫はいないと否定をしなかった。知らぬ…それはいるかもしれないと?
『知らぬものは知らぬとしか言えぬだけのこと。我らが言葉を裏切れぬことは知っておろうに』
 風姫の声が苛立ちを帯びた。
 ロッドはそれを聞くとそれについては、そこまででて話しを切り上げることにした。
「ペンドラドはグラッドロスの子供なのか?」
『否じゃの』
「ちなみに聞くとグラッドロス王の子供は」
『今は亡き第一王妃との間に王子が2人と、第二王妃の方に王子と王女が1人ずつの4人じゃな』
「ペンドラドはそのどれでもないというわけだな。ペンドラドの親は?」
 ロッドの問いにいささかの沈黙が落ちた。
『我はあまり語りたくない。あの娘にかかわるとロクなことにならなぬ』
 風姫の声に刺が含まれる。ロッドはそれを敏感に感じ取った。
 知らないと言ったことはあった。けれども語りたくないと、答えることそのものを精霊は否定した。
「ペンドラドの何が、姫ともあろう方の神経を逆なでしているのです? 私は無理やり語らせる こともできますが」
 ロッドの瞳が剣呑な光を宿す。
『我ら名を支配する主人に逆らうことは出来ぬ。だが、相手はそなたゆえに忠告はしたい。あの娘は 血の柵に捕らわれておる。かかわれば深みにはまるぞえ』
 風姫の忠告に、しかしロッドはまゆの一つも動かさない。
「すでに私は深みにはまっているのかもしれませんよ」
『覚悟はあるということかの? 精霊が人の血を好かぬことは知っておろう。特に不要に流された血 はな。じゃがスグルヴァーンが王位についた時、またその後に多くの血が流されたのだ』
 風姫の声は嫌悪そのもの、表情も不愉快という感情で満ちる。
『今では王都である【フリュールニル】に近づく精霊すらあまりいないというありさま…』
「それほどに血が流されたと、そういうのだな。しかも王族によって」
 ロッドもわずかに表情を暗くして呟く。そしていままで精霊の言葉を聞いていたロッドは、ひとつ 聞き返す。
「しかし、精霊の加護を失った都がそう長く続くとは思えないのだが」
『それでいながらあの都は加護が強い。なんと言ってよいのか、王族の血統そのものが守護されて おる。あれは呪詛に近いの』
「呪詛…?」
『言ったろうに精霊は王都へは近づきたがらない。だからあの都に関することは多くは知らないし、 知ろうともしないのだよ』
「それでも聞きましょう。ペンドラドが捕らわれている血の柵とは何です?」
『ここまで言ってもあきらめてはくれぬか…』
 精霊の肩がわずかに落ちたように見える。人に似たしぐさが染み付いている。彼女は多分 なんだかんだ言いつつも人のことが嫌いではないのだろう。
『ペンドラドは、現王グラッドロスの姉であるレフィロスが娘』
 その言葉を精霊は今やっと口にしていた。ロッドが聞きたかったことでもある。
「そのひとは今は…」
 ロッドの問いに精霊は首を振る。
『今は生きてはいない。かつて神殿の巫女姫と呼ばれた方だ』
 風姫のレフィロスを語る言葉に険はなく、ロッドはおやと思う。

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